木材の生産から流通、施工、販売までワンストップ
――新会社を設立した経緯と理由は?
森下 三菱地所の新事業提案制度に応募した数名が発案しました。CLTを活用して事業を行うことで、デベロッパーがより事業に取り組みやすくなるのではないかと考えたことによります。
都心部では、特に建築現場の技術者・技能者が不足しています。より省力化を図ることを考えたとき、軽量木材を使いつつ、RC造と同等な性能が出るCLTに興味がわき、それがデベロッパー事業で使えるのではないかと考えたことが研究の始まりです。
ですが、CLTを使うことに前向きにならないと、工事や施工上の解決が進みません。著名な設計者や建築家が、「今回の現場はCLTを使おう」と提案すれば、ゼネコンもCLTによる施工も行いますが、そんな現場ばかりではありません。設計者や建築家にも頼るのも限界があります。
オーソドックスな事業でのCLTの実用を進めるには、われわれデベロッパー側がCLTを導入しやすい環境を作っていくことが必要です。
また、今回の出資会社の1社である山佐木材には、これまでも多くの事業でCLTを製造していただいてきたのですが、CLTを安価で製作するためには、需要が明確にならないと難しい、という川上側の課題感も理解していました。
竹中工務店、大豊建設、松尾建設と組んだワケ
――出資会社も多彩ですね。
森下 CLTの普及を目指すに当たっては、設計や施工など各フェーズに課題があるわけです。今回、施工に関してはゼネコン3社(竹中工務店、大豊建設、松尾建設)にご協力いただき、木材についてはわれわれの先生である山佐木材のご協力のもと、原木の調達から製造まで一通りカバーし、鹿児島県・宮崎県・熊本県の南九州の国産材を使用します。
また、九州で多くの案件を共同で実施し、親和性の高い南国殖産、そして「配筋付型枠」を共同開発したケンテックが出資し、MEC Industryを設立しました。建築用木材の生産から流通、施工、販売までワンストップを行うことで、今後見えてくるものもあると考えています。
今回、資本金19億2500万円(9月末時点)を投下しましたが、本気でCLTの普及を目指すにはある程度大きなロットで事業に取り組み必要があります。原木を調達する場面でも、安定的に一定の購買を継続することは、評価いただけると思っています。
――ゼネコン3社が出資された事情は?
森下 竹中工務店は、2016年9月に「木造・木質建築推進本部」を設置されるなど木造建築の普及に力を入れておられます。耐火集成木材「燃エンウッド®」を開発されているほか、特に「PARK WOOD 高森」では設計・施工も担当されています。
CLTへの取り組みの本気度、先進性については以前から尊敬しており、学ばせてもいただいていたので、必然的に竹中工務店にお声掛けすることになりました。
大豊建設は、2020年3月に技術研究所を開設されたのですが、1階部分はRC造とCLT耐震壁、天井は当社の「配筋付型枠」を仕上げ材として使用していただいた経緯があります。配筋付型枠の研究については以前から、ケンテック、大豊建設と進めており、マンション建築では仕事を一緒に手掛けることが多かったことも、メンバーに入っていただいた理由の一つです。
松尾建設は、自社ビルにCLT工法を導入した際も、技術をかなりオープンにされています。これまで意見交換等も行ってきましたが、九州・鹿児島県に本社を置くことを考えると、九州における松尾建設の高い施工能力と、そして実際の物件にCLTを導入する強いパワーがあることから、お声掛けさせていただきました。