全国土木施工管理技士会連合会
一般社団法人全国土木施工管理技士会連合会は、土木施工管理技士の技術力と社会的地位などの向上を目的とした団体。建設大臣から認可を受けて以来、約27年の歴史がある。全国には50の技士会があり、それらを束ねる役割を担っている。また2000年には他の建設系の学会や協会に先駆けて、CPD(継続学習制度)を導入した。
全国土木施工管理技士会連合会によるCPDは、「CPDS」と呼ばれ、公共工事を受注する際、総合評価方式の技術者評価項目として工事成績評点が加点される。そのため、建設会社は自社の土木技術者たちにCPDS講習会を受けるように促している。
土木施工管理技士の継続学習制度、CPDとCPDSの違いは何か?CPDSと土木施工管理技士の制度上の課題は何か?工事成績評点の関係性も含め、全国土木施工管理技士会連合会の専務理事である小林正典氏に話を聞いてきた。
全国土木施工管理技士会連合会の沿革
――全国土木施工管理技士会連合会の概略と沿革は?
連合会 各都道府県の土木施工管理技士会と、橋梁建設・塗装・現場技術に特化した技士会など、計50の技士会で構成された連合体です。
1974年に土木技術者の有資格者のための資料を配付する「資料頒布会」という組織が創設されました。1976年には全国に先駆けて「静岡県土木施工管理技士会」が創設され、その後、各都道府県に同様の技士会が誕生しました。技士会で最も歴史の古いのは静岡県と和歌山県で、40周年を迎えています。
そして1980年に任意団体である「全国土木施工管理技士会」が創設されて、1992年2月27日に社団法人として建設大臣より認可を受けました。これが全国土木施工管理技士会連合会の母体で、約27年の歴史があります。初代会長は増岡康司氏、現在は国土交通省元事務次官の谷口博昭氏が6代目会長を務めています。
――現在の会員数と入会資格は?
連合会 50の技士会の会員を全国で合計すると約11万人です。日本建設業連合会や全国建設業協会の会員は会社単位ですが、連合会は土木技術者個人の集まりです。
入会資格は、各技士会の自主性に任せ、1級・2級土木施工管理技士の資格者でなければ認めないところもあれば、施工管理技士の資格が無くても土木の技術者であれば認めるところもあり、必ずしも全員が土木施工管理技士の有資格者ということではありません。
全国土木施工管理技士会連合会の役割
――主な事業内容は?
連合会 次の6点が大きな柱です。
1. 土木施工管理技士の技術力及び社会的地位の向上
2. 土木施工管理技士に関する制度の普及、表彰、情報収集及び調査研究
3. 施工と施工管理の技術等に関する継続学習制度の運営、講習会の実施及び図書の刊行
4. 工事の安全・品質及び効率の向上に関する調査研究
5. 上記1~4に関する発注者との意見交換、施策の提言、業務の受託、国際交流、正会員である土木施工管理技士会の活動の促進
6. その他本会の目的を達成するために必要な事業
――具体的にはどのような活動をされているのでしょうか?
連合会 目的は、土木技術者の地位と技術力の向上にあります。技術力の向上で言えば、さまざまな講習会、各種セミナーを実施しています。連合会単体で実施するのではなく、全国に点在している技士会と共催で行っています。
講習会の内容は、会員の声のニーズに沿った内容をテーマにしています。具体的には「維持管理」「現場の失敗」など毎年内容を変えて実施していて、CPDSへの登録希望者には自動的に学習履歴として登録し、その証明を行っています。ほかには会員が応募した「土木施工管理技術論文」を報告集としてまとめています。
土木施工管理技士のCPDとCPDSの違い
――通常、継続学習制度はCPDと称していますが、連合会ではCPDSとしています。CPDとCPDSの違いは何ですか?
