社会保険未加入でも働ける建設現場
建設業界では長い間、社会保険未加入が問題視されている。かつて建設業界で働く人の約4割が、社会保険に加入していないという調査結果もあったほどだ(総務省「労働力調査」、厚生労働省 雇用保険事業年報」 「厚生年金保険業態別規模別適用状況調」2009)。
こうした状況を受け、国土交通省は2012年から「建設業の会社が2017年までに100%社会保険に加入すること」を目指し、社会保険未加入の対策を開始した。その最大の目的は、建設技能者の待遇を改善させ、若手就労者を確保することである。
住所不定でも働ける建設現場
国土交通省は、2017年4月から直轄工事では、すべての下請業者を含め、社会保険未加入業者を排除した。三次下請や特定業種によっては未加入率が高いケースもあり、適用除外である一人親方に対するゼネコンのチェックも厳しくなった。
ところが、2018年2月現在、「雇用・健康・厚生年金」の3保険に加入している建設業許可業者は、まだ92.3%に留まっている。ついに政府は今秋の臨時国会に「建設業法・改正案」を提出し、社会保険未加入業者の建設業許可・更新を認めないようにする方針だ。
しかし、建設業界の社会保険未加入の会社が、「雇用」の受け皿として機能してきた部分も大きかったのは否めない。住所不定でも働くことができる業界は、それなりの役割を果たしてきたのである。
荷揚げ屋業界も、以前は保険未加入率が高いとささやかれていた業種であったが、最近はどうか。荷揚げ屋は、建設業の28業種には該当しないが、社会保険未加入問題について現役の荷揚げ作業員に話を聞いてきた。
住所不定で荷揚げ屋を始めた
荷揚げ屋の仕事は、工事現場での資材搬入・搬出作業である。石膏ボード、軽量鉄骨、石階段など重いものを運ぶ重労働だ。
荷揚げ屋として働くAさんは、約2年前にこの仕事を始めた。
――荷揚げ屋になったキッカケは?
Aさん 荷揚げ屋という仕事の存在自体を知らなかったのですが、当時、僕は住所がなかったので、雇ってくれる会社がなくて、仕事を探していた時に今の会社にたどり着きました。
――住所がなかった?
Aさん もともと飲食店に勤めていましたが、失業して家賃が払えず、家を失いました。家がないと住所不定で身分証もないので、雇ってくれる会社がないんですよね。その点、荷揚げ屋は身分証がなくても雇ってくれる会社が多いと思います。
――初めての肉体労働は大変では?
Aさん 最初は死ぬかと思いました(笑)。荷揚げ屋の仕事って基本的にボードや石階段などの重いものを運ぶ仕事なんです。ボードは1枚15~20kgあって、それを4~5枚まとめて運びます。エレベーターがない現場の場合、合計60kg以上あるボードを持ったまま狭い階段を上がっていくこともあります。日によって変わりますが、1日に数千枚のボードを運ぶのでキツいです。
――重すぎて途中で持てなくならない?
Aさん なります。手の感覚がなくなって。でも運ばないと仕事が終わらないので、先輩の圧を感じながら、無理してでも運びますね。
仕事がない人を受け入れる建設現場であって欲しい
――運び終わったら帰れる?
Aさん そうです。最初に決められた仕事量を終わらせれば、午前中でも上がることができます。だから、みんな早く帰りたくて必死で、休憩もせずに運ぶことが多いですね。仕事が終わり次第、帰れるのは荷揚げ屋の特権かなと思います。
――早く上がっても給料は変わらない?
Aさん 変わらないです。僕たちは日当で1現場分の金額が決まっていて、どんなに早く終わっても、その日当が支払われる感じなんです。会社によっては、午前中に終わると日当が半分になるという話も聞いたことがありますが。給料は日払いで手渡しでもらえるので、僕も最初はそれで食いつないでいました。
――毎日違う現場に行く?
Aさん 持ち現場がない限りはそうですね。毎日行く場所も違えば、一緒に働く人も違います。
――今は社会保険に加入していないと入れない現場もあるようですが?
Aさん 今の会社で働くことを決めて、すぐに会社名義でアパートを借りてもらって、社会保険にも加入しました。加入していない人もいるようですが融通が利くので、僕のように住所不定などの理由で働き口がなくて困っている人がいたら、荷揚げ屋をオススメしたいです。建設現場は仕事がなくて困った人を受け入れられる業界であって欲しいですね。
――このまま荷揚げ屋を続ける?
Aさん いや、体力的にキツいと思います。建設業にも興味が出てきたので、年をとっても出来る建設関連の仕事に就きたいなとも思っています。