左から、高橋佑子さん(福岡県土整備事務所技術主査)、牛島幸子さん(朝倉県土整備事務所技師)、荒木翠子さん(都市計画課主任技師)

「モノをつくる」より「地元要望を断る」スキルが大事? 福岡県ドボジョが語る公務員技術者のリアル

九州最大の福岡県ドボジョにインタビュー

福岡県は、約510万人の人口を擁する九州最大の県で、鉄道、高速道路などの社会インフラが集積する九州経済の中心地だ。福岡市や北九州市といった都会部を抱える一方、海や山など多くの自然もある。

福岡県はここ数年、毎年のように大雨に伴う浸水被害に見舞われている。朝倉市などでは今も災害復旧工事が進められており、早期の災害復興が県政上の大きな課題になっている。

そんな福岡県庁の仕事の魅力ややりがいについて、ドボジョ3名に話を聞いてきた。

女性が働くなら、やっぱり公務員

大石(施工の神様ライター)

土木に興味を持ったきっかけは?

高橋さん

なんとなく「大きなモノをつくりたい」という思いがあったので、大学で土木系学科に進みました。研究室は構造力学で、橋の研究をしました。あみだくじで外れた結果だったんですけど(笑)。

高橋佑子さん(福岡県土整備事務所技術主査)

荒木さん

大学進学の際、「これから農業がくるかな」と思って、なんとなく農学部に入りました。研究室は利水で、そこから土木に入り込んでいった感じです。

荒木翠子さん(都市計画課主任技師)

牛島さん

中学生のころに工業高校の体験入学したのですが、パスタでトラス橋をつくりました。それで「土木って面白いな」と思って、工業高校の土木科に進んだのがきっかけです。

牛島幸子さん(朝倉県土整備事務所技師)

大石(施工の神様ライター)

福岡県庁に入った理由は?

高橋さん

土木関係の就職先を考えると、女性と言うこともあって、やはり公務員が良いかなと考えました。自ら土木工事の計画を立てて、発注するのは公務員なので、そういう仕事が面白そうだと思いました。

国は転勤があるし、市町村は仕事の規模が小さいことなどから、福岡県庁を選びました。出身が福岡県で、「福岡が好き」なのもありました。

荒木さん

両親が公務員で、小さいころから「公務員はいいぞ」と言われていたので、漠然と公務員になると思っていました。大学の研究室も公務員志望が多かったので、その流れで公務員になった感じです。

初めは「福岡市役所もカッコ良いかな」と思ったのですが、福岡市民ではないので、福岡県庁に入りました(笑)。そもそも自分が住んでいるところで働くのが仕事のモチベーションにつながると考えたので、公務員かなと。

牛島さん

私の高校は公務員志望が多く、その流れで、私も公務員コースにいました。福岡県庁を選んだ理由は、先輩の就職先は市町村が多かったんですが、学校の先生から「女の子も規模の大きな自治体に入ってほしい」と言われたからです。国は異動があるので、あまり考えなかったです。


現場は「人と話す」のが主な仕事

大石(施工の神様ライター)

これまでのお仕事は?

高橋さん

私は入庁20年目になります。最初の配属先は福岡土木事務所(当時)で、御笠川の改修工事、道路や公園の工事を担当しました。その後、本庁の公園街路課、那珂県土整備事務所、朝倉県土整備事務所にいました。

荒木さん

入庁8年目です。最初の配属先は久留米県土整備事務所で、最初の3年は道路維持、次の2年は河川改修を担当していました。その後、今の職場に異動しました。

牛島さん

入庁3年目です。朝倉県土整備事務所の道路課維持係に配属になって、今も同じ職場です。配属された年に、朝倉の豪雨災害が起きました。

大石(施工の神様ライター)

現場と本庁だと、どちらが好きですか?

