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なぜ若者たちの「土木離れ」が止まらないのか?【アンケート:土木学会若手パワーアップ小委員会】

土木学会の若手が考える「土木業界の課題」とは?

なぜ土木は若者に不人気なのか?——その原因を洗い出すべく、土木学の若手パワーアップ小委員会が、実際に土木業界で働いている若手技術者を対象にアンケート調査を実施しました。

調査対象は、土木学会若手パワーアップ小委員会に所属している18名。官公庁、インフラ事業者、ゼネコン、建設コンサルタントなどで実際に働いている20〜30代の現役土木技術者たちです。

若者の“土木離れ”について、「土木業界が抱えている課題は何か?」「誰に対して、その課題を土木業界は持っているのか?」「土木が目指すべきは、どんな状況か?」「その課題をどう解決すべきか?」という質問に対して、18名が自由記述で回答。

アンケートの結果、土木業界の課題は「認知度不足」とする回答が大半を占めました。もちろん、土木業界は働き方改革やi-Constructionなどといった内部改革も必須ですが、土木就業者を増加させるためには、世間一般に対する土木の魅力をPRすることが、土木業界の喫緊の課題であるという意見が多い結果となりました。

土木業界が抱えている課題は何か?

「土木業界が抱えている課題は何か?」という質問では、11名が「土木の認知度が低い」と回答し、そのうち6名は「大学生」に対して土木の魅力が伝わっていないと回答。

「残業が多い」「休日が少ない」など、負のイメージが先行する一方で、土木業界で働いている若手にとっては、それ以上に「土木が担う社会インフラ整備等の重要性」が世間に正しく理解されていないことを問題視していることが分かりました。

土木業界が抱えている課題は何か?

また、次に多かった意見は「土木業界の働き方」に関するもので、「長時間労働は学生が持つイメージだけでなく実情だ」と指摘する意見や、「働き方改革が、実労働時間短縮運動と化してきている」として管理職による評価制度の是正を求める意見もありました。

さらに、土木業界が進めている広報活動に対して、「PR力が低く認知されにくい。またPRしなくてもいいという意識すらある」と、PR力の強化を課題とする声もありました。

土木業界が抱えている課題(回答一覧)

回答者 課題 対象 内容
1 認知度が低い
(土木職の魅力)
大学生等 新卒採用者数が景気に大きく影響される
2 認知度が低い
(土木職の魅力)
大学生等
社会人(他業界)
外国人
若い世代の人材不足
3 認知度が低い
(土木職の魅力)
大学生等
社会人(他業界)
建設業を志望する学生が少ないなか、発注者、コンサル、ゼネコンで優秀な学生を取り合っている
4 認知度が低い
(土木職の魅力)
大学生等 土木は人々の生活に必要不可欠なものであるにも関わらず、整備されているのが当たり前になっており、その必要性や重要性が世間に十分に認識されていない(ICT技術等がいくら進歩しても社会インフラが無ければ機能を発揮できない)
5 認知度が低い
(土木職の魅力)
大学生等 土木業界は、残業が多い・休日が少ない等負のイメージが先行しているとともに、土木工学・インフラ整備等の重要性が理解されていない
6 認知度が低い
(土木職の魅力)
大学生等 就職率の低下→学生へのイメージがよくない(偏見?)
7 認知度が低い
(土木職の多様性)
学生 土木の仕事=現場作業員のイメージが強い
8 認知度が低い
(土木職の存在)
中高生 特に就職の方向性を決める中高校生に対してに認知度が低い
9 認知度が低い
(現場事情)
一般大衆 実際に土木構造物を作るのは現場の作業員の方々にも関わらず、その方々の苦労が知られていない
10 認知度が低い
(多様性が低い)
業界内 女性社員・職員が男性に比べて少なすぎる。
11 認知度が高い
(3Kイメージ)
大学生等 土木業界のイメージ自体がそもそも良くない(?)(汚い、きつい、休み少ない、残業多い、給料安い、男ばっかり)
12 土木技術者の地位が低い 大学生等 他業界専門職に比べ土木技術者の立場は低いと感じている。
13 働き方
(長時間労働)
大学生等 長時間労働
14 働き方
(長時間労働)
若手社員
発注者
残業時間が多い(実情+学生のイメージも含む)
15 働き方
(一元的な評価軸)
管理職 働き方改革が,実労働時間短縮運動と化してきている.作業効率=成果/作業量とすれば,作業量を抑えることだけでは不十分
15 技術力不足 大学生等 採用試験を受ける学生の知識・経験・技術力が下がっている
17 インターナルコミュニケーション 業界内 業界組織が内向的かつ業界内の繋がりが希薄
18 PR力不足 業界内 土木学会としての取組みは非常に多岐にわたり、素晴らしい企画も多いがPR力が低く認知され難い。またPRしなくてもいいという意識すらある


課題の解決策と目指すべき土木業界の在り方

次に、「土木業界が目指すべき状況」と「土木業界が抱える課題の解決策」についてのアンケート結果では、具体的な進路や職業選択に入る前の小中学生や高校生に対して、積極的に啓発活動を行うことが重要だという意見が目立ちました。

そのためには、子ども向けのイベントやコンテンツを充実させる必要があり、小中学生向けの現場見学会や職業体験の開催、さらにコラボ企画や動画配信など、多角的な土木のPR活動が必要だという意見がありました。

また、土木業界に根付くマイナスイメージの払拭には、「女性の活躍」をPRしていくことも重要だとして、働き方や労働環境が改善されている状況を広く伝えることで、「男女比が50:50」となることが目指すべき業界像だとする意見もありました。

