株式会社ディアナイズム 代表取締役社長 横田徳隆氏

“元レーサー社長”が建設アプリで目指す上場への道

元レーサー社長の波瀾万丈な人生

「元レーシングドライバー」という異色の経歴を持つ社長がいる。

横田徳隆氏は、学生時代にフォーミュラレースの道に飛び込むと、名門レーシングチームにその才能を見初められるなど、将来が渇望されたレーサーだった。

だが、とあることをきっかけに引退すると、大工修行や現場監督などを経て、オフィス内装などを手掛けるディアナイズム(東京都文京区)を起業。世界一のYouTuberマネジメントオフィスや、高級時計店や飲食店などの店舗、新築マンション、新築ビルのオフィス内装も手掛けるなど、創業14年目の今期、社員数わずか12人で売上10億円を突破した。

しかし、順調に事業拡大しているように見える裏では、売上10億円のうち6億円もの案件を社長である横田氏自身が管理。現場管理も営業もこなす自身のマンパワーに依存する部分が大きい現行の体制では、さらなる拡大が見込めないと判断した横田氏は、経営体制の刷新を決断した。

レーシングドライバーから内装施工会社の社長へと転身を図った波瀾万丈な人生と、数年後に見据える”上場”までの道筋について横田氏に話を聞いた。

サッカー選手からレーサーへ転身

――この業界は長いんですか?

横田 いや、もともとはレーサーでした。26歳まで。

――???

横田 クルマですよ。フォーミュラレースです。小学校から大学までは、ずっとサッカーひと筋だったんです。大学もスポーツ推薦で入るくらい。でも、大学2年のときの新人戦で前十字靭帯を切っちゃって。

入院中に知人がお見舞いにとレースの雑誌持ってきてくれたんです。なんとなく興味を惹かれたんで実際にサーキットまでレースを観に行ったら、「かっこいいな。やりたいな」って気持ちが芽生えてきまして。

どうにかならんのかと色んなレース雑誌を読んでいたら、たまたまレース未経験でもOKなチームがあって、そこに入団することにしました。

ただ、ちょっと調べてもらえると分かりますが、モータースポーツってめちゃくちゃカネが掛かるんですよ。そこのチームだと年間400万円の受講料が必要で、レースに出るとなると1レースの活動費も180万円。だから、バイトしながら学校の授業も出て、ときたま練習するみたいな。夜は市場で食材の積み下ろしをして、昼はイタリアンレストランでウェイターやって、空き時間はチラシ配りして、バイトを何個も掛け持ちして寝ずの生活をして、在学中は気合いで毎月60万円くらい貯めました。

その金で、福島・二本松にあるサーキット場に寝泊まりしながら、半年間ガッツリ練習してたらうまくなってきてね。たまたま出場したレースで、名門チームの監督が「あのコ、いいね」って僕のことを評価してくれて、そのまま、そのチームに移籍することになりました。

レーシングドライバー時代

まぁまぁ順調にいってたんですけど、シリーズチャンピオンになれず、プロドライバーの道を辞めるしかなくなって。

――チャンピオンになれないと辞めなきゃいけないんですか?

横田 優勝していれば、無条件でF3というカテゴリーに上がれたんですけど、F3レースの場合は2位だと活動費を持参しなければならなかったんです。つまり自分を支援してくれるスポンサーの資金が必要なんですよ。僕の場合は、F3に昇格するために必要な持参金の額は5000万円でした。

スポンサーの話はあったんですけどね。僕の父が建築設計事務所を経営していたんですが、某大手仏壇店のビルを手掛けていた縁で、その会社が支援してくれると。大手広告代理店も入って順調に話が進んでいたんですが…。

色々あってスポンサーの話自体が立ち消え、志半ばですがレースも辞めることにしました。これが26歳のときです。


「独立できるか、テストしてやる」

――その後はどうされたんですか?

横田 いま話した通り、父が建築設計事務所をやっていて、僕自身も千葉工大の建築学部だったこともあって、建設業界に進もうかなと。とくに、オシャレな内装が好きだったので、内装デザインがやりたくて。とはいえ、すぐにというワケにはいかないので、まずは現場で修業しようと大工を2年くらいしていました。

――現場作業はどうでした?

横田 そのときの親方は、見て覚えろの厳しい人でしたね。「掃除でもやっとけ」から始まって、何か質問しても「そんなモン自分で考えろ」で何も教えてくれない。

ただ、よーく見てると段々と要領がわかってくる。「次こういう作業するから、これやっとこう」みたいな。すると親方も僕が分かってきたことを分かってくれて、少しずつ技術を教えてもらえるようになってきて。

それから1年半くらいで床の組み方から束の建て方、建具・額縁・天井組、階段、って一通りできるようになったので、大工を卒業して高級店ばかりを手掛けている内装会社に入社して、施工管理技術者として3年間勤務しました。ここまで職人、施工管理ときて、じゃあ次は営業を学ぼうということで、オフィスメーカーにも転職しました。

色々経験して、そろそろ独立しようかというタイミングで、当時の社長から「お前が本当に独立できるかテストしてやる」って大きな仕事を振ってもらって、この仕事をきっかけに独立しました。

社員12人で売上10億円を達成も、体力の限界

――波瀾万丈ですね。今の売上は?

