中堅、若手、見習いの現場監督にインタビュー
高知県で公共土木などを手掛けるミタニ建設工業株式会社(本社:高知市)には現在、78名の現場監督がいる。
同社では、40歳以上の中堅、ベテランが主力となっており、今後20歳代の若手現場監督の育成が課題だ。だが、2012年の官製談合による長期の指名停止処分を機に、「家業としての地域建設業」からの脱却や社員にとって働きやすい環境づくりなど様々な社内改革を進め、「旧い建設業」からの脱却を目指している。
そんなミタニ建設工業の中堅、若手、見習いと立場の異なる現場監督3名に、土木の魅力や現場監督のやりがいについて実際のところどう感じているのか、それぞれ聞いてきた。(※役職・社歴は
「現場がツライ」と思ったことはない
岡林亜実さん。ミタニ建設工業株式会社 舗装部
――建設業界で働き始めたきっかけは?
岡林さん 「体を動かす仕事がしたい」ということで、ミタニ建設工業に入社しました。高校は明徳義塾高校の普通科出身でしたが、とくに不安はありませんでした。友達などからも「亜実なら、できるろう」と言われていました。そんなに深く考えずに入社しました(笑)。
舗装部に配属され、今年で4年目です。今の現場では、作業員の方々に「こうして欲しい」ことを伝えたり、写真を撮ったり、作業を手伝ったりしています。現場見習いの日々を送っています。現場では分からないことも多いですが、先輩方が一からいろいろと教えてくださるので、とくに困ったということはありません。
上司の方などに聞けないことは、同期の男性社員に連絡を取ったり、ミタニ建設工業の直営の作業班の作業員さんに女性がいるので、ふだんからおしゃべりしているので、その人に相談したりしています。これまでに取得した資格は、車両系、ローラー系、玉掛けなどです。現在は、2級の土木施工管理技士を勉強中です。
――仕事がツライと感じたことは?
岡林さん 「現場がツライ」と思ったことはないですね。確かに暑かったり、寒かったり大変なときはありますが、会社でも、空調設備を整えてくれたり、「トイレカー」を設置してくれたり、いろいろ配慮してくれているので、慣れれば、意外と快適です。セクハラはたまにありますけど、気にせず、笑ってスルーしています。
亜実さんの現場に駐車中の「トイレカー」。イラストはミタニ建設工業のマスコットキャラクター「やいろちゃん」
仕事の悩みは、作業を手伝いたくても、重たいものを運んだりするとき、女性ということで、逆に周りから気を使われることです。「やらんでえいき、おいちょって」と言われたとき、「本当は持って来て欲しいのかな?」と迷ってしまうことがあります。
――今後、やってみたい仕事は?
岡林さん 将来的には、高速道路の仕事をやってみたいですね。コンクリート舗装に興味があります。コンクリート舗装の現場に行った同期の子がいて、「すごく勉強になったよ」という話を聞いたので、「私もやりたい」と思ったからです。
若い子に育ってもらわないと、ボクらがシンドイ
有澤由和さん。ミタニ建設工業株式会社 土木部
――今担当しているお仕事は?
有澤さん 公共土木の施工管理の仕事をしています。高校を卒業してから23年間、ミタニ建設工業で施工管理に携わってきました。自分の親は公務員で、息子も公務員にさせたかったようですが、「現場監督をやりたい」という自分の思いがあったので、ミタニ建設工業に入社したわけです。
初めて現場代理人に就いたのは13年前で、国交省の現場でした。下請けの現場を担当することが多かったので、ちょっとデビューが遅かったんです。
――印象に残っている現場は?
有澤さん 良かった現場のことはいろいろと覚えていますが、イヤな思いをした現場はあまり記憶にありませんね(笑)。国の高規格道路の橋梁下部工事など、とくに発注者に恵まれ、点数が取れた現場は良く覚えています。キツかった現場は、導水トンネル工事の下請けの現場です。主任技術者として入ったのですが、やることも多くて、シンドかったです。
有澤さんが手がけた「葛島第2高架橋下部工事」
ミタニ建設工業には若い人があまりいないので、土木で言えば、ボクですら年齢が下から数えて6番目ぐらい。上の世代のほうが多いです。30歳台がほとんどいなくて、20歳台が少しずつ増えている感じですね。
自分の現場に若い子が入ったときは、いろいろ指導することはあります。最近の現場で監理技術者、現場代理人に名を連ねるのは、僕らの世代の人間ばかりなのが気になるところです。若い子に早く育ってもらわないと、「ボクらがシンドイ」ところがありますので(笑)。
――現場監督に求められるスキルは?
