西田昌司・参議院議員(自由民主党)

全額国費で全国に新幹線ネットワークを整備せよ!「新幹線投資」でデフレ脱却へ【自民党・西田昌司】

「全額国費による早期整備」は実現可能か?

「全額国費で全国に新幹線ネットワークを早期に整備すべきだ」と主張する人がいる。参議院議員(京都府選挙区)で自由民主党所属の西田昌司さんだ。

西田議員は、国家財政などに関する論客として知られるが、与党の北陸新幹線(敦賀〜新大阪)の整備検討委員会(委員長)、自民党の整備新幹線等鉄道調査会下の「鉄道のこれからを考えるPT」(座長)などに名を連ねる「新幹線ツウ」という顔も持つ。

日本の新幹線には、基本計画があっても一向に動かない路線が多い。やっと工事に着手した路線でも、地元で揉めごとが絶えないといった調子で、先行きの不透明感がハンパない。そんな状況にも関わらず、西田議員が主張する「全額国費による早期整備」は本当に可能なのか。具体的な戦略はあるのか。JRのあり方を含め、西田議員に話を聞いてきた。


新幹線整備は国土強靭化の観点から当然

――基本計画はあるのに、新幹線整備が遅々として進みません。

西田昌司議員 新幹線はもともと、日本国有鉄道(国鉄)が独自の事業として行っていたものですが、国鉄がJRに民営化されて、事業主体がなくなってしまいました。これによって、整備新幹線という上下分離になり、国が新幹線を整備し、運営をJRが行うというカタチに変わったわけです。

ところが、国が整備する段になって、バブルが崩壊しました。「国の公共事業はムダだ」という話になり、公共事業の予算は今、ピークの3分の1に減っています。当然、新幹線の予算も大きく減りました。

鉄道予算が減った背景には、鉄道は時代遅れであり、これからはモータリゼーション(車社会化)だという考えがありました。「鉄道より、高速道路に予算をつけろ」ということになって、それ以降は「ほそぼそ」と鉄道整備、新幹線整備が行われるようになったわけです。

そんな中、私は与党の北陸新幹線PTの委員になりました。北陸新幹線は、当初の計画は、亀岡市付近を通ることになっており、山陰の京丹後地域は一切通らないルートでした。私は「これはおかしい」と思いました。京丹後から東京に行く場合、在来線、新幹線を乗り継いで、5時間ほどかかり、全国で最も東京から遠い地域の一つです。北陸新幹線を整備するのに、なぜ京丹後をスルーするのか、「山陰にこそ、新幹線を通さなければならない」と考えたからです。

これは、私の地元である京都のことだけを考えてのことではありません。南海・東南海地震が起きれば、国土軸である太平洋側が大きな被害を受ける可能性があります。その代替路線として、日本海側に新幹線を整備するのは、国土強靭化の観点から、当然のことだと考えていました。そのためには、「基本計画のある新幹線はすべて通す必要がある」と考えるようになりました。

国が30兆円出せば、すべての新幹線を整備できる

――「基本計画のある新幹線はすべて」ですか。

西田昌司議員 そうです。基本計画のある新幹線をすべて整備するには、だいたい30兆円ぐらいかかります。30兆円と聞くと巨額だと思われますが、国家全体で考えれば、実はたいした金額ではありません。毎年2兆円出せば15年間で整備できるんです。

新幹線整備に限らず、本来インフラ整備は「予算制限」ではなく、「期間制限」で実施しなければなりません。かつては、日本も期間制限のもと、様々なインフラを整備してきましたが、今は「財政の範囲内」ということで、チビチビやっています。これではいつまで経っても、新幹線などのインフラを整備することはできません。

「予算制限」がデフレをつくった原因です。これを見直して、デフレの流れを変え、日本全体を再整備する。そのためには、「期間制限」によるインフラ整備が必要なんです。国民に夢を与える典型的なインフラとして、「新幹線ネットワークの全国展開」が必要だと考えているわけです。

