大規模な建設現場では、施工管理技士の人手不足が原因で、派遣社員の施工管理技士を使っていることが多いと思う。当然の要求として、監理技術者や主任技術者、あるいは現場代理人を、有能な派遣社員に任せたいという素直な要望も出てくる。
しかし実際は、派遣社員を監理技術者・主任技術者として配置することは禁止されている。監理技術者・主任技術者として現場に配置できないのは派遣社員だけではない。出向者も、監理技術者・主任技術者として現場に配置することは禁止されている。
派遣社員と現場代理人、監理技術者・主任技術者の関係性について、まとめておく。
監理技術者・主任技術者と派遣社員の法的関係
監理技術者や主任技術者については、建設工事の適正な施工を確保するため、工事を請け負った建設会社との「直接的かつ恒常的な雇用関係」が必要となる。すなわち、下記の場合は「直接的かつ恒常的な雇用関係」に当てはまらないため、監理技術者・主任技術者として配置することは不可能だ。
- 工事受注企業と直接的な雇用関係がない場合
例:在籍出向者、派遣社員など - 工事受注企業と恒常的な雇用関係がない場合
例:一つの工事期間だけ短期雇用している社員など
参考:監理技術者制度運用マニュアル
また、国や地方公共団体が発注する建設公共工事の場合、入札参加の申し込みをした日以前に3ヶ月以上の雇用関係がない施工管理技士を、専任の監理技術者・主任技術者として配置することはできない。入札申込を伴わない指名競争などの場合は「入札の執行日」、随意契約の場合は「見積書の提出日」以前に、3ヶ月以上の雇用関係がない施工管理技士は、監理技術者・主任技術者として現場に配置できないというわけだ。
ただし、非専任の主任技術者、下請負者の主任技術者は、3ヶ月以上の雇用関係がない施工管理技士でも可。また、会社合併・営業譲渡・会社分割などの組織変更があった場合は、変更前の建設業者と3ヶ月以上の雇用関係がある施工管理技士は、組織変更後の建設業者と「恒常的な雇用関係がある」とみなされる。
なお、建設業者との「直接的な雇用関係」は、次の書類によって確認できなければならないとされている。
- 健康保険被保険者証の所属建設業者の商号又は名称
- 住民税特別徴収税額通知書の所属建設業者の商号又は名称
- 健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書の商号又は名称
- 監理技術者資格者証の所属建設業者の商号又は名称
そして「恒常的な雇用関係」については、次の書類により確認できることが必要となる。
- 監理技術者資格者証の交付年月日もしくは変更履歴
- 健康保険被保険者証の交付年月日
すなわち、監理技術者・主任技術者とその所属建設業者との間に、第三者の介入余地がない雇用上の権利義務関係(賃金、労働時間、雇用、権利構成)が存在することを「直接的な雇用関係」と言い、派遣社員の場合は、これら雇用に関する権利義務関係はすべて派遣会社との間に存在するため、監理技術者・主任技術者として配置することは不可、ということになる。
現場代理人と派遣社員の法的関係
一方、現場代理人の場合は、監理技術者・主任技術者と事情が異なる。建設業法上、派遣社員を現場代理人に選任することは禁止されていない。逆説的な捉え方だが、法的に禁止されていないから、派遣社員でも現場代理人として配置することが可能となる。
ただし、公共工事標準請負約款や建設工事請負契約約款などによって、現場代理人と受注企業との直接的な雇用関係を求める工事も多い。そのため、特に国や地方自治体などが発注した公共工事の場合は、現場代理人に派遣社員を置くことはできないと考えたほうが良い。
専任技術者と派遣社員、出向社員の関係
現場サイドの施工管理技士にとって馴染みは薄いかもしれないが、専任技術者についても触れておく。そもそも建設業許可を受けるためには、許可を受けようとする建設業に関して「一定の資格又は経験を有する技術者」を営業所ごとに専任で置くことが求められている。この「一定の資格又は経験を有する技術者」のことを専任技術者と言うが、はたして派遣社員を、専任技術者として配置できるのか?
建設業許可事務ガイドライン(平成13年4月3日国総建第97号)には、専任技術者と出向社員の関係性について、以下の内容が記されている。
・・・出向社員であっても、当該技術者の勤務状況、給与の支払状況、当該技術者に対する人事権の状況等により専任性が認められれば、営業所専任技術者として取り扱うこととされているところであるが、営業所専任技術者が本取扱いにより工事現場における主任技術者等となる場合であっても、当該技術者は、主任技術者等としての立場においては、所属建設業者と直接的かつ恒常的な雇用関係にあることが必要である・・・
出向社員は上記の条件を満たせば、専任技術者として配置することが可能である。ここに派遣社員に関する記述はないが、派遣社員の場合は、給与を含む人事権が派遣会社に属するため、専任技術者として配置することは不可となる。
まとめるとこうだ。
現場代理人 | 直接的雇用関係が必要 |
3ヶ月以上の恒常的雇用関係は不要 | |
派遣社員でも可※約款等で不可の場合が多い | |
非専任主任技術者 | 直接的雇用関係が必要 |
3ヶ月以上の恒常的雇用関係は不要 | |
派遣社員は不可 | |
専任主任技術者 | 直接的雇用関係が必要 |
3ヶ月以上の恒常的雇用関係が必要 | |
派遣社員は不可 | |
監理技術者 | 直接的雇用関係が必要 |
3ヶ月以上の恒常的雇用関係が必要 | |
派遣社員は不可 | |
非専任主任技術者として配置する営業所の専任技術者 | 直接的雇用関係が必要 |
3ヶ月以上の恒常的雇用関係が必要 | |
派遣社員は不可 |
派遣社員を積極的に現場代理人にする時代は来るか?
派遣社員は、あくまでも派遣会社に所属する社員である。建設業法上、派遣社員を現場代理人として配置することは可能だが、これは発注者側の気持ちとしては、あまり納得できない内容かもしれない。しかし、昨今における施工管理技士の人材不足を考えれば、派遣社員を現場代理人として配置することも、着工遅延などの問題を解決する選択肢の一つである。
最近はあえて派遣社員として働く優秀な施工管理技士も増えており、近い将来、発注者の理解を得た上で、現場代理人に優秀な派遣社員を据える現場が増えるかもしれない。実際、工期の中盤に差し掛かると、ほとんど派遣社員だけで現場を回すケースも首都圏を中心に増え始めており、今後さらに有能な派遣社員への期待は高まっていきそうだ。
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本ページを拝見しちょっと疑問を感じ2点お尋ねいたします。
1)(中段の)「まとめるとこうだ。」以下の枠内は、公共工事の場合と思いますが、民間工事も含むまとめとされているのでしょうか?民間工事の場合は何れも「3ヶ月以上の恒常的雇用関係が必要」はないと思いますが如何でしょうか?
2)同じ枠内の最下行の「非専任主任技術者として配置する営業所の専任技術者」とはどういうことでしょう?営業所の専任技術者は基本は現場に配置できないと思いますが?
以上、回答頂ければ幸いです。
このページ現場代理人に派遣社員を当てることができるとありますが、そもそも「労働者派遣法」で派遣社員の業務として建設業は禁止なっているはずですが、直接作業をしない現場代理人ならOKなのでしょうか?
このページで現場代理人に派遣社員を当てることができるとありますが、そもそも「労働者派遣法」で派遣社員の業務として建設業は禁止なっているはずですが、直接作業をしない現場代理人ならOKなのでしょうか?