川合弘毅・加和太建設株式会社 取締役 ITI事業部統括

「エクセルは紙と大差ない」「入札勝率が2倍になった」“下町ロケット”みたいな建設会社が開発した「施工管理クラウド」とは?

建築施工管理支援クラウド「インパクトコンストラクション」とは?

普通の中小建設会社だった加和太建設株式会社(本社:静岡県三島市)は、わずか10数年で100億円企業に成長。いまなお、躍進を続けている。

その成長を支えている秘密の一つが、2014年に独自開発したクラウド型の建築施工管理支援システム「IMPACT CONSTRUCTION(インパクトコンストラクション)」だ。

開発のきっかけは「現場監督が本当に使いやすい原価管理をするシステムがなかったから」。社内外のメンバーで開発チームを結成。約半年でプロトタイプ版を完成させ、自社運用を開始した。

インパクトコンストラクション導入の結果、現場監督の労働時間は1日約30分短縮、民間入札の勝率は2倍になった。インパクトコンストラクションの最大の売りは「経営が強くなる」。今では同業他社にも販売している。

地域建設会社がシステムを独自開発し、しかも販売するという話は、聞いたことがない。

インパクトプロジェクトを統括するのは、加和太建設の川合弘毅取締役。加和太建設の河田社長の同級生で、公認会計士という異色のキャリアを持つ。

川合取締役のキャリアや、インパクトコンストラクションの開発に至った経緯やねらいなどについて、話を聞いてきた。

公認会計士を辞め、友人の建設会社へ

川合弘毅 取締役 ITI事業部統括

――河田社長とは、大学からのお知り合いで、その縁で加和太建設に来たんですね。(※参照記事はこちら

川合弘毅 そうですね。大学ではクラスが一緒でした。私自身、三島で暮らしたことがあったので、すぐに仲良くなりましたね。河田社長から「ラクロスやろうぜ」と誘われて、ラクロス部に入部して、部活も一緒でした。

大学の同級生には、高校のときに学級委員などのリーダーをやっていた人間が多かったのですが、その中でもリーダーになる人間がいたんです。それが河田社長でした。しかも、河田社長のあだ名が「リーダー」でしたね(笑)。

――その後、川合さんは公認会計士として働いていたと。

川合 私は就活の際、「こういう仕事をしたい」というのは、特にありませんでした。ただ、世の中にはリーダーシップを取るのが得意な人たちがいるので、その人を支える仕事が良いかな、自分に合っているんじゃないかなという思いはありました。

たまたま経済学部だったので、「数字まわりでも見るか」という安直な気持ちで、とりあえず三井住友銀行に就職しました。働き始めたら、自分に合わなくて(笑)。「集団の中の一個」としているのが苦手だったので、10ヶ月で辞めました。

その後、公認会計士になる勉強をして、新日本監査法人(現・EY新日本有限責任監査法人)で6年ほど働きました。

――河田社長とはいつか一緒に働きたいと思っていたのですか?

川合 そうです。河田社長とは大学生のときに「一緒に仕事しよう」と約束していました。社会人として働きながらも、「いつか河田社長と一緒にやりたい」と思い続けていました。

あるとき、たまたま河田社長と飲みに行ったんです。その3年前に河田社長は加和太建設に入社していました。そこで、「まだ一緒にやる気持ちはあるの?」と訊いたら、河田社長が「あるよ」と言ったんです。

「じゃあ、監査法人辞めるよ」ということになって、実際に監査法人を辞めて、加和太建設に入社しました。8年前の話です。

クラフトビールを片手に、談笑する河田社長(右)と川合取締役

――建設会社で働くことに抵抗はなかったですか?

川合 河田社長と一緒にやれるなら、なんでもOKという感じでした。仮に河田社長が全く違った事業をやっていたとしても、一緒にやっていましたね。ただ、両親には反対されました。「会計士の資格まで取って、なんで建設業なの?これからダメになる業界なのに」と。先輩からは「地方の建設会社に行って、ちゃんとコミュニケーション取れるの?」と心配されました。

それまでは、いわゆるホワイトカラーと呼ばれる集団の中にいたので、ギャップを心配してくれていたのだと思います。それに、奥さんには黙っていて、監査法人を辞めてから話したら、すごく怒られました(笑)。

――思い切った決断でしたね。

川合 周りからはそう見えるでしょうが、私にとっては既定路線でした。特に不安もなく、「どうにかなるだろうな」という感じでした。

東京のコンサルをフル活用し、インパクトコンストラクションが誕生

――加和太建設ではバックオフィスの仕事を担当したのですか?

