法面工事30年のベテランが語る、法面作業の魅力とは?

法面工事30年のベテランが語る「法面作業の魅力」とは?

良い仕事をする法面屋がいる

役所が発注する工事には、法面工事というものがあります。法面工事とは、例えば、山を削って高速道路などを通す際に、山の側面が崩落しないように、コンクリートなどで覆う工事のことです。道路や橋梁、トンネル工事に比べ、日常生活で意識することが少ない、マイナーな工事分野だと言えます。

ある人から「良い仕事をする法面屋がいるよ」と指摘され、取材することにしました。「法面屋」にとって、良い仕事とはどのようなものなのか。仕事のやりがい喜びとは何なのか。サクセス工業株式会社(高知県高知市)に所属する工事部主任の篠崎敦史さんと、職人の前田浩士さんに話を聞いてみました。

ロープでぶら下がる法面工事の安全衛生管理

サクセス工業株式会社工事部主任 篠崎 敦史さん

篠崎さんは地元工業高校を卒業後、サクセス工業に入社。今年で18年目で、現場一筋。入社前は法面工事に関するイメージは、ほとんどなかったそうで、「漠然と土木の仕事に就くんだろうなという程度で、サクセス工業のウワサを耳にして、たまたま入社」したそうです。

法面工事の現場では、施工管理に従事してきました。法面工事は、作業員がロープでぶら下がって作業をするので、常に危険と隣り合わせの現場がほとんどです。安全衛生管理は大変だろうと思われますが、「僕の場合、幸い大きな事故などには遭遇していません」と言います。安全面で気をつけていることは、「作業員さんに安全を意識させること」だそうです。

法面工事に限らないと思いますが、「こういうことをしたら、危ない」ということは誰でも理解していることです。それでも、事故が起こるのは、個人のちょっとした「意識、気の緩み」によるものだからだそうです。「いくら安全装備を充実させても不十分。最終的には個人の意識です」と話しています。

安全衛生管理には、経験もモノを言います。篠崎さんが入社して間もない頃、ある現場で、ベテランの作業員さんが山の状態を見て、「ちょっと怖いな」と言ったことがありました。言われた場所を篠崎さんが見ても、ピンときませんでしたが、「万が一、崩れたら危ない」ということで、周辺の資材などを動かしておきました。昼休みになって、現場を後にした直後、法面がドサッと崩落しました。

「作業員さんは、ロープにぶら下がって、ずっと現場を見ているので、亀裂の変化や水の出方などいろいろいなモノのちょっとした違いにすぐ気づきます。感覚的なモノですよね。施工管理をしていると、なかなかそこまでは分からない。今でも、スゴイなと思います」。


ドライブ中に「この法面良いな」と感心する法面屋の職業病

法面の仕事をしていると、車をドライブ中、パッと目に入った法面に対して、「この法面良いなあ」と感心することがあるそうです。「職業病みたいなもの」と笑いますが、「カーブなのに割付がきれい」とか「スゴく高いなあ、大変だったろうなあ」などと考えてしまうと言います。

法面工事のデキの良し悪しは、「施工管理と言うより、作業員のウデの問題」にかかっていると指摘します。法面作業は、1現場だいたい5〜6名のチームで作業するケースが多く、特にそのチームのリーダーの手腕にかかっていると言います。「一般の人にはわからないと思いますが、キレイな法面を仕上げる作業員さんは、われわれにとってリスペクトの対象。構造物を見ているというより、作業員さんの人間性を見ている感じですね」。

半生を法面工事に捧げてきた篠崎さんですが、「法面工事の魅力は?」ときくと、口が重くなります。「法面工事の魅力ですかあ…。う〜ん、難しいですね。地味ですものね」。「捏造でも良いですから」と水を向けても、なかなか言葉が出てこない様子。最終的に「働きやすい、この会社自体が魅力的なので、法面工事を続けています」という少々ズレた回答となりました。ウガッた見方をすれば、法面工事には、実際にやってみなければ分からない魅力があるのかもしれませんね。

法面作業は、経験を積めば「ある程度」できる

サクセス工業株式会社 前田 浩士さん

篠崎さんがリスペクトする法面作業員さんが、前田浩士さん。法面工事30年のベテランです。前田さんに対し開口一番、こんな愚問をぶつけてみました。「法面作業は、現場を踏んで資格を取れば、誰でもできるようになるものですか?」。前田さんは笑顔で「ある程度はできますよ」と答えました。この「ある程度」という言葉のウラに、前田さんの30年間におよぶノウハウが凝縮されているように感じられ、嬉しい気持ちになりました。

前田さんが法面の世界に入ったのは、父親が勤めていた法面緑化の材料を卸す会社で、新たに法面作業チームを作る話が出て、それに誘われたこと。当時は法面について何も知りませんでしたが、同級生と一緒にチームに入りました。「仕事をずっと続けようとか、深く考えていなかったですね」。

初めての法面現場は、体力的にキツイものがありました。特に冬の寒さはツライものでしたが、「仕事がツライ」と感じたことはありませんでした。なんとか頑張れたのは「苦楽をともにできる同級生がいたからじゃないかな。孤独だったら、どうなっていたかわかりませんね」と振り返ります。

ところが、2年が経った頃、心の支えだった同級生が次々辞めていき、6名いたチームは2名になっていました。同級生については「やっぱり、ツラかったみたいですね」と言葉は少なめ。自分については「他の仕事をやってみたいと思ったことはないが、なんとなくモノを作るのが好きで、仕事を続けていた感じ」と振り返ります。気がついたら、30年経っていたという感じのようです。


法面工事のプロは、自分が満足できない仕事はしない

前田さんにとって、印象に残っている現場は、「点取り屋」で有名なあるM現場監督のもとでの法面作業。「Mさんから『点数を取りに行くぞ』と言われ、気合が入った」(前田さん)。この現場には篠崎さんも参加していた。「プレッシャー、良い緊張感があったという意味で、私も印象に残っています」(篠崎さん)。結果は高得点で、知事賞を獲得。以降、前田さんの仕事に対する意識はMさんのお気に入りとなり、Mさんと一緒に仕事をする機会が増えた。

「その仕事で飯を食うということは、プロであるということ。自分も常にプロでありたいと思ってやってきました。私にとってプロとは、自分が満足できない仕事はしないこと。若い頃からそういう感じでずっとやってきましたね」(前田さん)。このプロ意識が、法面の仕上がりの「丁寧さ」につながっているようです。「私が見るのは、山に対するハリの通り具合い。ジーッとは見ません。全体的なカタチをパット見て、違和感があったら、直します」(前田さん)。

サクセス工業株式会社の篠崎敦史さん、前田浩士さん

篠崎さんは、前田さんの作業について、こう話します。「前田さんはとにかく、割付のバランスにすごくこだわります。見る角度などによって、仕上げ方が違ってくるので、その辺も意識しながらやっていく。他の作業員の仕事に対しても、気に入らなかったら、黙って直しています(笑)」(篠崎さん)。役所の工事評定項目には、「出来栄え点」というのがありますが、前田さんの感性で仕上げた現場は、ほとんどが満点だそうです。ところが、前田さん自身は、最近まで「出来栄え点」の存在自体、知らなかったそうです。法面作業に限らず、職人ワザとはそんなものなのかもしれません。

前田さんにとって、法面作業の魅力は「なにもないところに、自分で割り振りを考えて、完成させる喜び」にあるそうです。「完成したモノを眺めているのが、至福のとき」だとも語っています。仕事に喜びを見出すことが、その道で秀でるための第一歩なのかもしれません。

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