建築施工管理技士が語るクレーン計画の失敗事例
冷静に考えると当たり前のことでも、実際の現場ではそうはいかない……そんなクレーン計画での失敗談をご紹介します。施工管理技士の皆さんには、ご一笑いただくとともに、私と同じ失敗をしないよう、頭の片隅に留めておいていただければと思います。
建築施工管理技士の私は、初めて足場解体の計画を任された時、今でも忘れられない失敗をやらかしました。当時、私は仮設の担当。その現場は、全体を8工区に分けるSRC造の現場だったので、毎日のように何かしら仮設材の搬入・搬出がある現場でした。私は足場材の図面作成から、材料の拾い、足場材の在庫管理まで、まさに足場材まみれの日々を過ごしていたのです。
それから、月日が流れ足場の解体時期になると、今度は2~3班に分かれて現場のあちらこちらで足場の解体が行われ、毎日走り回っていた記憶があります。そのような現場状況だったため、常駐していたクローラークレーンだけでは解体作業をまかないきれず、スポットでラフタークレーンも手配していました。スポットで手配するクレーンの中で、1番大きなサイズのクレーンは、100tのトラッククレーン。当時、1日リースすると約30万円だったので、3日間リースすると約100万円の出費でした。
直感的な戸惑いは、「施工ミス」の前兆
建築施工管理技としてまだ経験が薄かった私は、約100万円というリース金額にビビって、「これは失敗できないぞ」という意気込みで何度も計画に間違いがないか、作業半径、吊り荷重、ブームの角度等を確認しました。
何度も確認し、この計画で完璧だという状況で足場解体の当日を迎えました。100tトラッククレーンの設置場所は、建物の周囲をグルっと廻って袋小路になった道路の一番奥。私が自らクレーンを誘導しました。
運転手さんはトラッククレーンの運転席を前にして、前進で目的の場所まで到着して作業の準備を始めました。しかし、私はそのとき一瞬、戸惑いを覚えたのです。その戸惑いは、数十分後には現実のトラブルとして表面化するのでした。
こういう直感的な戸惑いがあると施工ミスが起きる、という経験は施工管理技士の皆さんならお持ちではないでしょうか?
トラッククレーンの運転席にも注意
さて準備が整い、いよいよ解体作業に掛かろうとトラッククレーンがゆっくりブームを伸ばして行きます。絶対に大丈夫という気持ちの反面、やっぱり不安な面もあったので、視線は自然とブームの先に釘付けになっています。そして、ブームが伸びきった時でした。
鳶さんたちが異変に気付きました。「あれ? 届かないぞ」絶対に届くはずと何度も計画したはずのトラッククレーンのブームが、目標の足場のわずか1.5m先までしか届いていなかったのです。私の頭は軽くパニック状態に陥っていましたが、すぐに原因が思い浮かびました。
そう、運転席が反対だったのです。トラッククレーンは運転席のキャビネットの後方に、クレーン部分の旋回台がついているため、運転席が前にあるのと後ろにあるのとでは旋回の中心がずれます。そのため、1.5mクレーンのブームが届きませんでした。私が感じた一瞬の戸惑いとは、まさにこのことだったのです。計画通りに進めるには、運転手は前進ではなく、バックで袋小路の道を目的地まで進まなくてはいけませんでした。
結局、他の足場の解体作業を中断して、100tのトラッククレーンが届かない所だけ、常駐のクローラークレーンで足場を解体したので体制に影響はありませんでしたが、大手ゼネコンの社員である私にとって立場的にもかなりショックな出来事でした。トラッククレーンの運転席の向きには、くれぐれも気を付けましょう。