完全無事故無災害だった月は「たった2回」の除染現場
私は、東電福島第一原発事故に伴う福島県内の除染事業において、宅地除染の施工管理を担当してきました。元請ゼネコンの社員、派遣社員、下請、孫請など、1日平均1400人、最も多い時には約1800人が働いていた現場でしたが、今では作業も落ち着き、稼働人数は250人ほどに減っています(2017年6月30日現在)。
この5年間、完全無事故無災害だった月はたった2回(1800人体制の時と、最近の300人体制の時)。今月も完全無事故無災害を達成できそうだと思っていたら、交通事故が起きてしまうこともあり、完全無事故無災害はそう簡単なものではありませんでした。
それでも奇跡的に、「休業災害4日未満」を300万時間も達成できたのは、私独自の朝礼前後における行動があったからだと自負しています。あまりマネしない方がいいと思いますが、除染現場における朝礼当番としての私の行動を時系列で紹介しておきます。
除染現場の朝礼当番のタイムスケジュール
6:40 現場事務所着。パソコンを起動し、本日の天候や地震災害等を調べます。
7:00 スクリーニング室(入退場室)にて立哨。作業員一人ひとりに声を掛け、顔色や服装、行動をチェックします。サンダル履きではないか、歩き方や行動に不自然な点はないか、マスクや袋を余計に持っていくものはいないかなどを監視します。
顔見知りの人には「夕べ飲みすぎたろう?いい娘いたかい?なに、おばさんばっかり?お金使わずによかったねえ」。また別の人には「パチンコ勝ったかい?おう勝ったか、いいねえ!今日は班員にジュースをおごってやるの?そりゃまたいい」などと声をかけます。
7:35 朝礼会場にて最高気温、WBGTを掲示。マイクやラジオ体操の音出し確認をします。その後、集まってきた作業員たちと通勤時の交通情報や、地域の行事、学校行事などの情報交換をします。
7:57 朝礼3分前、「服装のチェックはいいですか?腕まくりしてないね、ボタンはきちんと締めてるね、体操中にヘルメット落ちたら即退場だよ」「1日の始まりだよ、きちんとやりましょう」「国道で事故があり大渋滞だそうですね」
7:59 朝礼1分前、「全員揃ったかな?もし朝礼に出ないで車の中にいたら退場ですよ」
8:00 ラジオ体操、「ラジオ体操を始めます!伸ばす所は伸ばす、曲げる所は曲げる、元気よくやりましょう」。体操中には「こらッ!真ん中の前から8番目、グレーのシャツ着てる奴、そうお前だ、猫がたまとってるんじゃねえぞ、まじめにやれよ」と、たまにガラ悪いおじさんに変身して注意します。
ちなみに体操中、全曲にわたって「大きく腕を伸ばしてイチニサンシ……」「こら、そこの奴ちゃんとやれ」と、いちいち声に出してやっていましたが、「住宅地だから悪口が近所に聞こえたら恥ずかしい」と言われてしまい、目立つ人にだけ「しゃべるな」とか「誰だアクビしているのは」とか「体調悪いの、前に来なさい」とか言うようになりました。
8:05 「はい肩もみします。イチニサンシ……、はい、回れ右、イチニサンシ、はい、お直り下さい」
8:07 「おはようございます!○月○日月曜日、朝礼を始めます。本日の天候は晴れ午後曇り、最高気温は30℃、湿度84%、風向風速、南南東の風5m、本日のWBGT温度は28℃、警戒となっていますので休憩は午前中に2回、水分補給は1時間に1回以上となっております。現在警報注意報は出ておりません。本日の行事ですが、10時から支店パトロール、11時30分から班長以上を対象としたハチ対策ビデオが会議室で上映となっています」
8:10 「当番からは以上です。他に連絡事項のある方はいませんか?いないようでしたら服装保護帽のチェックと安全十則を唱和します、A工業のBさん大きな声でお願いします」
8:15頃 朝礼終了、このあと各会社や班に分かれてKYミーティングを実施。
8:20頃 職長会の役員と事務所出口で立哨。駐車許可証や確実な一時停止の確認、ダンプ等荷物の固縛、ランプの点灯、パンクなどを1台ずつ監視し、「行ってらっしゃい」と告げ頭を下げます。「行ってきます」という言葉が作業員から返ってくるのは、ようやく半分程度になってきました。
