大林組が、ドローンを1から説明してくれました

大林組が、ドローンを1から説明してくれました

大林組からメールが届いた

大林組から、一通のメールが届いた。

「ドローンを活用しています! ぜひ取材してください!」

よくよく話を聞いてみると、内閣府が平成30年度に創設した「官民研究開発投資拡大プログラム」(PRISM)という制度のもと、国土交通省が行う最先端の技術公募で、実際の工事現場でドローン活用の実証実験を行っているという。

正直、「またドローンか」と思った。今の土木業界では、いたるところで”ドローン”の文字がおどり、「生産性が〇割アップ!」など、耳障りのいい言葉が並んでいる。だが、どれも抽象的な説明ばかりで、リアルな現場でどのように適用され、どうなっているのかを見ることは少ない。

あまりに熱心なので、どうせなら実際の現場に入って、担当者に1から説明してもらった。

そもそも、なんでドローン使っているのか?

田島さん 遠いところ(茨城県筑西市)まで、ありがとうございます。今日は何でも聞いてください。

今回お話いただいた、大林組の田島僚さん(土木本部生産技術本部技術第二部)

――まず、どんな現場か教えていただいてもいいですか?

田島さん 今回の工事を含む全体のプロジェクトは、平成27年の豪雨により氾濫した鬼怒川の対策プロジェクトの1つです。ハード対策として、決壊した堤防の本格的な復旧や従来の想定では高さや幅が足りない箇所の整備が、全長45kmにわたって進められています。

大林組が担当するのは、この45kmの上流区間にあたる、茨城県筑西市の船玉から伊佐山という地区の全長2.8kmの堤防施工になります。工事名称は「H30鬼怒川左岸船玉伊佐山地区整備工事」、発注者は国土交通省関東地方整備局下館河川事務所です。

「H30鬼怒川左岸船玉伊佐山地区整備工事」工事位置図及び概要

――そもそも、なんでドローンを使っている?

田島さん ドローンで現場を空撮して、その映像を解析することで、点群データを得ることが目的です。

点群データとは、ドローンで空中から取得した座標(x、y、z)の情報のことです。GPSから取得する位置情報を、カメラやレーザースキャナで捉えたデータに埋め込むことで、位置情報をもつ点群データを作成します。このデータを専用ソフトで加工することで、3次元モデル作成をしたり、図面の作成や出来形管理などが行えるようになります。

従来なら、トータルステーションなどを用いて、地上で現地の地形などを計測し、2次元の平面図や設計図に起こしていましたが、ドローン測量によって計測やデータ収集にかかる時間を大幅に削減することができるようになりました。

具体的には、東京ドーム1個分の敷地のエリアを計測する場合ですと、地上での測量では、計測に3日、計測したデータをもとに断面図などにするためにはさらに3日程度かかります。ドローン測量であれば、撮影に半日、撮った写真を解析してしまえば、専用ソフトを使って断面図などを1日から1.5日程度で作成できます。

――実際に、ドローンでどうやって測量する?

田島さん ドローン測量には、基本的に「写真測量」と「レーザー測量」の二つの手法があります。

写真測量は、カメラを使った測量です。空撮した写真をつなぎ合わせて地表のデータを得るものです。

一方、レーザー測量は、レーザースキャナを使った測量です。ドローンに小型のレーザースキャナを搭載して、地上にレーザーを放射して反射したレーザーの距離情報とドローンの位置情報のデータから、地表の様子を記録していくものです。

この現場では、竹林が鬱蒼としている箇所があったため、その部分についてはレーザースキャナ搭載型ドローンを用いたレーザー測量を行いました。そうすることで、竹を伐採せずに地表面を計測することができ、通常だと全体で20日間ほどかかるところが、2日間で測量が完了しました。草木などの障害物や凹凸のある場所では、レーザー測量のほうが精度の高いデータを、より簡便に得ることができます。

ただ、写真を撮影するだけのドローンだと本体価格で数十万円程度から用意できますが、レーザースキャナ搭載型だと数百万円と非常に高価になってきます。

そのため、現場の規模に応じて、写真測量だけで満足するのか、それともレーザー測量のほうが良いのかは、現場調査の上、あらかじめ判断しておく必要があります。

――ドローンの操縦は誰でもできる?