――関西国際空港に新幹線を通す構想をお待ちですね。

西田昌司議員 ええ。これは基本計画にはありませんが、新大阪駅から関西国際空港を経由し、淡路島を通って徳島県まで新幹線をつなげるべきだという構想を持っています。鳴門大橋にはすでに新幹線が通れる鉄道用のスペースがすでに確保されています。

この新幹線が実現すれば、関空まで北陸から1時間、関西圏から30分、四国からも1時間で行けるようになります。中国地方や中部地方で考えても2時間以内です。その経済効果は計り知れないものがあります。新大阪と関空を結ぶ新幹線の基本計画はありませんが、この路線も四国新幹線と考えれば、つくることは十分に可能だと考えています。

新幹線投資はデフレ脱却につながる

――新幹線整備の財源をどうお考えですか。

西田昌司議員 建設国債です。国は、新幹線のためにポンと30兆円投資すれば良いんです。民間投資も当然増えます。今、民間投資が増えないのは経済の先行きが不透明だからです。国は「日本経済はこれから先細りだ」と言ってきました。ところが、実はこれが一番の間違いなんです。

国はバブル崩壊後、不良債権処理を強行しましたが、私はこれは大きな失敗だったと考えています。民間企業の多くはこれに懲りて、「銀行からお金を借りて、投資するのはイヤだ」と考えるようになってしまったからです。実際、どんなに低金利でも、お金を貯める一方になっています。すると、「民間投資が減っているのだから、国もお金を節約すべきだ」という間違った世論が蔓延しました。

この世論に押されるカタチで、国は予算を小さくし、人員整理なども整理しました。その波は地方にも及び、地方経済、財政が疲弊しました。景気が良いのは、東京をはじめとする大都市圏だけです。容積率を緩和して、今でも新しいビルがどんどん立っています。

私は、バブル以降の国の経済政策はデフレ政策であり、実体経済を見れば、まったくのデタラメだったと考えています。日本の再生のためには、デフレ、緊縮政策からの脱却が不可欠です。脱却するためには、財政出動が必要であり、その代表的な例として、「全国の新幹線計画を進めよ」というのが私の持論なんです。

国債残高がゼロになると、国民預貯金もゼロになる

――旧大蔵省はかつて「新幹線はバカ査定」と言ったそうですが。

西田昌司議員 そう言う彼らが「一番バカ」なんです。財務省は、財政赤字が続いたら、国家が破綻すると本当に考えていますが、それは間違いです。彼らはどうやら本当に「破綻する」と思い込んでいるようですが、国家財政の仕組みをまったく理解していないと言わざる得ません。

民間企業は、返済できない負債を抱えたら、破綻します。ところが、国家は債務が自国通貨建てである限り、国債発行により債務返済できるので、破綻しません。破綻しないというより、破綻できないんです。

こう言うと、「国債を発行し過ぎれば財政破綻する」という批判が出ますが、それもあり得ません。なぜなら、市中銀行は、新規国債が発行されれば、金利が付くので、必ず買うからです。

財務省の言う通り財政再建をするのであれば、1000兆円を超える公債残高をゼロにしなければなりません。税金を上げ、政府の支出を減らす続ければ、いずれゼロになります。ところが、国債残高がゼロになると、民間の預貯金も100兆円分なくなります。政府の赤字は国民の黒字だからです。「国民の預貯金を1000兆円なくしてなんの意味があるのか」という話です。

財務省はこういうバカなことを実際にやりました。1946年に財産税をかけるため、新円切替えを行いました。新円切替によって、それまでの円は使えなくなるので、国民はこぞって旧円を新円に切り替えましたが、その際、政府は最高税率90%の財産税をかけました。1万円を切り替えたら、1,000円しか戻ってこないわけです。その結果、国民は大貧乏になりました。

財務省は今でも、この財産税について、インフレを抑えるために通貨量を減らしたと説明していますが、大間違いです。当時の国債残高はGDPの2.5倍ほどありました。戦時国債を大量に発行したからですが、戦時中はインフレになっていません。インフレになったのは、空襲によって全国のインフラ、住宅や工場などが破壊され、供給力が圧倒的に不足したからです。

