東京都財務局による「建設現場の働き方改革」
「建設現場の働き方改革」に全力をあげる東京都財務局。
2016年度から「女性活躍モデル工事」「週休2日モデル工事」を実施し、2017年度からは「若手育成モデル工事」の試行工事を追加でスタートしました。
建設業界の処遇改善が問われている中、地方自治体のトップランナーである東京都財務局がどのような施策を行うか注目を集めています。
そこで今回、東京都財務局建築保全部の山崎浩明技術管理課長にお話を伺ってきました。
モデル工事の狙いは、技術者育成にあり
施工の神様(以下、施工):東京都財務局では、「女性活躍モデル工事」等の試行について、昨年度よりも規模を拡大しましたが、その狙いは?
山崎浩明(以下、山崎):建設業界の施工管理技士の方々が高齢化し、若い方が建設業に入職されない状況に対して、発注者としても危機感を抱いています。政府は、将来にわたる公共工事の品質確保と、その担い手の中長期的な育成・確保を目的として「担い手三法」を改正しました。これを受けて発注者である東京都財務局もアクションを起こしています。
2016年度からスタートした「女性活躍モデル工事」「週休2日モデル工事」を拡大試行し、2017年度には「若手育成モデル工事」を新たに追加試行することとしました。
多くの技術者育成の後押しをすることが大切です。
「女性活躍モデル工事」は空調設備工事にも導入
施工:「女性活躍モデル工事」の試行の中身は?
山崎:2016年度は「女性活躍モデル工事」を3件実施しています。工事件名は、「都立江北高等学校(28)改築工事」「 東京都現代美術館(28)改修工事」「都立府中療育センター(28)改築工事」です。
2017年度は1件増やし、4件の予定です。具体的な工事件名は、「都立八王子地区第二特別支援学校(仮称)(29)新築工事」「 東京都公文書館(29)改築工事」「 東京都公文書館(29)改築空調その他設備工事」「 都立七生特別支援学校(29)改築及び改修工事」です。
施工:入札条件は?
山崎:入札条件は2つあります。1つ目は、監理技術者、現場代理人、主任技術者及び担当技術者のいずれかに女性技術者を1名以上配置すること。2つ目は、女性技術者の配置にあたり、① 女性専用の更衣室、水洗洋式トイレ、洗面台及び鏡等の環境整備と、②「女性活躍モデル工事」の広報活動という2点を行います。当然、積算上も上乗せします。
施工:女性技術者がいない企業もあるのでは?
山崎:この規模の建築工事では、女性技術者を配置できるゼネコンは多数あり、女性技術者がいないから困るという問題はありません。
課題は電気設備工事です。女性技術者はいても現場技術者が少ないからです。実際、電気工事や給排水工事では難しいという声がありました。
そこで「 東京都公文書館(29)改築空調その他設備工事」からチャレンジし、空調設備工事でも女性技術者を配置可能な環境整備を整えることとしました。
施工:本格的に進捗している工事はどちらでしょうか?
山崎:2016年度発注の「都立江北高等学校(28)改築工事」です。受注者がナカノフドー・守谷・松鶴JVで、2018年10月31日の竣工予定です。工事概要は敷地面積約30,825㎡、延床面積は校舎棟が約13,723㎡、その他(倉庫等)が895㎡。構造階数は鉄筋コンクリート造、地上4階建です。
この工事では、JV現場事務所に女性専用スペースを設けています。その他にも、内装工事の技能者やトラック運転手などの女性作業員も増えてきたので、受注者が任意で作業員詰所の女性専用スペースを設置しました。
また、仮囲いに「けんせつ小町」を広報するマークも貼っています。広報活動においては学生をターゲットにした見学会も行う予定です。
施工:評判はどうですか?
山崎:快適トイレですが、なかなか好評で、トイレは男女別であれば望ましいという声が高いです。更衣室に関しては、男性が着替えている姿を見たくないという声もあります。女性専用スペースを設置して良かったと思います。
施工:見学会はどうですか?
山崎:見学会についての広報活動は今のところ、建設専門紙が中心ですが、一般の方々への周知広報活動を行うことも考えています。
施工:他の現場での取り組みの進捗は?
