政門 哲夫さん(日本エンジニアリング株式会社 技術統括本部 構造技術部長)

「ベストな技術がなければ、つくればいい」 NEKのエンジニアが語る鋼橋メンテの極意とは?

新たな技術を開発し続ける日本エンジニアリング

日本エンジニアリング株式会社(本社:横浜市中区、以下NEK)は、1960年に創業した建設コンサルタント会社だ。首都圏を中心に鋼橋などの設計業務を行ってきたが、2005年から新たに鋼橋の点検、メンテナンス部門を立ち上げた。現在、首都高速道路の補修・補強設計などを手掛けている。

2014年には部門内で補修技術の開発をスタート。現在、6件の特許(共有、出願中含む)を持つ。NEKの構造技術部門を指揮するのが、政門哲夫さんだ。鋼橋のメンテナンス会社で現場監督などを経験した後、NEKに移籍。以来、中心メンバーとして部門を担ってきた。

政門さんのキャリアパスはどのようなものか。点検・メンテナンスのやりがいとはなにか。話を聞いてきた。

鋼橋メンテ一筋20年

――ずっと日本エンジニアリングでお勤めですか?

政門さん いえ、大学(土木)卒業後、1998年にまず株式会社テクニブリッジに入社しました。テクニブリッジは、鋼橋などのメンテナンスを行う会社で、日本鋼管株式会社(NKK)、現在のJFEエンジニアリング株式会社のグループ会社でした。

7年間で、5年間は現場監督をやって、あとの2年間は積算などをやりました。ところが、「メンテナンスの仕事は儲からない」ということで、テクニブリッジをたたむことになりました。それで、2005年にNEKに移ったわけです。設計に携わるのは初めてでした。

テクニブリッジからは、私を含め4名がNEKに移ったのですが、新たに保全技術部(現構造技術部保全技術室)という部署をつくってもらい、その4名で事業を立ち上げました。私は当時29歳で、他のメンバーはみんな私より年下の人間でした。保全技術部では、首都高速道路の点検、メンテンナンス設計を中心に仕事をしてきました。

テクニブリッジで現場工事のノウハウがあったので、それが普通の建設コンサルタントにはない武器でした。構造物に損傷があれば、実際に見に行き、どうやって治すかを含めた提案をしました。それを首都高グループから評価していただき、次々と仕事をいただけるようになりました。

NEKでも、それに応じて構造技術部(メンテナンス部隊(保全技術室)、点検部隊(構造調査室)、新設橋梁部隊(橋梁設計室)、港湾部隊(港湾技術室))の統合もあり、人員を増やしてきました。点検・メンテナンス部隊は今年で14年目になりますが、今では構造技術部43名のうち、26名の部員がいます。

当初は首都高の西の仕事だけでしたが、今は首都高全域の仕事を手掛けています。ここ7年ぐらいは、首都高速道路本体から直接仕事を受注するようになっています。現在の構造技術部保全技術室の仕事の内訳は、だいたい首都高速道路本体からの仕事が50%、首都高グループ会社の仕事が50%になっています。

今までのキャリアでは、橋のメンテナンスしかやっていません。補修と耐震補強がメインで、たまに新設の仕事もやりました。前の会社も含め、とにかく橋の仕事が楽しかったので、他の仕事をやりたいとは思わず、ずっと橋一本でやってきた感じですね。

既存のNo.1ではなく、理想のNo.1を目指せ

――楽しいと言いますと?

政門さん やはりいろいろな人と出会っていく中で、自分が成長できるからですね。例えば、首都高技術株式会社に永田佳文さんという方がいらっしゃるのですが、永田さんにはいろいろ教えていただきました。永田さんに出会ったことで、自分が著しく成長した実感があります。非常に感謝しています。

――永田さんから教わったことは?

政門さん 5年ほど前、首都高の壊れた構造物を治していたときに、永田さんから「もっと塗りやすい塗料で治せないか?」と言われました。橋に塗る塗料(ペンキ)の性能に関するお話でした。通常の塗料は、塗るのに時間がかかるし、厚く塗るためには何度も塗らなければなりません。既存の塗料の中には、1回で塗れる塗料はありましたが、粘土みたいで塗りにくいんです。

そこで、既存の技術を調べ、その中でNo.1の塗料を提案しました。すると、永田さんから「いや、それは違うでしょ」と言われたんです。「確かにこの塗料は既存の技術の中ではNo.1だけど、理想はもっと上にあるじゃないですか。なんでもっと良い塗料をつくらないんですか」と。

私は「でも、私はコンサルタントで、塗料をつくるメーカーではないんです」と言うと、永田さんは「だったら、みんなで一緒につくれば良いんじゃないの」「そうしないと、技術は進歩しないよ」「実際に塗料をつくるのはメーカーだけど、要求事項の設定はこっちでいくらでもできるじゃないですか」とおっしゃいました。

そして、「場所はいくらでも提供します。失敗しても良いからチャレンジしましょう」とおっしゃったんです。

――なかなか熱いやりとりですね。

政門さん そう言われ、私は「塗料を改良しよう!」とメーカーにかけ合いました。試行錯誤の末、3ヶ月後に塗りやすい塗料ができちゃったんです。それを永田さんに伝えたら、「素晴らしい。この塗料こそがウチが求めるNo. 1の塗料だ」と喜んでいただきました。

この塗料は首都高などと共同で特許出願も実現しました。今では首都高以外でも多く使用されています。ちなみに、NEKでは、これ以降、1件の特許を取得してるほか、5件特許出願中です。

「ベストな技術がない場合はベストな技術をつくる。その技術は世のため人のために直結する」。そういうことを永田さんから教わりました。

「型にハマった提案だけする」のが日本のコンサル

――普通はそこまでしないでしょう?