川合 そうですね。総務や会計などバックオフィスを全部担当していました。加和太建設の第一印象は「まさに土建屋」というものでした。まだオフィスコンピューターと呼ばれる古いシステムを利用していましたし、就業規則なども昔につくられたものがそのままになっているような状態でした。

バックオフィスは、ベテランの従業員が全てを把握していて、属人的な管理になっていました。

――バックオフィスの業務改善をしていった?

川合 はい。ただ、バックオフィスの実務経験があったわけではないので、すべて手探りでした。自分で決算を締めたこともなければ、法人税等を締めたこともないので。

わからないことがあれば、その都度自分で勉強したり、人に聞いたり。当時の従業員と何とか力を合わせてこなした感じです。今思えば、「われながら良くやったな」という感じです。今ならできないです(笑)。

――バックオフィスも大きくしていったのですか?

川合 人がどんどん入れ替わる中で、徐々に大きくしていったという感じです。今、バックオフィスの部長をしている人がいるのですが、その人が入社したことによって、大きく変わりました。今はその部長を中心に、しっかりとしたバックオフィスになっています。

加和太建設では、外部の経営コンサルや専門家をちゃんと使ってきました。その点が弊社は上手だなと思います。多くの地域建設会社はそういったことをあまりやっていないという気がします。

加和太建設は、東京を中心にしてきちんと実績のあるコンサルティング会社に仕事を依頼することが多々あります。そういう「東京の叡智」みたいなものを上手に使ってきたんです。もちろん、その分お金はかかりますが、その分良い結果につながる可能性は高いように思います。

――コンサルを入れたことによって、どのような成果があった?

川合 成果のひとつとして、「インパクトプロジェクト」が立ち上がりました。加和太建設の経営が安定してきて、次の大きな絵を描こうというタイミングで、「具体的に何ができるか」ということについて、経営者や幹部社員で話し合いました。そこに経営コンサルも入っていました。

3ヶ月ぐらい話し合った結果、ビジネスアイデアの一つとして出てきたのが、インパクトコンストラクションでした。経営コンサルを入れていなかったら、もしかしたら出てこなかったアイデアかも知れません。

――確かに、普通の地域建設会社は、独自に原価管理システムを開発しようとは考えないと思いますね。

川合 加和太建設では毎年、新入社員の研修として、イベントを開催しているのですが、これも人材コンサルの株式会社リンクアンドモチベーションと一緒に考えたアイデアです。加和太建設は、外部の力を借りて、社員と一緒になってプロジェクトなどを立ち上げ、その後少しずつ内製化していくことを得意としています。

加和太建設は「下町ロケット」のような熱い会社

――採用システムも外部のコンサルの力を借りたのですか?

川合 そうですね。採用コンサルを2社ほど使いました。ただ、加和太建設が採用に強い理由は、採用コンサルの力を借りたからだとは考えていません。どんな採用コンサルを使っても、採用する会社側にコンテンツがなければ、どうにもならないからです。

例えば、建設会社の求人など見ると、社是に「地元のために」とか「人のために」などの文言が書かれている会社が数多くあります。「じゃあ、そのために何をやっているの?」と調べてみると、あまり具体的には行動していないケースが見受けられます。加和太建設は「それではダメだ」という考えです。

つまり、社是として書いたことは、ちゃんと具体的にやるんです。これが、他社に比べて採用が強い理由のひとつではないかと思います。

先日、ITI事業部に面接に来た方と話をしたのですが、「表向きに言っていることと、実際にやっていることが一致している会社はなかなかない」と言っていました。彼の言葉をそのまま言うと、「下町ロケットみたいな会社はない」と。彼は、下町ロケットのような「熱さ」を求めて、加和太建設に入りたいと言ってくれました。私自身、加和太建設には、下町ロケットのような「熱さ」が溢れていると思っています。やると言ったことは、実行に移す会社だからです。

他の建設会社の人に「加和太建設ではこういうことをしているんですよ」と言うと、「さすが、ウチとは規模が違いますからね」と良く言われます。「いやいや、加和太建設も以前は御社と同じくらいの規模だったんですよ」とお伝えすると、非常に驚かれるのですが、われわれは他社より少し早く動き始めているだけだと思います。

エクセルは「ちょっと賢い紙」程度

――インパクトコンストラクションを始めた目的は?