連合会 「CPDとCPDSはどこが違うのか」という質問は大変多く寄せられます。全国土木施工管理技士会連合会は2000年に、他の建設系学会・協会に先駆けて、いち早くCPD(継続学習制度)を導入しました。CPDを一般名詞だとすれば、CPDSはCPDにSystemのSを付けた全国土木施工管理技士会連合会独自の固有名詞です。商標登録もしています。その違いです。
CPDSは土木施工管理技士などの加入者が講習会などで技術力向上に資する学習をした場合、その学習の記録を登録し、必要な時に学習履歴証明書を発行するシステムです。国土交通省や地方自治体をはじめとする発注者は、技術力を適切に評価する指標としても、CPDSを有効であると考えており、総合評価方式での技術者評価項目で加点しています。
全国土木施工管理技士会連合会の会員とは別に、CPDS会員もおりますが、それは技士会に加盟しなくても入会できます。CPDS会員数はおよそ16万人です。うち6割が技士会会員、4割がそれ以外の会員です。
ちなみに、技士会以外の他団体が行う講習会でも連合会がCPDSを認定・登録することも実施しています。
CPDS認定講習会の内容の線引き
――地方の技士会と全国連合会の役割の違いは?
連合会 技士会が行う講習会では地方技士会が設営・受付などの実務を担当し、連合会は講師の選定・派遣業務を行っています。講習の内容も限られていますが、なるべく地方技士会の自主性に任せています。また、技士会以外の団体が連合会にCPDS認定の事前申請をすれば、連合会が認定・登録し、記録・証明を行っています。
――継続学習制度でこれは認めるが、これは認めないという、講習内容の線引きはありますか?
連合会 施工管理において役に立つかどうかが大きなポイントです。過去にさまざまな経緯があったのですが、CPDSとして認定するのは、土木施工管理技士にとって現場で必要な技術に特化することに決めました。ほかの団体は幅広く認定し、推奨単位も50ユニットのところが多いのに対し、連合会は認定範囲が限られていることから推奨単位を20ユニットとしています。
たとえば、計画論に関する講習会は長年、施工管理と関係ないということでCPDS講習会として認めていませんでした。これに対して「なぜ認めないのか」という反発もありましたので、技術委員会の審議でCPDS講習会として認めることになりました。
土木施工管理技士の資質向上も連合会にとってのテーマですから、その観点から方向転換したということです。その代わり、施工管理と直接関係ない講習は取得上限ユニット数を設けることとし、年間6ユニットまでとしています。来年度から計画論に関する講習会など幅広い知識もユニットは限定されますが、CPDS認定講習会として認められます。
このほか暴力団対策関係講習など幅広い継続学習も認定することになります。世の中の流れとして現場管理技術者も技術力が優れていれば、それで問題がないと言う時代ではなく、地域住民に対する説明力やコミュニケーションも求められます。ですから、来年度のCPDSは大きく変容します。今、システムの変更などの業務を行っているところです。
CPDSと工事成績評点のジレンマ
――これだけCPDSのユニットに人気が集まっている理由は、総合評価における技術者評価で加点される点ですね。会社からもユニットを稼げと言われている土木技術者は多いです。
連合会 その通りです。2006年あたりからCPDS会員が伸びてきておりますが、これは総合評価方式での技術者評価項目に採用するところが増えたからです。国土交通省各地方整備局をはじめ、各都道府県、各市での採用も伸びてきています。しかし、まだすべての公共事業で採用していませんので、各都道府県の技士会が各発注機関に採用を求めています。
ただ、CPDSは土木施工管理技士が自己研鑽するための継続学習制度で、職場以外でも勉強するというのが本来の趣旨です。入札で評価されるからユニット数を稼ごうという動きは、本末転倒で偏った思考です。
そのため、CPDSのあり方も変化が求められるべきです。たとえば、今後、学科合格した後の1級土木施工管理技術検定の実地試験についても、CPDSなどの自己研鑽をしている技術者であれば、現行では2回受験可能であるところの回数を、より多く受験できるなどのメニューもあっていいと思います。
さらに、今はインフラのストック時代と言われていますので、土木技術者も「維持管理」の知識について研鑽を積むことが大事です。維持管理の講習受講をが義務化されるようなことがあれば、それを記録し証明するなど、CPDS制度を進化させていくことも考えられます。大事なことは土木技術者自身が積極的に自己研鑽した知識を現場で活用することです。
土木施工管理技術検定試験の課題と改善
――CPDSを運営する立場から、土木施工管理技士という資格について課題はありますか?