山崎:「都立府中療育センター(28)改築工事」などはまだ準備工事の段階です。また、モデル工事以外でも、これまで女性技術者がいなかったわけではありません。今、東京都庁でも改修工事を実施していますが、女性技術者も配置されています。
古い体質を持った建設業界を変えていく必要があり、女性の活躍には期待しています。女性活躍推進法に基づく「えるぼし」認定企業についても総合評価方式に基づき、工事成績評点で加点しています。
施工:東京都財務局の女性職員は増えていますか?
山崎:はい、増えています。東京都も働きやすい職場環境を目指しています。女性が育休産休を取得できる環境を整えており、就職先としても人気が高いです。ゼネコンも育休産休制度を整えているという話も聞いておりますので、お子さんが成長したら、再び会社に戻り、技術者として活躍できることになっていけばいいと思います。
東京都は、都民誰もがいきいきと活躍できる「ダイバーシティ」を推進していますので、その理念は建設業界全体でも活かしていく所存です。
「週休2日モデル工事」は2倍以上に増加
施工:「週休2日モデル工事」はいかがですか?
山崎:基本的には土曜日・日曜日を休みにしますが、多忙になれば必ずしも土曜日・日曜日にこだわりません。今年度の導入工事は、7件の予定です。2016年度は3件でしたので、倍以上に増やしました。
施工:具体的な工事名は?
山崎:工事件名は「都立小平南高等学校(29)グラウンド改修工事」「東京都西多摩保健所(29)改築工事」「東京都西多摩保健所(29)改築電気設備工事」「東京都西多摩保健所(29)改築給水衛生設備工事」「東京都西多摩保健所(29)改築空調設備工事」「東京都西多摩保健所(29)改築昇降機設備工事」「都立東村山高等学校(29)改築工事」です。
施工:週休2日を達成できない場合は?
山崎:今は週休2日が達成できなくてもペナルティーはつけていません。達成した場合は工事成績評点で加点します。
やはり、建設業界は休みが少なく改善の余地も大きいのが現状です。工期は1ヶ月ほど余裕を見ています。ただそれでも、基礎工事の段階では休めますが、躯体工事から忙しくなり、土曜日・日曜日が安定して休めない場合もあります。
工事が完了した時点で「週休2日モデル工事」について、聞き取り調査を行っていきたいと考えています。
「若手育成モデル工事」は35歳以下の若手技術者を配置
施工:今回、新たに加わった「若手育成モデル工事」の狙いは?
山崎:主任技術者および担当技術者のいずれかに35歳以下の若手技術者を1名以上配置します。資格を取得するためには、一定の実務経験を経なければなりませんので、35歳以下の設定は妥当だと考えています。
また若手技術者の配置に当たり、更衣室、水洗洋式トイレ、鏡付き洗面台なども設置することとしています。女性だけではなく、男性でもトイレも更衣室も清潔であった方が当然望ましいです。
さまざまな声を聞きますと、やはり技術者も技能者も作業環境が良好であった方が、若手育成につながることがわかりました。若手の育成は技術者の世代交代を考えれば喫緊の課題です。技術や技能の継承をスムーズに進めていくために、発注者としてできる限り、この施策を拡大したいと考えています。
施工:東京都財務局の職員の構成も若手が不足しているのでしょうか?
山崎:東京都も団塊の世代がすでに定年退職しておりますので、40代から50代の実務経験に富んだ職員が不足しているのが現状です。イメージとしては20代から30代の技術職員を指導する職員が必要です。東京都の公務員試験であるⅠ類Ⅱ類のほか、キャリア採用として59歳までの方を受け付けています。これまで建設会社で働いてきた施工管理技士の方などを採用し、不足している職員を補充しています。
しかし、問題は単純ではなく、他の地方自治体との職員の取り合いが続いています。地方自治体の技術職員の技術継承も、実は喫緊の課題なのです。若手育成は、ゼネコンだけではなく、地方自治体にも言えます。
施工管理技士へのエール
施工:では最後に施工管理技士の方々にエールの言葉をお願いします。
山崎:現場で苦労されていることに敬意を表します。われわれ発注者としては、施工管理技士の方が伸び伸びと働ける環境を整備することが努めであることを肝に銘じ、引き続き必要な施策を実施してまいります。
それでも昔に比べればだいぶ良くなっています。働く上で厳しい環境でありますが、構造物ができあがった際、これは私がつくった現場である、ということをお子さんたちに誇れるような仕事であれば良いと思います。そして何よりも、若い方が次々と育っていただく建設業界であってほしいと願っています。
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