コンクリート技士・コンクリート主任技士 試験対策6

コンクリートの練り水にも向き不向きがある

日本の水はほとんどが「軟水」なのに対し、欧米の水には「硬水」が多い。カルシウム・マグネシウムを多く含む「硬水」に対して、ミネラルをあまり含まない水のことを「軟水」という。

軟水・硬水、どちらにも一長一短があるのだが、日本人の身体には「軟水」が向いている。

さて、コンクリートに使われる練り水にも、向き不向きがあるのを知っているだろうか。今回はそんな「水」のお話。


回収水が生コンプラントの命運を分ける

コンクリートの練り混ぜ水は、大きく分けて次の3種類に分類される。

  • 上水道水
  • 上水道水以外の水
  • 回収水

上水道水とはいわゆる水道から出る水。我々も日常的に使用・飲用している水で、コンクリートを練る際、無条件に使用することが可能だ。

「上水道水以外の水」とは、極端な話、「上水道水」「回収水」以外のすべての水を指す。具体的にいうと、「河川水」「湖沼水」「地下水」「工業用水」「海水」などのこと。

そして、生コン製造と切っても切り離せない、重要な要素を持つのが「回収水」だ。

生コンプラントでは、毎日プラント設備やミキサー車を洗っている。それらはセメント・コンクリートを洗い流す必要があるので、大量に排水され、アルカリ度数も高い。

この「回収水」を如何に活用できるかが、生コンプラントの命運を分けるといっても過言ではないだろう。

練り混ぜ水の品質規定は5項目

まずは「上水道水以外の水」を見ていこう。

「上水道水」の使用に規制がないことは先ほど伝えた。人が飲める水は、コンクリートにも悪い影響は及ぼさないということだ。実験など精密な効果を測定したい時などは、上水道水だけでコンクリートを練ることが推奨される。

「河川水」を思い描いてほしい。家庭排水からの洗剤や、工場排水の薬品が混入している可能性は否定できない。河口付近では、海水の混入も無視できない要因だ。

「地下水」もどこを通るかによって含まれる成分が異なるうえ、実際に地中の経路は全くわからない。

さて、「上水道」が浄水場で水質管理されているのに対し、実は「上水道水以外の水」には管理基準がない。基準がなければ何でもあり、になってしまうのが世の常。そんな理由から、コンクリート練り混ぜ水に関しては、JISにより「品質規定」が設けられている。(土木学会においても同様の品質規定あり)

以下に紹介する5項目。これはしっかりと覚えてほしい。

「上下水道水以外の水」品質規定

品質が規定されている項目を簡単に説明しよう。

  • 「懸濁物質の量」とは、ろ紙で濾した時に残る物質の量のこと。
  • 「溶解性蒸発残留物の量」とは、蒸発させて残った物質の量。
  • 「セメント凝結時間の差」「モルタル圧縮強さの比」とは、その水で練った試験結果と、「上水道」で練った試験結果を比較した数値を表している。

「塩化物イオン量」という言葉が出てきたので、追記しておこう。

一般に、鉄筋の入っているコンクリートの練り混ぜ水に「海水」を用いてはならない。そんなことをしたら、鉄筋が錆びてしまうのは想像に難くないだろう。

しかし、それがもし「無筋コンクリート」であれば、海水を用いて練ることができるのだ。鉄筋の腐食を気にする必要がないためであるが、その副作用もしっかりと考慮しておきたい。長期強度の増進低下、耐久性の低下、エフロレッセンスの出現などの可能性を、併せて覚えておこう。


「回収水」は、上澄水とスラッジ水に分けられる

ところで、生コンプラントに入ったことがあるだろうか?

プラント塔屋・ベルトコンベヤー・骨材ヤードなどなど、おなじみの地上構造物につい目が向かってしまうが、敷地をよく見ると、あちこちにプール(水溜め)があることに気が付くはずだ。日々、生コンを練っては洗うを繰返す。練れば練るだけ洗浄水も発生するのが、生コンプラントの宿命である。

これらの水を総称して「回収水」という。「回収水」にもいろいろな処理方法があるが、ここでは、再びコンクリートの練り水として活用される水について触れよう。

「回収水」を定義すると、「レディーミクストコンクリート工場の運搬車やミキサなどの洗い排水から、骨材を除いた水のこと」をいい、以下の2つに分けられる。

  • 「上澄水」・・・セメントから溶出する水酸化カルシウム等を含むアルカリ性の高い水
  • 「スラッジ水」・・・スラッジ固形分(水和生成物・骨材微粒子)を含む水

さて、「上水道水以外の水」と同様、「回収水」にも品質規定がある。以下3項目であるが、先ほどの数値と変わらないので、一緒に覚えてしまおう。

  • 塩化物イオン(Cl-)量 200ppm以下
  • セメント凝結時間の差 始発は30分以内、終結は60分以内
  • モルタル圧縮強さの比 材齢7日および材齢28日で90%以上

