「フルハーネス義務化」を勘違いしてる人が多すぎる!現役講師からの警告

勘違いや誤解が多いフルハーネスの義務化

私は、ある登録教習機関で講師をしています。

日々、さまざまな技能講習や特別教育を開催していますが、ここのところ最も多い問い合わせが「フルハーネス型墜落制止用器具特別教育」です。

フルハーネス型安全帯については、施工現場・管理者、安全担当者、そして講師(特に社内講習の場合)の方でも、勘違いやミスリードしやすいポイントが非常に多く、誤解されている方がとても多いです。

また、本来の法改正の趣旨や意図も十分に伝わっていないようにも感じています。そこで、今回はフルハーネスに関する法改正や構造規格の改定、特別教育の必要性やその内容について解説していきます。

今すぐ胴ベルト型安全帯からフルハーネスに変更するべき

安全帯に関する法令改正のスケジュール / 厚労省

まず、今回の法改正で変わった点は主に3点です。「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」を読まれた方も多いと思いますが、

  1. 名称が「安全帯」から「墜落制止用器具」に変わった
  2. 6.75m(建設業では5m)以上のところではフルハーネス型安全帯を使用しなければならなくなった
  3. フルハーネス型安全帯を使用するには、特別教育の受講が必要になった

とだけ理解されている方が多いようです。なので、勘違いしやすいポイントを細かく見ていきましょう。

まず(1)で重要なことは、柱上作業用のU字吊り型安全帯には墜落を制止する機能が無いため、墜落制止用器具から外れたということです。

つまり、U字吊り型安全帯を使用するときは、墜落制止用器具(胴ベルト型(一本つり)もしくはフルハーネス)を併用しなければなりません。

それ以外(墜落を制止するために使用する安全帯)については、名称の変更以外に特に変わりはありません。ただし、「要求性能墜落制止用器具」とは、新規格に該当するものを指すと理解してください。

(2)については文面の通りです。今後、規定の高さ以上の作業時はフルハーネス型安全帯を使用しなければなりません。

ただ、ここで誤解してほしくないのは、6.75m(建設業では5m)未満での作業の場合は、胴ベルト型安全帯でもよいという表現が各所でされていますが、決して”胴ベルト型安全帯を推奨する”ということではありません

そもそも、胴ベルト型安全帯を使うメリットはほとんどなく、今すぐにでもフルハーネス型安全帯に変更されることをお勧めします。

なぜ6.75m未満ではフルハーネスを使わなくていいのか

それでは、なぜ今回の法改正では高さ規定が設けられたのでしょうか。

その理由は、墜落時の落下距離が胴ベルト型安全帯よりもフルハーネス型安全帯のほうが若干長いため、規定未満の高さから墜落した場合に地面に接触する可能性があるからです。

そのため、6.75m(5m)という規定値未満の高さにおいては、フルハーネス型安全帯の着用は義務付けられていません。

旧来の胴ベルト型安全帯とフルハーネス型安全帯では、なぜ落下距離に差が出るのかというと、ランヤードの取り付け位置と落下時の姿勢の違いがあります。

ランヤードの取り付け位置は、胴ベルト型安全帯の場合は腰高(モデルケースとして床から85cmとします)です。しかし、フルハーネス型安全帯の場合は背中の肩甲骨付近(同じく145cmとします)になるので、約60cmの違いがあります。これは単純に自由落下の距離が60cm伸びるということです。

フルハーネス型安全帯の基本構造 / 厚労省

次に、落下姿勢です。胴ベルト型安全帯の場合は腰を中心に体が二つ折りになります。人によっては頭部が下に向くこともあります。

しかし、フルハーネス型安全帯の場合は重心位置より遥か上の背中部にランヤードが付いているので、基本的には足から直立した形で落ちます。

結果として、地面までの距離はフルハーネス型安全帯のほうが若干必要になります(ただし、足から落ちるために大けがをするリスクが低くなるというメリットもあります)。

また、単純に胴ベルト型安全帯とフルハーネス型安全帯で同じように落下した場合、身体へのダメージは間違いなくフルハーネス型安全帯のほうが軽度です。

胴ベルト型安全帯では、内臓破裂や肋骨が肺に刺さる、ずれ上がって首を絞める、逆さになって意識を失う等の致命的な障害を負うリスクが否めません。

しかし、フルハーネス型安全帯の場合は単純に局所的にかかる負荷が減り分散されます。そして、前出の落下姿勢の良さから大ケガのリスクは非常に少なくなります(ただし、大腿骨や鎖骨の骨折などの報告はあるようです)。

