悪魔のささやきに惑わされるな
皆さんは、現場の工期が迫ってきたり、様々な業務の波にのまれそうになると、悪魔のささやきが聞こえてくることはありませんか?
- 面倒くさい仕上げなんかやめて簡単な仕上げでも良くない?
- コストが掛かるから、こっちの商品でいいや
- 付属部材なんて付いていれば何でも良いんじゃない?
- 設計図に書いてあるからその通りにやっておけば大丈夫
- 別に、自分が実際に使うわけじゃないからね…
そうです。現場に従事している99%の人たちは、”自分自身で建物を使わない”のです。すると、私も含めて「まあ、良いや」という妥協が芽生えてきやすいのだと感じます。
今回は、建物はやっぱり使うお客様のためにあるんだな、と再認識した事例をお伝えします。
基準通りの施工が事故の原因になりうる?
マンションなどのバルコニーには、雨水を排水する竪樋が設置されていることが多いですよね。設置する場合、竪樋を支持するために、躯体と樋の間を支持金物でつなぎます。
一般的に、樋の支持金物の間隔は1200mm以内で、施主や設計事務所などで、床や天井からの寸法などの数値が定められています。通常は、品質基準に決められた寸法に設置しておけば問題ないとされるため、私も基準通りに施工をしていました。
しかし、社内検査が一通り終わった講評の時に、とある大所長さんから言われたのです。「角部屋のタイプの雨樋は、危ないから再検討したほうが良い」と。
そう言われても、最初は何のことやら意味が分かりませんでした。よくよく聞くと、角部屋のバルコニーに設置されている竪樋は、バルコニーの立ち上がりの壁に近いため、樋の支持金物が「足掛かり」になるから危険だ、という説明でした。
確かに、他のタイプの竪樋はバルコニーの壁とは距離があるため、通常の品質基準通りに施工していれば良かったのですが、場合によっては、基準通りに施工することが、かえって実際に使用する人にとっては事故の原因につながることもあると知りました。
私の中では、「基準通りにやっているから問題ない」という既成概念を壊された経験の1つでした。
“たかがナット、されどナット”
製作金物の図面をチェックする場合は、主部材の寸法や納まり、材質などが議論の中心になります。そのため、副資材については、あまり議論になることはなく、材質やサイズが間違っていなければそれで良しという程度で終わりがちです。
しかし、10年ほど前、設計事務所の検査である指摘を受けました。当時の設計事務所の先生が、アルミ手すりのある部分を触って「全部交換」と言ったのです。私は、その部分を見ても最初は意味が分かりませんでした。
指摘された部分は、アルミ手すりの端部の振れ止めの部分で、躯体のコンクリートからオールアンカー(あと施工アンカー)とアングルで持ち出している部分でした。
理由を聞くと、「子供の手が触れるところに、ボルトの端部が出ているのは良くないので、全て袋ナットに交換して欲しい」ということでした。
元々は商品として、アンカーボルトに対して普通のナットが付いているのですが、専門業者さんと協議を行い交換することにしました。
子供が怪我をしそうな部分については、度々議論になることはありましたが、”そんなとこまで”と感じた出来事でした。それ以降は、図面チェック時に同様の箇所があれば、忘れずに袋ナットにしています。
目先の自分の利益だけにとらわれない
マンションの施主検査などは、ディベロッパーにもよりますが、細かい傷や汚れまで指摘されることがあります。
マンションは最後の砦として、内覧会による購入者さんの検査があるので、施主検査が厳しくなるのは致し方ないのですが、検査員の中には傷や汚れをほとんど見ずに、他の部分をチェックされている方もいらっしゃいます。
その検査官がチェックするポイントは、”後々でトラブルになりそうな所”。
具体的には、全ての可動部分を動かして、怪我をしそうなところがないか?他の部位との干渉する場所はないか?など、購入者の方が怪我をしたり、クレームが来たりしそうなポイントを事前にチェックしていくのです。
実際に指摘を受けた中には、
- 現場で議論にはなったものの、「別にそこまでする必要は無いだろう」という結論に至った箇所
- 「言われたらやろう」と消極的になっていた箇所
- 脳裏にはよぎったが「面倒くさい」とスルーしてしまった箇所
なども含まれていました。
結局、最終的にやることになるのであれば、目先の自分の利益にとらわれずに、気持ちよく最初からやっておけば良かった、と後悔したことを覚えています。
・・・いかがでしたか?
最初は、気持ちに余裕があっても、現場での様々な出来事に振り回され、少しずつ余裕がなくなっていくということは、私の中でよくあることです。そして、余裕が無くなるとともに「思考の幅」も狭くなってしまいがちです。
もしかしたら、皆さんの中でも、共感して頂ける人がいらっしゃるかも知れませんね。私のように、ついつい頭の中が自分のことで一杯になってしまうという方は、基本である「実際に使う人のために検討をする」ということに、改めて気づくきっかけになっていたら嬉しいです。