川合 会社が急激に大きくなって、仕事の受注も増えていったので、いずれ建築の現場監督の人数が足りなくなるのが目に見えていました。

当時は、他社と同様、エクセルで原価管理をしていたのですが、エクセルは言ってしまえば、紙と大差ないんです。「ちょっと賢い紙」程度のものだと思います。やはり、ここはIT化して、現場の働き方を効率化していく必要があると考えました。

以前の加和太建設と同じく、多くの中小建設会社は、いまだに原価管理の業務プロセスを明確化できていません。また、データを蓄積するのは大好きですが、データを活用していません。そもそも紙やエクセルでは、活用しにくいと思います。

ところが当時、現場で本当に使える原価管理システムがありませんでした。「じゃあ、自分たちでつくろう」ということになったわけです。加和太建設とコンサルティングファーム、ITベンダーとで一緒に開発を始めました。

加和太建設が開発した建築施工管理支援システム「インパクトコンストラクション」

加和太建設からは建築部門のトップが参加しました。現場の「あるある」などを取り入れながら、つくっていきました。プロトタイプの完成までは約半年間。実際に使いながら、修正を加えていきました。

開発に当たっては当然、使いやすさも重視しました。加和太建設には70歳の超ベテラン現場監督がいるのですが、普通に使っています。インパクトコンストラクションの特長は、インターフェイスがシンプルなことです。エクセルに寄せてつくっているので、違和感がなく、使いやすいんです。

――最初は自社で使うために作ったんですね。

川合 そうなんです。たまたま人のつながりがあって、香川県の小竹興業様から、使ってみたいというお話があったので、ご提供しました。

労働時間を年15日短縮、民間入札の勝率は2倍に

――自社で使ってどうですか?

川合 インパクトコンストラクションは、加和太建設の成長を支えているシステムです。システムを使い始めてから、民間入札の勝率は2倍以上に上がっています。社員の労働時間もかなり削減できており、現場監督1人当たり年間15日、1日換算で30分の時間短縮になります。これを実現しながらも、堅調に利益を確保し続けています。

つまり、加和太建設では、このシステムを入れることによって、労働時間を減らすと同時に、利益も上がっています。生産性を向上させるシステムなのです。

これは魔法でも何でもなくて、エクセルで原価管理することによって、いろいろなムダが発生していたものが、インパクトコンストラクションの導入によって、これらのムダがなくなったのです。

加和太建設では、インパクトコンストラクションを開発するに際し、経営コンサルを入れて、原価管理の業務プロセスそのものを見直して、シンプルなものにしています。また、すべてのデータ履歴を閲覧できるので、データの活用も容易です。思いっきり活用しています。

また、インパクトコンストラクションの導入によって、仕事が標準化されます。エクセルの場合、人によって使い方が違ったりするのですが、そういうことがありません。みんな同じやり方なので、ストレスは少ないと思います。今の若い人には刺さるんじゃないかと思っています。

例えば、若い子が現場監督になって、初めて「コンビニを建築する」とします。『以前、先輩がコンビニを担当していたよな。どういう業者さんを使って、上長とどういうやりとりをしながら、工事していったんだろう』。インパクトコンストラクション上には、そういう情報が全部積み重なっているので、参考にしながら仕事ができます。エクセルシートだと、こうはいきません。技術者を育てる上でも役に立っているのではないかと思っています。

原価管理のやり方はどの建設会社も似たり寄ったり

――他社に販売しようと考えたのは、どのタイミングで?

