地域建設業の人手不足解消のブレークスルー自分の会社の魅力をどれだけ熱く語れるか?
地域建設業の経営者の方々にお会いすると、「技術者が足りない」「採用しようとしても、人が来ない」という話をよく聞きます。その理由として、「建設業の仕事は3Kだから」とか、「優秀な人ほど大手に持っていかれるから」とか、「最近の若者は忍耐力がないから」とか言う経営者が多いです。
確かに、地域建設業を取り巻く環境、構造などが手かせ足かせとなり、人手が不足している部分はあるでしょう。業界的には、これを改善するため、週休2日制の導入、労務単価の見直し、各種法令遵守の徹底などの取り組みを行っていますが、施策によっては賛否が別れるものもあり、本当に人手不足の解消につながるのか、先行きは不透明です。
地域建設業の人手不足解消のブレークスルーはどこにあるのでしょうか。そのヒントを探るため、「選択理論®」をベースにした人材教育コンサルティング会社「アチーブメント株式会社」に取材しました。取材に応じてくれたのは、中小企業向けの採用コンサルティングを担当する同社大阪支社の平山壮人さん。採用、育成のプロならではの示唆に富んだお話を伺うことができました。
アチーブメント株式会社とは?
――アチーブメント株式会社とはどういう会社ですか?
平山 個人向けのビジネススクールをメインの商材にしています。弊社の青木仁志・代表取締役社長が3日間の公開講座を担当していて、670回以上開講しています。これだけの回数の講座を開催している例は、世界で他にありません。受講生のうち4000名以上が中小企業経営者です。経営実践塾というカリキュラムもあり、これまでに600社以上の方々に受講していただいています。最近では、元・文部科学大臣の下村博文氏と共著で「志の力」という書籍を出版し全国で講演を行っています。
弊社社長の青木は、ブリタニカの英語百科事典のコミッションセールスの叩き上げの人間でして、アチーブメントの公開講座は当初、営業教育から始まりました。青木社長のサービスポリシーとして、自分ができないことを伝えてはならないという考え方があり、自分で伝えられることを研修としてやってきたわけです。不動産業界や保険業界の成果報酬型の営業など、実力をつけて、自分の報酬を高めたい方々向けにやっていました。
――営業教育から、経営者研修にシフトしたわけですか?
平山 アチーブメントは今、31期を迎えていますが、売上35億円・経常利益7億・自己資本率は75%で、実質無借金経営を継続しながら、グループ法人での税務勧告なしをいただくなど、中小企業としての一定の実績を残すことができました。弊社が中小企業として力をつけてきた15年ほど前から、中小企業経営者向けの研修に力を入れています。
扱っているテーマは、目標達成・理念経営です。研修を通じて、多くの経営者の方々に「アチーブメントのような会社を作りたい」と評価いただいています。そこからどう法人を作るのかが、私の所属する法人向けコンサルティングサービスです。法人向けのサービスが立ち上がったのは、13年ほど前です。顧客は、注文住宅関連の会社が多く、口コミで広がったケースが大半です。
法人向けコンサルティングサービスでは、弊社アチーブメント自体がどのような新卒採用をしているのか、社員教育をどうしているのか、組織運営をどうしているのかなど、実際に現場で実行していることを原理原則として、それぞれの会社様に合わせ、カスタマイズしたプログラムをつくっていきます。
――全国展開しているのですか?
平山 弊社は、東京、大阪、福岡、名古屋、横浜に拠点があり、個人向け・法人向けにコンサルティングサービスを提供しています。 私は大阪の法人コンサルティング部門の責任者であり、西日本全体を担当しています。
「選択理論®」をベースに採用コンサルティング
――具体的にどのようなコンサルティングを行っているのでしょうか?
平山 商品ラインアップは4ステップあって、経営者が自ら学ぶための公開講座が第1ステップ。代表の青木が講座を担当しています。一般的な研修は「行って終わり」が多いですが、知識で終わらせず、技術体得するまで繰り返し受講していただきます。最終的には、この研修の内容を受講者自身が人に伝えられるようになるまで高めていきます。弊社では「プロスピーカー」と呼んでいますが、弊社の研修内容を習得して現場で実績を残し続けている指導者です。
経営者が技術を習得した後、会社の幹部であるトップ20%の方々の能力アップに移ります。これが第2ステップです。第3ステップは、社内研修プログラム「i-standard」として、弊社からお客様の会社に講師を派遣して、経営者の組織デザインを現場に浸透させ、組織文化を醸成するステージです。最後のステップは、組織の仕組みづくりで、新卒採用の仕組みや、オーダメイドの研修などをつくっていきます。私の部門は、主にこの第4のステップを担当しています。
――アチーブメントの強みは?
