土木の会社が建築をやった
この建築現場は、建築の知識がないゼネコンの土木技術者たちによって進められていた。
建設コンサルタントが「そもそも建築用語が全く通じない!」と嘆くほどだった。
実際、私が現場に赴任した時も土木の工事だけが進み、建築は基礎の捨てコン以降、全く手付かずの状態だった。
私は現地に行く前から「建築はあまり進んでいない」と本社から聞いていた。「これから建築の人員を増やしていくので、まずは先兵として一人で行って下さい」と言われて、このガーナの現場へ単身赴任でやって来たのである(現場概要はこちら)。
しかし、現地の事務所では「あなたが来たので、当分、建築の人間を補充する予定はない!」と言われた。海外の現場経験は多いので、「現場に行ったら話が違う」ことには慣れているが、この現場は日本での話と違いすぎた・・・。
意匠図面を読めない土木の人間
そもそも土木と建築は、全てが違うと言ってもいい。
構造図面はまだしも意匠図面となると、土木の人間は全く図面が読めない。無理もないのだが、「この会社はよくぞ建築の仕事をやろうと思ったな」と呆れた。
建設コンサルタントが「現場承認用の施工図などが一枚も出ていない!どうするつもりなんですかね?」と逆に聞いてくる始末だ。
とにかく、コンサルの言い分を正確に伝える事。コンサルの主張を事務所の中の土木の人間に通訳する事。私の仕事はそこから始まった。
呆れた話はキリがないが、印象深い話を幾つかしよう。
金属製建具をめぐる土木と建築のバトル
厳重に梱包された日本からの金属製建具が到着すると、数量・寸法検査を済ませ、間配りをしてから取り付けていくのだが、この現場では「金属製建具の取り付けの解釈」が大きく違っていた。
土木の人たちは「すぐに取り付く」と思ってるらしく、取り付け専門の職人も居ないのに、「総数60程の建具なら、2日もあれば楽勝でしょ?」と私に聞いてきた。
「冗談じゃない!」と私は即答した。専門の取り付け職人が手配されていないし、しかも、今まで一度も金属製建具に触ったことも無いような現地ワーカーたちに指示しながら取り付けていかなければならない。
高さ・垂直・水平を測定する機械もロクに無い状況で、正規の位置を決め、枠周囲のコンクリート内部の鉄筋に、アルミフレームを傷つけずに枠を溶接で取り付けるだけでも、試行錯誤の連続で簡単じゃないことは明らかだ。
おまけに、現場には正常なレベルの機械が一台しかなく、建具取り付けのためにレベルを占有することもできない状況だ。
やむを得ず、透明ホースに水を入れ、それでレベルを確認しながらの作業となった。今時こんな方法でレベルを計るとは、いくらアフリカと言えども思いもよらなかった。
私は現地ワーカーに説明し、基点の位置を外壁に付けられた信用できるレベルマークから追い出した。
やっと一つの開口の腰高の水平線が引けるまで、2時間も掛かった。
正常なレベルの機械は1台だけ
私は現地の真面目で頭の回転が早いワーカーを4人ほど選び、彼らに基本を教え、そのあとで他のワーカーを加え、指導させながら作業を進めようと思った。
そう思い通りにはいかないだろうなと思いながら、現場を一回りして元の場所に戻ってくると、やっぱり誰もいなくなっている。この程度の出来事は海外の現場経験が長いと想定済みだが、それでもやっぱり精神的にガックリくる。
現場のまとめ役のジョーと二人で散々探し回って、やっと彼らを見つけたのは、土木の擁壁コンクリート打設前の型枠の底を掃除をしてるところだった。土木の人間たちがお構いなしに、人手が足りないと連れて行ったらしい。
土木の人間は全員、日本のゼネコンのプロパー社員で、私は派遣されてきた社外の人間。どうしても立場が違うのは明らかだ。
最後の手段!建設コンサルからJICAへ連絡
「明日のコンクリート打設は何がなんでもやるため掃除が必要だった」というのが彼等の言い分だが、建築の都合など全く考えていない。
建築の工程なんか知っちゃいない、土木優先だ!という空気が蔓延し、建築工事がドンドン遅れていく。
「それでは困る!建築に必要なワーカーは是非確保して欲しい!」
「建築作業中のワーカーを勝手に土木の工事に従事させるのはやめて欲しい!」
と毎日のように主張しても聞き入れて貰えない。
それどころか、会議の席上では「建築の遅れを取り戻すために、建築の人間としてお前を呼んだのに成果が上がってないじゃないか!」「いろいろな困難がある中で工夫して工事を進めるのがお前の役割だろう!」とボロクソに言われる。
建築の工程の説明をしても、全く聞く耳を貸そうとしない。そんなことが毎日続く。
日本の本社に状況を説明しても、「分かってる、何とかするから、もうちょっと待ってくれ」と返事は来るものの、事態は一向に改善されない。
もう最後の手段は「これしかない!」と実情をコンサルに伝え、コンサルから直接JICAと東京本社に実情を伝えて貰った。
流石にこれは効果的だった。
それ以降、土木の仕事に建築のワーカーを引っ張って行かれることは無くなったが、土木優先のワーカーの配置は改善されず、建築の進捗は工程から大幅に遅れたままだった。
この工程の遅れは最後の最後まで取り戻すことはできず、結果的に工期は半年遅れた。
土木の人間と建築の人間
土木の人間とのトラブルが連続し、私は途中からこのゼネコンの現場を辞める覚悟だった。
しかし竣工まで現場に居られたのは、尻尾を巻いて日本に帰ったら土木の人間に負けたようで癪だったからに他ならない。
金属製建具の取り付けは困難を極めたが、徐々に現地ワーカーたちも慣れてきた。当初は一日1本だったが、効率も上がってきた。
それでも当初の工程からは程遠く、見かねた土木の人間がやっと金属製建具の取り付け職人の手配を認めてくれた。
それでも日本のように効率が格段に上がるわけではなく、取り付けては手直しの連続だったが、鉄扉を含め、やっと一ヵ月で全数取り付けが終わった。
取り付け作業の具体的な内容や、いざこざについては、次回詳しく紹介する。
(つづく)
そうかな?土木と建築というのはどうでもよくて問題はそこではない気がします。海外案件が増えるにあたって参考になりました。