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6.75m未満の高さではランヤードやアンカーの付け方がポイント

それでは、6.75m(5m)未満の作業箇所では、フルハーネス型安全帯は使用できないのでしょうか。これが今、大きな問題となっています。

6.75m(5m)未満の作業箇所では、従来通り、胴ベルト型安全帯を使うべきでしょうか?そのメリットが薄いのは前出の通りです。

つまり、6.75m(5m)未満の作業箇所でも、フルハーネス型安全帯を使用することは大前提です。ただし、その使い方に工夫が必要となります。

具体的な手法としては、まずランヤードを巻き取り式にすること、もしくは短いものを使うことです。そして、高い位置にフックをかけらえるように、親綱やアンカーを設置すること。場合によっては、床部にアンカーを設け、手すり上を経由するようにすれば落下距離を稼げます。

できない理由を考えるより、できるための策を考えましょう。

作業床があればフルハーネス特別教育を受講しなくていい

そして、(3)のフルハーネス型安全帯の使用に係る特別教育の受講義務ですが、これは旧規定における安全帯の使用義務範囲と混同されている方が多いです。

簡単に説明すると、作業高さが2m以上の箇所において、

  1. 作業床を設けることができないところ
  2. (作業床はあるが)手すりなどが十分でなく墜落の危険がある場所

では、安全帯の使用が義務となります。このうちフルハーネス型安全帯の特別教育が必要となるのは、(ⅰ)の作業床を設けることができない場所で、フルハーネス型安全帯を着用して作業をする方です。

作業床を設けることが困難な状況というのは、具体的には、柱上や屋根上、鉄骨上などで作業する人が想定されます。

言い方を変えると、(ⅱ)の手すりがなく墜落の危険があっても、作業床がある箇所で作業をされる方は、フルハーネス型安全帯の特別教育は受講不要です。

つまり、足場上で作業をする多くの方は、フルハーネス型安全帯の特別教育は受講しなくていいと言えます。

作業床・手すりの設置とフルハーネス型安全帯の着用はセット

今回の様々な法改正の背景には、欧米では墜落制止用器具はフルハーネス型安全帯が当たり前なのに、日本では未だ胴ベルト型安全帯が主流だということがありました。

しかし、墜落による死亡災害の撲滅という観点だと、毎年の墜落死亡者200~300名のうち、フルハーネス型安全帯を着用していれば助かったかもしれない人数は10~20名程度に過ぎません。

要するに、それ以外の墜落死亡者は、そもそも安全帯を着用していない、着用していてもフックを掛けていないために亡くなっているのが現実なのです。

この現状を打破するためには、まずは「高所作業を無くす(減らす)こと」です。つまり、作業床があり、手すりがある作業場所にすることが一番です。その次に、フルハーネス型安全帯の着用とフックの適正使用があります。

この二つの対策を同時に進めることが最も有効です。「胴ベルト型安全帯か、フルハーネス型安全帯か」という問題は、墜落災害を減らす要因としては小さいものとも言えます。

まず本質安全化の観点から、作業床をきちんと設置し、手すりや安全ネットを確実に設置すること。そして、墜落制止用器具のフックを掛ける場所を(事業者が)きちんと設け、その使用を徹底することです。

その上に、フルハーネス型安全帯を正しく使うための指導があるはずです。

「フルハーネスを着なくていい現場」が究極的

フルハーネス型安全帯の原則義務化で、「色々な利権が~」とか「費用の増大が~」とか、そんな愚痴を言いたくなる気持ちは理解できます。

しかし、本来の趣旨は“墜落災害による死傷者の撲滅”です。「そのためには何をしなければならないのか」という考えが先にあり、併せて日本で遅れているフルハーネス型安全帯の導入が必要なのです。

その目的をきちんと説き、実際の現場でどうしたらよいのかをきちんと考えていくことが、講習の講師やそれぞれの会社の安全部、管理者の方々に求められていきます。

特に現場の管理者の方々には、落ちる場所の無い現場づくりこそが重要だと再認識していただき、究極的にはフルハーネス型安全帯を着用する必要のない現場づくりへと、ぜひ向かっていただきたいと思います。

※フルハーネス型安全帯の原則義務化に関する現場の生の声は、こちらで紹介しています。

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地元の産業廃棄物処理業者にて、現場から営業・業務・安全管理・ISO認証など幅広く手がけたのち、登録教習機関にて各種技能講習や特別教育、安全衛生教育を担当。1973年生まれ。
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