左から、国土交通省「政策ベンチャー2030」の事務局を担当した越智企画専門官、メンバーである末久正樹課長補佐、中根達人調整官

ホリエモンにも若手官僚がヒアリング 国交省「政策ベンチャー2030」が描くタブーなき未来とは?

国土交通省の次世代が立案した「政策ベンチャー2030」

2030年頃に国土交通省の“中核”を担う世代の若手官僚が集まり、タブーや経験則を超えた政策を提案する「国土交通省 政策ベンチャー2030」が最終報告書をとりまとめた。その名も「日本を進化させる生存戦略」だ。

「国土交通省 政策ベンチャー2030」は、1000人行脚と称し、ホリエモンこと堀江貴文氏や経営学者のウリケ・シェーデ教授、サイバーダイン社など、様々な分野の識者にもヒアリングを実施。国民との対話を重視し、結論に至るまでの仮説、アイディアをすべてオープンにした。

なぜ、「国土交通省 政策ベンチャー2030」が立ち上がり、大胆な政策の立案に至ったのか?中堅・若手官僚が描いた未来シナリオとはどのようなものか?

「政策ベンチャー2030」のメンバーである国土交通省の越智成基氏(総合政策局政策課企画専門官)、中根達人氏(総合政策局公共事業企画調整課調整官)、末久正樹氏(水管理・国土保全局下水道部流域管理官付課長補佐)の3名に話を聞いた。


「国土交通省 政策ベンチャー2030」を設立した理由

――若手の官僚が中心となった国土交通行政の政策提言「政策ベンチャー2030」の取り組みは極めて異例です。どのような経緯で設立したのでしょう?

越智成基(以下、越智)  私は「政策ベンチャー2030」の事務局を担当しましたので、その立場から説明します。国土交通省は2016年から生産性革命に取り組んでおり、省内に「国土交通省生産性革命本部」を設置しています。「小さなインプットでもできるだけ大きなアウトプットを生み出す」という考え方を基礎に生産性向上に取り組んでいます。

この生産性革命本部の第6回会合の場(2017年8月31日)で石井啓一国土交通大臣から、「中堅・若手による中長期的な国土交通行政のあり方に関する政策議論の場を設置」するよう指示がありました。

――大臣指示ですね、メンバーはどのように選定されましたか?

越智 総合政策局政策課が事務局になり、各関係部局の中堅・若手に募集をかけたところ、募集人数を大きく上回る応募があり、その中から、本省に所属する34名、地方支分部局等に所属する103名がメンバーとして決定されました。コンセプトは「未来の兆しをつかみ、社会と徹底的に対話する、2030年に中核を担う世代の政策立案プロジェクト」です。

2017年10月26日に発足し、“1,000人行脚”と題して170超の識者や団体にヒアリングを実施しました。堀江貴文氏や地方の書店の方からも話を伺いました。石井大臣からは役所の中に閉じこもることなく、是非どんどん外に出て、色々な人の考えも聞いてきてほしいという期待の声がありました。

そして、2018年7月30日に「国土交通省 政策ベンチャー2030」最終報告会を開催し、中堅・若手のナマの政策提言として大臣に説明しました。

「国土交通省 政策ベンチャー2030」の提案は、下記の21施策です。

◎たまっていた「宿題」を片付ける

【戦略的な撤退による地方行政経営の健全化】

1.人口減少を前提とした財政需要モデルに基づく予算・税制の見直し
2.インフラ老朽化の度合や経済データ等のオープン化
3.完全自治に基づくゼロからの規制づくり(ゼロベースエリア)
4.立地の観点を踏まえた住宅・土地税制等のメリハリ化
5.中心部のタワーマンションの円滑な更新等の公的位置づけの明確化

【定住外国人の日本社会への包摂のための受入環境整備】

6.外国人の居住等の場面における規約条件の緩和促進
7.日本語学習等支援の抜本的強化

◎これからの未来を「先取り」する

【「都市交通ビッグバン」への対応】

8.大都市における課税による交通需要制御と公共交通の機能強化
9.都市遊休空間を活用した立体交通拠点(CTS)
10.自動運転の世界に先駆けた普及と効果最大化のための空間整備

