新会社・MEC Industry株式会社の森下 喜隆社長

新会社・MEC Industry株式会社の森下 喜隆社長

【MEC Industry】三菱地所の新会社はCLT普及の旗振り役となれるか?

国産材活用社会は実現するか?

三菱地所株式会社は、建築用木材の製造、施工、販売といった、川上から川下までの統合型ビジネスモデルを構築する新会社・MEC Industry株式会社を設立した。

同社には、竹中工務店、大豊建設、松尾建設、南国殖産、ケンテック、山佐木材ら、デベロッパーや建設、製材など”木材”にさまざまな形で携わる7社が出資。共同で国産材活用社会を目指していく。

将来的には直交集成板・CLTとS造・RC造などの複合化により、中層から高層建築化への展開を進めていくという。もとより三菱地所は「CLT 活用プロジェクト」を実施し、「CLT PARK HARUMI(展示施設)」などのプロジェクトで実用化してきた経緯もあり、今後もさらなる展開が予想される。

新会社設立により、日本でCLTは普及していくのだろうか。キーマンである、森下喜隆社長に話を聞いた。

S造、RC造との複合化が進むCLT

――最近のCLT工法の潮流は?

森下 喜隆氏  CLTは2013年以降の関連告示以来、各社もどのようにすれば使いやすくなるかを模索している段階です。

直近の取り組みを見ると、興味深い事例も増え、多様な使い方をされている印象です。従来の一般的な木造建築ではトライしなかった新たな用途での建築も実現しています。現在では低層建築を中心に採用されていますが、高層化、大規模化に向けチャレンジしている潮流にあります。

CLT工法では建築構造として、S造やRC造などと掛け合わせるハイブリッド(複合化)という考え方や新たな複合化に伴う構造計算も編み出されています。または、CLTと別の素材を合わせて新建材を開発する動きもあり、CLT活用のバリエーションも実に豊富になっています。

ただし、CLTそのものはシンプルなつくりですから、各社は使い道を拡げるための研究に力点を置いているものだと理解しています。

――三菱地所でもCLTの導入事例が増えている。

森下 当社初の事例は、沖縄県宮古島市の「みやこ下地島空港ターミナル」で、屋根の構造材にCLTを採用しました。以降、高層化に向けて研究を進めています。特にトライしているのはハイブリッド建築で、仙台市の「PARK WOOD 高森」はS造とCLTのハイブリッドで、札幌市の「(仮称)大通西1丁目プロジェクト」は実に多くの混合構造となっています。

多彩な混合構造である「(仮称)大通西1丁目プロジェクト(ホテル)」

S造とCLTのハイブリッド建築において、どうすれば施工性が向上するのかなど、現場ごとに研究が進んでいますが、これらの先行事例のひとつは松尾建設本店でのCLT導入で、それを改良したのが「PARK WOOD 高森」です。このように、現場ごとに改良が進み、新工法が生み出されているのが現状です。

――今後の高層建築では、木造とのハイブリッドは一つの潮流になっていく?

森下 一定程度、ハイブリッド化が進んでいくとは想定していますが、まだコスト面でS造・RC造に優位性がありますし、耐火関連の法規制の関係もあり、事業者側でのCLTの採用に戸惑いもあります。仮にそれらが解消されたとしても、現時点では木造ハイブリッド化が一般的になるには、もう少し時間が必要と思っています。


木材の生産から流通、施工、販売までワンストップ

――新会社を設立した経緯と理由は?

森下 三菱地所の新事業提案制度に応募した数名が発案しました。CLTを活用して事業を行うことで、デベロッパーがより事業に取り組みやすくなるのではないかと考えたことによります。

都心部では、特に建築現場の技術者・技能者が不足しています。より省力化を図ることを考えたとき、軽量木材を使いつつ、RC造と同等な性能が出るCLTに興味がわき、それがデベロッパー事業で使えるのではないかと考えたことが研究の始まりです。

ですが、CLTを使うことに前向きにならないと、工事や施工上の解決が進みません。著名な設計者や建築家が、「今回の現場はCLTを使おう」と提案すれば、ゼネコンもCLTによる施工も行いますが、そんな現場ばかりではありません。設計者や建築家にも頼るのも限界があります。

オーソドックスな事業でのCLTの実用を進めるには、われわれデベロッパー側がCLTを導入しやすい環境を作っていくことが必要です。

また、今回の出資会社の1社である山佐木材には、これまでも多くの事業でCLTを製造していただいてきたのですが、CLTを安価で製作するためには、需要が明確にならないと難しい、という川上側の課題感も理解していました。