政門さん そうですね。他の建設コンサルタント会社を見渡すと、「既存の技術の中でNo.1の技術はこれです」と提案することが一般的で、NEKのように新たに技術をつくる会社はほとんどないと思います。

――「儲け」のためにコンサルが手抜きをするという話は聞きます。

政門さん 現場を見ないで提案するコンサルタントは確かにいます。むしろ、日本のコンサルタントは「型にハマった提案だけをする」のが標準です。お金が絡むとなかなか難しいのでしょう。私の部署では、お金をあまり気にしません。ちゃんと提案して、やることをやっていれば、儲けはあとからついてくるモノだと考えています。

一般的な発注者は、私の部署のように新しい提案をするコンサルタントをイヤがる傾向があるかもしれません。新しい技術をもってこられると、その技術の信頼性に責任を持てないからではないでしょうか。

この点、首都高は逆に「どんどんチャレンジしろ」と言っていただけるんです。ある程度の検証をして良いモノだったら、まずは首都高で使ってみよう。1年後に検証してみて、ダメだったら違う方法で治せば良いという感じなんです。

他のコンサルタントは知りませんが、首都高は、われわれにとっては非常に仕事のやりがいがあるお客さんであり、真剣に技術に集中できる環境を与えてくれます。

もちろん、NEKが提案して失敗したことはあります。ただし、早く失敗すれば技術改善など次の対策も早く打てるので、結果的に良い仕事ができています。

カーボン当て板補強技術を開発

――NEKでは技術開発も行っているそうですね。

政門さん NEKは3年前に今のオフィスに移転しました。以前のオフィスだと社員の増員が大変だったので、増員のためにオフィスを移転したようなところがあります。移転の際、技術開発のための実験室もつくりました。大規模な実験は大学などの研究施設をお借りして行いますが、コンパクトな実験はすべてココで行っています。

――例えば、どのような技術を開発中ですか?

政門さん 「CFRP(carbon fiber reinforced plastic、炭素繊維強化プラスチック)」を用いた当て板補強があります。従来の当て板補強は、メタルの板を貼り、ボルトで止めるのが一般的ですが、メタルの板は15kgほどと重いし、孔を開けるのも大変です。われわれが開発しているのは、1kg程度と軽いCFRPを接着剤で貼って補強するという技術です。これはまだ誰もやっていない技術で、実現すれば、作業効率は格段に向上します。

「カーボンが鉄に、接着剤がボルトに勝てるのか」という課題がありましたが、複数の実験を重ね、現在では、「補強効果あり」と実験結果が出ています。首都高のいくつかの箇所では、すでにCFRP接着補強工事を実施しています。

橋梁の桁端部の腐食損傷(施工前)

CFRP接着接合(固定中)

CFRP補強(完了)

――技術開発を始めた経緯を教えて下さい。

政門さん 今のオフィスに移転した際、構造技術部内に技術開発のセクションを設けました。現在15件ほどの研究開発、新技術検証、既往技術との比較などを行っています。画期的な技術を開発すというよりは、インフラの老朽化と予算不足、技術者不足のニーズに沿った技術の開発を行っているということです。私が仕事を受けて、大勢の部員が実験を行っています。メンテナンスの技術者にとって、最高の部署ではないでしょうか。

「首都高の構造物が損傷した」という一報がわれわれのところに入ります。現場に行って、首都高関係者の方々と合流し、ディスカッションをします。そこで方向性を決めて、報告書をまとめます。工事途中、工事完了後もわれわれが見て次に活かす。

そういうことを繰り返しているうちに、われわれに技術が蓄積し、首都高関係者からも評価されるようになりました。「こういうやり方が良いね」という話になったんです。当初、補修設計は10〜20件でしたが、3年後には300〜500件の補修設計を実施するまでになりました。

この経験を踏まえ、私は、現場をしっかり見て後々まで見越した提案ができるのが良い土木技術者だと考えています。部下には「必ず現場を見ろ」と言っています。

現場に行かず、写真だけ見ても、わからないことが数多くあります。「損傷の原因は?」「劣化進行の可能性は?」「隣接箇所の状況は?」「第3者への被害は?」--などなど、写真ではわかりません。

これを現場で特定し、ベストな補修補強提案をすることが本当の技術者だと考えています。一般的には現場を見ないことが多く、見ても遠くから状況を確認するだけです。NEKの場合は、損傷箇所を自分の手で触って確認しています。これが他の建設コンサルタントにはないNEKの強みだと考えています。マニュアル通りの提案なら誰でもできると思いますが、現場が求める最高の提案は、どこにも負けない自負があります。

2006年に4名でNEKに移ったときは、正直不安でした。何事も計画的に進めることで育ってきたので、見えない未来でしたが10カ年の中期計画を自分でつくりました。売上、人数、事業規模とその範囲などは、計画通りに達成することができました。4名で新たに立ち上げた事業でしたが、一応うまくいったと考えています。

手抜きをすると、すぐバレる

――印象に残る仕事は?

