鴻池ビルテクノの大林愼二取締役社長

天井落下防止工法で学校・工場関係者から熱い注目を浴びる「帯塗くん」とは?

天井落下を防止する「鴻池CSFP工法」、通称「帯塗くん」とは?

2011年の東日本大震災では、相次いで天井が脱落。死亡事故や物の破損など、著しい被害を及ぼした。それまで天井には法令上の明確な基準がなかったが、これを機に脱落により重大な危害を生じる恐れがある特定天井に対して、新設した技術基準に従って所有者が補強するよう告示を施行された。

そこで、鴻池組、鴻池ビルテクノ、桐井製作所、日本樹脂施工協同組合の4者は、天井落下防止工法「鴻池CSFP工法」(愛称:帯塗(たいと)くん)を開発。2018年9月に学校法人和洋学園の天井改修工事で初めて実用化した。「CSFP工法協会」も設立し、帯塗くんの普及活動に乗り出している。

学校や工場関係の施設責任者から注目を集めている「鴻池CSFP工法(帯塗くん)」について、開発者の一人である鴻池ビルテクノの大林愼二取締役社長に話を聞いた。

「CSFP工法(帯塗くん」をキャラクター化した「タイトくん」


鴻池組グループの一員として100億円企業に成長

――鴻池ビルテクノと、鴻池組との関係は?

大林愼二  鴻池ビルテクノは鴻池組100%出資の子会社です。リニューアル工事が主体で、コンサル、設計・施工・保守管理まで一気通貫で業務を行っていることが強みです。

小規模な新築工事も行っています。親会社である鴻池組と連携し、工事内容や規模によりどちらが担当するかを決めます。もちろん、鴻池ビルテクノ独自のお客様も多数いらっしゃいます。

そもそも、鴻池ビルテクノはリニューアル・メンテナンス事業を専門に行なうことを目的として設立されました。そのため、元々は保守管理に強かったのですが、今その割合は全体売上の2%程度。主力は改修修繕工事です。リニューアル工事では、鴻池組との連携によるコンバージョンの提案や、遮熱断熱塗料・高効率設備機器を採用した省エネ改修工事の提案、設計・施工などを行っています。

最近では、サステナブル社会の実現のために建物の長寿命化が必要になってきているので、耐震化支援制度を利用した耐震診断から耐震改修工事への一貫した工事を、マンション・事務所・工場・学校などで幅広く展開しています。

とりわけ、オフィスビル、工場・倉庫、商業施設での大規模なリニューアル工事や、幼稚園や老健施設、工場での比較的小規模の新築工事にも力を入れています。昨年の売上は93億円でしたが、今期は受注額・完工高ともに100億円に達すると予想しています。

――技術者と技能者不足については?

大林愼二 鴻池組と鴻池ビルテクノの双方で技術者・技能者は不足しています。特に、鴻池ビルテクノでは現場管理者の平均年齢が非常に高く、中途採用を実施しているところですが、技能者を含め人手不足は一朝一夕に解決できることではありません。

これは、受注高・完工高とも関係しますが、仕事があったとしても、無理して数多く受注すると、現場を細かく管理できなくなります。ですから、受注高・完工高は100億円あたりが、今の社員数に合致した数字とも言えます。鴻池ビルテクノとしては、現場管理者に対しては70歳まで頑張って欲しいとお願いしているところです。

「居ながら施工」で使える”繊維入り強化塗料”

――そもそも「天井」とは何かということから教えていただきたいのですが。

大林愼二 天井は文明の進化の歴史であり、文化だと思っています。竪穴式住居から高床式住居へ進化し、さらに寺社建築や城郭建築において「荘厳さ」を出すため天井が生まれました。

近年は意匠性から機能性へと要求性能も広がり、住空間の快適さや用途に沿った作業環境を作り出すために、無くてはならないアイテムであると思っています。

――その天井の落下防止を目的に「帯塗くん」を開発されましたが、その経緯は?