竹中工務店、大豊建設、松尾建設と組んだワケ

――出資会社も多彩ですね。

森下 CLTの普及を目指すに当たっては、設計や施工など各フェーズに課題があるわけです。今回、施工に関してはゼネコン3社(竹中工務店、大豊建設、松尾建設)にご協力いただき、木材についてはわれわれの先生である山佐木材のご協力のもと、原木の調達から製造まで一通りカバーし、鹿児島県・宮崎県・熊本県の南九州の国産材を使用します。

また、九州で多くの案件を共同で実施し、親和性の高い南国殖産、そして「配筋付型枠」を共同開発したケンテックが出資し、MEC Industryを設立しました。建築用木材の生産から流通、施工、販売までワンストップを行うことで、今後見えてくるものもあると考えています。

ビジネスモデル比較図

今回、資本金19億2500万円(9月末時点)を投下しましたが、本気でCLTの普及を目指すにはある程度大きなロットで事業に取り組み必要があります。原木を調達する場面でも、安定的に一定の購買を継続することは、評価いただけると思っています。

――ゼネコン3社が出資された事情は?

森下 竹中工務店は、2016年9月に「木造・木質建築推進本部」を設置されるなど木造建築の普及に力を入れておられます。耐火集成木材「燃エンウッド®」を開発されているほか、特に「PARK WOOD 高森」では設計・施工も担当されています。

CLTへの取り組みの本気度、先進性については以前から尊敬しており、学ばせてもいただいていたので、必然的に竹中工務店にお声掛けすることになりました。

大豊建設は、2020年3月に技術研究所を開設されたのですが、1階部分はRC造とCLT耐震壁、天井は当社の「配筋付型枠」を仕上げ材として使用していただいた経緯があります。配筋付型枠の研究については以前から、ケンテック、大豊建設と進めており、マンション建築では仕事を一緒に手掛けることが多かったことも、メンバーに入っていただいた理由の一つです。

松尾建設は、自社ビルにCLT工法を導入した際も、技術をかなりオープンにされています。これまで意見交換等も行ってきましたが、九州・鹿児島県に本社を置くことを考えると、九州における松尾建設の高い施工能力と、そして実際の物件にCLTを導入する強いパワーがあることから、お声掛けさせていただきました。


モジュール化の推進が必須

――建材の多様化で、施工はどう変わる?

森下 建材を多様化すると、作る商品も多種多様になるわけで、モジュール化し、いかに現場施工を減らせるかに研究の力点を置く必要があります。当社としては、今回、モジュール戸建てにトライしたいと考えています。戸建てをつくるためにモジュール化したわけではなく、モジュール化していった際に一番分かりやすい建築は戸建て住宅だったという考え方です。

当社はハウスメーカーの機能を持つことになりますが、コンビニなどの店舗や工場、倉庫、ホテル、老人ホームといった用途にも展開可能だと考えています。

直交集成板・CLTの利用拡大に期待が集まる(銘建工業株式会社 CLT工場)

――商圏はどこまで拡げる?

森下 BtoC事業については、地産地消の考えに基づき南九州を商圏とし、それからどこまで伸ばしていくのかは、今後見極めていきたいと思います。

コストや耐火関連の法規制など課題も

――工務店やハウスメーカーとの連携は考えている?

森下 当社の製造するラミナやCLT材を使うという観点からの連携はありえます。たとえば、ハウスメーカーでもライン工場がありつつも、CLT材を持っていない先に対し、建材メーカーの立ち位置で供給することもあります。

ただ、新たな会社ですので、現行商品に拘泥することなく、どんどんトライしていきたいと考えています。まずは、三菱地所ホームや三菱地所住宅加工センター、三菱地所設計などのグループ会社様々な場面で連携し、技術供与や施工・設計上のアドバイスを受けながら、事業を成長させていくつもりです。

――CLT工法の公共事業への展開は?

森下 企画上は公共建築に木造活用することは可能であっても、コストが合わないために採用事例が増えないと聞きます。それなら、RC造、S造、木造のいずれでもほぼ同等のコストであるということが確認できれば、一層、公共建築の木造化が進むと思います。

公共建築のなかでも、図書館や学校などは、すでに多くの案件が木造化されており、今後も木造化の推進が期待されます。

――国に対する規制緩和の要望は。

森下 耐火の考え方についてはもう一段、法規制を緩和してほしいと要望しているところです。この点については、大きなテーマであり、まだ時間が掛かると考えています。

規制緩和が進んで、木造化しやすくなるまでの間、木を使った良さを商品として、大豊建設の協力のもと、三菱地所とケンテックで「配筋付型枠」を共同開発しました。通常廃材となる型枠材をそのまま内装の仕上げ材として利用するため、デザイン性の向上と、施工負担の軽減が可能です。

製材木板に鉄筋を配筋したコンクリート打設用の型枠・配筋付型枠

CLTを使うことも大事ですが、必ずしもそれにこだわらなくても、木材を使った建築ができるのではないかという発想のもと、法的な枠組みの範囲内で開発した商品といえます。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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