北沢俊隆さん(株式会社熊谷組 九州支店 阿蘇恒久対策作業所長)

「見るのではなく、”観る”」 熊谷組ひと筋34年の現場所長が語る”現場の極意”と”無人化施工”

熊本地震の復興現場で奮闘する、熊谷組の現場所長

2016年4月、熊本地震が発生した。熊本県の阿蘇大橋地区では、高さ約700m、幅200mにわたり山の斜面が崩壊。約50万m3の土砂が流れ落ち、国道57号、JR肥後本線が寸断された。熊本都市圏と大分、宮崎を結ぶ交通インフラが絶たれ、地域の生活、経済に深刻なダメージをもたらした。

国土交通省は発災の翌月から、砂防事業として災害復旧に着手。余震が続く中、二次災害の危険もある作業だったが、重機の遠隔操作による無人化施工などの技術を駆使し、2020年3月に工事完了を迎える。

この難工事を請け負ったのが、株式会社熊谷組(本社:東京都新宿区)だ。熊谷組は「ネットワーク対応型無人化施工システム」を独自開発。約1km離れた操作室から、最大で14台の重機を同時に稼働させ、危険斜面での土留盛土作業などをやりおおせた。

ひょんなことから、熊谷組の現場所長である北沢俊隆さんにお話を聞く機会を得た。施工の苦労話などについて話を聞いてきた。


架設の段取りに注力

――この砂防事業はかなり規模が大きいそうですね?

北沢さん これだけ大きな規模の砂防事業は初めてです。めったにないと思います。

法面の現場の様子(2019年10月下旬時点)

――大きな現場ならではの工夫というと?

北沢さん モノをどう運ぶといった架設の段取りには力を注ぎました。それをうまくやっておかないと、早く終わらないからです。この現場では、足場のある中央部分にモノが運べるよう索道を2条張り、荷降ろしできるようにしました。

そこを拠点にして、あとは人力で上や下にモノを移すようにしました。なるべく人力での作業を軽減することが、作業を早く終わらせるコツだからです。

――索道ですか。

北沢さん 一口に索道と言っても、どこに張るかで作業効率が大きく違ってきます。慣れていない技術者だと、「どう張るか」をまずイメージできないんです。

僕はもともとダム屋なのですが、高さを考慮して段取りを組むことに慣れています。この現場は上の部分が最初から崩れているので、全て見えているわけです。僕にとっては、「ここが危ない」「あそこが危ない」というのがすぐにイメージできたので、むしろやりやすいほうでした。

重機14台での大規模な無人化施工

――最初のころは無人化施工でやったそうですね。

北沢さん 砂防事業の現場では、下の方で土留盛土をつくる部隊と上の方でラウンディングする部隊の2つの部隊がありました。私は上の部隊のメンバーとして、無人化施工を担当しました。

無人化施工は、下での作業も含めると、2016年5月から2017年3月まで続きました。細かい点ではいろいろありましたが、トータルとしては非常にスムーズな作業ができました。まず、普通のバックホウに遠隔操作のための機器を取り付け、バックホウをバラして、上までヘリで上げました。遠隔操作ができるよう、その後、無人化施工に入りました。

無人化施工の様子

――無人化施工のメリットは?

北沢さん 熊谷組の「ネットワーク対応型無人化施工システム」の特長は、数十km離れた操作室から操作できることです。ヘルメットを脱いで、空調の効いた部屋にて、モニターを見ながら作業できるわけです。実際は、現場から1kmほど離れた立野病院の前のヤードに設置し、14台のバックホウなどを動かしました。

オペレーターさんは14名ほどいましたが、1人で複数の重機を動かしていたこともありました。無線が混線することはないので、何十台単位で同時に動かすことができます。

無人化施工操作室の様子

――精度はどうでした?

北沢さん 遠隔操作は、オペレーターさんが目視ではなく、モニター見ながら作業をするので、仕上がりの精度は、やはり目視の方が良いです。操作方法もラジコンのようなコントローラーで行うのですが、オペレーターさんは、通常のバックホウのレバーでの操作に慣れている分、操作感覚を掴みづらかったようでした。

ただ、しばらく作業をしているうちに遠隔操作にも慣れてきたので、工程管理などに支障をきたすということはありませんでした。なにより、人がケガすることはないので、安心して見ていられました。

作業は日中のみでした。夜間は、無人化施工とは言え、ちゃんと照明で照らして細かいところまで見ながらでないと、やはり危ないので。

――困ったことはなかったですか?

北沢さん 無線の入り方に波があったのは、困りましたね。ちゃんと電波が飛ぶよう櫓を建てて、そこから飛ばしていたのですが、霧が出たりすると、たまに無線が入りにくくなったりしました。霧が出たら、モニターも見えなくなるので、そもそも作業できないんですけどね。どんな条件でも、安定的に無線が飛ぶよう改良が必要だと考えています。

――重機の点検はどうしていたのですか?

北沢さん 重機の点検は、毎朝、昼行いました。重機をワイヤーに吊るして降ろして、人が目視で点検しました。原始的なやり方でしたが、山の上に30cm角の丸太を地面に埋め、アンカー代わりにしてワイヤーを張りました。


「現場を”観る”クセ」が、現場仕事のすべての始まり

――社員さんにとっても勉強になる現場ではないですか?

北沢さん これだけ大きな現場になると、「どこを観るか」が重要になります。「見る」ではなく、「観る」ですね。どこに注意するかということです。今ウチの現場には、若手を含め7名の社員がいますが、若手には多分わからないと思います。

僕は若い社員に対して、「あそこはどう?」、「ここはどう?」と質問することにしています。若い社員には「観る目」を持ってほしいからです。土木技術者にとって、いちばん重要なのは「観る力」だからです。安全、品質管理などすべてに必要な能力だと思っています。その後、細かいことを教えていくことにしています。

まずは「現場を観るクセ」をつけること。これが現場仕事のすべての始まりになります。

設計などの部署だと、「観るクセ」はつかないと思います。でも、現場仕事ってそういうことなんですよ。例えば、パッと見て「あ、おかしいな」と気づかないと、ダメなんです。僕自身、会社に入ってからずっとそうやってきましたし、若い社員にもそれを教え込んでいるところです。

地元の方々からの「ありがとう」が一番心にしみる

――北沢さんはダムが長かったのですか?

北沢さん 僕は熊谷組に入って34年目ですが、最初は神戸の須磨の土取りの現場でした。その後、造成、トンネルを経て、ダムの現場に行きました。奈良の大滝ダム、岐阜の徳山ダム、島根の笹倉ダム、大分の大山ダムなどをやりました。それで今の砂防の現場に来た感じですね。

――仕事のやりがいを感じるときはどういうときですか?

北沢さん 仕事のやりがいは、地元の方々から「ありがとう」と言われることですね。今の現場は震災復旧の仕事なので、「ありがとう」と言われることが多いんです。

大山ダムをやっていたときに、大雨が降ってダムが満水になったんです。その7年ほど前にも大雨が降って、ダム下流の支流で被害が出ていました。もし大山ダムがなかったら、また被害が出ていた可能性が高かったのですが、ダムのおかげで被害が出なかったわけです。地元の方々から「ありがとね〜、北沢さん」と言われたのですが、「この仕事やって良かったな」と思いました。

僕らの仕事は、国民、地域の皆さんのための仕事ですからね。自分のためではなく、皆さんのためにやっているという使命感でやっているんです。だから、地元の方々に「ありがとう」と言われるのが、一番心にしみるんですよ。

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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