横田 今期でちょうど14期目で、売上は10億円です。1期目は8000万円程度で、途中いろいろと苦戦しましたが、右肩上がりに伸びてきました。

ただ、売上は伸びていても、僕自身”経営”というものは一切できていなかった。今も、売上10億円のうち、僕が6億円分の現場を見ている状態で、現場の最前線に僕が立ち続けている。

代わりを任せられる人がいればいいんですけど、昨今の人手不足で施工管理できる人が本当にいないんですよ。年収1000万円を提示しても来ないんです。今の社員数は12人ですが、施工管理技術者は僕含めて4人しかいません。

今のところは、僕一人でなんとか6億円分の現場を見られていますけど、これ以上は100%無理です。過労でぶっ倒れて救急車で運ばれることもあり、医者にも「このままのやり方だと死ぬぞ」って釘を刺されていて。

高級宝石店なども手掛ける

ずっと自分の技術力だけでやってきたので、既存顧客からの紹介物件こそ切れずにありましたが、次のステップに進むためには、僕は現場に張り付いているんじゃなくて、どんどん営業して、新規案件を獲りにいかないといけない。いつまでも社長の自分が現場に立つというのは、もう経営的にも、物理的にも限界でした。

だけど、ウチは抱えている施工管理技術者が多くない。それなら、今いる人員で回せるよう、現場の効率化を図っていかなきゃいけない。売上10億円を超えた今こそ、投資するフェーズだと思って、新しい技術をどんどん導入していこうと決めました。


建設アプリで「現場を見える化する」

――次のステップに進むために、まず何をした?

横田 僕一人で全体を管理して回すことから脱却する、つまり、すべての社員にとっての「現場の見える化」を図るために、「SITE(サイト)」という現場管理アプリを導入しました。

今は色々な施工管理系のアプリやソフトがありますが、僕自身はそのあたりの知見はありませんでした。ただ、もともと数年前に建設業関連のソフトウェアを開発しているイズミシステム設計のオフィス内装の仕事をやらせてもらうことがあって、そこが新会社を立ち上げて建設アプリを開発するというので、ちょっと使ってみようかなと。それがそもそものキッカケでしたね。

――どのように使っている?

横田 クラウド上で案件や技術者のスケジュール管理をしたり、グループチャットで図面を共有しつつ遠隔会議などをしています。

人員配置の合理化はだいぶ楽になりましたね。パソコンやスマホで案件と社員のスケジュールを一目で把握できるので、人員の割り振りも簡単になりました。数少ない施工管理技術者の配置が適切化されれば、彼らが担当できる案件も増えるので、その分僕は社長業に専念することができる。

SITEのスケジュール管理画面

SITEの導入で、作業工数は格段に減っています。クラウドで案件を管理し、クラウドと紐づいているアプリで社内の他の社員や協力会社と状況を共有できるので、余計なやり取りも減ります。

施工管理技術者って基本、会社にいないので、会議の設定だけで時間のロスが生まれますが、「今こことここの現場動いてるけど、次は誰をどの現場に配置するか」みたいな打ち合わせもビデオチャットでスムーズに終わるし、現場の進捗もスマホで映しながら説明するだけになったので。

SITEの案件管理画面

――社員たちの反応は?

横田 正直、まだ慣れてない部分はありますよ。どれだけ「現場で使いやすい技術です」と謳われていても、実際に現場に普及させるとなるとやっぱり難しい。新しい技術を使うことに抵抗がある人がいるのも事実ですからね。

だから、まずは誰かに完璧にシステムや操作を覚えてもらって現場で教育できるよう、SITEの専任者も置く予定です。僕でも使えるくらいシンプルなので、わざわざ教えなくてもすぐに覚えると思います。

最終的には、図面の共有なども含めて、メールを使わずすべてSITEで完結できるように、社内システムを移行している最中です。

現場効率化の先にある”上場”という夢

――今後のステップアップはどのように考えている?

横田 業務の効率化が少しずつ図れてきたとはいえ、技術者を増やしていかないと、事業の拡大は見込めないわけです。でも、市場に人はいない。

しかし、SITEのような現場管理アプリを使いこなせれば、建設業のことをすべて把握していなくても回していける。クラウドで、ウチが抱えている現場の稼働状況をすぐに把握できるし、教育コンテンツも入れておけば、経験の浅い子でも技術者として採用できるようになる。

つまり、知識や技術よりも、気配りが重要になってきます。なので、最近は「未経験可」とハードルを下げて募集しています。これは現場の効率化と同じくらい、ウチにとって大きかったですね。

最近入社した女性社員がいるんですが、彼女はもともと幼稚園の先生で、インテリア好きでした。業界経験はまったくありませんでしたが、ちょっとした縁でウチに入社することになったんです。今はSITEを使って、現場アシスタントという立場で案件全体を管理してもらっています。

もちろん、技術者が増え、受注できる案件が増えれば、それだけ協力会社も増やさなければいけません。有料のアカウントを発行するのは職長クラスまでで、ほとんどの職人さんは無料で連携できるのもありがたい。職人さんはここまでの機能を必要としてないですし、大きい現場では100人を超える場合もありますからね。

――最終的な目標は?

横田 2027年までに社員数を今の12人から50人くらいまで増員して、売上35億円、そして上場を目指しています。SITEを使って現場管理の工数を減らしていけば、50人でも十分に達成できる数字だと見込んでいます。

なかなか技術者が採用できなくて、社長自ら現場に出ている中小零細の建設業者って多くて、マンパワーの問題で売上が頭打ちになっている。それを打破できるのが、「SITE」だと感じています。

ですが、ただ入れて終わりではなく、それで何ができるのかを社長自ら理解して、どうやったらもっと有効活用できるのかまで考えていかなければならない。せっかく入れるんだったら、使い込まないともったいないですからね。

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