三井不動産がベンチャーと協業し、「建築現場の効率化」に乗り出したワケ

三井不動産がベンチャーと協業し、「建築現場の効率化」に乗り出したワケ

三井不動産がベンチャーと協業し、「建築現場の効率化」に乗り出したワケ

三井不動産 ドロノミー社とドローンの実証実験

三井不動産は、CVCファンドを通じて出資しているイスラエルのベンチャー企業、Dronomy(以下、ドロノミー)と、ドローンの実証実験を東京・日本橋の建設現場で実施した。

三井不動産は2015年にベンチャー共創事業部を設立し、ベンチャー企業と連携した事業拡大を展開。不動産・建設業界の課題である「生産性向上」や「少子高齢化による人口減少」への取り組みとして、IT化・自動化に着目し、今回のドローン実証実験にいたった。

三井不動産の狙うベンチャー企業との協業によるオープンイノベーションの展開の先はどこにあるのか。今回、三井不動産ベンチャー共創事業部事業グループの能登谷寛主事に、ドローンによる工事進捗管理業務や建設業界などのオープンイノベーションの可能性について話をうかがった。

三井不動産がベンチャー企業と協業する理由

三井不動産ベンチャー共創事業部事業グループ主事 能登谷寛さん

三井不動産は社内横断的な体制でベンチャー企業を支援するため、ベンチャー共創事業部を設立し、「コミュニティ」「支援」「資金」など総合的に支援する体制を整えている。

三井不動産がベンチャー共創事業部を立ち上げた目的について、能登谷主事はこのように説明する。

「第一の目的は、三井不動産の本業の強化にあります。私たちはデベロッパーとして、オフィス、ショッピングモール、ホテル、マンションなどを提供していますが、その付加価値をさらに高め、顧客の満足度向上を目指したいと考えています。

もう一点は、従来からの不動産業以外にも業態を拡大する必要があると考えたからです。ベンチャー企業は、特別なサービスや技術を保有しており、三井不動産と組むことによって、われわれの提供するオフィスなどにもサービス展開することが可能になります。

現在、重点領域として、ロボットに限らず、IoT、ヘルスケア、フィンティック、Eコマースなど幅広くいろんな産業との接点がありますが、そうしたベンチャーと連携することで、既存ビジネスの強化はもちろんのこと、まったく新しいビジネスの創出を模索し、長いスパンをかけてビジネスを育てていく方針です。三井不動産がオープンイノベーションの窓口になり、不動産・建設業に限らず幅広いカテゴリーからベンチャーと協業し、日本経済全体を元気にしていきたいと考えています。」


三井不動産と建築分野で連携したイスラエルのドロノミー社とは?

さまざまなビジネスの可能性を模索している三井不動産だが、建設分野ではまずドロノミー社との協業にターゲットをあてた。

ドロノミーはイスラエル軍のドローン研究者や測量部隊の司令官などを務めたトップエンジニアが2015年に立ち上げたベンチャー企業だ。イスラエルに本社をおき、アメリカ、日本などでビジネスを展開している。

ベンチャー共創事業部とドロノミーの接点について能登谷主事はこう話す。

「三井不動産はグローバル・ブレイン社とパートナーを組み、50億円規模のファンドとして、共同でCVCファンド設立しました。そのグローバル・ブレイン社がドロノミーを紹介してくれたことがきっかけです。」(能登谷主事)

ドロノミーの技術の特徴は、主に次の3点だ。

  • 建物に沿った飛行ルート設定が可能な高精度の自律飛行技術
  • 飛行ルート設定、撮影、3Dモデルの作成までをワンストップで対応するソフトウェア
  • 連続カメラ撮影による誤差が1cm程度の3Dデータの作成が可能

では、なぜドローンなのか?

「今後、建設業界では建設技術者や技能者の確保が、人口動態から見ても確実に困難になります。そのため国土交通省は生産性向上を目指し、i-Constructionを進めていますが、これは土木分野の話で三井不動産の事業とは、やや距離感があります。

まず、三井不動産と近しい建築分野での生産性向上を考えた場合、ロボット化による省力化、ドローンによる省人化がベストだろうと結論づけました。」(能登谷主事)

Google Chromeで発注者とゼネコンがドローンの3Dデータを共有

ドローン実証実験を行った「日本橋室町3丁目地区第一種再開発事業A地区」(写真提供:三井不動産)