大林愼二 2011年の東日本大震災の際、天井の落下で多くの人的・物的な被害が発生しました。そこで、天井が脱落し重大な被害を及ぼす危険のある「特定天井」を補強する技術基準を定めました。具体的には、高さ6m超、面積200m2超、質量2kg/m2超の吊り天井で、日常利用する場所に設置されているものを指します。

従来のフェールセーフ工法であれば、ネットで落下した天井を受け止める工法や天井下にワイヤメッシュ等を取り付け躯体から吊るす工法などがあります。ですが、見た目が悪かったり、天井に取り付けられた設備機器を取り外す必要があったりで、手間と費用がかかります。

和洋学園講堂 天井落下防止処置工事

施設によっては使用した状態で天井工事を行う「居ながら施工」を迫られる場合もあります。そこで、なにかいいアイディアはないかと思案していました。

そんな時、鴻池組技術研究所から「引張り強度の非常に強い”繊維入り強化塗料”という物があるが、話を聞いてみてくれないか?」との依頼がありました。話を聞いているうちに、これを「天井落下防止に応用できないか?」とのひらめきがあり、スタッフを集めて実現性の検討に入りました。


――開発は難しかった?

大林愼二 「帯塗くん」の開発には紆余曲折があり、一時は商品開発を断念せざるを得ない状況もありました。ですが、開発スタッフの根気と努力により、商品として日の目を見ることが出来ました。

大震災のたびに天井下地が強化されて、天井をどんどん重くしていくことは、万一の危険度合いを増すことにつながりかねません。そんな思いから、極力既存の天井を活かしながらの補強を目指したことが「帯塗くん」の開発につながっています。

――「帯塗くん」の概要は。

大林愼二 ワイヤ工法は天井面のボードジョイント部に繊維入り強化塗料を帯状に塗り、既存の吊りボルト位置にあわせ直径100mmの穴を1,800mmピッチで開けます。専用金具で吊りワイヤを既存吊りボルトにセットし、同じく専用金具で天井受けワイヤと緊結します。あとは専用カバーで穴を塞ぐだけで完成です。ちなみに繊維入り強化塗料の引張り強度は、通常の樹脂系塗料の3倍強です。

一方、ワイヤレス工法はオフィス・公共施設などのライン型システム天井に適用し、繊維入り強化塗料をシステム天井のボードを支えているTバーをまたいで、ボード間を帯状に塗ることで天井面を強化します。施工方法も簡単で、コスト、工期等多くの優位性があります。

――「帯塗くん」を導入するメリットは?

大林愼二 「帯塗くん」には次に示す6つのメリットがあります。

  1. ワイヤレスタイプは2~3日・ワイヤタイプで5~6日で作業が完了する短工期
  2. シンプルな工法のため、低コストの実現(天井面設備機器の移動は原則不要で更にコストダウン)
  3. 居ながら施工の実現(室内養生のみで工事を行えるため引っ越しの必要なし)
  4. 無臭無害の塗料による安全性の実現(気になるにおいは発生せず、有害物質を含まない無臭の水溶性を使用)
  5. 美観性の確保(透明な塗料のため見た目に影響せず、天井受けワイヤには天井ボードと同系色のコーティングワイヤーを使用)
  6. 技術性能証明を取得(一般財団法人日本建築総合試験所(GBRC)より「建築技術性能証明第17-27号」を取得)

一部は施工条件により異なりますが、従来工法よりもさまざまな優位性があります。

鴻池組、鴻池ビルテクノ、桐井製作所、日本樹脂施工協同組合で「CSFP工法協会」を設立

――「CSFP工法協会」の設立については?

大林愼二 開発者の鴻池組、鴻池ビルテクノ、桐井製作所、日本樹脂施工協同組合が参加しています。この塗料自体は、日本樹脂施工協同組合が開発したものです。桐井製作所は下地のメーカーですが、下地のプロに入ってもらう事で商品開発の実現性をより高める意味もありました。これら各部門の専門的知識を有する人材を糾合出来たことが「帯塗くん」の開発につながり、今後も更に進化させて行きたいと思っています。

開発に際しては、鴻池組の技術部門・施工部門・設計部門や桐井製作所の技術部門、日本樹脂施工協同組合の技術部門により、さまざまな実験や検証が行われ、GBRCからの性能証明の取得につなげ、商品として昇華されていきました。今後は鴻池組営業部門を中心として拡販に努めていきたいと思っています。

――「CSFP工法協会」に入りたいという会社もいるのでは?