【新技術のポテンシャルを最大限に発揮】

11.近未来生活総合実現プロジェクト
12.X-Prize型技術開発によるインフラ維持管理の完全自動化
13.インフラ老朽化対策のための専門技術部隊の直営化・機能強化

【世界と戦える「質の高い集積」の形成】

14.世界と戦える「質の高い集積」の形成

【公共と個のファジー化】

15.デジタル世代の社会参画機会確保による帰郷機運の醸成
16.全ての世代に向けた都市生活コンテンツへの投資の加速
17.ギグエコノミーによる個人の自由な意思に基づく公共貢献

◎「変わり続ける力」を身につける

【挑戦の成功を妄信せず、謙虚に「学習」】

18.キャッチアップ型から失敗を前提とした探索・検証型政策立案へ
19.効果的な危機管理対応のためのアジャイル文化の組み込み
20.実効性を担保したアジャイル組織の創設
21.アジャイルな政策立案を効果的に行うための人材の育成・活用

――最終報告ということは、これでおしまいですか?

越智 これで立ち止まることはなく、新たな政策ベンチャーを立ち上げます。9月下旬に新たなメンバーの募集を開始しました。前回は、中堅・若手がメンバーでしたが、今度は企画官級をメンター(指導役)につけて、更には「政策ベンチャー2030」のメンバーも交えながら、新たなメンバーに政策議論の場を提供したいと考えています。

現場を所管している各課等を巻き込みながら、具体的な政策提言を進めてもらえればと考えております。

衝撃的な「7つの未来シナリオ」

――「政策ベンチャー2030」にはタブーがありません。現役官僚がこれまで踏み込みにくかったテーマにも躊躇せず切り込む大胆さがありました。「未来シナリオ」という提言も示しましたが、こちらは何ですか?

中根達人(以下、中根)  「政策ベンチャー2030」では、具体的なアクションプランを語る前に、「恐らくこういう社会が到来するだろう」もしくは「こういう社会になったらいいな」といった現状や将来に対する認識を述べた「未来シナリオ」を示しました。

【7つの未来シナリオ】

1.「消耗戦による衰退」から「戦略的な撤退」へ
2.「国際観光による外国人との交流促進」から「定住外国人増加への備え」へ
3.「“絶対安全”信仰」から「脱“絶対安全”」へ
4.「デジタルな孤立」から「デジタルによる連帯」へ
5.「(不完全な)見えざる手」から「技術による全体最適」へ
6.「組織における肩書き」から「個人としての信用」へ
7.「後追いの政策」から「アジャイル開発する政策」へ


――7つの未来シナリオはいずれも衝撃的な予測です。政策ベンチャー2030の施策に触れる前に、未来シナリオについて、現役官僚の口から語っていただければ。まずは未来シナリオ①から。

未来シナリオ①「消耗戦による衰退」から「戦略的な撤退」へ

これから本格的に進む人口減少社会に対して、楽観主義的な立場にはたたず、何も手立てを講じなかった場合に想定される厳しい社会変容を正面から捉え、国土構造の転換やインフラの投資の選択・集中をより先鋭化させていくことが必要ではないか。

現在、地域活性化等の名の下に全国で展開されているものには、経営見通しが甘いインフラ・事業投資や非効率な公共サービス、限られた資源を無秩序に奪い合うような規制なき人口増加施策、近接都市による単独かつ各々の観光誘致等が多く、これはまさに各都市が「消耗品」を繰り広げている状況であるという問題意識を持っている。

この状態ではそれぞれの都市だけではなく、国家全体として衰退していく危険性もあり、日本全体で賢く成長していくためにも国としても覚悟を決めた政策が必要であり、そのためともすればネガティブなフレーズとしてタブー視されてきた「撤退」という手段を用いて、戦略性を持って機能集約を進め、インフラ投資を今以上にメリハリを効かせていくことも考えなければいけないのではないか。

中根 日本の人口は現在、約1億2,700万人です。2050年頃には約1億人、2060年頃には9,000万人を下回ってしまうと予測されています。「国土構造の転換」や「インフラ投資の選択・集中」を先鋭化していくことが必要ではないかと思います。一見、地方の切り捨てのように見えますが、そうではなく、真に必要な公共サービスやインフラに投資をして、成長可能な地域を支えていこうという我々の「覚悟」を示したものです。

