「メンテ工事はゲリラ戦、建設工事は大軍の戦闘」 石油化学プラントにおける文化の違いと注意すべきポイント

石油化学プラントのメンテ工事と建設工事の違い

私たちの生活を支えている石油化学プラント。

24時間休まず動き続けるためには、保全メンテナンス工事が必須です。機械を分解して清掃したり、配管の減肉が激しい部分を、漏洩する前に切り替えたり…。保全工事に関わっていると、社会を支える一員になっている感覚がします。そして、「こういうプラントをいつか作ってみたい、建設工事に関わりたい」と思うこともあります。

しかし、メンテ工事や保全工事と建設工事での文化の違いを知らなければ、失敗して痛い目をみたり、周囲に迷惑をかけたりするでしょう。

この記事では、メンテ工事と建設工事、両方の施工管理をしてきた私が、具体的な例を通して、メンテ工事と建設工事での違いや注意すべきポイントを解説します。


人は24時間働けません

メンテ工事では、24時間を使って仕事をすることがあります。

定時まで仕事をして、書類整理をしている時間に客先から、「突発工事対応できる?」という一言。運転中の配管から漏洩し、緊急停止したため、一刻も早く復旧させたいとのことです。

運転中のプラントを緊急停止すると、原料の受け入れや製品の出荷、運転員の稼働など日常の流れが止まってしまいます。そうなった場合の損失額は、1日当たりで億を超えるのだとか。まさに緊急事態です。

というわけで職人さんを呼び戻し、19時頃から作業を開始します。工作場にあった材料でなんとか応急処置をして、漏れテストが終わった頃には日付が変わっていました。

しかし、「本当にありがとう、助かった」というねぎらいの言葉をうけ、体は疲れていても心は晴れやかです。それに正直言うと、このような突発工事は儲かるのです。さすがに通常単価ではできませんからね。職人さんもそれを分かっているから、「こき使いやがって、大変だったぞ」と口では言いながらも、やり遂げたような、満足そうな表情です。

建設工事では同じようにはいきません。19時に電話しようものなら、「何時だと思ってんだテメー!」とまでは言われないとしても、対応できないことがほとんどです。メンテ工事から建設工事に移って私は、定時というものの意識が変わりました。

人は24時間は働けないのです。

土日って休みだったの?

メンテ工事には、緊急停止や突発工事が起こらないようにするために、定期修理工事というものがあります。定修や、定期メンテなどと呼ばれ、時期を決めてプラントを停止し、設備の点検や修理を行うものです。停止期間を最短にしつつ、次の定期修理工事まで安定して運転できるようにすることが目的となります。

土日は作業を行うことを前提に工程が組まれ、平日も残業をすることが多いです。大変ですが、やり遂げた時の達成感も大きいものでした。「人生の目的はここにあった」というのも大げさではありません。給料も増えますしね!

建設工事では、このような工程は組みません。

国土交通省の方針では、4週6休以上の休日を推進しようとしています。定期修理工事のように、土日も普段どおり作業ができるものと考えていたらダメです。国の方針ですからね。土日作業をする必要があれば、早めに客先や元請に相談しましょう。


メンテ工事はゲリラ戦、建設工事は大軍での戦闘

メンテ工事を戦場に例えるとするならば、どこから敵が出てくるのか、どこに罠が仕掛けてあるのか、分からないゲリラ戦のようなものです。

装置の当板補修をしていると、他の場所も減肉していることが分かって延々と当板をしていくはめになったりすることもあります。プラントを停止する期間は延ばせません。延々と当板をしていったら期間中に終わらないから、スーパーメタルという樹脂で応急処置をして運転を開始し、次に装置を停止できる機会に改めて補修、あるいは装置の交換を行うことを決めたりします。

メンテ工事でしばしば求められるものが、臨機応変な対応です。他の業者が予定外の作業をしていないか等、周囲への警戒も怠ってはいけません。

メンテ工事がゲリラ戦だとするなら、建設工事は各部隊が規律正しく動く必要がある大軍での戦闘のようなものです。臨機応変な対応ばかりをしていると、情報がまとめられなくなり、危険です。他者に対しても、臨機応変な対応を求めるのではなく、情報をしっかり整理するよう心がけましょう。

ゼロからものを作るのか、作らないのか

メンテ工事では、ゼロからものを作ることは基本的にはありません。既設設備の一部改造や増設を行う程度です。運転している設備の近くで工事をすることも多く、気を使う部分はあります。

配管フランジの傾きや、鉄骨梁の補強方法なども、現物合わせで考えることが大切です。その分、工事のイメージを掴みやすいんですよね。

建設工事は、何もない更地からのスタートです。図面や3Dモデルでは一度は完成していても、客先にイメージが伝わっていないことも多いです。そのまま工事を進めていくと、完成間近になって手直し修正を依頼されます。

バタバタしないためにも、完成イメージを早めに共有するようにしましょう。


建設工事は、何でもできればいいわけではない

メンテ工事の施工管理をやっていると、何でもできることが求められたりします。決められた短い期間で工事を終わらせなければならず、予定外の腐食や漏洩が発見されたりするからです。

そのような余裕のない中で、的確な対応ができると非常に助かるのです。「どうすればいいでしょうか?」と細かい部分まで聞いていては仕事が滞りますからね。少々の配管漏れなら自分で増し締めをして止めたり、気密テストも自分で行ったりすることもあります。

建設工事ではそうはいきません。一人でなんとかできる物量ではないですから。そのため、細かく担当分けされていたり、同じ配管工事でも複数の業者が入っていたりします。

担当外のところへ手出し口出ししても、混乱するだけで、個人の責任範囲を超えてしまいます。ですから、素直に担当の方に対応していただくようお願いしましょう。

追加工事の扱いの違い

メンテ工事をやっていると、追加工事が大量に発生します。装置を開放して内部を清掃していたら補修する必要がある箇所が見つかったり、配管を切り替えようとしていたら内部が詰まっていてもっと広範囲の取替が必要になったりです。

追加工事ありきで安く受注して、追加工事で利益をあげる、なんて考える人もいます。実際そのくらいのほうが、不測の事態にも対応できて、客先としては助かるのかもしれません。

建設工事では、設計変更や工程の変更がなければ、基本的に追加工事の費用は認められません。最初の見積もりを安くしておいて、追加工事で利益をあげよう、と考えていると赤字になるかもしれませんので、気をつけましょう。

…以上、石油化学プラントでのメンテ工事と建設工事の違いと注意点についてお伝えしました。

どちらの仕事も楽ではありません。ですがそれ以上に、生活の基盤を支えるプラントの運転に関わることはやりがいや達成感を感じられるものです。体調には気をつけて、長くこの仕事を続けていきたいですね。

ご安全に!

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下請け監督から転職を経て、プラント建設工事の現場所長に。石油化学プラントのメンテナンス経験あり。現在は主に食品設備や化成品設備の建設工事に携わる。溶接施工管理技術者1級、2級管工事施工管理技士。 模範とする言葉は、「人生の醍醐味を味わうには、己の能力の限界に挑戦すること」(ロバート・ブラウニング)
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