有澤さん 建設業はやっぱり「シンドイ」仕事です。本人にヤル気がないと、続かない仕事だと思います。
ボクが考える現場監督に必要なスキルは、やはりコミュニケーション能力だと思います。現場によっては、想像力も必要ですね。図面を見て、どういうモノができるか理解できないと、ちゃんと管理できないし、下請けさんにも説明できません。
あとは、実行力。自分で決めたことは、自信を持ってやっていく。土木の現場では、掘ったら水が出てきたとか、山が崩れたとか、必ずと言って良いほど予期しない出来事が起きるので、その辺の対応力も必要になってきます。
国の工事では、工事の追加とか変更がしばしばあります。昼間は現場を見て、夜、追加工事などの準備作業を行うことになります。工期的にも非常に厳しい現場でした。国では週休2日を推進していますが、工期の見直しをして欲しいところです。
――今後はどんな仕事がしたい?
有澤さん 会社にあまり経験者がいない仕事をしてみたいですね。橋梁やトンネルの補修工事の仕事が増えると思うので、とくに経験を積みたい工種です。
舗装の仕事は「目に見える」のが魅力であり、厳しさ
中越勝美さん。ミタニ建設工業株式会社 舗装部
――ミタニ建設工業に入社してどれくらい経ちますか?
中越さん 高校を卒業後、ミタニ建設工業に入社してからずっと舗装の仕事をしてきました。今年で21年目になります。高校生の頃から、「道路づくりがしたい」という思いがあったので、ずっと舗装の仕事をしてきたことに満足しています。
――舗装工事の魅力は?
中越さん 舗装の仕事は、トンネルや橋の工事に比べ、周りから作業を見られながら行うことが多いですし、できあがったものも目に見えます。そこに魅力を感じていますね。
自分が以前担当して、数年経った現場を車で通ることがありますが、自分がやった仕事が目に見えるカタチで残っていることに、喜びを感じます。
中越さんが担当した「朝倉駅針木線県単街路整備工事」
一方で、舗装の仕事は「出来不出来がすぐ分かる」ので、シビアな面もあります。実際に自分が車で通って「気持ち良い」と感じると最高の気分になりますが、あまり状態が良くない場合は、「もうちょっと、ジョイント部分を下げちょったら良かった」などと反省することもあります。
実際に作業をするのは作業員さんですが、最終的なチェックを含め、作業の指示は現場監督の責任なので、モノが悪いのはすべて自分の責任です。完了直後の最終チェックを行うのですが、舗装工事の場合は、その判断が難しい部分があります。
――気を付けている点は?
中越さん 舗装工事では、沿道の民家との取り合わせ部分の施工の仕方や計画の立て方は、現場監督の感覚に負うところが大きく、「人それぞれ」なところがあります。結構個性が出るんです。
私がとくに気をつけているのは、現道への「すりつけ」の部分です。車で通ったときに段差を感じないようなすりつけを常に心がけています。キレイなすりつけができている舗装を見ると、他社さんの現場でも「なかなか能力高いな」と思うことがあります。
――舗装部の体制は?
中越さん 舗装部には約20名の技術者がいます。ここ4年ぐらいの間に、若い子が入ってきています。それ以前は、自分が一番の若手のような状況がずっと続いていたので、若い子を指導する機会がありませんでした。
今の自分の現場には20歳の子がいるのですが、昔自分が教えてもらったときと同じやり方は、今の子には通用しません。凹んでしまって、下手すると辞めてしまうからです。昔に比べれば、「甘いやり方」で指導するようにしています。もう、「優しく言い聞かせる」しかないですね(笑)。
「分からないことはなんでも聞いて」と言っているのですが、それでも自分の判断でやって、後でミスとして発覚する。それで萎縮してしまって、ますます聞かなくなるという悪循環に陥るケースもあります。