――未来シナリオ②は、定住外国人の存在を意識していますね。移民の議論ともリンクしますが。

未来シナリオ②「国際観光による外国人との交流促進」から「定住外国人増加への備え」へ

2018年現在、在留外国人が250万人に達し、東京23区の新成人のうち、8人に1人が外国人であったという報道がなされているなど、日本では訪日外国人が増加し続けているだけではなく、定住を希望する外国人も増え続けている。この状況を踏まえ、移民を受け入れる、受け入れないといった議論を超えて、仮にこれからも定住外国人が増加し続けたときに、政府、そして日本社会としてどのような備えが必要なのか、本格的に検討しなければならないのではないか。

中根 政府は年間の訪日外国人旅行者の目標として、2020年に4,000万人、2030年に6,000万人を掲げており、訪日外国人旅行者が増加し続けています。今後は、訪日外国人旅行者だけでなく、日本に定住を希望する外国人の増加にも備えておく必要があります。今のうちから移民を受け入れる、受け入れないといった議論を超えて、仮に日本に定住する外国人が増え続けた時にどのような備えが必要なのかを考えておくべきではないでしょうか。

――未来シナリオ③はリスク社会を生き抜くことを明記しています。

未来シナリオ③「”絶対安全”信仰」から「脱”絶対安全”」へ

近年の様々な災害などによって、絶対安全・ゼロリスクというものが難しい、という認識は徐々に広まりつつある。一方で、自動運転やドローンといった技術の進展により、飛躍的な利便性と引き替えに、これまでとはまったく異なるタイプのリスクも出てきている。

今後は、事前にリスクを網羅的に把握することで絶対安全・ゼロリスクを目指す、という考え方を脱し、想定しきれないリスクやゼロにすることはできない(ゼロにするにはコストがあまり見合わない)リスクとどう付き合っていくか、ということを政策決定者から市民まで幅広い立場の人々がそれぞれ向き合い、考えていくという時代になっていくのではないか。

中根 「”絶対安全”信仰」から「脱”絶対安全”」という未来シナリオです。これは近年の様々な災害の発生状況を踏まえると、絶対安全・ゼロリスクの社会というのは難しいのではないかということが念頭にあります。一方で、自動運転やドローンといった新しい技術の進展と共に、これまでと異なるタイプのリスクも登場しつつあります。今後は、絶対安全・ゼロリスクを目指すという考え方を脱し、リスクとうまく付き合いつつ、新しい技術を受容していく時代になるのではないでしょうか。

――技術革新を手段として社会構造を進化させるという未来シナリオは大胆さがあります。

未来シナリオ④「デジタルな孤立」から「デジタルによる連帯」へ
近年のデジタル技術やネット空間の急速な発達で、便利さと引き替えにリアルなコミュニケーションが失われ、人々の孤立感がより、一層深まっているのではないか、と言われている。これらに対し、先進技術を「人の意思のもと、使いこなす」ことで、もう一度「人間らしさ」「人と人の直接的なふれあい、にぎわい」を取戻し、「外出したくなる社会」を目指していくべきではないか。

中根 インターネット、スマートフォンなどのデジタル技術が進歩すると、リアルなコミュニケーションが失われ、人々の孤立感が深まるのではないかという意見があります。しかし、我々の未来シナリオは、デジタル技術を上手に使いこなすことで人間らしさや人間同士の賑わいを回復しよう、連帯を深めていく社会を目指そうという提案です。


行政はPLANに時間をかけてDOに移れない

――次に興味深いのは古典派経済学からの脱却を提起した未来シナリオ⑤です。

未来シナリオ⑤「(不完全な)見えざる手」から「技術による全体最適」へ

「見えざる手」は、市場が十全に機能すれば全体最適が実現されるという経済学の基本定理を表現している。しかし、市場は現実の経済において、学問で理想化されているほどうまく機能していないことは周知のとおりである。