大林愼二 基本的にこの4者で開発したので、これ以上の企業の加盟をお願いすることは考えていません。ちなみに、繊維入り強化塗料の塗布は、日本樹脂施工協同組合の会員で資格を取得した方に限っています。また専用金物関係は、桐井製作所の特許商品です。さらに、CSFP工法はGBRCから性能証明を受けている認定工法ですから、塗装工事や金物工事もしっかりと管理しなければならないからです。

――「帯塗くん」を導入すると補助金の対象にもなるようですね。

大林愼二 第三者機関の技術性能証明を取得しているため、補助金が認められやすいと思います。防災拠点施設や集会場であれば国土交通省から、学校施設関係であれば文部科学省から、病院や老健施設であれば厚生労働省から、それぞれ補助金の対象になります。また都道府県によって異なりますが、こちらも補助金が得られる場合もあります。

ただし、国が特定天井を補強することを指定し、補助金が得られるとしても、一気には対策は進みません。それはやはり、学校法人や企業でも多くは自己資金で賄わなければならないからです。

――「帯塗くん」への問い合わせは多いですか。

大林愼二 学校法人や工場からは非常に多くあります。学校法人は生徒の安全を第一に考えますから。そのため、施設の安全管理に様々な措置が行われていますが、一番多いのは「特定天井」の撤去です。

和洋学園南館食堂 天井落下防止処置工事

「帯塗くん」の発想は、「危険だからといって安易に撤去することのではなく、何とか既存天井を生かしながら、危険を回避できないか」が着想の根底にあります。こうした見地からも、学校等で安易に天井を撤去することは、教育環境や情操教育にも影響を与えかねないと思っています。

一方、工場においては東日本大震災で天井が落下したことで事業継続が困難となり、天井が復旧するまで操業できなかった事例が数多くありました。BC(事業継続)の観点からも、「帯塗くん」で天井の落下を防止し、まずは避難、さらには早い段階での操業再開を実現し、天井の復旧は段階的に行っていくことが重要であると思っています。この場合でも、地震保険の適用は可能であることも確認しています。


和洋学園で天井落下防止工法「鴻池CSFP工法(帯塗くん)」を実施工

――「帯塗くん」の受注例はいかがでしょうか。

大林 学校法人和洋学園(国府台キャンパス)の学生食堂(南館)、エントランスホール(東館)、講堂の3施設を対象に「帯塗くん」を施工しました。また、歩掛りやコスト試算などを調査するため、鴻池ビルテクノのシステム天井でも「帯塗くん」を使い、性能及び商品としても問題がないことが確認できました。

和洋学園東館エントランス 天井落下防止処置工事

――和洋学園での評価はいかがだったでしょうか。

大林愼二 安価で改修後の違和感がなく、デザインもいいねという言葉をいただきました。今後は実施工を積み重ねつつ、改善を進め販路を拡大していきます。「帯塗くん」をキッカケに、鴻池組による新たなお客様の開拓と鴻池ビルテクノが本業にしているリニューアル工事にも関心を持っていただきたいですね。

ある会社からは「夜間作業になるが、天井落下防止工法が可能か」というお声がけをいただきました。こうしたお声がけを今後も大切にして、新規のリニューアル工事の受注につなげたいですね。

また、プロモーションとして、2018年12月の施設リノベーションEXPO(住宅・ビル・施設 Week 2018内)に「帯塗くん」を出展しました。この展示会で300人を超える官・民学校関係者や工場・その他の施設部門の方々と名刺交換をさせていただきました。

また、年始にご挨拶した学校の施設担当者の方に「帯塗くん」を紹介したところ、「すぐ提案書を提出してほしい」と要請がありました。学校も、やはり天井を外すと情操的にも吸音性にも課題があり、かといってネットを張る工法であれば見た目も悪くなるため、色々と逡巡される施設担当者の方も多いようです。そこで「帯塗くん」の出番が今後増えてくるのではないでしょうか。

――今後の方針と御社の将来的展望については。

大林愼二 鴻池ビルテクノは、親会社の鴻池組から定年を迎えた豊富な経験を有したベテラン社員を多く受け入れ、改修・修繕工事を主体として、従来からのお客様の維持継続を第1の目的とした企業活動を行っています。

昨今の建設業界の好況で、人材不足から定年延長が主流となり、思うような人材の補充ができておりません。現在年商100億円が見えているものの、社員の高齢化により工事量的には、現有勢力ではほぼ限界が見えており、今後は収益性を高める方向にシフトしていく必要性を感じています。そういった観点からも、他社との差別化を目指すために、今回の特許工法「帯塗くん」が開発されました。

今後はまずは実績を伸ばし、従来のお客様からのご要望にお答えするとともに、新規のお客様のご要望にもお答えし、新たな市場開拓に繋げていきたいと思っています。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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