田島さん 一般的な測量には、特別な資格は必要ないので、誰でもできます。お恥ずかしい話なんですけど、僕ドローン2~3回落としたことがあって。メーカーのせいにするわけじゃないですけど、旧型のドローンって飛行に安定感が無いんですよ。でも、今のドローンって手を離してもその場でホバリングしてくれるんです。それに、ソフトを使って飛行したい場所をあらかじめ指定することで、飛行経路を自動的に飛んで撮影してくれます。

だから、今のドローンは誰でも操縦できるんですよ。実際に触ってみると、「これなら俺もできるじゃん」ってびっくりすると思いますよ。

大林組でも、新人研修でドローンを使っています。僕はまだ慣れないですけど、今の若い世代はゲームもみんな3Dじゃないですか。だから、ドローンを飛ばして、3Dモデルを活用する、ということにそもそも障壁がないようで、操作もあっという間に習得していきます。

ドローンで撮影した現場風景

――ドローンを活用されていることは分かりましたが、PRISMで補助金を受けて取り組んでいることは?

田島さん 実際に現場を見ながらのほうが分かりやすいと思うので、今から移動しましょう。

「GCP設置」というドローン測量の意外な落とし穴

※現場に移動しました

田島さん 基本的に、ドローン測量というのは、

  1. UAV(ドローン)による自動飛行、写真撮影
  2. GCP(標定点)の座標値を計測
  3. SfM解析により3次元データを得る

という、3つの工数を踏むわけです。このうち、1と3に関しては、ある程度条件さえ入力すれば、機械作業で済むのですが、2に関してはどうしても人力作業で、現状では削減できない工数なんです。今回の工事でいうと、420分もの時間が掛かってしまう。

ここを削減して、「GCPレスのドローン」を活用することで、ドローン測量の生産性をより向上させようというのが今回のPRISMでの検証になりまして、ドローンソリューションを提供している芝本産業株式会社(東京都中央区)とコンソーシアムを組んで取り組んでいます。

――すみません、GCPってなんですか?

田島さん 標定点と呼ばれるもので、測量をする際の基準となる地上点の緯度経度を調べて、その位置を明確に示すことで測量精度を向上させるために写真中に写し込ませるものです。

通常、ドローン測量では、撮影した写真に自機の位置情報をひも付けることで、座標を持った3次元データを作成するわけです。ただし、GNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)が位置情報を取得して写真を撮るまでにタイムラグが生じるので、計測結果に誤差が生まれてしまうんです。

どのくらいの誤差になるかというと、0.05秒のタイムラグで約25cmズレるんです。そうなると、使えないですよね。だから、地上にマーカーとなる標定点(GCP)を設置しておいて、あとで座標を照合して位置情報を補正するのが一般的なんです。

当現場に設置してある標定点(GCP)

ただ、国交省のマニュアル(「空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理要領(土工編)」)では、100mごとにこの標定点(GCP)を設置することと定められています。

なぜ100m間隔かというと、ドローン測量の場合、高度70mを飛行するのですが、カメラの画角に納まるのが大体100m前後なんです。つまり、100mに1枚標定点(GCP)を置いておけば、どこを飛んでいても必ず画角に標定点が入ることになります。すると1枚1枚の写真の座標が決まって、精度も良くなる、ということです。

「さらなる生産性向上」のためにはGCPレスは必至

――それでは、ドローンを使っているすべての現場で、標定点を置く苦労があるんですね。

田島さん そうなんですよ。ただ、ICT施工が進んでいる現場って、規模が小さい現場が多いんです。例えば、5,000m3くらいの盛土なら、4つくらいの標定点を置けばいいんです。だから、すべての現場で苦労されているわけではないかもしれない。

しかし、今回のような大きな現場だと、膨大な数の標定点(GCP)を置かなきゃいけない。そのため、今回の現場では、オーストラリアのKLAU Geomatics社製の「KLAU PPK」という後付けの補正システムを搭載したGCPレスドローンを活用することでタイムラグを0.001秒に抑え、標定点(GCP)を設置しなくてもいいドローン測量を目指しています。