一方で、AI、スマートフォン、GPS等の近年の科学技術の進展を踏まえれば、精緻なプライシングや中央制御による財・サービスの配分計画を補完的に用いることによって社会の全体最適の実現に近づくことができる余地が、急激に拡大しているのではないか。

このため、交通や不動産など、国土交通省が、一定程度、市場のコントロールを担っている分野において、技術を生かすことによって、市場のパフォーマンスを上げていく政策が求められる。

中根 「見えざる手」は、市場が十全に機能すれば全体最適が実現できるという経済学の基本定理ですが、現実社会はそれほど理想通りには機能していません。

一方で、AI(人工知能)、ICT、スマートフォンなどの技術の進展を踏まえれば、そういった技術を使いこなすことで「社会の全体最適」の実現に近づける余地がより拡がってくるのではないでしょうか。建設、交通、不動産など、国土交通省がある程度市場のコントロールを担っている分野において、新しい技術を使って全体最適を目指せば、より良い地域や社会ができあがるのではないでしょうか。

――次は未来シナリオ⑥ですが。

未来シナリオ⑥「組織による肩書き」から「個人としての信用」へ

シェアリングサービスの利用者増加をはじめとして、個人の信用がプラットフォーム上で可視化される機会がますます増えていく中で、今後は、個人の資源を、組織を経由せずとも他者に直接提供できる社会に変わっていく。

この個人同士の資源のやりとりに、国も一主体として参加し、例えば、個人の遊休資源や余剰時間を活用する仕組みが考えられるのではないか。

中根 これからの社会は、多様な個人の生き方を支え、それを社会に活かす仕組みが求められるようになると思います。 キーワードは「個人としての信用」です。これまでは名刺交換すると「国土交通省の中根さん」「A建設のXさん」という会社や組織で信用を得てきました。

人生100年時代を迎えるにあたり、国土交通省やA建設を退職した後の人生を、どうデザインしていくかも大切になってきます。個々人が信用されないと、次のステージに進めない可能性もあります。今後、副業も増えていく中で、個人の能力や資源を、組織を経由せずとも社会に上手に活かす仕組みが必要になるのではないでしょうか。

――最後の未来シナリオ⑦では、行政のあり方自体に言及していますね。

未来シナリオ⑦「後追いの政策」から「アジャイル開発する政策」へ

世の中が大きく、激しく変化していく中、行政がそれを先取りできるようになるには、私たちの仕事の仕方をアジャイル(俊敏)にしていかなければならない。

PDCAサイクルにおけるPlanにこだわる余り、Do、すなわち実行に進まず、いわゆるPDCAが回り出していないという場面があるのではないか。

これを解決すべく、PDCAサイクルをまずDoから始まる、DCAPサイクルということを業務プロセスとして仕組み化することで、世の中の変化に対応できる行政にしていかないといけないのではないか。

中根 「後追いの政策」から「アジャイル開発する政策」へと行政の思考の変化に言及しました。アジャイルは“俊敏”という意味です。行政は政策の失敗を恐れ、PDCAサイクルでいう「Plan」の部分にこだわってしまう余り、Do、すなわち実行になかなか進むことができず、その結果「後追いの政策」になりがちです。

そこで、PDCAサイクルをまずは「Do」から始めてみる、Planを一部でも実行に移し、評価・改善を繰り返すことによって、変化に対応できる行政にしていくべきだと提案しました。

国土交通省「政策ベンチャー2030」のインフラ老朽化施策

――では、いよいよ「政策ベンチャー2030」の具体的な政策についてですが、インフラの老朽化の問題に焦点を当ててお聞きしたいです。

中根 まずはインフラの老朽化に関するデータとして、建設してから50年以上が経過するインフラの割合をご紹介したいと思います。

道路橋約40万橋のうち、建設50年が経過したのは、2017年12月時点で約23%ですが、2033年3月には約61%に達します。建設年度が不明の約30万橋については、割合の算出から除いています。

トンネル約1万本については、2017年12月時点で約19%が50年を経過していますが、2033年3月時点では約41%になります。こちらも建設年度が不明なトンネルは割合算出から除いています。

建設後50年が経過する社会資本の割合(国土交通省)

水門などの河川管理施設約1万施設については、2017年12月時点では約30%、2033年3月時点では約64%になります。

総延長約45万㎞の下水道管きょについては、2017年12月時点では約3%、2033年3月時点では約24%になる見込みです。

このように、高度成長期以降に整備されたインフラが今後一斉に老朽化することが見込まれています。一斉に老朽化していくインフラをどう計画的に維持管理・更新するかが課題です。

みなさんの中には、老朽化していくインフラの多くを国土交通省が管理していると思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、地方公共団体が管理しているインフラが多いんです。中でも、市区町村が管理しているインフラが多く、例えば、橋梁の68%は、市区町村が管理しています。

――市町村の土木技術職員を増やす必要があるのでは?