高橋さん

大濠公園にある遊具の更新工事を担当したことがあります。実際にお母さんやお子さんに「どういう遊具が好きですか?」とヒアリングしながら作り直したのですが、それは楽しかったですね。私は現場が好きですね。

業者と打ち合わせする高橋さん

荒木さん

今担当している都市計画、まちづくりの仕事ですね。現場にいるときは、地元の住民や現場の方々など「人と話す」ことが仕事のようなところがありました。これも楽しんではいましたが、5年〜10年かかる工事の一部分しか関わらないので、与えられた仕事をやるという感覚が強いんです。

今の部署は、まちの将来など全体的なことを考える仕事なので、勉強になるし、好きです。この経験は、また現場に出たときにも役に立つと考えています。

大石(施工の神様ライター)

新人でいきなり豪雨災害対応は大変だったでしょう?

牛島さん

雨が強く振り始めて間もなく「道路が冠水した」という電話が入って、同じ係の人と一緒に現場に車で行きました。現況を確認して一旦事務所に戻ろうとしたのですが、増水して車が動かせない状態になっていました。

仕方ないので、カッパを着て、1kmぐらいだったので、走って事務所に戻りました。事務所に戻ると、電話が鳴りやみませんでした。その日は対応に追われっぱなしで、事務所に泊まりました。

翌日からは係の人が現地調査に行き、自分はずっと事務所で災害報告の電話を受けて災害状況の資料の取りまとめや、道路の規制をかけるための資料づくりなど、新採の私ができる仕事を頑張る日が続きました。夜になるとみんなが現場から戻ってきて、被災状況の写真がどんどんと集まり、今回の災害の甚大さを知りました。

災害が起きてしばらくは休みなく深夜まで勤務し、豪雨で流れてきた土砂・流木の撤去や埋塞した側溝の清掃などの緊急工事を担当しました。今は、H30年災害で壊れた法面復旧工事を担当しています。

法面工事をチェックする牛島さん

「もっと俺が通りやすいようにしろ!」

大石(施工の神様ライター)

これまでで印象に残っている仕事は?

牛島さん

初めて担当した舗装工事です。その道路は交通量も多く、朝倉県土整備事務所の職員が車で通勤する道路でもありましたが、かなり舗装が傷んでいました。工事が終わった後、職員の方から「かなり通りやすくなったね」と言われて、嬉しかったのを覚えています。

荒木さん

河川拡幅工事に伴う橋の架替えのために、橋長5mほどの小さな橋を架けたことです。橋の近くに住む住民の方が毎日のように工事現場を見に来られていて、いろいろお話をする機会がありました。

もっとも、「もっと俺が通りやすいようにしろ」などとお叱りを受けることが多かったですけど(笑)、おかげで仲良くなれて、結果的に工事もスムーズにいきました。完成したときには担当から外れていましたが、プライベートで橋を見に行って、感動しましたね。

高橋さん

朝倉県土整備事務所にいたときに、トンネルや橋梁のアセットマネジメントを担当したことがあります。山奥のオバケが出そうなトンネルでしたが(笑)、結構特殊な工法を使って、夜間規制をかけながら工事しました。初めから終わりまで全部自分で担当した工事ということで、印象に残っています。


「税金ドロボー」というクレーム電話は公務員あるある

大石(施工の神様ライター)

大変だったことは?

荒木さん

道路維持を担当していたころ、「ウリ坊が死んでいる」という電話が入って、現場に行ってみると、実際はかなり大きなイノシシの死骸でした。軽自動車で行ったのですが、車にも乗らないので、てんやわんやしたことがありました。

また、私が入庁して間もなく「平成24年7月九州北部豪雨」が発生し、水防班として土日出勤になって、現場に出たのも大変でした。JRの線路下のアンダーパスが冠水しそうだったので、車が入らないよう道路規制の誘導をしました。大変でしたけど、貴重な経験ができました。

高橋さん

道路の維持係は、住民などからの苦情の電話がスゴイんです。その多くは、工事の振動や騒音に対するクレームです。心無い言葉をいっぱい浴びせられることもあります(笑)。

大石(施工の神様ライター)

例えば?

荒木さん

私は「税金ドロボー」と言われたことがあります(笑)。

高橋さん

あるある(笑)。

大石(施工の神様ライター)

おじいさんとか?

