「デミー」こと出水享さん(左)と、「マツ」こと松永昭吾さん

噂のドボク応援チーム「デミーとマツ」って何者?

「デミーとマツ」がプロデュースする現場体験型イベント

噂のドボク応援チーム「デミーとマツ」というコンビが九州にいる。

デミーさんこと出水享さん、マツさんこと松永昭吾さんから成るユニットで、子ども向けに、土木工事現場などでの体験型イベントなどのプロデュースしている。「デミーとマツ」は往年のテレビ番組「トミーとマツ」をパロったものだが、「なんか名前つけようか」という程度のもので、深い意味はないらしい。

二人の出会いは、2年ほど前のある飲み会。「子どもたちが純粋に楽しめるドボクのイベントをしたいよね」ですぐに意気投合。以来、法面工事現場でのコンクリート吹付け、マンホール蓋の色付け、ICT建設重機の操縦のほか、はては採石場での巨石爆破見学など、従来にはない「心震える」イベントを手掛けてきた。

これまでにのべ640人の親子が参加。SNSなどを通じて、デミーとマツの噂は日々拡散を続け、最近では、国土交通省某事務所からも現場プロデュースのオファーが舞い込んでいると言う。

デミーとマツの一連の活動は、すべてボランティアで無報酬。本業は、デミーさんが大学技術職員、マツさんが建設コンサルタント会社の支店長。二人とも工学博士号を持つドボクのプロだ。年齢的にも働き盛り。仕事も多忙。そんな彼らが、なぜ子ども向けのドボクイベントプロデュースに入れ込むのか。そのねらいなどを探ってみた。


ノルマ化された土木の現場イベントはつまらない!

「既存のドボク系の現場イベントって、つまらないものばかりだよね」。デミーとマツが初めて出会ったときの共通認識がこれだった。子どもたちが工事現場に集まって、まず会議室に通される。資料が配られ、行政職員(あるいは工事会社社員)が説明に立つ。説明の後は、ヘルメットを被り、行儀良く現場をただ見て回る。子どもたちにとっては、学校の授業の一環。行政職員などにとっては、業務の一環。どちらにとってもやらされ仕事。子どもたちにとっての喜びは、お土産ぐらいのものだからだ。

デミーとマツが開催した土木体験イベント「コンクリートバズーカをぶっ放せ!!」での一コマ。子どもがコンクリート吹付け作業を実際に体験した(写真提供/デミーとマツ)

「既存の現場イベントは、安全だが、当り障りのないものばかり。行政の人間も、その多くはやりたくてやっているわけではない。やらされ感が拭えない。そんなイベントはつまらないものにしかならない」(デミーさん)

「行政にとって、子ども向けイベントが業務、ノルマ化している。ただ現場を見たり、重機に乗ったり、親と話したり、友達に自慢したりできる楽しいものにはならない」(マツさん)

「通り一遍」のイベントばかりやっていても、子どもたちは喜ばない。ひいては、ドボクに興味を持ってくれない。子どもたちが純粋に楽しむためには、「心が震える突き抜けたイベント」が必要。さらに「リアルな現場を体験する」ことが重要になる。初対面なのに、まるで30年前からの知己同士のように、話は大いに盛り上がった。デミーとマツの結成には、「子どもにドボクを好きになってもらいたい」という共通の志があった。


ドボクのマニアックな視点に立ったイベントづくり

二人はドボクのプロ。知識も人脈もある。それらを駆使すれば、思いはすぐ実現しそうなものだが、実際はそう簡単ではなかった。突き抜けたイベントにするためには、当然それなりのアイデア出しが必要となる。アイデアが出た後は、現場探し、工事会社など協力会社との交渉があり、話がまとまったら、集客のためのPRなどもある。実際、オファーの連絡をしたところ、「チビっ子向けにイベントしても、ウチは1円も儲からない」と冷たくあしらわれたこともあった。

イベントプロデュースと言っても、イベントのすべての中身をデミーとマツが決めてしまうわけにもいかない。協力会社社員などに「やらされ感」が芽生えるからだ。既存のイベントと同じ轍を踏むことになる。イベントの大枠をデミーとマツが決めて、細かい部分は相手に任せる必要がある。自分で考えると、イベント終了後の達成感が生まれるからだ。