中根 インフラのメンテナンスを担う技術者の確保・育成は重要な課題です。全国の市町村の職員数の推移を見てみると、全体の職員数は平成8年度から平成27年度の間に約20%減少しているのに対し、土木部門の職員数は平成8年度の約12万5千人をピークに減り続け、平成27年度は約9万人と3割近く少なくなっています。

市町村における土木・建築部門系職員数の推移(国土交通省) 

技術系職員が1人もいないという市町村は約3割に及びます。市町村によっては、「技術者がいなくて困っている」という声も聞こえてきます。


――インフラの長寿命化に向けた取り組みの現状はどうでしょうか。

中根 国土交通省では、管理・所管するインフラの維持管理・更新を着実に推進するための中長期的な取り組の方向性を明らかにする計画として、「国土交通省インフラ長寿命化計画」を策定しています。現在、この計画に基づき、各施設の管理者が点検・修繕などを行っています。また、個別施設ごとの具体的な対策方針を定める「個別施設計画」の策定を行うなど、計画的な維持管理・更新に取り組んでいるところです。

――効率的な維持管理はどうあるべきでしょうか。

中根 効率的な維持管理・更新に向けて、新技術の開発と社会への実装をより加速していく必要があると思います。インフラの点検については、人による目視に頼っている部分が多いのですが、技術者不足などの問題に対応するため、例えば、水中点検ロボットや橋梁点検ロボットなど新技術の導入に向けた取り組みを進めているところです。

将来的には、人による点検をロボットに代替できる技術が出てくることを期待していますが、現状ではなかなか難しい状況です。まずは、人による点検を支援したり、診断を支援したりできる技術の開発・導入に向けた取り組みをしっかり進める段階かなと思っています。

また、住宅、都市公園などの施設の集約・複合化、浜松市の下水道コンセンションのように民間の資金・ノウハウを活用するPPP/PFIを推進しています。さらに、維持管理の情報を蓄積していくことも大事です。

――インフラメンテンスは国土交通省だけではなく、もはや国民全体の取り組みですね。 「インフラメンテナンス会議」も設置されたとお聞きしました。

中根 冒頭、越智さんから説明があった「生産性革命プロジェクト」の一つとして「インフラメンテナンス革命」があります。インフラの老朽化が急速に進み、メンテナンス費用が増大する一方、技術者等の担い手不足などが懸念されています。

こういった課題については、インフラの管理者である国土交通省、都道府県といった行政だけではなく、民間企業や大学などの研究機関等と連携し解決していかなければなりません。そのため、産官学民の技術と知恵を総動員するプラットフォームとして「インフラメンテナンス国民会議」が設立されました。例えば、革新的な技術を現場で試行したり、自治体同士で課題やニーズを共有したりしています。

インフラメンテナンス国民会議の設立と、インフラメンテナンス大賞の創設(国土交通省)

この国民会議にはゼネコンなどの建設業界の企業だけでなく、ICT、ベンチャー、保険、素材やロボットなど多様な産業分野の企業にも参画いただいています。また、北海道から沖縄まで全国10ブロックで地方フォーラムも設立し、ピッチイベントなどの取組も行われています。

さらに、メンテナンスの理念の普及や、ベストプラクティスの幅広い横展開を図るため、国内の優れた取組や技術開発を表彰する「インフラメンテナンス大賞」を創設しました。ちょうど今、第3回インフラメンテナンス大賞を公募中で、応募期間は12月14日までです。

こういったインフラ老朽化を取り巻く課題や取り組みを踏まえた上で、ベンチャーとして提案を行いました。

インフラクライシスに対応するための目標達成型技術開発スキーム

――インフラ老朽化という「宿題」をかたづける具体的な施策は?