高橋さん

年配の男性や女性が多かったですね(笑)。感情的になられていることも多いので、そういう電話がかかってきたときは、ひたすら謝るしかありません。「忍耐」の時間ですね。

大石(施工の神様ライター)

住民説明会でモメるという話を聞きますが。

高橋さん

道路を新設する時に平面図と横断図で説明したら、「それじゃわからない。絵を描いてくれ」と言われたことがあります。他の住民の方々からも「そうだ、そうだ」と言われて、VRを作成して、再度説明したことがあります。

荒木さん

私はなるべく専門用語を使わないよう心がけるのと、「ガス抜き」ではないですが、説明会では住民のお話を聞くことが一番大事かなと思っています。

また、説明会が紛糾する原因になりがちですが、先輩から、「モノをつくる」ことより、「地元要望を断る」スキルが大事だと言われたことがあります。公共工事には公平性が求められるので、どんなに要望されても、結果的に不平等となる要望にはお答えできないことも多くて苦労します。

大石(施工の神様ライター)

メンタル的にキツそうですね。

荒木さん

たまたま苦情の電話をとったところが、その住民の方が事務所に乗り込んできて、4時間ぐらいずっと苦情を聞かされたことがあります。そのときは泣きました(笑)。

牛島さん

私も道路規制絡みで、かなり強い人につかまって、泣いちゃいました。

高橋さん

(笑)。

荒木さん

(笑)。

大石(施工の神様ライター)

高橋さんは泣いたことは?

高橋さん

ありますね(笑)。なんで泣いたかはもう忘れちゃいましたけど(笑)。泣きはしませんでしたけど、私が担当なのに「男の人に代わって」と言われたときは「キーッ」となりました(笑)。

大石(施工の神様ライター)

周りが男ばっかりで「ぼっち感」を感じることは?

高橋さん

大学から周りは男子だらけだったので、私自身はそういうのはないですね。ただ、周りが扱いに困っているなと感じることはあります。

荒木さん

私も同じです。ベテランの現場代理人の方だと、「こんな小娘で大丈夫か」感を出す方もいます。

牛島さん

私もそんな感じです。業者のおじさんから「俺の孫と同じような年だな」と言われたことがあります。

大石(施工の神様ライター)

日焼けは気になりますか?

荒木さん

もちろんです。

高橋さん

完全防備しています。

荒木さん

ツバの広い麦わら帽子の上にヘルメットをかぶって、アームカバーをした上で、作業着を着ています。

「あれもこれも全部私がつくった」

大石(施工の神様ライター)

今後やりたい仕事は?

牛島さん

道路を3年間やったので、来年担当が変わるタイミングなんですが、次は河川をやってみたいと思っています。道路と河川どっちが自分に合っているか確認したいからです。

荒木さん

道路と河川しか経験していないので、次は砂防をやってみたいですね。土木は経験工学だと言われているので、とりあえずいろいろな仕事を経験したいという思いがあります。

ほかには土木施工管理技士の資格は取りたいなと考えています。資格を取れば、自分ができることも広がると思うので。

高橋さん

最初は河川でしたが、その後は道路ばっかり、維持ばっかりだったので、今さらですが、やはり建設系の仕事がしたいですね。とくに橋をつくりたいです。ずっと希望を出しているのですが。でも、橋梁の維持補修の仕事もそれなりに楽しいですけど(笑)。

大石(施工の神様ライター)

公務員土木の魅力、やりがいは?

高橋さん

工事の計画の段階から完成まですべてのプロセスに関われることです。もちろん、その間に異動になることが多いのですが、一連のプロセスの主導権を常に握っているので、異動したとしても主導的な役割を担うことができます。それが面白いところです。

例えば、自分が設計を担当した構造物があった場合、異動したとしてもその後もウォッチできますし、最終的に完成したときには「自分が設計したモノができた」という達成感を感じます。

荒木さん

私も同意見です。異動で現場がコロコロ変わるから「あれもこれも全部私がつくった」と言えるんです(笑)。公務員技術者の醍醐味だと思っていて、家族にもそう言っています(笑)。

インフラはあって当たり前なので、住民の方にもなかなか気づいてもらえないのですが、たまに「ありがとう」と言われることがあります。それは、モノが完成したときと同等の喜びがあります。

牛島さん

舗装工事しか経験がないのですが、現況を調査して、設計して、発注して、業者さんと協議しながら完成させるという一連のプロセスをすべて自分で担当できるのが、楽しいですね。
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