平山 弊社サービスのベースには、「選択理論®」という心理学を採用しています。選択理論は、アメリカの精神科医故・ウイリアム・グラッサー博士が提唱した心理学で、「人間のすべての行動は自らの選択である」と考える理論です。故・グラッサー博士は弊社の顧問でもありました。
従来の心理学、外的コントロール心理学は、「人間の行動は外部からの刺激に対する反応である」という考えに基づいていました。例えば、人に「仕事をしなさい」と刺激して、行動を促す、というものです。この考えだと、一時的には恐れや強制によって動いているように見えますが、長期的には、人間関係が損なわれるリスクが高まり、対象者は本質的に自立しません。
選択理論では、対象者は「仕事をするか、しないか」を選択するので、外部からの刺激によって、人を変えることはできない、という考え方に立ちます。自分から「変わりたい」と考えない限り、人は変われないということです。
もともと、精神疾患のクライアントや、薬物依存者、囚人などへのカウンセリングのみを通じて体系化された理論なので、人の行動が変わる支援をする上で、非常に効果の高い、実績のある理論です。
弊社では選択理論を商標登録しており、業界的には「選択理論と言えば、アチーブメント」が定着しています。選択理論を基盤したマネジメントは「リードマネジメント」と呼ばれていて、様々なサービスでその手法をお伝えしています。
「ウチの会社には魅力がある」と100%確信しないと採用できない
――選択理論を会社のマネジメントにどう適用しているのですか?
平山 例えば、リクルーティングの選考が挙げられます。会社側からすれば当然、学生を選考するわけですが、学生側からも選んでいるわけです。弊社では、また弊社のサービスでは、「学生側が会社を選ぶ」という意識を根付かせています。「会社が学生を選ぶので、学生には選択肢はない」ではなく、「この会社に合っているかどうか、学生のあなたが選択してください」ということです。これは、一般的な会社の採用選考とは、かなり違うと思います。「自分に合っていなかったら、辞退していただいても良いですよ」という思い切ったスタンスですから。
――リスクもありますよね?
平山 もちろん、採用したい学生が来なかったら、採用の成果として意味がありません。だからこそ、会社側の「自信」と「魅力」が大きな影響を与えています。学生と対面したときに、「ウチの会社には他社には負けない魅力がある」と言い切れる自信がない限り、このような選考スタンスはとれません。それなしで学生を採用したとしても、長続きしません。
弊社の「採用コンサルティング」では、新卒採用においては、5次選考まであり、合宿も行います。特殊な部類の選考方法だと思われるかもしれませんが、それらのやり方は本質ではありません。やはり「社内改革」こそが本質だと考えています。採用する側の人間が「ウチの会社には魅力がある」と確信していない限り、どんなに演出や口説く手法を実践したとしても、仮に採用したのち入社後の離職につながります。
青木社長の講座の様子(写真提供:アチーブメント株式会社)
私が会社の新卒採用をお手伝いする際には、経営者の方に「弊社の講座を受講してください」とお伝えします。経営者が、まずご自身がどんな人生や生き方を貫くのか、自分の会社の理念はなにか、ビジョンはどのようなものか、どんな計画で企業経営をするのか。そのデザインを学生に語れずして、採用に臨んでも、いずれ会社を辞めてしまいます。
弊社の採用コンサルティングは、入社した後のことも考えて構築しています。採用した人間の人生をあずかり、しっかり育て上げ、活躍する人財にできるかどうかは、受け入れる会社のマインド、ひいては社長の考え方がすべてです。社長が会社に対して、どれだけ自信を持っているのかがカギです。
弊社代表の青木は、「採用責任」という言葉をよく社内でもメッセージします。「その人材を採用すると決めたのは経営者の責任である。だからこそ、最後まで育て上げ、幸せにしようとするのが、経営者として人としての誠実さである」と。
弊社では、「会社に対する自信」「職業に対する自信」「商品に対する自信」「自分に対する自信」という「4つの自信」という言い方をしています。社長様に「この4つの自信を100%持っている人間が、あなたの会社に何人いますか」と聞きます。「それがイコール採用力ですよ」とお伝えします。この4つの自信が育まれない限り、派手な演出、PRをしたところで、逆にギャップが生じるので、「入社したら、話が違った」ということになります。弊社では、実際の採用のやり方のお手伝いもしますが、その手前の段階、採用力づくりにより強くコミットします。
――まずは、採用する側に気づいてもらう、意識を変えてもらう?