中根 人口減少などを踏まえると、すべてのインフラを現状レベルで維持することは難しい時代になるおそれがあります。将来、地方公共団体が必要な行政サービスやインフラを選択するためには、その意思決定にかかわるデータが必要になってきます。

そのため、国がインフラ老朽化の度合いや公共サービスに関する経済データをオープンにして、適切なインフラの再配置や廃止、新たな活用方法を効率的に検討するため、インフラの再配置・効率化のモデルを構築することを提案しています。

インフラ老朽化の度合や経済データ等のオープン化(国土交通省)

人口や維持管理費のデータを見て、「廃止するインフラ」として選定することもあるでしょう。その際は、廃止するインフラやその周辺区域をどう活用するかも合わせて考える必要があります。例えば、背後地が無人になった河川周辺区域を、氾濫原として利用したり、海外セレブ向けのグランピングエリアなど賑わいのある空間として活用することもあり得るのではないでしょうか。


――老朽化に伴う事故等の増加も懸念されています。

末久正樹(以下、末久) 例えば私が担当している下水道の場合、老朽化管きょは20年後には、現在の約10倍に増加する見込みであり、対策が必要な施設は今後も加速度的に増えていきます。将来のインフラクライシスを回避するためには、今から必要な対策をとっていく必要があります。

現在、下水道管路の異常のチェックには、走行型のTVカメラが用いられていますが、一日に調査できる距離にも限りがあり、コストなどの課題も抱えています。このため、中根さんの話にもあったとおり、ロボット技術などを活用し、維持管理の高度化を図っていく必要がありますが、従来の下水道業界、建設業界だけではイノベーションが起きにくい部分もあるのではないかと思っています。

一方で、今回のベンチャーでヒアリングさせていただいたサイバーダイン社をはじめ、日本には優れた技術を有するベンチャー企業がたくさんあります。こういったベンチャー企業が私たちの業界に関心を持ってもらい、技術開発などに参加していただければ、建設業界、下水道業界は今よりもっと活性化するのではないかと思います。このような観点から21の施策の一つとして「X-Prize型技術開発」という目標達成型の調達・投資制度による技術開発スキームを提案しています。

X-Prize型技術開発によるインフラ維持管理の完全自動化(国土交通省)

――国交省職員が目標達成型での報酬の支払いを考えていること自体、大変新鮮です。

末久 契約制度にも関わるので、その辺は十分詰めていく必要がありますが、このような技術開発スキームはアメリカではすでにロケット分野などで実績があります。

今回の報告書では、ロボット技術を活用した下水道、高層建築、橋梁、鉄道、高速道路などの維持管理の完全自動化という、かなり高めの目標についても言及しています。

1年や2年での実用化はさすがに難しいでしょうが、10年後20年後の大老朽化時代を見据えて、国が将来ビジョンを示し、先導していくことには大きな意味があるのではないかと思います。


メンテナンス支援センターの配置

――新技術のポテンシャルを最大限に発揮するにはどうすべきでしょう?

中根 小規模な地方公共団体では、老朽化対策に関する専門的な技術職員の確保が難しい状況です。そのため、地域のメンテナンスを一手に引き受ける「メンテナンス支援センター」を各地方に配置してはどうかという提案です。

メンテナンス支援センターの配置(国土交通省)

インフラメンテナンスに関する新技術にはドローン、ロボット、3次元データ解析などがありますが、小規模な地方公共団体が単独でこういった技術を取り入れるのは、予算面からも人材面からも難しいといった指摘があります。そこで、地方公共団体が利用可能なセンターを、例えば地方整備局ごとに配置し、メンテナンス業務を支援したり、代行したりする提案です。必要な費用については一部、地方公共団体から負担していただくことを想定しています。

