パナソニックが「松村組」を買収した狙いとは? 「施工管理技士」に他業種も注目

パナソニックが中堅ゼネコン「松村組」を買収した!

パナソニックは11月1日、中堅ゼネコンの松村組(川本宏祐社長)を買収すると発表した。松村組の発行済株式の過半数をパナソニックに譲渡する旨の契約を締結し、これに伴い、松村組は2017年12月末日までにパナソニックの連結子会社となる。株式取得額は非公表。来年度には完全子会社化する。

建設業完工高ランキング92位の松村組がパナソニックに買収されるニュースは、建設業界からは、「意外だ」という声があがった。

このゼネコン買収劇の狙いを調査したところ、建設業界だけでなく、異業種が施工管理技士など建設技術者の人材獲得に対して、熱い視線を送っていることが判明した。現在、建設業界では各企業がこぞって施工管理技士の人材引き抜き合戦を行なっているが、今後、それが買収などを通じて、異業種にも拡大する様相も見えてきた。

パナソニックと松村組の意外な接点

家電を主力とするパナソニックが松村組を買収した狙いは、住宅・建設部門の強化にある。特にゼネコンは、施工管理技士などの資格保有者を抱えており、人材のリソースは高い。パナソニックが各ゼネコンと業務協定を結ぶよりも、松村組の買収に踏み切ったことは、松村組の人材リソースや施工能力を高く評価したといえる。一方、松村組としても、安定した顧客を獲得できるという狙いがあり、双方の思惑が一致した。

実際、パナソニックのグループ会社であるパナホームと松村組の接点は少なからずあった。パナホームを代表企業とし、合人社計画研究所、松村組、類設計室で構成するコンソーシアムは、国最大規模の国立大学国際学生寮整備「大阪大学グローバルビレッジ施設整備運営事業」大阪大学と事業契約を締結している。この事業では、松村組が解体・造成・建設を担当。松村組の本社は東京だが、発祥の地である関西でいまなお、大きな商圏を保有しており、関西組同志、買収について話し合いも敷居が低かったのだろう。

松村組は商業施設や集合住宅の設計・施工に強く、2017年3月期の完工高は約352億円、営業利益約25億円。完工高の内訳を見ると、建築が約321億円、土木が約30億円と、圧倒的に建築比率が高い。社員は381人。関西国際空港の旅客ターミナルや国立新美術館などの施工事例がある。

松村組(東京本社)が入るビル

パナソニックが松村組を買収したワケ

パナソニックがゼネコンを買収するのは初めての事例であるが、松村組を連結子会社化した理由について、パナソニック広報はこのように説明する。

「松村組の高い施工能力・ノウハウと当社の先進技術・企画設計力など両社の経営リソースを融合することで、より付加価値の高い住空間ソリューションを創出し、事業拡大を図っていきます。」

一方、パナソニックは、2017年8月1日付けで、パナホームを完全子会社化し、住宅部門の強化に乗り出している。これは不動産・住宅開発で、パナソニックとパナホームがコラボレーションを組み、住宅内の家電・建材製品と連動した住宅開発を可能にする。これまで戸建て住宅では、設備・家電・キッチン用品もセットでパナソニック製品を販売する戦略を実施していたが、これをマンションまでに拡大することも可能性として見えてきた。

ただし、現在のところ具体的には、考えていないようだ。「中層マンションとパナソニックの家電製品などを丸ごとパッケージで販売することは考えているのか?」という質問に対して、パナソニック広報からは「具体的な検討はしていません」との回答があった。

パナホームは戸建て中心であったが、「マンション建設については今後強化する考えはあるか?」という問いには、「強化したいと考えています」との回答もあり、今後、戸建てだけではなく、中高層マンション建設にも注力していくとのことだ。

そこで必要なのは施工管理技士などの建設技術者の確保となってくる。


施工管理技士などの建設技術者を積極的に確保

施工管理技士は全国的に不足している。さまざまな取材で見えてきているのは、施工管理技士の引き抜き合戦の仁義なき戦いが全国で行なわれているということだ。確実に施工管理技士の人材を確保するためには、建築分野に強い松村組の施工管理技士の人材は魅力的に映ったのではないだろうか。

パナソニック広報は、施工管理技士の確保についてはこのようにコメントした。

「技術者の確保は、当社のリソースも活用しながら、今後積極的に行ってまいりたいと思っています。」

今や施工管理技士は、ゼネコンのみならず、IT企業などさまざまな業界から「欲しい人材」となっているのが実情だ。

「パナホームと松村組の連携」について質問したところ、「パナホームに限らず、グループの中で松村組のリソースを有効活用したいと考えています」との回答があったが、どのような活用方法があるかは不明だ。住宅部門だけではなく、他部門にも活用することも示唆している意味は大きいが、今後の方向性を追う必要がある。それだけゼネコンが抱えている施工管理技士という人材リソースには、期待が集まっていると言えるのではないだろうか。

ヤマダ電機、コニシも、ゼネコンや住宅会社を買収

しかし、こうした異業種によるゼネコンや住宅会社買収は、パナソニックがはじめてではない。

今年6月には、ヤマダ電機が創業の地である群馬県前橋市に、家電とモデルハウスやリフォーム、生活雑貨や家具の三位一体型に特化した「インテリアリフォームYAMADA 前橋店」をオープンした。

ヤマダ電機は2011年に注文住宅メーカーのエス・バイ・エル(現ヤマダ・エスバイエルホーム)を買収し、2013年にはスマートハウスを低価格で提供するメーカーのヤマダ・ウッドハウスを設立。金融面ではヤマダファイナンスサービスが住宅ローンの取り扱いも行い、さらに、これらのサービス実現の核となるヤマダ不動産を6月に設立し、賃貸物件や不動産売買の仲介に乗り出した。家電量販店から家まるごとのサービスをスタートさせようとしている。

また、別のケースでは、ボンド総合メーカーで有名なコニシも、東海地域に商圏を持つ地域建設企業の角丸建設の全株式を取得して子会社化した。コニシは土木建設事業を成長戦略の柱に位置付けており、買収を機に、主力の接着剤事業と補修改修工事によるシナジー効果を発揮させて、収益を拡大するのが狙いだ。

施工管理技士の人材引抜きよりも、ゼネコンを丸ごと買収

パナソニック、ヤマダ電機、コニシが、ゼネコンや住宅会社を買収した背景には、いずれも建設・住宅部門を成長産業として位置づけているという共通点がある。しかも本業とのシナジー効果が高いと考え、買収などに踏み切っている。

こう考えれば異業種はシナジー効果を狙い、ゼネコンや住宅会社の買収や業務提携に踏み切るケースが増えてくる可能性も見えてきた。ゼネコンの財産は、施工管理技士などの資格保有者、豊富な経験を持つ現場代理人などの「人材」だ。その人材を獲得し、本業との連携をはかることにより、はかりしれないシナジー効果があると一部の異業種は考えている。

個別の施工管理技士を引き抜くよりもノウハウ全体獲得するには、ゼネコンや住宅会社をまるごと買収した方が効果は大きい。

パナソニックの松村組買収劇の影には、はからずも異業種がゼネコンの人材とノウハウを渇望している背景があることが明るみに出た事例とも言える。今後、異業種の建設業界への買収や協業には注目していく必要がある。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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