国交省が求める人物像とは?
国土交通省は、2001年1月に運輸省、建設省、国土庁、北海道開発庁の統合により誕生した大臣官房と13の部局などから成る巨大省庁だ。旧建設省時代から、日本の「インフラ整備の総本山」として、日本の社会資本政策を担ってきた。
いわゆる「キャリア官僚」たちは、霞が関の本省をはじめ、全国8つある地方整備局などに配属され、政策立案、インフラ整備などの仕事に従事している。
当然ながら、そんなキャリア職員の仕事には、「新たなキャリアを採用する」という仕事もある。
国土交通省が求める人物像はどのようなものなのか。採用面接官を務める吉岡大藏・同省大臣官房技術企画官に話を聞いてきた。
学歴は関係ない。大事なのは意欲、ヤル気
吉岡大藏・国土交通省大臣官房調査課技術企画官
――キャリア採用の最近の動向は?
吉岡技術企画官 私は、国土交通省全体の技術系職員の採用の窓口を所管しています(気象庁、海上保安庁を除く)国土交通省のここ数年の総合職、昔の国家一種の採用状況としては、例年80名程度を採用しています。
――出身大学はどうなっていますか?
吉岡技術企画官 出身大学は旧七帝大が多いですが、地方の国立大学や私立大学の方もいて、けっこう幅広いです。
まず、試験に合格してもらうのが前提ですが、学歴は関係なく、意欲のある方、ヤル気のある方を面接で見極めさせてもらっています。
――女性の採用者数はいかがでしょうか?
吉岡技術企画官 政府としては「女性3割」が目標ですが、土木系大学出身の女性そのものが少ないこともあって、1〜2割程度、ここ数年は10〜20名ほどで推移しています。
授業の一環として、学生に訪問説明
――就職説明会などは?
吉岡技術企画官 人事院が主催する採用説明会のほか、国土交通省の採用担当職員が大学などに訪問し、授業の一環として社会資本整備の現状や課題などについて、学生に説明しています。
私も先日、ある大学の土木系3年生の学生に説明に行きました。国土交通省志望の学生に限らず、多くの学生にインフラ整備に関心を持ってもらう機会として、位置づけています。
学生にとって、国土交通省は少し遠い存在のようなところがあるので、フェイストゥフェイスで話し合って、こういう人が働いている職場なんだということを理解してもらうというねらいもあります。
――学生に対し、具体的にどのようなことを説明しているのですか?
吉岡技術企画官 とにかくインフラに関心を持ってもらうことを主眼に置き、公共団体、ゼネコン、コンサルの仕事の目的、建設業界での役割分担の話のほか、最後に国土交通省の仕事内容などについて話をしています。
国土交通省は法律や制度をつくるほか、全国に直轄の事務所を持ち、道路や堤防などインフラの整備もしています。海外で仕事をすることもあります。そういう話をしています。
試験対策は、院試勉強の延長で大丈夫
――インターンもされてますね。
吉岡技術企画官 本省では、政策の企画立案を体験したり、職員と意見交換したり、現地視察するインターンシップを5日間実施しています。今年8月のインターンには45名の学生が参加しました。
各地方整備局では、現場で1週間~1ヶ月ほど就労してもらうインターンも行っています。こちらは、毎年地方整備局ごとに10名前後の学生が参加しています。
学生に、現場の最前線でリアルな現場を体験してもらうことは、有意義な機会だと考えています。実際に採用になった方の中には、「この就労体験をきっかけに、国土交通省に入ろうと思いました」と言う方もけっこういらっしゃいます。
インターンの様子 / 国土交通省
――インターンの場で「学生の品定め」をすることはあるのですか?
吉岡技術企画官 そういうことは一切ありません。インターンシップは純粋に国土交通省の仕事を体験してもらうのが目的です。
良い学生がいたら、「試験を受けてくださいね」と声を掛けたり、可能な限り相思相愛になるように努力はしますが、まずは試験を通るのが前提になるので。
――試験に関するアドバイスは?
吉岡技術企画官 試験問題は人事院が作成しているもので、傾向と対策については多くの情報が巷に溢れています。まずは一般的な対策をしてもらえれば大丈夫だと思います。
私自身の経験に照らせば、大学院の試験では一通り土木の勉強をおさらいするので、その延長のような勉強をすれば、大丈夫だと思います。極端に難しい問題ばかりが出るわけではありませんよ。
「良くも悪くもない人」の中から選ぶのが面接官の仕事
――面接では受験者のどういうところを見ているのでしょうか?