2017年7月、ドローンの実証実験を行った場所は、三井不動産が再開発組合の一員として建設中の「日本橋室町3丁目地区第一種再開発事業A地区」の建設現場。施工は、鹿島・清水建設・佐藤工業JVが担当している。

ベンチャー企業に実証実験の場を提供できるのも、三井不動産の支援の強みだ。

実証実験では、ドローンで取得した写真データから3次元モデルを作成。計測・取得したデータはクラウド上で管理され、発注者・施工者間での情報共有が容易になる。工事進捗管理、建物検査のほか、各業務の効率化、人件費削減、安全管理の向上に効果が見込めるという。

ドローンで撮影した写真データで作成した3Dデータ (写真提供:三井不動産)

ドロノミー社は今後、ゼネコンをターゲットに工事管理業務のサービス提供を模索していく。

「ドロノミーのサービスでは、撮影した写真を3Dモデルで見る場合、CADなどの特殊ソフトを導入する必要はありません。Google Chromeで発注者とゼネコンが情報共有できます。」(能登谷主事)

ドロノミー社のソフトウェアは操作も容易だ。ホビー用のドローンを飛ばした経験があれば、誰でも操作は可能だという。また、航路を一度設定しておけば2回目以降は再設定無で同じルートを自動飛行できる。

ドロノミー社のオリ・アフェックCEO(左)と能登谷主事  (写真提供:三井不動産)


都心部におけるドローン活用の壁

しかし、三井不動産が発注した全ての建築現場でドローンが飛ばさせるかといえば、すぐには難しいようだ。

「現段階での難しい問題は、都心の建築現場でドローンを飛ばしている現場がほとんどない、つまり前例がないということです。郊外現場に比べて制約が多いことは今回、身をもって感じました。」(能登谷主事)

ドローンを飛ばすためには国土交通省に事前申請が必要だ。しかし許可が得られれば、すぐ飛ばせるかと言えば、都心部の現場付近にはプライベート性の高いホテルがあり、国の重要施設などもあるため、近隣への説明も容易ではない。今回の実証実験の現場も、日本銀行に近かった。

「都心部では近隣の方に説明し、納得感と安心感を醸成することが課題です。デメリットがあるのでこの現場では導入できないという声があれば、それにどう応えていくか検討しなければなりません。」(能登谷主事)

都心部でのドローン活用はまだ課題も多いようだが、三井不動産は郊外でも三井アウトレットパークや物流施設、マンションも開発している。そこであれば可能ではないのか。

「三井不動産の開発物件でどこまで対応できるかはまだわかりません。しかし、郊外の平面的な開発物件であれば、ドロノミー社のドローンによる工事進捗管理は導入しやすいと考えています。

今後、どの物件でマッチングしていくかは、ゼネコンの意向も踏まえて検討していこうと考えています。」(能登谷主事)

三井不動産のベンチャー企業との共創

三井不動産のブランド力、資金力を背景にしたベンチャー企業のバックアップ体制は魅力的だ。特に建設業界での協業は、与えるインパクトも大きい。

三井不動産は、今回の実証実験において次のようなコメントを出している。

「今回の実証実験はドロノミーの日本進出に向けた支援の側面もありますが、同時に、当社や鹿島の既存の都市開発事業における進捗管理の効率化、安全性の向上の実現に向けたテクノロジーの活用について検討を進めていく大きなきっかけにもなっています。」

三井不動産の新たな挑戦は「オープンイノベーション」だという。それは自社単独で実施するのではなく、異業種や海外業者のベンチャーも巻き込んだ新たなる潮流を生み出すことである。ベンチャー共創事業部は、まさに終わりなき革新に向け、ブラッシュアップの追求に大きく舵を切っている。

能登谷主事はインタビューの最後にこう締めくくってくれた。

「建設業に限らず優れた技術やサービスを保有するベンチャーであれば、われわれはパートナーとしていつでも支援する用意があります。自分にはこれだけの技術やノウハウがあるというベンチャー企業の方がいれば、ベンチャー共創事業部にご連絡ください。

また、ドロノミーは日本に営業拠点がありませんので、ご興味のある方は、ベンチャー共創事業部までお問い合わせください。」

三井不動産がどこまで建築現場に変革をもたらすか注目だ。Google Chromeでドローンの3Dデータを共有できる工事進捗管理システムがスタンダードになれば、建築現場における施工者・発注者間のやりとりがよりスムーズになるだろう。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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