アントレプレナー賞で最優秀賞を受賞した、京都サンダー株式会社の新井恭子社長

「書類作りは現場監督の仕事じゃない」”建設ディレクター”は建設業界の働き方を変えられるか?

「建設ディレクター」がアントレプレナー賞を受賞

建設会社の事務所と現場監督をつなぐ存在として、現場監督が行う書類作成業務を代行する「建設ディレクター」という新しい職種がある。

この建設ディレクターを建設会社で働く人々の処遇改善や新規雇用につながる「新たな職域」として提唱したのが、京都サンダー株式会社(京都市上京区)だ。

「建設ディレクター」という新しい職種が、建設業界を変える?

この取り組みは京都府などから高く評価され、女性起業家に贈られるアントレプレナー賞も受賞している。

建設ディレクターの普及で、建設業界の働き方はどう変わるのだろうか。京都サンダーの新井恭子社長に話を聞いてきた。


若手や女性が短期間で建設業の基本を学ぶ

京都サンダーの本業は、積算ソフトやICT導入支援などICT関連のコンサルティングだ。

そのかたわら、2017年1月から建設ディレクター育成のための育成講座を定期的に開講。2017年6月には受講修了の認定などを行う一般社団法人建設ディレクター協会(事務局=京都サンダー)を設立した。

参加者のうち、女性は約6割。意外に男性も多い。土木や電気など、公共工事を請け負う会社からの参加が多い傾向がある。

参加した建設会社の規模は幅広く、大小問わず共通の課題があることを物語っている。参加会社の経営者には、「このままではダメだ」という危機感を持った30〜40歳台の比較的若い経営者が多いという。

2018年からは、地元京都に加え、東京でも講座を開講するなど、建設ディレクターの普及を図っている。

建設ディレクターの役割

カリキュラムは全8回の座学。「建設業マネジメント(建設ディレクターの役割、建設業の動向、情報管理など)」、「建設概論(建設業の社会的役割、工事の業務フローなど)」、「施工管理」、「CAD」、「積算演習」、「書類業務の基礎知識」、「会計の基礎知識」から成る。講師には、それぞれの実務経験があるプロが立つ。

講座では、キャリアカウンセラーの資格を持つ京都サンダー社員が参加者をサポート。本人や会社などにヒアリングを行い、本人のスキルを把握した上で、必要に応じて個別指導などを行っている。

建設ディレクターを「医療事務」のような職種にしたい

京都サンダーの新井恭子社長には、「建設ディレクターを医療事務のような職種にしたい」という思いがある。医療事務は女性に人気の職種。比較的簡単に資格を取得でき、近くに病院があれば、全国どこでも働ける。

建設ディレクターも同様だ。認定を受ければ、近くに建設会社があれば、全国どこでも働くことができる。そうなれば、建設業に縁のなかった女性が興味を持つようになる。建設業のイメージも変わる。そういうビジョンを描いている。

建設ディレクターの導入効果

こうした取り組みが、建設業界での女性の新しい働き方を提案する新たなビジネスモデルとして評価された。京都サンダーは2019年2月、京都府などが主催する「京都女性起業家賞(アントレプレナー賞)」の知事賞最優秀賞を受賞したのだ。

プロジェクト始動から2年が経過。これまでに全国で130名以上の建設ディレクターを世に送り出している。今後は、労働当局への働きかけなども行っていく考えだ。

さらに、京都サンダーは現在、国土交通省のi-Construction推進コンソーシアムの一員として、「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」の土工工事に参画している。

この工事では、京都サンダーが持つコア技術を駆使し、現場に定点ビデオカメラを設置し、タイムラプス映像による遠隔モニタリングなどを行なっている。

新井社長には、この遠隔モニタリング技術などの京都サンダーが持つICT技術を「最終的には、建設ディレクターのツールとして活用できるものにしたい」という構想もある。


「書類づくりは現場監督の仕事」という固定観念

ただ、課題もある。建設業界には「書類づくりは現場監督の仕事」という固定観念があり、せっかく建設ディレクターを配置しても、現場監督が自分の仕事をうまく任せられないケースがある。

そもそも、現場とオフィスのコミュニケーションが不足気味という土壌も少なからず影響している。

現場監督は本来、自分にしかできないコア業務に専念すべきだ。だが、様々な事情から建設ディレクターにすんなり任せられない人もいる。

課題解決には、「この業務は建設ディレクターに任せる」という経営者、現場監督、建設ディレクターの三位一体の取り組みが不可欠になる。

建設ディレクターは働き方改革の救世主になるか

「建設ディレクターの構想は、そもそも地元建設会社の現場監督から声を聞かせてもらったことから始まっている。

今後も引き続き、建設ディレクターの知名度を上げつつ、建設業で働くことの魅力について、業界内外に対し、積極的に情報発信していきたい」(新井社長)と力を込める。

建設業の働き方改革は、大手は別として、掛け声ばかりで実際には遅々として進んでいない。地域の建設会社では、書類づくりを含め、複数の現場を掛け持ちせざるをえない現場監督も少なくない。

建設ディレクターが地域建設業の働き方を変える救世主になるか。今後の動きを見守りたいところだ。

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