8:40頃 ひとりごと「きょうもいい日でありますように」
11:30 昼会、「ただいまより昼会を始めます。安全について何かある方は挙手して発表してください」
- 安全についての発表
- 各グループの仕事内容の報告
- 全体の連絡事項・その他
- 職長会からの発表
- 部門長から発言
この昼会の協議事項が、明日の朝礼時に発表されます。質問があった場合、問題が長引くようだと個別に対応するようにしています。昼会は食事前なので、ポイントを整理してスムーズに進行するよう心がけています。
16:30 再びスクリーニング室で立哨、「お疲れさまです。体調どうですか、ケガはないですか?異常がある人は遠慮なく班長か私に言ってください」「はい、マスクはここに捨てて、紙タオルはそっちです」「なに、マスクを忘れた?すぐにとってきなさい、持ってくるまで退場処理できませんよ」「酒はほどほどにね、明日また会いましょう!」
退場時の情報収集も有効です。他の会社や他班の出来事、事故事件などいろいろな情報を入手できます。
17:00 ひとりごと「かみ様、ほとけ様、ありがとうございました」
除染現場から救急車で運ばれた方の9割は朝食ぬき
朝礼自体はたかだか15分位ですが、9割の人は聞いていません。ですから話の途中でも「そこの誰々聞いてるか」とただします。
また、朝礼に至るまでの時間帯で災害の余兆を発見することもありました。例えば、アルコール依存症の人は、まっすぐ歩けないし元気がない。こりゃおかしいと職長に連絡し病院へ行かせたところ、即入院。別の人も酒の臭いがするので尋ねたところ、朝3時まで飲んでいたので即退場なんてこともありました。
その他にも、入場係員に汚い言葉を浴びせていた作業員がいたので注意すると、私にも文句を言ってきたので職長を呼んで即退場。服装がきちんとしておらず、前がはだけ、ボタンもせず、腕まくり、靴はかかとを踏みつけているという人も退場させました。
それから朝食をたべてない人、睡眠不足の人は熱中症にかかりやすいので、「ご飯かパンたべましたか?そう、どのくらい、え、ごはん2杯もたべたの」「夕べは何時に寝ましたか?よく眠れた?えーっ!暑くてよく眠れなかったの、体調がおかしいときは班長に申し出てくださいね」
除染現場から救急車で運ばれた方の9割は朝食ぬきでした。朝早い遠方からの通勤のせいか、それとも、お金がなかったからなのか、それはわかりません。除染現場で働いていただいている方々は様々な事情を抱えていますからね。
除染現場のマナーは悪すぎた
朝礼当番は1ヶ月半に1回やってきます。私みたいな人がもう1人いたので、2人で現場の風紀を維持するため、3年ほど前から上記のような行動を始めました。上からやれと言われてやったわけではありません。
除染現場のマナーは悪すぎました。指導監督する職員もだらしなく、作業員に指摘されたことも返答できていませんでした。作業員は事故・事件をおこし、周知会を毎日のように開催していました。
「何とかしないといけん!憎まれものになってもいい、馬鹿になろう!一生懸命に態度や言葉で伝えよう」と心に誓いました。だから朝礼も本音でやりました。非難も受けましたが、めげずにまだ続けております。
嫌で嫌でたまらなかった朝礼の進行も、いつの日か楽しくなりました。今では私の出番を期待している人もいます。年月は経ち、朝礼から安全活動へとつながって、あれやこれやで大記録達成です。「休業災害4日未満」の300万時間達成はまぐれ、奇跡だと思います。これも所長はじめ職員、職長会が一致団結したからです。私の貢献もあったはずと思います。
いや、現場管理はむつかしいですよね。私は今日も、作業員と1対1で向かい合い、声かけ、心づかいを大事にして現場で頑張ります。
継続は力なりと根気よく継続出来った結果が繋がっててると思います。
現場の人間が普通なら なんの苦労もありませんよ。逆に普通の現場で同じことしたら、現場にいられないですね。たまに勘違いした監督がいますね。