「ウチの会社には魅力がある」と100%確信しないと採用できない
――選択理論を会社のマネジメントにどう適用しているのですか?
平山 例えば、リクルーティングの選考が挙げられます。会社側からすれば当然、学生を選考するわけですが、学生側からも選んでいるわけです。弊社では、また弊社のサービスでは、「学生側が会社を選ぶ」という意識を根付かせています。「会社が学生を選ぶので、学生には選択肢はない」ではなく、「この会社に合っているかどうか、学生のあなたが選択してください」ということです。これは、一般的な会社の採用選考とは、かなり違うと思います。「自分に合っていなかったら、辞退していただいても良いですよ」という思い切ったスタンスですから。
――リスクもありますよね?
平山 もちろん、採用したい学生が来なかったら、採用の成果として意味がありません。だからこそ、会社側の「自信」と「魅力」が大きな影響を与えています。学生と対面したときに、「ウチの会社には他社には負けない魅力がある」と言い切れる自信がない限り、このような選考スタンスはとれません。それなしで学生を採用したとしても、長続きしません。
弊社の「採用コンサルティング」では、新卒採用においては、5次選考まであり、合宿も行います。特殊な部類の選考方法だと思われるかもしれませんが、それらのやり方は本質ではありません。やはり「社内改革」こそが本質だと考えています。採用する側の人間が「ウチの会社には魅力がある」と確信していない限り、どんなに演出や口説く手法を実践したとしても、仮に採用したのち入社後の離職につながります。

青木社長の講座の様子(写真提供:アチーブメント株式会社)
私が会社の新卒採用をお手伝いする際には、経営者の方に「弊社の講座を受講してください」とお伝えします。経営者が、まずご自身がどんな人生や生き方を貫くのか、自分の会社の理念はなにか、ビジョンはどのようなものか、どんな計画で企業経営をするのか。そのデザインを学生に語れずして、採用に臨んでも、いずれ会社を辞めてしまいます。
弊社の採用コンサルティングは、入社した後のことも考えて構築しています。採用した人間の人生をあずかり、しっかり育て上げ、活躍する人財にできるかどうかは、受け入れる会社のマインド、ひいては社長の考え方がすべてです。社長が会社に対して、どれだけ自信を持っているのかがカギです。
弊社代表の青木は、「採用責任」という言葉をよく社内でもメッセージします。「その人材を採用すると決めたのは経営者の責任である。だからこそ、最後まで育て上げ、幸せにしようとするのが、経営者として人としての誠実さである」と。
弊社では、「会社に対する自信」「職業に対する自信」「商品に対する自信」「自分に対する自信」という「4つの自信」という言い方をしています。社長様に「この4つの自信を100%持っている人間が、あなたの会社に何人いますか」と聞きます。「それがイコール採用力ですよ」とお伝えします。この4つの自信が育まれない限り、派手な演出、PRをしたところで、逆にギャップが生じるので、「入社したら、話が違った」ということになります。弊社では、実際の採用のやり方のお手伝いもしますが、その手前の段階、採用力づくりにより強くコミットします。
――まずは、採用する側に気づいてもらう、意識を変えてもらう?
平山 そうです。弊社では「社内の水質」という言い方をしていますが、会社を水槽に例えます。水槽の水が組織文化・社風です。どんなに優秀な人材を水槽に入れようとも、水質が悪ければ病気になり、モチベーションが下がりやすくなります。いかに水質を高められるかが、「採用力」、そして「育成力」です。水質は、会社が存続する以上、ずっとついてまわる話であり、水質が高まらない限り、採用力は決して向上しません。この点、弊社のサービスは、採用プロジェクトと言うより、組織変革プロジェクトに近いですね。
企業力の中で「採用活動」が一番コントロールしやすい
――給与水準を上げたり、福利厚生を充実させる、有名な求人サイトに載せるなどのアプローチは有効でしょうか?
平山 弊社でも当然、それらも加味した施策を提案しています。
弊社では、「企業力」は3つの掛け算で成り立つと考えており、それらは「企業ブランド」×「人材戦略」×「採用活動」と定義しています。
企業ブランドの比率が大きくなると、長期的なものなので、コントロールがしづらくなります。企業ブランドにおいて、中小企業が大企業と戦うのは、そもそも舞台が違うので、難しいと思います。給与や福利厚生などの人材戦略も、中長期的に変えていく必要があります。「今年からフルコミッション制にする」と言っても、急にはついていけませんからね。
ただ、採用活動に関しては、一番コントロールしやすいんです。この採用活動も3つの掛け算で成り立っていて、「求人プロモーション(母集団形成)」×「選考設計」×「リクルーター(社員)」だと考えています。採用活動の本質は、リクルーターです。リクルーターが強くなければ、絶対に採用はできません。人が集まったとしても、演者のレベルが低ければ、その講演にリピーターは現れません。採用活動で重要なのは、母集団形成とリクルーターです。
「現場の育成力」=「採用力」
平山 母集団形成は、多くの会社が非常に苦労するところです。弊社でも、SNSだったり、求人サイトだったり、いろいろなツールを活用しますが、最大のツールは「選考生と内定者からの紹介」です。選考生と内定者に会社のファンになってもらって、「あの会社行ってみたら」と口コミで紹介してもらうことです。青木社長のセールス手法も「紹介営業」なんです。満足をつくってヨコ出しするという手法で、「一回のセールスで一生の顧客をつくる」という考え方に基づいています。
選考生にファンになってもらって、入社してもらうケースが多いのは、弊社のサービスの特長ですね。弊社の採用活動は、「合格、不合格」ではなく、「マッチング、ミスマッチング」という考え方に立っています。例えば、不採用になった選考生に対して、「あなたが悪いわけではなく、ウチの会社と合っていないだけだ。あなたにはこういう会社が合っているのではないか」というフォローを入れています。私たちが人財教育の事業を行っている以上、関わった方々が私たちにご縁をいただいたからには次のステージへ成長を遂げていただきたい想いがあります。これは、採用人数が少ない中小企業だからできることです。これは選考設計の中にもちゃんと入っています。
不採用にした学生に対して「就職活動頑張ってね」と笑顔で送り出した後、それで終わらず、「君は商社が向いているんじゃない?」などとアプローチして、関係性を継続させます。最終的に、選考生から「他の会社から内定がでたら、報告しますね」と言われる状態、関係性を築いておくということです。こういうフォローを入れることで、選考生も内定者も、全員が「ファン」でい続けてくれるわけです。実際、不採用になった選考生の紹介から、内定者が出たケースもあります。これを毎年積み重ねていくと、良い連鎖がどんどん増えていきます。
――土木系の会社、土木技術者の採用にも当てはまる?
平山 当てはまります。九州のある住宅などの施工管理を手がける会社の採用をお手伝いしたことがあります。経営者の方々に弊社の研修を受けていただいて、トータルで3年ほど関わりました。
――「もう大丈夫」と言えるまでには、3年程度の時間が必要?
平山 そうですね。組織の本格的な変革には、やはり3〜5年はかかります。1年ぐらいでは本質的には変わったとは言えません。採用した方々が実際に現場に入ってどうなるか、育成がどうなるか、などの積み重ねを見た上でないと、採用活動を含めたトータルの結論は出せないからです。
「現場の育成力」=「採用力」なので、どんなに優秀な学生を採用したとしても、育成できなければ意味がありません。「この会社はどれぐらい育成できるのか」を見ながら、作業していかないと、採用活動との間にギャップが生じます。