また、個人的には、地方公共団体の職員の方がセンターの職員として人事交流する仕組みもあってもいいのかなと考えています。職員の技術力向上にも繋がります。

――今、都道府県で「道路メンテナンス会議」などがありますが、その発展系でしょうか。

中根 本格的なメンテナンス時代に向けて、個別の分野に限らず、メンテナンスに関する分野横断的な知識・技術が求められるようになると思います。

「メンテナンス支援センター」ができれば、様々なインフラに関する膨大なデータも集まってきます。その中で、付加価値を生むデータをオープン化し、企業や研究機関の方に使っていただける環境を整えることができれば、国や地域の経済成長にもつながると思います。

広域的な業務を担うセンターができれば、技術開発や社会実装のさらなる促進やメンテナンス産業の活性化につながるのではないでしょうか。智恵と技術を総動員するセンターができたら、面白いかなと思います。

石井啓一国土交通大臣は、何を語ったのか?

――ありがとうございます。施策はすべて21項目の提案がなされました。今回はインフラ老朽化に絞ってうかがいました。石井啓一大臣からはどのようなお話がありましたか。

越智成基(以下、越智氏) 石井大臣からは、「変わり続ける姿勢」が政策立案では必要であり、色々な立場の方と意見交換して議論を進めたことは大変意義深いことだという話がありました。石井大臣の思いは「徹底的に対話する」ことにありました。政策立案過程では、様々な声が寄せられ、中には厳しい反応もあります。「政策ベンチャー2030」メンバーとって、今回の経験が、将来、政策立案の中心となって活躍する際に生きると石井大臣は考えております。

当時の技監だった森昌文事務次官は、「本来業務に上乗せして、大いに議論していただいたことに感謝。たくさんの方々との意見交換をを通じて、多くの刺激が得られたのではないか。今回の提案をいかに具体化させていくのかがポイントだ。この取組みを後輩につなげてほしい」という旨のコメントがありました。「政策ベンチャー2030」はいったんの区切りを迎えましたがが、その後もメンバーの一員として省外の方々との対話、業界での講演などを行い、まだまだベンチャーとしての活動は続いています。

中根 石井大臣からは「タブーなき議論を」言われたことが印象的でした。ほかの幹部からは、「国土交通省の強みは現場力があることだ。現場力を生かして、具体的な施策を考えて欲しい」とか、「国としてすべきことは何か、逆に、国としてすべきではないことは何かを考えて欲しい」という趣旨の話をいただきました。


「静観することは罪深い行為」政策ベンチャー2030

――次の政策ベンチャーどうなりますか。

越智 私は事務局としてかかわっていくと思います。次のメンバーと、具体的な施策等の検討していくことになりますが、詳細はこれからです。

――自由な発想を得るためにも、本当に「働き方改革」が必要なのは霞ヶ関では?

中根 徐々に「ワークライフバランス」も浸透してきていると思います。私も子どもが生まれ、育児のために1ヶ月休めましたし、フレックスタイム制度についても、原則全職員が取得できるよう拡充されています。

越智 私の近場には、テレワークを実施している管理職もいます。

――ベンチャーに参加して、どのように総括しますか?

中根 日頃、同世代で部局を越えて議論することは少ないので、お互い顔を合わせて省内の課題や将来像を見据えながら議論できたのは大きな財産です。

末久 報告書をまとめただけで終わりではあまり意味がない。今回提案した施策を如何に具体化していくかが重要です。これからも何らかのカタチでかかわっていけたらいいですね。

越智 いろんな人と意見交換することが大切です。政策課でも、有識者と国土交通行政をどうしていくべきか意見交換をしています。政策をどうしていくかを日々考え続けることが大事だと考えております。

――ありがとうございました。

日本を進化させる生存戦略

国土交通省が「政策ベンチャー2030」の中で描いた未来シナリオは、恐らく省内ではタブー視するものが多かったと想像できる。しかし、柔軟に議論を交わし、最終報告書「日本を進化させる生存戦略」まで策定できたことは、大きな意味を持つ。

最終報告書の中では「超高齢化、急激な人口減少による誰も経験したことがない未知の世界に突入する状況において、現役世代である私たちが”何もせずに静観する”ことは罪深い行為であると感じています」とメンバーはその正直な思いを吐露している。

ピックアップコメント

物凄く良記事>現役世代である私たちが”何もせずに静観する”ことは罪深い行為であると感じていますこの業界に携わっている身として非常に耳が痛い

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