連合会 担い手の確保・育成が課題です。新規の入職者を増やす方向で建設業界は取り組んでいますが、離職率を減少させることも大事です。ただでさえ、新規入職者が減少していく中で、離職率が高ければ困ります。
入職後、できるだけ早い段階で土木施工管理技術検定試験を受験してもらえるような環境を求めています。土木施工管理技士の資格を取得すれば、新規入職者も建設業を続けていくモチベーションややりがいにもつながっていきます。国土交通省の意見交換会などでも訴えています。
――2級土木施工管理技術検定で学科試験は高校生にも間口を広げましたね。
連合会 これは全国建設業協会と進めてきた内容で、地方技士会の希望が実現した形です。
現在の課題は、1級土木施工管理技術検定で学科試験に合格しても、その後2回、実地試験に不合格になると学科試験からやりなおすことです。これが受験者にとっては、非常に大きな負担になっています。そこで国土交通省は、1級土木施工管理技術検定学科試験に合格すると、技士補という資格を付与することを検討しています。イメージとしては1級と2級の中間あたりの位置づけの資格です。
連合会としては、技士補が設けられれば、一定数のCPDSなどの自己研鑽を条件に、実地試験の受験回数の緩和することを提案しています。国土交通省も土木技術者の自己研鑽や努力を評価する仕組みを考え、今後、実地試験をスムーズに受けられるような制度設計にして欲しいですね。
――ほかには地方技士会から、どのような声がありますか?
連合会 実は、地方の建設会社では、建設系の工業高校だけでなく、普通科などからの新規入職者の受け入れを活発にしています。ただし、指定学科以外の新規入職者ですと、余計に実務経験が必要です。そこで資格取得をする前に辞めてしまうことがあるため、土木施工管理技術検定試験における実務経験期間の短縮などを国土交通省に訴えています。
提出書類は減少したが、作成書類が減少しない理由
――現場ではここを改善して欲しいという声はありますか?
連合会 働き方改革の一環として、提出書類は減少し、書類の簡素化が進んでいます。これは間違いありません。ただし作成書類が減っていないのが問題です。発注者側の監督官が、説明向けに「こういう書類が必要ですね」「あの書類も作成して欲しい」と依頼するケースが多いのです。
発注者と受注者は甲乙の関係ですから、発注者から要請されれば書類作成をせざるを得ない。土木施工管理技士の書類の簡素化が進んでも、作成書類が減少しない理由はここにあります。
連合会としては技術を確認するための必要な書類作成は重要な作業であると理解していますが、二度手間や説明用の書類を減らすことは必要です、と主張しています。
土木施工管理技士は、昼は現場で監督業、夜は書類作成で激務です。国も建設業界の働き方改革を重視しているので、業務を減少するために発注者と受注者に徹底していくことが肝要です。これは制度以前に、受発注者の意識改革の問題でもあります。
――連合会の「平成30年土木施工管理技士アンケート」では、「建設業を辞めようと思ったことがあるか」という問いがありましたね。
連合会 約2,100名の回答者の内、約60%の方が「辞めたいと思ったことがある」と答えています。「勤務時間」「賃金」「職場の人間関係」が主な理由です。それでも辞めない理由は、「この仕事が好きだから」と60%近くの方々が回答しています。やりがいはのある仕事でありつつも処遇や悩みもあります。
連合会としては引き続き、土木施工管理技士の地位や技術力向上に努め、辞めたいという人を1人でも多く減らしていきたいです。
――ありがとうございました。施工の神様としても、ぜひ協力させてください。