逆に、協力会社にすべて任せるのも面白くない。協力会社の既存のイベントに、デミーとマツがゲストとして来たみたいになるからだ。

「普通のイベントであれば、広告代理店に頼めば良い。デミマツはドボクのプロ。広告代理店には考えつかないような、子どもが喜ぶドボクのツボ、マニアックな視点に立ったイベントづくりには自信がある」(マツさん)

奥さんが「うちの旦那、スゴイことをやっている」と惚れ直す

デミーとマツがプロデュースするイベントのポイントは、協力会社の社員の家族を参加させること。お父さんの仕事がいかに「チョーカッコえい」かを説明し、実際に働いている姿を家族に見せる。すると、奥さんも子どもも喜ぶ。特に奥さんは、子どもが喜んでいるのに引きずられて、「うちの旦那、スゴイことをやっている」と惚れ直すと言う。

「デミマツのイベントは、親子参加がキモ。子どもと一緒にいると、親も50年先のことを現実問題として考えるようになる。子どもを通して、親にも訴求させるわけだ。デミマツのポリシーと言って良い」(マツさん)

社員の家族でない場合でも、親子で参加させる意味は大きい。たいていの親は子どもの写真を撮る。それが立入禁止のレアな写真などだった場合、その写真をSNSにアップするケースも少なくない。そういう写真は珍しいので、親のネットワークに乗って、ドンドン拡散する。それが巡り巡って、親子でイベントに参加したこと自体が、楽しい思い出として、いつまでも残る。実際、SNS上の拡散により、デミーとマツのイベントへの注目は、「モノスゴイ高まりを見せている」(デミーさん)と言う。


法令の範囲内で行われる「突き抜けたイベント」は都合が良い

デミーとマツのイベントは、突き抜けたイベントを目指したものだとしても、当然ながら、安全衛生に関するものをはじめ、様々な法令の範囲内で行われる。これは、協力会社や行政にとって、安心感につながる。さらに行政の立場だと、事業に対する批判が怖くてできないような現場であっても、デミーとマツ主催の子ども向けイベントならできる。イベントが面白いと、担当の行政職員は周りから褒められる。この点、行政にとっても、「都合が良いのかもしれない」(マツさん)というわけだ。

デミーとマツのイベントでは、子どもが法面を上る場面も

「デミマツのイベントは、親子が喜ぶ、行政や協力会社が喜ぶ、デミマツも楽しいという三方良しのイベント。儲けとか、業務と関係なく、純粋に子どもを喜ばせたい、自分たちが楽しみたい、ドボクファンを増やしたいという動機のみでやっている」(マツさん)

デミーとマツの活動は純粋に楽しい。その結果、二人のスケジュールは、デミーとマツが最優先。「デミマツの活動があったら、仕事や家庭の用事を調整する」(デミーさん)、「デミマツのためなら、工程を動かす」(マツさん)ほどだ。


限られた小遣いの中で、交通費を捻出するのは痛い

ただ、悩みもある。ボランティアである以上、イベントのための交通費もすべて自腹。「お小遣いが限られているので、正直痛い」(マツさん)、「交通費をもらったことはない。好きでやっているので」(デミーさん)と心情を明かす。

今後の活動については「あくまで自然体でやっていく」(マツさん)、「とりあえず、九州全県で1回はやりたい。チャンスがあれば、関東でもやりたい」(デミーさん)と様々だ。ただ、どこで何をするにせよ、「デミマツも子どもと一緒に現場に入りたい」という想いは共通だ。

あくまで自然体で(マツさん)、九州全県で1回はイベントを(デミーさん)

「デミマツと一緒にイベントを行った行政、会社はみんな仲間。参加した親子も仲間。いつか、デミマツがいなくても、仲間が自分たちでイベントなどをやってくれるようになれば、最高。そのときには、デミマツコンビを解消しても良いかな」(マツさん)

気負いもなく、いかめしさもなく、ただ楽しみたい。子どもたちのランランとした目がみたい。その純粋な思いがデミーとマツとその仲間を突き動かしている。物事を進めていく上で、彼らなりの計算が働くことはあるだろう。詳細は避けるが、実際にそういう話を聞いた。ただ、それが参加した親子の目を曇らせることはないだろう。デミマツが「ドボクの未来」を託したい純粋な気持ちを失わない限り。

デミーとマツのホームページ:https://doboku.wixsite.com/index

ピックアップコメント

スーパー、準大手あたりのゼネコンさん、未来のためにも是非デミーとマツのスポンサーさんになってくれんかなー

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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