施工図

改修工事は”施工図”が命。なのに描ける人が少なすぎる!

施工図が無ければ、工事は進まない

私は今、関東地方の沿岸にある海洋研究所の中の、波の研究施設の新築改修に関わっている。既存の建物や研究施設は60年前の建屋がメインで、幾度も増築改修を繰り返している。

今回の改修工事に当たって、既存部分の解体撤去部分があるのだが、鉄筋は丸鋼で、鉄筋に関する定着や継ぎ手の解釈がまだ十分浸透していない時代に建てられた建築だと推察される。

そのため、いざ解体してみると、コンクリートの中の鉄筋の配置や本数は予想とは随分違っていた。しかも、鉄筋同士の結束も満足に無かった。

もちろん、改修工事では何が出てきても不思議じゃない。だが、正確に既存の測量をして、現場の現況に元付いた施工図が無ければ、実際の工事は進まない。

改修工事に正確な施工図は必須

基本の建築図だけで出来ると思ってる人もいるが、それは違う。良く考えられた施工図があるのと無いのとでは雲泥の差で、特に改修工事においては 正確な施工図は必須と言ってもいい。改修工事では、施工図が命だ。

完璧を期して描いた施工図面があれば、手戻りもなく作業はスイスイ進む。鉄筋、型枠、コンクリートなど、全ての要素が入っていれば、万一微細な変更があったとしても、その対応はとても楽になる。

良い出来の施工図があれば、現場管理の人間が多少知識や経験が足りなくても、職人の知恵と工夫で何とかなるし、良く考えられた施工図を元にして、百戦錬磨の現場管理の人間がいれば、まさに鬼に金棒。何が起こっても対処できる。


ところが、今一番多いのは施工図もロクにないどころか、現場を管理できる人間も満足にいない。嘆かわしいが、基本設計の図面を指さして、「この図面があるのに、施工図なんかいるの?」と真顔で聞いてくる人もいる。そんな風潮だから、まともな施工図が正当な評価もされず、施工図を描ける人がドンドンいなくなり、現場の品質が目を覆いたくなるほどに低下している。

今私がいる現場でも、まさしくそんなことが起こっている。見かねて私が施工図を描いたら「そんな図面描かなくても、現場は出来るでしょ?」と聞かれた。垂直じゃない壁、水平じゃない壁、平行じゃない壁に、改修工事で新たな擁壁を造るのに、一体何を基準にして寸法を追ってくるのか? せめて、その差を把握して調整代をサブコンに伝えておかないと、まともな作業は出来ない。

言いたいことは山ほどあったが、「描くなと言うなら、描くの止めます。ただ、今ある建築図面は現場の状況に合わせた図面になっていません。そのまま今の現場に当てはめようと思ったら、必ず現場から色々聞かれて、その都度考え、現場に伝えることになるので、時間がいくらあっても足りません。ただでさえ遅れてる工程がますます遅れていくと思いますが、いいですか?」と聞くと、「…じゃあ、時間があるなら描いていいよ」と返事が返ってきた。

モチベーションがグッと落ち込んだが、こんなことで神経を乱していたら自分が損するだけなので、気分を入れ替えて施工図を描き終えた。が、描き終えて、サブコンと職長に説明した日の夕方、またまた変更された内容のメールが来た。

決定する前に散々考え、一度決めたら二度と変えないくらいの覚悟で最終決定をしなければいけない。変更を繰り返すことが、どれほどの時間やお金のロスになるのか、分かっていない。たとえ、図面にする前の段階で多少時間が掛かろうと、徹底的に詰めておかないからこんなことになるのだ。施工図の重要性を理解していない人間は増えている。

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アジア、アフリカなど海外の建築現場で長年、施工管理に従事している。世界中で対日感情が良好なのは、先人たちの積み重ねである。日本人として恥ずかしくない技術者でいたい。
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