i-Constructionの本音 課題も多くあり
前回は「実例に見るICTのスゴさ」という内容を記述した。しかし、多くの読者がその内容に「違和感」を感じたことだろう。
私自身、よくそのような意見を頂戴している。
では、そのICT施工をめぐる「違和感」とは何なのか?
まだまだ課題の多いICT施工について、今回は一歩踏み込んだ議論をしてみたい。
コストについての議論である。
ICT導入協議会(国土交通省)の中身
皆さんは2019年3月1日に第8回 ICT導入協議会が開催されたのをご存知だろうか?
年2回、国土交通省によって実施されるこのICT導入協議会において、日本のICT施工をめぐる課題や方針が議論されている。
第8回 ICT導入協議会では、主に2018年度(平成30年度)のICT活用工事に関する実施状況が報告された。
配布資料には、工種拡大と拡大工種における生産性がどのくらい向上しているかが記載され、ICT土工の活用によって約3割の向上が見込まれている。
「 ICT導入協議会 第8回 【資料-1】ICT 活用工事の実施状況(H30年度)/ICT土工の活用効果」国土交通省
さらに、小規模工事(5000m3未満の土工事)においては、約4割の削減効果がみられたと報告している。
「 ICT導入協議会 第8回【資料-1】ICT 活用工事の実施状況(H30年度)/ICT土工(小規模)の活用効果」国土交通省
いずれにしても、削減の母数は「作業時間」に主眼を置いたものであるためコストの比較はない。
ただし、時間が削減されると必然的にコストも削減される、という意味が込められていることは自明の理である。
しかし、ここでちょっと待ってほしい。
この削減効果について、各自で考えてみていただきたい。
「本当にコストも削減できているのか?」と。
ICT活用工事とコスト議論、外注の危険性
たしかに、土木の現場に「ICT活用工事の流れ」を定着させることは優先事項である。コストをめぐる議論は、その定着の流れを阻害しかねないため、ICT活用工事の流れが定着してから展開すべきであると私自身も重々承知している。
しかし、すでにICT活用工事を自分の武器として実施している人たちから見たら、この「ICT土工における削減効果」の数値はどのように映っているのだろうか?
もし周囲にICT活用工事に本気で取り組んでいる人がいたら、ぜひ聞いてみてほしい。
多分こう言うであろう、「時間の短縮もできるがコストも削減できる」と。私も「できる」と自信をもって言おう。
ただし条件がある。外注に頼るような「流れ」を作り上げている企業はおそらく無理である。
外注に頼る流れを作ってしまうと、例えば、測量データから現状を理解し、そのデータを使って設計データの細部を修正し、ICT建機にデータを渡すなどの「データの連続性」が途切れてしまう。外注によってそのタイミングで余計なコストがかかってしまうのである。
ICT施工における一連の流れをすべて外注で請け負う会社があるのも理解しているが、そうした会社を使う場合、実際の課題やその課題への解決策がわからないまま、ICT施工が行われる。そのため、本当のコストに関する議論は誰もできなくなってしまう。
真剣にコストに関する議論を戦わせられる方が、日本国内にどのくらいいるのか?
いま一度、関係者全員でコストと向き合ったほうが良い時期になったのではないかと思っている。
受注者のみならず、発注者もしかりである。
コストの議論は昨今の「ICT定着の機運」に刃を向ける可能性もあり、劇薬であることは理解している。
しかし、i-Constructionを一過性のお祭りで終わらせないためには、コスト議論は避けられない。
ICT積算基準(国土交通省)と、有名な積算ソフトの比較
ちなみに、積算上の公表されている資料や、とある有名な積算ソフトが出しているコストと、実際のコストを比較したことがある人はいるだろうか?
施工会社はこれらの情報を逐次理解し、「実際の費用との差をどうやったら解消できるのか」を常に考え、試行錯誤すべきである。
いま試行錯誤しなければ、いつやるのか?
ICT活用工事を拡大するこの時期を逃すと、本当の戦いには今後勝てなくなるはずだ。
ICT活用工事を生かすも殺すも、今の「あなた」であることを再度確認してほしい。
キャッシュフローを改善する「施工履歴データによる土工の出来高算出要領 (案)」
さて、コスト議論もさることながら、ICT活用工事のメリットは、検査監督業務にもこのデータを活用できることが重要である。
皆さんは「施工履歴データによる 土工の出来高算出要領 (案)」が、2019年3月1日に改定されていることをご存知だろうか?
施工履歴データによる土工の出来高算出要領(案) / 国土交通省
前回の資料がもし手元にあれば、どこが変わったのかを確認してほしい。多くの改定がなされていることを理解できるだろう。
この基準は本来、われわれ施工会社がICT活用工事を行うことで、一番メリットを享受できる部分である。
が、誰もこの基準を使って自社のメリットを出している人はいない。私の知る限り、ほとんどいない。
実は、この基準は施工会社のキャッシュフローを大幅に改善するために、発注者が肝入りで作ってくれている基準である。
しかし、前回の基準で実施しようとすると、「どのような情報でその出来形を確認するのか?」「確認するためにどんな情報が最低限必要になるのか?」などが基準にあまり書かれていないため、日本人特有の「書かれていないとできない」状況に陥り、ほとんど利用されていなかった。
そこで、何が問題でどうすればその問題を解決できて利用できるようになるのかを、ある実際の案件で実施してみたところ、多くの課題と改善点を見つけることができた。
一番簡単だったのが帳票である。どんな帳票がないと確認できないのかを考え、発注者と意見交換しながら「このような帳票ではどうか」というやり取りを数回すれば、だれでも作成できる内容である。
このような単純なところから始めて、出来高数量として帳票で認めてもらい、実際の出来高の9割を毎月支払い処理してもらうことも可能である、というのがこの基準である。
「施工履歴データによる土工の出来高算出要領 (案)」を活用しよう
出来高帳票を作成し、発注者と協議をして出来高数量を認めてもらい支払い対応を進めるということを従来の方法で毎月処理するのは手間がかかりすぎて、至難の業だ。
出来高数量確定のためにかかる時間とコストを考えると、毎月するほうが時間もコストもかかるという流れであったが、それがゆえに現場運営のために必要なキャッシュフローが厳しくなることも多かった。
ICT活用工事はコストがかかるということを盛んに言われる方も多いが、逆にICT活用工事だからこそ、現場のキャッシュフローが改善され、本当の意味で生産性が向上する問う流れを作り出すことが重要である。
読者の方々、この「施工履歴データによる 土工の出来高算出要領 (案)」に着目し、どんどん活用してみようではないか。必ずメリットはある。
もし、「施工履歴データによる 土工の出来高算出要領 (案)」での運用にまだ難しい点や課題があるのであれば、それを解決するために「どうするか」を考えるのである。考えなければ、その先はない。
・・・次回は「i-Constructionの本音 向かう先はどこへ」という内容を記述する。
どこに行くのか、向かうのか、あるいは行きたいのか。ICT活用と工事契約に関してもまとめてみたい。
(つづく)