「KLAU PPK」を搭載したドローン

ただ、ドローン測量に際して、標定点(GCP)の設置が必要だという認識がある方は意外と少ないんです。「ドローン飛ばして、撮ればいいんでしょ」って方も多い。

もちろん、標定点(GCP)を置く労力を加味しても、従来よりも測量は効率化されますよ。それまで、トータルステーションで地形の変化点を測っていって、それを図面に起こして、そこから断面図を作って…という手順を踏んでいたわけですが、3次元データを使えば図面に起こすという概念すらなくなるので、すぐに断面図も作れます。

ただもう一歩、”さらなる”生産性向上を目指す上で、標定点(GCP)の設置というのは極めて厄介だったわけです。

――なるほど。

田島さん それに、標定点(GCP)って生産性以外の部分でも問題があって、設置作業って意外と危ないんですよ。

標定点(GCP)って、施工の途中途中で置いて、計測もその都度やらないといけない。でも、現場って、複数のチームで平行して進めていくわけじゃないですか。だから、建機は稼働しているし、人が立ち入ると不安全な場所もあります。そういう中で、標定点(GCP)の設置や計測を行うことには、非常に注意を払う必要があるんです。

――GCPレスのドローンを導入したら、協力会社にはどんな恩恵がある?

田島さん 簡単な丁張は協力会社さんにお任せすることもありますが、これがなくなるので、そのぶん別の作業ができるようになります。そうすれば、現場の出来高も上がって、利益も生みやすくなります。

ドローン測量は、施工者の負担が大きすぎる

当日は、国土交通省 関東地方整備局の蔦木さん、前田さんも現地視察に

――ドローン測量の課題は?

田島さん 先ほども話した通り、ドローンによって、測ること自体は簡単になってきたんですよ。ただ、測量して得たデータの取り扱いが大変なんです。

私も、いろんな現場にドローンで測量しに行くんですが、現場の方に3次元データを渡しても、「それをもらっても何すればいいの?」って状態で、「それはいいから、断面図ちょうだい」って言われるんです。

今は設計段階からすべて施工者がやっています。発注者さんから2次元のデータをもらって、受注者側で3次元データを作成して、断面図にして、設計図と照らし合わせて…ってところまでやっていて、受注者である施工会社の負担が大きすぎる。

コンサルさんが3次元モデルに起こしていただくところまで担っていただければラクなんですけどね。いまは川上まで施工者がやることになっているので、負担は正直大きいです。

また、タブレットで操作しているので、気温が高すぎると起動しなくなる危険もありますし、雨風などの天候によっては飛ばすことができない場合もあります。雨降ったらダメ、風が吹いてもダメ。でも、優秀。現代っ子なんですよ、ドローンって(笑)。

――今後の展開は?

田島さん PRISM自体は、研究開発という位置づけではありますが、今回の取組みは研究開発という観点よりも、実用化・汎用化が期待できるもののバックデータが少ない技術を、PRISMの補助金によって検証データを蓄積し、普及を促進していくことを重要視しています。

成果を発表して終わり、ではなくて、ちゃんと実用段階までもっていって、国が進めるi-Constructionを少しでもバックアップできればと思います。

――最後に、関東地方整備局の方にもお話をお伺いしたいのですが、そもそもPRISMの意義は?

前田さん PRISMで検証した技術については、取り組まれている企業が独占して活用するわけではなく、広く建設業界全体に浸透し、使っていただくことで、建設業界全体の生産性向上を推進していくための施策となります。

――実際に現場を視察されてどうでしたか?

蔦木さん 今回の実証実験によって、100mごとに1箇所、標定点を設置するという要領の改正に繋がっていくかもしれません。もちろん、そのためには現場を積み重ねていき、精度を担保していく必要があります。

ただし、建設業界にITを浸透させていくにあたっては、建設業界単体でどうにかできるものではありません。今回の大林組さんと芝本産業さんのコンソーシアムのように、”建設業×異業種”のタッグで推進していくべきですし、そのきっかけをPRISMが担っていければと思います。

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