平山 そうです。弊社では「社内の水質」という言い方をしていますが、会社を水槽に例えます。水槽の水が組織文化・社風です。どんなに優秀な人材を水槽に入れようとも、水質が悪ければ病気になり、モチベーションが下がりやすくなります。いかに水質を高められるかが、「採用力」、そして「育成力」です。水質は、会社が存続する以上、ずっとついてまわる話であり、水質が高まらない限り、採用力は決して向上しません。この点、弊社のサービスは、採用プロジェクトと言うより、組織変革プロジェクトに近いですね。
企業力の中で「採用活動」が一番コントロールしやすい
――給与水準を上げたり、福利厚生を充実させる、有名な求人サイトに載せるなどのアプローチは有効でしょうか?
平山 弊社でも当然、それらも加味した施策を提案しています。
弊社では、「企業力」は3つの掛け算で成り立つと考えており、それらは「企業ブランド」×「人材戦略」×「採用活動」と定義しています。
企業ブランドの比率が大きくなると、長期的なものなので、コントロールがしづらくなります。企業ブランドにおいて、中小企業が大企業と戦うのは、そもそも舞台が違うので、難しいと思います。給与や福利厚生などの人材戦略も、中長期的に変えていく必要があります。「今年からフルコミッション制にする」と言っても、急にはついていけませんからね。
ただ、採用活動に関しては、一番コントロールしやすいんです。この採用活動も3つの掛け算で成り立っていて、「求人プロモーション(母集団形成)」×「選考設計」×「リクルーター(社員)」だと考えています。採用活動の本質は、リクルーターです。リクルーターが強くなければ、絶対に採用はできません。人が集まったとしても、演者のレベルが低ければ、その講演にリピーターは現れません。採用活動で重要なのは、母集団形成とリクルーターです。
「現場の育成力」=「採用力」
平山 母集団形成は、多くの会社が非常に苦労するところです。弊社でも、SNSだったり、求人サイトだったり、いろいろなツールを活用しますが、最大のツールは「選考生と内定者からの紹介」です。選考生と内定者に会社のファンになってもらって、「あの会社行ってみたら」と口コミで紹介してもらうことです。青木社長のセールス手法も「紹介営業」なんです。満足をつくってヨコ出しするという手法で、「一回のセールスで一生の顧客をつくる」という考え方に基づいています。
選考生にファンになってもらって、入社してもらうケースが多いのは、弊社のサービスの特長ですね。弊社の採用活動は、「合格、不合格」ではなく、「マッチング、ミスマッチング」という考え方に立っています。例えば、不採用になった選考生に対して、「あなたが悪いわけではなく、ウチの会社と合っていないだけだ。あなたにはこういう会社が合っているのではないか」というフォローを入れています。私たちが人財教育の事業を行っている以上、関わった方々が私たちにご縁をいただいたからには次のステージへ成長を遂げていただきたい想いがあります。これは、採用人数が少ない中小企業だからできることです。これは選考設計の中にもちゃんと入っています。
不採用にした学生に対して「就職活動頑張ってね」と笑顔で送り出した後、それで終わらず、「君は商社が向いているんじゃない?」などとアプローチして、関係性を継続させます。最終的に、選考生から「他の会社から内定がでたら、報告しますね」と言われる状態、関係性を築いておくということです。こういうフォローを入れることで、選考生も内定者も、全員が「ファン」でい続けてくれるわけです。実際、不採用になった選考生の紹介から、内定者が出たケースもあります。これを毎年積み重ねていくと、良い連鎖がどんどん増えていきます。
――土木系の会社、土木技術者の採用にも当てはまる?
平山 当てはまります。九州のある住宅などの施工管理を手がける会社の採用をお手伝いしたことがあります。経営者の方々に弊社の研修を受けていただいて、トータルで3年ほど関わりました。
――「もう大丈夫」と言えるまでには、3年程度の時間が必要?
平山 そうですね。組織の本格的な変革には、やはり3〜5年はかかります。1年ぐらいでは本質的には変わったとは言えません。採用した方々が実際に現場に入ってどうなるか、育成がどうなるか、などの積み重ねを見た上でないと、採用活動を含めたトータルの結論は出せないからです。
「現場の育成力」=「採用力」なので、どんなに優秀な学生を採用したとしても、育成できなければ意味がありません。「この会社はどれぐらい育成できるのか」を見ながら、作業していかないと、採用活動との間にギャップが生じます。
経営者の思考が変わらないと、採用活動も変わらない
――人が足りない会社ほど、採用活動に対する意識は低いと思われます。経営者に気づいてもらう難しさとは?