土木業界が目指すべき状況と課題解決策(活動案)

回答者 目指すべき状況 解決策(活動案)
1 景気に左右されず、土木分野に興味を持って学んできた学生の受け皿がある程度確保されている 解決は非常に難しいと考えられる。しかし、景気が悪化することが予想されても、学生たちが安心して土木を学び、就職先として考えられるような方策が必要
2 ・土木業界の魅力向上によって、学生が土木業界を志す
・土木業界以外の方(社会人)の参入
・外国人の参入
・土木のしごと冊子作成
・ポスター作成(各種広報媒体の外国語版の作成、小中学校への出張PR)
3 ・建設業の正しい理解
・建設業に若い人が憧れを持つ
・他学科や異業種の参入
・現場見学会(親子、小中高学生)
・最新技術体験(VR、ドローンなど)
4 ・なりたい職業ランキングの上位入賞
・工業高校や大学土木学科の受験者数アップ(減少抑制)
・土木=大切、スゴイ、カッコイイというイメージが世間に浸透
・プロジェクトD(土木)の制作(例:ブラ○○を編集・Youtubeにアップ)
・「もしも○○がなかったら」的なものを作成(土木技術がなかった日々の生活が激変するようなもの、例:動画、読み物、紙芝居など)
・キッザニアのようなものの開催(土木学会で開催、大学等の試験施設を活用など)
・メジャーなブランド、商品とのコラボによる認知度向上(様々な広報媒体に取り上げてもらう)
5 やりがいがあり、尊敬され、あこがれる土木業界 ・土木業界がよいイメージとなる絵本の作成と配布
・小中学生向けの現場見学会の頻繁な開催
・インターンシップの義務付け
・プロジェクトXの復活
6 ・土木の魅力向上→学生の偏見を払拭する
・他系統の学生も募集対象とする
・土木PRの動画を作成・配信
・大学・高校の訪問(まずは土木科中心)
7 以下が認知されていること
・土木学科出身者の就職先が、現場だけではない
・他学科出身者も土木業界へ参入可である
・土木のしごと動画作成
・リクナビとの情報発信連携
8 卒業文集で『土木技術者になりたい』をサッカー選手と同等の立ち位置に ・青田刈り作戦
・小中高へのPR
9 ・実際の現場での苦労を知る機会を作ること
・同時に、現場での作業を楽にしてあげること
・きれいな部分だけの現場見学会ではなく、工期末がせまった状態等、きれいなだけではない本当の現場を見る機会を提供する
・現場のインスタのアカウントを作り、インスタ映えしそうなコンテンツをアップする
・アニメキャラクター等とコラボし、土木の現場を分かりやすく伝える
・現場作業が楽になるi-Construction技術をYoutube等にアップし、普及させる
10 ・男女比=50:50
・女性というだけでクローズアップされない環境(建設小町やドボジョという言葉を死語に)
・女性の活躍PR
・労働環境の充実
・男性社員・職員の理解促進(思いやりの気持ちを持つ、女性社員の気持ちを理解するなど)
11 土木業界のマイナスイメージの払拭
・力仕事だけではない(コンサル等)
・女性もいる
・働き方が変わってきた
・土木のしごと動画、冊子作成
・女性の活躍PR
・かっこいい働き方特集(趣味・育児・スキルUP)
12 憧れを持って就職し、誇りを胸に働ける業界 ・土木技術者の魅力PR
・他業種調査
13 ・残業時間の縮減(ワークライフバランス)
・業界イメージの向上、離職率の低下
・CIM、IoT等の新技術の導入
・ノー残業デー等の業界取り組みの広報
14 ・仕事量を急に減らすのは難しいと思うので、まずは個人(特に若手)の仕事の進め方を改善する→だらだらと残業しないよう、週の中でメリハリをつける(ノー残業デー等)
・受注者側が工程管理していても、発注者側が無茶な対応を要求してくる場合もある(夕方に連絡してきて、「今日中に」と指示を出してくる等)→発注者側の意識改革も必要
・若手社員への「仕事の進め方」の提案(ディスカッション)
・発注者側への残業削減取組の提案・周知(17時以降の指示出しをやめる等)※発注者側への働きかけは、建コン協でも取り組まれている(ただし、現場レベルでは改善されている様子はあまりみられない)
15 ・土木業界特有の個人の作業ノウハウが共有(特に、先輩からは教われない、今流のノウハウ)
・業界就労者の成果に対する意識が向上
「私の作業ノウハウ」の募集と公開、「グッドノウハウ」の選考
16 ・土木業界を希望する学生数の増加
・学生の技術力の向上
・土木業界イメージアップ広告の拡大(例:大成建設や清水建設のCMなど)
・学生のインターンシップの強化などにより現場を早めに経験させる
17 業界全体で課題解決に取り組める組織 ・他業界の調査
・他業界コラボ企画の立案
・業界内交流
18 内向きにも外向きにも活動内容を広く知ってもらえる組織になる。 ・現状のPRの分析
・対外広報ソースの多角化
・HPの再構築
・活動の棚卸
・外部コンサルからの指導

土木学会若手パワーアップ小委員会の活動

土木学会若手パワーアップ小委員会の活動は、今年で5年目を迎えます。活動は多岐にわたり、昨年には遊びを通じて防災・減災の考え方や土木の大切さを学べるカードゲーム「ポケドボ」を発売するなど、若手ならではの独自の視点で土木業界の魅力発信に奮闘してきました。

今回のアンケート結果を踏まえた、土木学会若手パワーアップ小委員会における今後の活動に期待したいと思います。

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