政門さん 首都高速道路では、交通事故が発生したり重大な損傷が発見されたりして、緊急に対応しなければならないことが年に数回必ず起こります。そういうときには、NEKに連絡が入ってすぐ現場に駆けつけると、首都高関係者から「今晩中に補修工事に入れ」と言われることもありました。

普通に考えるとムチャクチャな話なんです。数時間で対応策を決めて、材料も手配して、なんとか工事に入り、朝方には工事を終わらせ、交通開放にこぎつける。そういうことが年に1回はあります。そういう緊急対応の仕事が印象に残っています。自分たちが培ってきたノウハウを全部絞り出して仕事をするので、当然やりがいを感じますよね。

――「これは失敗したなあ」と思ったことは?

政門さん これも首都高の話なんですが、30歳ごろに、ある試験施工をやったことがありました。試験施工の後、当時忙しかったので、A4の紙4枚ぐらいに簡単に報告書をまとめて、首都高様に出しました。すると、首都高の担当者に「これは速報版ということで良いのかい?」と言われたんです。

「どういうことだろう」と思って、その方といろいろ話すうちに、「これは手抜きだよね」とはっきり言われました。「あ、見抜かれた。やっちゃったな〜」と思いました(笑)。

1ヶ月後、75Pの報告書をまとめ、再度提出しました。すると、その方より「やっぱり、あなたはNo.1だね」とおっしゃていただきました。ほめられたことの喜びと合わせて、仕事への取り組み方を考え直したことを覚えています。「手抜きすると、すぐバレる」ということを学びました(笑)。

部下に「ついて来てほしい」とはこれっぽっちも思わない

――人材育成で心がけていることはありますか?

政門さん 自分が「楽しく仕事をしている姿」をちゃんと見せることですね。部下には「私の仕事を見て覚えろ」と常に言っています。それを見せることによって、部下も楽しく仕事をするようになると思っています。

あとは、「コイツはできる」と思った人間にはどんどん仕事を任せるようにしています。お客さんから「さすがですね」とホメられると、本人は喜びます。あと5年もすれば、日々の業務はすべて部下に任せられるようになると思っています。

――それで部下はついてきていますか?

政門さん NEKの社長からも「お前のやり方では誰もついてこないぞ」と言われますが(笑)、「ついて来てほしい」なんてこれっぽっちも思っていません。むしろ、これからは「もっと突き放そう」と考えています。

ただし、私が普段何をしているか、どんな勉強をしているかなどは、すべてオープンにしています。今のところは、技術的にはまだまだの人間が多く、自分のやり方の結果が出るのはまだ先ですが、変えるつもりはありません(笑)。

ただ、お客さんに出す書類は、私が厳しくチェックしています。ミスがあると、厳しく部下を叱ることもありますが、「やらされ感」もなく職場の人雰囲気は良好です。「最近の若いものは」と言う人がいますが、私の周りの若い社員はみんなしっかりしているので、どういう若者なのか、私には良くわかりませんね。

――「若い人が入らない、入ってもすぐ辞める」という話を聞きますが。

政門さん ウチも5年ほど前はそういう問題を抱えていました。本社オフィスが横浜市内の不便なところで、古い建物だったため、誰も来てくれませんでした。そこでオフィスを移転したんです。便利な立地で、キレイなオフィスなら、人も来るだろうと考えました。

それと、昨年から横浜F・マリノスのスポンサーにもなりました。企業イメージを向上できると考えたからです。おそらく、建設コンサルタントでプロサッカーチームのスポンサーをやっているのはNEKだけだと思います。

これらの取り組みが功を奏して、ここ数年は、かなりの数の入社応募者が来るようになりました。毎年5〜8名程度、会社が希望する人数を採用できています。現在、NEKには約80名の社員がいますが、毎年1割程度増えてきています。

――メンテナンスの仕事のやりがいは?

政門さん 自分は「橋の医者」だと思っています。患者の悪いところをちゃんと治すという意味では、人間も橋も同じです。橋の病状をしっかりと見極めて、コストも安く、時間も早い一番良い処方をしてきました。ちゃんと治ると、発注者から感謝していただけます。

また、世のため人のためと実感が持てます。そこにやりがいを感じますね。もちろん自社の「儲け」は大事ですが、それだけのためにやっているわけではありません。人に喜ばれてこそ、仕事のやりがいを感じます。

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