供給力不足を解消するには、住宅や工場をたてる必要がありましたが、政府は逆に財産税をかけました。おまけにドッジ・ラインによって、投資も抑制しました。政府は供給力不足をさらに加速させたのです。

日本は今、このときと同じデフレ政策、緊縮政策をやろうとしているわけです。問題なのは、国民をはじめ、財務省もこういうことをまったく認識していないことです。「拡大均衡」でなければ、経済は成り立ちません。企業や個人が銀行からお金を借りて、保有する現金以上に投資をすることが、経済が発展する第一原則なんです。私が主張している新幹線ネットワークの構築は、緊縮財政から積極財政への転換させるためのものです。

国費による新幹線整備に向け法律改正を

――現行の整備新幹線というスキームは非常に問題があると思いますが。

西田昌司議員 私もそう思います。整備新幹線スキーム、公共事業方式はやめるべきであり、全額国費で整備すべきだと考えています。当然、地元負担はゼロにすべきです。

もともと東海道新幹線は、国鉄が整備したもので、地元負担はありませんでした。だからスムーズに整備できたんです。並行在来線の問題もなくなります。しかし、地元負担がある限り、新幹線整備に反対する自治体は必ず出てきます。そんな状況では、新幹線はいつまで経ってもできません。

その典型が、九州新幹線西九州ルートです。長崎県は新幹線を通したいけども、佐賀県は反対しています。その一番の原因は地元負担です。

――全額国費で整備するために必要なことは?

西田昌司議員 まず法律を変えなければいけません。そのために私は、自民党の整備新幹線等調査会を通じて、岸田文雄政調会長に対し、法律を変えるように言ってきました。2018年に調査会の下に「鉄道のこれからを考えるPT」が設置され、私が座長を任されています。2019年には、PTとして、新幹線の早期整備に向けた国費増額などを盛り込んだ提言をまとめ、岸田政調会長に手渡しました。

今やっているのは、2020年度の政府の骨太の方針の中に、国費による新幹線整備に向けた法律改正を盛り込むように動いています。

JRは、ホールディングス化で経営を一本化すべき

――JR北海道やJR四国は赤字まみれです。

西田昌司議員 私は、そもそも国鉄を7社に分割したのが間違いだと考えています。民営化するのであれば、7社のJRの上にホールディングス会社をつくり、経営は一本化させるべきだと考えています。

国鉄が民営化された当時は、占領中につくられた独占禁止法、要するに財閥解体法のために持株会社が禁止されていたので、それができなかったんです。今では持株会社は普通にあります。財閥の復活ですよ。これに習って、JRもJRホールディングスをつくれば良いんです。

JRの上場株の額面を合計すると、だいたい7〜8兆円ぐらいになります。多く見積もっても、10兆円あれば、政府はすべてのJR株を買えるわけです。購入財源は国債でも財投債でも良いんです。株の配当は1000億円ほどあるので、株を10年持っていれば、1兆円が政府のサイフに入るわけです。こんなメリットのある話はありません。再度民営化する場合は、株を売れば良いわけです。

ただ、政府はJR株を全部売るべきではないと考えています。半分、3分の1でも政府が持っておくべきです。鉄道という国家の根幹を成すインフラを完全に民営化すること自体が間違っているからです。まともな国家の中で、鉄道をすべて民間がやっている国家はありません。国のインフラである以上、「儲からない路線なのでやりません」ということがあってはなりません。どこの国でも国が責任を持って鉄道をつないでいるわけです。

JR民営化には、もちろんプラスの面はあります。しかし、本来国家がやるべき仕事を民間に任せるのは、国家の責任放棄に過ぎません。政府はしっかり反省して、JRの経営に一定の責任を持つべきなんです。JRの経営一本化がベストですが、次善策として、JR北海道はJR東日本と、JR四国はJR西日本とそれぞれ経営統合するという選択肢もあり得る。私はそう考えています。

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