品質試験は12か月に1回以上行わなければならない。検査の試料作製に際して、「スラッジ水の濃度を5.9%に調整したものを使用する」ことまで覚えていれば完璧だ。

スラッジ水を使用するとどうなる?

「回収水」の中でも「上澄水」に関しては、練り混ぜ水として上水と同様に使用してよい、と言われている。ただしここで注意することがひとつある。

回収水全般に関してだが、構造物の計画共用期間が「長期」「超長期」および「高強度コンクリート」には使用してはならない。

それは何故か?

「回収水」には、セメントや骨材の残りカス(スラッジ固形分)が含まれていて、その成分が、新しく練り混ぜるコンクリートに対して少なからず影響を及ぼすからだ。

実は、スラッジ水を使用する場合、「スラッジ固形分率は3%を超えてはならない」と上限が規定されている。この3%が何に対しての割合かをしっかりと覚えてほしい。

生コン「1m3当りに対しての3%」ではなく、その配合の「単位セメント量に対しての3%」である。逆にスラッジ固形分率が1%未満ならば、上澄水と同様にそのまま使って構わない。

では最後に、スラッジ水を使用して練ったコンクリートには、どのような注意点が必要になるかを見ていこう。いつも通り、すべてが連関していることに注目してほしい。

スラッジ固形分とは、いわば微粒分である。微粒分が増えると単位水量が増える。単位水量が増えると、単位セメント量も増える。微粒分が増えると、吸着されて空気量も減少しやすい。微粒分が増える分、細骨材量を減らして帳尻を合わせる。

具体的な数値でいうと、

  • スラッジ固形分率1%につき、単位水量・単位セメント量をそれぞれ1~1.5%増す。
  • 細骨材率は、スラッジ固形分1%につき、約0.5%減らす。
  • 空気量が減少する傾向にあるので、AE剤などの量を調整する。


高強度コンクリートには「上水道」、非構造物には「回収水」

さて、冒頭の話に戻ろう。水の硬度は1ℓ中のカルシウム・マグネシウム量を基準に算出される。WHO(世界保健機構)では、その総量120㎎/ℓを境に軟水、硬水と定義して分類されている。

その使い分け、実際の活用例も紹介しておこう。

  • 和食を作る際には軟水を用いると味がよく染み込む
  • 肉の煮込みやパスタをゆでる際には硬水が向いている
  • 軟水は内臓への負担も少なく、赤ちゃんへのミルクにも適している、などなど。

では、お米を炊くときにはどちらが適しているのだろうか。

実は、ふっくらと炊き上げるのには軟水が適しているのに対し、パラっとした仕上がり、チャーハンやパエリアなどには硬水で炊くのが良いとされている。

含まれるミネラルが食材の細胞レベルにまで作用するそうだ。仕上がりにこだわる料理人は、ひそかにこうした工夫も行っている。

さて、そんな水の使い分けが、生コンプラントでも行われていることを知っていただろうか?

高強度コンクリートには「上水道」を使い、捨てコンや均しコン、裏込めなど非構造物には「回収水」を使う。

使われる用途次第で水を使い分ける。生コンプラントにとっても、資源リサイクル、公害防止などにつながる重要な活動の一環でもある。そんな取り組みをしていることを、ちょっとだけでも知ってもらえるとありがたい。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
生コン工場が抱える「コンクリートスラッジ」問題とは?
生コン業界を困らせる「戻りコン」「残コン」の行方とは?
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
コンクリート温度は「35℃」を超えても問題ない?「38℃」までOK?
土木で「生コン標準スランプ」が8cmから12cmへ。スランプ規定見直しの背景
コンクリートの施工不良を救う「打ち肌の色合わせ補修」とは?
コンクリート技士100%、コンクリート主任技士90%の合格を目指す講習「GNN(元気な生コンネットワーク)アカデミー」の内容を再構成し、過去問だけでは得られない体系的なコンクリートの知識と学習方法を紹介します。講師は、株式会社JICの代表取締役・森政伸氏。
モバイルバージョンを終了