渋谷に「ラブホテル」を新築できない理由とは?

建築条例は逆らってはいけない絶対的ルール

建物を建てるためには、様々なルールがあります。

このルールは、上司やクライアント、高明な建築家がなんと言おうと、絶対に背いてはなりません。

ルールを守りながら良い建築物を作っていくことが、建築屋の使命です。

建物が生まれる場所である「まち」では、「こんなまちにしたい、こんなまちにはしたくない」という思いを、「条例」という決まりを作って明文化しています。

条例というのは自治体によってバラバラで、建築をする上では、厄介なことこの上ありません。

しかし、条例の内容をよく見てみると、その「まち」の文化や歴史を紐解くことも可能になってきます。

安心な街づくりに、ラブホテルは邪魔

今も昔も「若者の街」であり続ける渋谷。そんなまちだからこそ作られた、建築の規制条例があります。

それが「渋谷区ラブホテル建築規制条例」です。ダイレクトすぎる条例名です。

2006年に制定したこの条例によって、渋谷区では新たにラブホテルを建築することが禁止されています。

どうしてこんな条例を作ったのかは、第一条に謳われています。

第一条
この条例は、次世代を担う区民の健全育成を目指すとともに、安全で安心して暮らせるまち渋谷を形成し、快適なまちづくりを行う観点から、ラブホテルの営業を行う施設の建築に対し必要な規制を行うことにより、良好な生活環境及び教育環境の実現を目的とする。

とても明快でわかりやすい目的です。

そもそも、どんな建築物を「ラブホテル」と定義して、新たな建築を禁止しているのでしょうか?


そもそも「ラブホテル」ってどんな建物?

ラブホテルの定義は、別表に明記されています。次の7項目のうち、一つでも該当してしまうと、そのホテルはラブホテルとして扱われることになります。

別表第一(第二条関係)

一 ホテル等の外周に、又は外部から見通すことができる当該ホテル等の内部に、休憩の料金の表示その他の当該ホテル等を休憩のために利用することができる旨の表示がある施設

二 ホテル等の出入口又はこれに近接する場所に目隠しその他当該ホテル等に出入りする者を外部から見えにくくするための設備が設けられている施設

三 客が従業者と面接しないで機械その他の設備を操作することによってその利用する客室の鍵の交付を受け、従業者と面接しないでその利用する客室に入ることができる施設

四 宿泊の料金の受払いをするための機械その他の設備により客が従業者と面接しないで当該料金を支払うことができる施設

五 客の使用する自動車の車庫(天井(天井のない場合にあっては、屋根)及び二以上の側壁(ついたて、カーテンその他これらに類するものを含む。)を有するものに限るものとし、二以上の自動車を収容することができる車庫にあっては、その客の自動車の駐車の用に供する区画された車庫の部分をいう。以下同じ。)が通常その客の利用に供される客室に接続する構造を有する施設

六 客の使用する自動車の車庫が通常その客の利用に供される客室に近接して設けられ、当該客室が当該車庫に面する外壁面又は当該外壁面に隣接する外壁面に出入口を有する構造を有する施設

七 客が利用する客室がその客の使用する自動車の車庫と当該客室との通路に主として用いられる廊下、階段その他のホテル等に通ずる出入口を有する構造(前号に該当するものを除く。)を有する施設

そして、一般的なホテルには、以下の8項目全ての設備を設けることと決められています。

逆に、一つでも欠けてしまうと、全てラブホテルとして扱われてしまいます。

別表第二(第二条関係)

一 営業時間中に自由に出入りすることができ、フロント及びロビーを見通すことができる玄関

二 カーテンその他の見通しを遮ることができる物の取付けにより客との面接を妨げるおそれのない受付、応接の用に供する帳場又はフロント

三 自由に利用することができるロビー、応接室、談話室等の施設(簡易宿所営業に係るものを除く。)

四 食堂、レストラン又は喫茶室及びこれらに付随する房、配室等の施設(簡易宿所営業に係るものを除く。)

五 フロント等から各客室に通じる共用の廊下、階段、昇降機等の施設で、宿泊又は休憩のために客室を利用する者が通常使用する構造

六 客室の外部に面する窓ガラスが透明ガラスであり自然光を遮するフィルム等が貼りつけていない構造

七 客の性的感情を刺激しない清な内装、照明、装置、寝台、寝具、装飾品等の内部設備

八 青少年の健全育成及び附近の住民の生活環境を損なわない素朴な外観

内装や外観も含めて、「THE・ラブホテル」とは言えない形態のラブホテルもあるので、ちょっと穴がある条文です。

構造や仕様、設備に関する細かい規制はしていますが、ラブホテル特有のいわゆる「ショートステイ」の営業形態も規制されていません。

ただ、新たなラブホテルの建築を禁止するために、多くのラブホテルを利用、もとい研究された、行政マンのたゆまぬ努力が条文から滲み出ていると思います。


ラブホテル街とは、江戸時代から残る文化である

今回は渋谷区のラブホテル禁止条例を紹介しましたが、日本にはラブホテル禁止条例を制定している行政区が他にも2つあります。

新潟県新潟市大阪府堺市です。

実は、渋谷区も含めたこの3つの都市は、江戸時代の「3大花街」として栄えていた歴史がありました。共通点として海運、陸運の交易地として栄えた歴史を持っています。都市の歴史に紐づいた、連れ込み、もといラブホテル文化なのです。

深い歴史的な経緯がある一方で、健全な都市にしたいという、現代に生きる方々の思惑が複雑に絡み合い、このような規制が生まれてきたのです。

建築に関わるルールは、建てる人への嫌がらせで作られているのではありません。そのまちの歴史や多くの人の熱い思いが沢山詰まっています。

その思いを読み取っていくと、メンドくさいだけだったルールにも愛着が湧き、まちに根ざしたより良い建築を生み出せるのではないでしょうか。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
「勤務中にラブホテル」「建設現場で密通」現場監督の不倫騒動
「足場も組めないし、高所作業車も入れない!」難攻不落の解体現場をいかに攻略すべきか?
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
証券会社というフィールドから土木を動かす 元国土交通省職員からの提言
大手ゼネコンの社長に直接クレームが入り、イケメンが呼び出された“超セレブの住宅工事”
山田優似の美人建築士、巨乳のM先輩、建設会社で働く女性たちの「セクハラ対処術」
アパート、マンションメーカーで設計の仕事をする傍ら、YouTubeなどで建築を「面白く、わかりやすく解説する」動画を配信中。3Kの業界を3T(T:為になることを T:楽しく T:伝える)をモットーに動画作成や物書きで日々アウトプットしています。Twitter:https://twitter.com/miz_otty、やっている事の詳細はこちら:https://note.mu/mix_otty/n/nc0c6393aa2d9
モバイルバージョンを終了