なぞるだけで橋梁損傷をCAD図面化できるアプリ。AI橋梁損傷診断システムも開発するオングリットとは?

オングリット株式会社の森川春菜さん(右)と、森川歩さん

なぞるだけで橋梁損傷をCAD図面化できるアプリ。AI橋梁損傷診断システムも開発するオングリットとは?

AI橋梁損傷診断システムも開発 ベンチャー企業オングリット

オングリット株式会社(福岡市中央区)は、アプリ開発などを手がける森川歩さんが中心となって、2018年3月7日に設立されたばかりのベンチャー企業。社長は森川春菜さん。歩さんの妻だ。

起業には、福岡市のスタートアップ支援制度を活用し、旧大名小学校を改修した同市関連施設内にオフィスを構える。

オングリット社のサービスは、画像解析システムによるコンクリート橋梁などの点検、CADアプリによる図面作成・報告書、そして、テレワークによるシングルマザーら就職弱者へのアウトソーシング。独自開発システムとテレワークを組み合わせ、橋梁点検の業務受託などを手がけている。

AIによるコンクリート損傷診断システムも開発中だ。8月から本格的に業務開始しており、すでに建設コンサルタントなどからの仕事が舞い込んでいる。

人手不足に悩む建設業界では近年、「ソリューションビジネス」を掲げ、新規参入する会社は増加傾向にあるが、オングリットはどのようなビジネスチャンスを見出しているのか?彼らのサービスは、建設業界が抱える課題に解決をもたらすのか?

橋梁点検というニッチな分野で挑む、オングリットの戦略について取材した。


「建設業界ならシングルマザーの仕事を生み出せる」と起業

オングリット株式会社 代表取締役  森川春菜さん

「建設業界なら、シングルマザーの仕事を生み出すことができるよ」。

オングリットの起業は、「シングルマザーに仕事がない」ことを心配する春菜さんのなにげない一言に対する、夫・歩さんの返事がきっかけだった。歩さんは「家内の心配事を解決するのがそもそものスタートだった」と振り返る。

橋梁点検を行う会社はすでにいくらでもあるが、人手不足で仕事がオーバーフローしている。歩さんの頭にあったのは、自分が開発した技術を使えば、シングルマザーと橋梁点検業務をマッチングできるというアイデアだった。

オングリット株式会社 取締役本部長 森川歩さん

歩さんはもともと、橋梁メンテンスなどを手がける東京の建設会社で、点検などに必要なツールの開発に従事していた。具体的には、iPhoneのパノラマ機能を利用した構造物の歪み補正アプリ。歪み補正のほか、ヒビ割れや損傷ヶ所も抽出できる代物だ。ヒビ割れ箇所などをなぞるだけで、長さを測れる計測機器なども開発している。

「現場でイヤな思いをしたことが、私の開発の原点。みんなが便利になるものをつくりたい」という思いがある。

「建設業界では、医療業界など異業種ではすでに陳腐化した技術でも、最新技術になる場合がある」と指摘する。


IT&外注による橋梁点検業務の効率化

橋梁点検は建設コンサルタントの仕事だが、実際の点検業務は中小企業が請け負うケースが多い。現地点検と書類作成、写真整理などの内業を1人の担当者が行うケースがほとんどで、深夜に及ぶ長時間労働が常態化している。

現場での点検作業はいまだに、損傷箇所を見つけ、野帳に手書きで記入した後、オフィスでCAD化などの作業を行うのが一般的だ。「実際は現場より内業の方が仕事量が多い。仕事量を時間換算すると、1日16時間働かないと、終わらない計算になる」と言う。人手不足が元凶になっている。

オングリットが提案するのは、IT&アウトソーシングによる橋梁点検業務の効率化。独自開発した画像解析システムによる現場点検の半自動化、クラウドによる点検データの共有、内業のアウトソーシング化を行うことで、人手不足を補う。

オングリットのシステムは、写真までは既存のやり方と同じだが、写真などのデータをクラウドに上げれば、残りの作業からは解放される。つまり、仕事量はほぼ半減する計算になる。

残りの作業は、アウトソーシングする。外注先はシングルマザーなどの就職弱者だ。土木知識もなく、CAD経験もない素人に内業を担当させる。普通はありえない外注先だが、独自開発のCADアプリがそれを可能にする。

歩さんは、全国の橋梁損傷要領をデータベース化した「CADアプリ」を開発。春菜さん協力のもと、経験ゼロでもCAD図面を作成、納品できるものに仕上げた。「アプリ操作は簡単そのもの。線をなぞるだけの作業で、CAD図面にできる」と胸を張る。

歩さんが開発したCADアプリ。画像ををなぞるだけで、橋梁の損傷箇所をCAD図面化できる(写真提供:株式会社オングリット)

アプリをパソコンにダウンロードすれば、全国どこでも作業できるシステムも構築。セキュリティも施した。昨年には、CADアプリで福岡市内の163橋の点検図面を作成。作成したのは留学生。「通常の図面作成よりも高い評価をいただいた」と言う。

この点、橋梁を専門とする建設コンサルタント技術者は「(オングリットのサービスは)現時点では、付加価値や利益率の高いビジネスとは見ていない。ただ、内業に手が回らない点検業者、例えば大手コンサルには救いの手になるはず。これからは技術力のある会社が、大手の受注力のある会社を支える場合が増えていくだろう」などと指摘する。


在宅CADオペレーターなら、シングルマザーが月収27万円

CADオペレーターの時給は4,000円。シングルマザーの時給はその半額以下。オングリットでは、CAD化作業を時給1,720円で外注する。月収換算で27万5,200円になる。在宅で、子供の世話をしながら、専門的な知識を必要としない作業であることを考えれば、「稼げる仕事」だと言える。

リクルーティングに関しては、同じくシングルマザー支援に力を入れる他社と連携。「ウチで働きたいという話はすでに100名単位で来ている」そうだ。シングルマザーに限らず、身体障害者などの就職弱者も積極的にリクルートする考えだ。

春菜さんは「シングルマザーに限らず、働けるのに働けない人がいるのをなんとかしたいと考えていた。仕事をする意思はあるが、未経験という方々に対して、自分たちのテクノロジーによって、土木の仕事をつなぐことができれば、就職弱者の方々の助けになるし、人手不足で困っている土木業界の助けにもなる」と話している。

AIによる橋梁コンクリートの損傷分析システム

歩さんは現在、橋梁の写真を撮るだけで、橋梁のコンクリートのひびわれやそのほかの損傷などを分析判断できるAIを開発中。橋梁の写真を撮って、それをクラウドに上げると、AIが写真を分析判断するシステムだ。

損傷には26種類プラス10種類の項目があるが、これらすべての項目を分析するAIができれば、さらなる業務効率化につながる。

ヒビ割れ、損傷については今年11月、全項目は2019年8月までに開発を完了させる予定だ。

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