川合 インパクトコンストラクションはもともと、社長直下のプロジェクトだったのですが、その後、私が担当するようになりました。2017年頃から本格的に販売のために動き出しました。販売については、ここ2年間ぐらい走ってみたというところです。

――利用する会社数は?

川合 今のところ、全国で30社ぐらいですね。お客様は、北海道から沖縄まで、全国各地にいらっしゃいます。建設会社の多くはIT化されていないので、「クラウドって何?」というところから説明しています。

比較的若い社長さんの会社を中心に採用いただいています。営業には、私と営業マンが会社に行って、プレゼンしています。WEBからのお問い合わせもあります。

――建設会社が他の建設会社に営業するのは、不思議な感じがしますね。

川合 そこがポイントなんですよ。例えば、IT業界だと、技術者同士の横のつながりがあるので、ものすごいスピードでイノベーションが進んでいます。ただ、建設業界には、そういう横のつながりがほとんどありません。ほとんどの建設会社は、県境を越えたら、誰も知らない状態です

横のつながりがないので、どこの建設会社も自分たちの原価管理のやり方は特殊だと思っているんです。ところが、インパクトコンストラクションの業務プロセスをお見せして、「御社のやり方と違うところはありますか?」と訊くと、9割9分の会社が「違うところはない」と回答します。

つまり、原価管理のやり方は、どこの会社も似たり寄ったりなんですが、あまりそれを知らないのです。私は、昨年1年間で、全国の建設会社70〜80社を回ったのですが、横のつながりがないのは「もったいないな」と感じました。

インパクトコンストラクションは魔法ではない

――インパクトコンストラクションは、建築オンリーのシステムですか。

川合 インパクトコンストラクションを民間土木工事でも使っている会社はありますが、基本的には建築専用です。そもそも建築と土木では、原価管理のやり方が全然違います。

にも関わらず、多くの建設会社は、建築と土木を同じ原価管理システムでやろうとします。それで失敗しているように感じています。システム化と聞くと、なんでもできる魔法のように考えてしまいがちです。全部一緒にできるという幻想に陥ってしまうのです。

会計システムの段階では建築土木を統合できるのですが、原価管理の段階では難しいと思います。ただし、いずれは土木の原価管理システムも開発したいとは思っています。お客様からの要望も多いので。

インパクトコンストラクションはまだ発展途上

――IT系のシステムは陳腐化も早いですが。

川合 お客様の声をどんどん取り入れて、日々システムをバージョンアップしています。私は、システムを入れてもらったお客様のところにも定期的に足を運んでいて、改善してほしいポイントなどについてヒアリングを行っています。全国の叡智を結集しているイメージですね。他のクラウドシステムとの連携も検討中です。

今後、SEの人数を増やしていく予定で、募集もかけています。システムはまだまだ発展途上の段階です。システム開発には莫大なお金がかかります。ですので、加和太建設が代表して開発して、それを多くの地域建設会社のみなさんとシェアしているのだと思っています。

今のお客様は、加和太建設とはつながっていますが、お客様同士の横のつながりはありません。独自に面白いことをやっている建設会社さんもあるので、お客様同士が情報交換できるゆるいネットワークみたいなものがつくれたら良いなとも思っています。

――インパクトプロジェクトの責任者としての抱負は?

川合 加和太建設では、ITや不動産などを担当してきたわけですが、いずれも元々は門外漢でした。担当になってから、勉強するカタチです。自分が何をするというよりも、従業員がのびのびと力を発揮できるよう、彼らをサポートしていきたいと思っています。

実際、ITI事業部では、私がコードを書けるわけではありません。私にできることは、大きな方向性を示しつつ、各メンバーが自分の力を最大限に発揮できる環境を整え、その中で成長していってもらうことです。そして、インパクトコンストラクションを多くの建設会社の方々に利用してもらい、建設会社の働き方が変わっていくお手伝いをみんなで実践することです。

加和太建設がチャレンジし変化していく中での経験や、全国の建設会社さんを実際に訪れてお話を聞かせていただいた経験は、きっと他の会社さんのお役に立てるのではないかと思っています。建設業界の魅力がもっと向上する一助になれるよう、これからも頑張っていきます。

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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