平山 弊社が新卒採用を始めて、どれぐらい会社が変わったのか、というお話をすることにしています。弊社が新卒採用を始めたのは18期で、当時の社員数は25名でした。その後、売上げは10年間で4〜5倍に増えました。社員数も同じくらい増えました。弊社の新卒投資の投資効果がどれぐらいになっているのか、具体的にご説明しています。
中には、ネガティブな経営者の方もいらっしゃいますが、経営者の方が「人の投資に対する優先順位・判断基準が効果的なのか」を自己評価してもらうようにしています。「経営者の方の思考が変わらない限り、採用活動もなにも変わらない」ということに気づいてもらうようにしています。
弊社の講座では、基本的に「経営者の考え方が変わらない限り、組織は変わらない」というお話をするのですが、まずは、それを経営者に受け入れていただくのが、最初の入口になります。だからこそ、何度も受講してもらえるようにしています。弊社が考え方を変えるためではなく、経営者に気づいてもらうためにやっているわけです。
弊社の講座を受講されても、納得しない、考え方がなかなか変わらない経営者の方もいらっしゃると思います。だからこそ、継続学習をしていただきたいのです。人が変わるためには時間がかかるというのは原理原則だと弊社は考えています。
――まさに選択理論に則ったアプローチですね。会社が変わる変わらないは、経営者次第だと。
平山 そうですね、経営者の選択です。
――講義だけ受けても、本人の選択が変わらなければ、変わらないと。
平山 ええ、その通りですね。
責任を取る経営者でないと、パートナーシップは組めない
――建設会社の顧客は?
平山 今のところ少ないですね。マーケットとしては、これからというところです。弊社の商品は、継続することを大切にしていますので、その性質上、実際に成果が出るまでにどうしても時間がかかります。まずはそこを理解していただく必要があると感じています。
ある建設会社様から、「採用活動をやりたい」というお話をいただいたのですが、「順番が違うので」と、お断りしたこともあります。社内が変わらないうちに、採用活動だけやっても意味がないからです。弊社のサービスの入り口は変わりません。「遠回りのようですけど、実は最短距離なんです」という話を理解していただける経営者でないと、弊社がお手伝いするのは難しいと思います。
――中途採用は?
平山 中途採用の商品もありますが、弊社の仕組みとして確立されていないので、今のところ、顧客に対して展開しているわけではりません。弊社では、「自分の会社でうまくいっている仕組みを商品として展開する」というポリシーがあるので。
――コンサルティング会社に対して、強い抵抗感を抱いている経営者もいるようです。コンサルティング会社のあるべき姿とは?
平山 アチーブメントは、「自社で成功したものを顧客に伝える」というスタンスが強いです。「赤字」のコンサルティング会社はありえません。お客様にしても、そんな会社にコンサルティングされたくないでしょうし。
コンサルティング会社が嫌いな経営者の存在は、理解できます。「自分でやったことがないのに、何が分かる?」と言われれば、まったくその通りだと思います。弊社を含め、コンサルティング会社は、まず自分たちが良い経営をする必要があります。これは絶対的な条件です。
――「これはダメかも」と感じる会社、経営者の特長は?
平山 偉そうなことは言えませんが、「経営者が自分で責任をとらない会社」、「他責傾向がある会社」は厳しいと思います。これは、直接お話しするとすぐに感じ取れます。例えば、「社員が悪い」とか「市場が悪い」などが社長の口癖になっています。本当は、社長の責任なのですが、その自覚がないのかもしれません。弊社では、「自分がすべての責任を取る」という経営者でないと、パートナーシップを組むことは難しいという考えに立っています。
――コンサルティングの本質は、パートナーシップなんですね。
平山 弊社にとって、コンサルティングとは、「やってあげるもの」ではなく、「自らできるようになってもらうもの」です。ですので、弊社のサービスの本質は「人財教育」なのです。コンサルティング会社が離れると、業績が悪くなる会社がありますが、コンサルティング会社に依存していたからです。われわれから見れば、その会社は本質的には何も変わっていなかったんです。弊社のサービスの根幹には、その「会社が自立する」という大きなテーマがあります。弊社は、コンサルティング会社を名乗っていますが、「トレーニング会社」と言ってもよいと思います。