吉岡技術企画官 面接をしていると、受験者の中には、「文句なく良い方」と「文句なく悪い方」がいます。面接官の仕事は、それを見分けることではなく、その中間にいる方々の中から、採用する人を選ぶことなんです。
私に加え、採用担当の課長補佐、係長などの意見も取り入れながら、総合的、多面的な視点を持って、みんなで決めていくようにしています。
――求める人物像は?
吉岡技術企画官 国土交通省の仕事はボーダーレスです。日本国内のインフラであれば、なんでも扱います。計画から調査設計、施工、維持管理まで全部見る幅の広い仕事です。
われわれが求める人物像は、ヤル気とバイタリティに満ちあふれている方です。
「転勤は当たり前、バンバン行け」という時代ではない
――例えば、「転勤は平気」という人ですか?
吉岡技術企画官 たしかに、それは望ましいと言えますね。ただ、実際には、学生から「できるだけ転勤が少ない方が良いのですが」と相談を受けることはあります。
とくに女性の場合、出産、育児などのライフイベントがあるので、「異動の際に、旦那さんの勤務地を考慮してもらえるのでしょうか」という問い合わせを受けることもあります。
この点、われわれとしても、いろいろと配慮していかなければならないと考えています。昔のように「転勤は当たり前。バンバン行け」という時代ではありませんから。
われわれとしては、そういう意気込みを持った方は大歓迎ですが、できるだけ本人の事情を踏まえて、臨機応変に対応させていただいているところではあります。
キャリア官僚(総合職)のキャリアパス例 / 国土交通省技術系採用本部資料より抜粋
――吉岡技術企画官ご自身は、どうでした?
吉岡技術企画官 私の場合は、「水戸黄門のうっかり八兵衛」みたいな感じで国土交通省に入りました。つまり、「いろいろな地方に行けば、おいしいものが食べられる」「次の職場には面白いことが待っている」「もっといろいろなところへ行きたい」というノリで入省したということです。
私は、国土交通省に入って20年以上経ちますが、8年間は地方勤務、4年間は他省庁勤務でした。ただ、今の若い人が同じような気持ちで働けるかと言えば、必ずしもそうではありません。働き方の多様性を許容していかなければいけないという思いはあります。
採用担当には、入省3年目の女性職員もいます。学生と年齢が違いので、同じような目線で学生の声を聞いてもらっています。「同じ女性と話をしたい」という声もありますので、学生にアドバイスなどもしてもらっています。
国交省は、日本国民の生活に関わるすべてを担っている
――最近の学生気質に合わせた取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか?
吉岡技術企画官 各大学には、就職担当の先生がいらっしゃいます。国土交通省では例年、その先生とお話をさせていただいた上で、就職ガイダンスとしての説明会を行っていますが、最近は学生がなかなか集まらないことがあります。
この理由には、インターネットやSNSなどを使って、学生が欲しい情報を自ら取りに行くようになっているので、周りが用意した場から遠ざかりがちです。これが昔と今の大きな違いだと考えています。FacebookやLINEなどのツールも活用して、学生にとって興味を持てる情報が行き渡るように努力しているところです。
国土交通省の存在を知らない土木系の学生はほとんどいませんが、具体的になにをやっているのかを知らない学生はある程度いらっしゃいます。国土交通省ではなにをやっているのか、どういうことができるのかをより具体的に、「顔が見える」カタチでPRしていくことが大事だと考え、実行しています。
――最後に、学生へのメッセージを。
吉岡技術企画官 この数年は、過去にあまり経験がないような想定外の災害が起きるようになっています。交通の分野では、AIによる自動運転などの技術革新が起きており、こちらでも、かつて経験のないIT時代が訪れつつあります。これらは、社会基盤を担う国土交通省にとって、大きな課題であり挑戦です。
どういう日本にしたいのか、どういう日本に住みたいのか、どういう日本を後世に残したいかということを、考えていく必要があり、誰もやってこなかったことにチャレンジする必要があります。
国土交通省の仕事は、日本国民の生活に関わるすべてを担っています。「こういうまちにしたい」とか「もっと暮らしを便利にしたい」、逆に「もっと自然を守りたい」などの思いを実現するための省庁です。われわれと一緒に頑張りましょう。