試験棟で実用化した『スペーストラス』

試験棟で実用化した『スペーストラス』

都市部の”構造資材搬入問題”を解決。旗竿地でも大空間がつくれる『スペーストラス』とは?【三菱地所ホーム】

試験棟で実用化した『スペーストラス』

三菱地所ホーム株式会社と株式会社三菱地所住宅加工センターは共同で、都市部の構造資材搬入の課題を解決し、旗竿地等の困難な敷地条件でも大空間を形成できる構造材・トラス床根太『スペーストラス』を共同で開発、12月1日から販売を開始した。東京都の城南や城西地区をターゲットに、部材搬入が厳しい敷地での住宅建築や商業施設等に本格提案するという。

一方、試験棟で搬入テストを際、大工たちから「軽くて、運びやすい」という声も上がった。建材は高性能化していくとともに年々、重量化しているが軽量化・高い耐震化にも成功した意味は大きい。

「『スペーストラス』は大工の負担を軽減する施工面の効果も期待される」と話す、三菱地所ホーム設計業務部設計グループ、設計業務グループの島村昌悟氏に話を聞いた。


構造材トラスを分割するメリット

三菱地所ホーム 設計業務部 設計グループ、設計業務グループの島村昌悟氏

――開発の背景は?

島村さん 当社は首都圏をメインに施工エリアを定めていますが、必ずしも道路条件が良好な場所ばかりとは限りません。旗竿地のように道路が狭く、部材搬入が厳しい場所では、大工さんや運送会社の方々にご協力をいただきながら、可能な限りお客様のご要望を叶えられるよう設計・施工を行ってきました。

しかし、「どうしても大空間をつくりたい」とご要望いただいても、敷地条件によっては大空間はできないとお話をせざるを得ないこともありました。それでも頑張って大空間をつくろうとすると、大勢の大工さんに来てもらい、大きく重い材料を手運びしてもらわなければならず、危険も伴います。

そこで、お客様の要望を叶えるため、施工面での安全性を向上させるために、長尺の構造資材搬入が難しい敷地条件でもより大空間を構成できる構造部材として、トラス床根太『スペーストラス』を開発・商品化することになりました。

三菱地所ホームの加藤 博文代表取締役社長は、記者会見の席で、『スペーストラス』について作業する職人さんにとっても安全性や生産効率が高まることを強調した

――技術的なメリットは?

島村さん 構造材トラスを分割するメリットは、搬入時の部材を短くできることです。そのため、搬入車両も小型で済みます。道路に高低差があったり細い道の場合は搬入が困難ですが、『スペーストラス』は搬入時に小回りが利くため、敷地前に搬入車両をつけることができます。大工さんにとっても荷揚げ荷下ろしする際の重量も半分になるため安全です。

分割した後も中央の金物で強固に連結し、現場で一本の強い材料として構成でき、大スパンを飛ばすことができます。従来は、当社独自の構造部材を使っても7P(6.37m)のスパンの構成が空間の限界でした。

――試験棟を施工された方の反応は?

島村さん 試験棟については、三菱地所企業グループで建築・製造・加工・販売を行う株式会社三菱地所住宅加工センターの敷地内で建設しました。トラスの連結は、最初は少しずつ時間を掛けてやってもらいましたが、2回目からは2~3分で連結できるようになりました。

また、検証に参加された同社とお付き合いのある工務店の方々は、材料をあげる時に「あ、軽いね。これなら2人で持てるよ」という声をいただきましたし、大断面の部材はしっかりと持つことが困難で引き上げるのに危険を伴いますが、スペーストラスはウェブ材に手を引っ掛けることができるため、荷揚げが非常に楽だとというお話もいただきました。

従来、7P部材を荷揚げする際はクレーンが必要でした。今回のトラスは分割することで、少人数で運ぶことが可能です。

『スペーストラス』の構造

建材が重量化し、大工や職人に多大な負担

――近年、建材が重量化していますが、その理由は?

島村さん 2×4工法によって技術力が向上し、木材の性能も上がっているので、大空間を形成できる部材も増えています。そうすると、大断面の木材が必須になるため、重量も重くなっていきました。加えて、職人さんも高齢化し、新たに若い職人さんの入職が不足しておりますので、1人あたりの負荷がかかってきています。

これまで建設担当や大工さんとコミュニケーションを取ってきましたが、「部材を揚げることに苦労している」という言葉を色々な場面で聞きましたし、「なんでこんな地域で大空間をやるんだよ。もっと周りの環境を見てよ」とこぼす方もいらっしゃいました。

特に、都内の敷地の価格は高いため、資材置き場も少なく、小型荷揚げのエレベータをつけられる場所は限られているので、大工さんが部材の搬入のために上下階を行ったり来たりしているわけです。2階建てであれば一層分で済みますが、3階建てとなると部材を運ぶだけで一日が終わってしまうという話もありました。荷揚げという部分だけでも、『スペーストラス』は貢献できる製品です。

大工から高評価を得た『スペーストラス』(試験棟での施工)

 

――軽量化に成功した一方、耐震性も向上するという効果もありますが。

島村さん 『スペーストラス』の試用に伴い建物を軽量化でき、地震によって加わる力を軽減できるので、耐震性の向上につながります。建築業界全体が中高層建築の木造化がかなり進展しています。木材は、鉄やコンクリートと比較すると軽い部材ですので、その分地震の力を受けづらくなっています。『スペーストラス』の軽量化に伴い、建物全体も軽量化します。当社の独自技術である壁倍率約6倍の高耐力壁「ハイプロテクトウォール」と合わせれば、かなり耐震性の高い建物がつくれると思っています。

もともと三菱地所ホームの注文住宅は、標準仕様で住宅性能表示制度の最高等級である「耐震等級3」に対応し、関東大震災や阪神・淡路大震災で観測された揺れの1.5倍レベルに耐えられることが可能になり、阪神・淡路大震災では全壊・半壊ゼロという実績から高い耐震性能を実証しています。

ほか、2×4工法では断熱性能が高い建物ですが、そのグレードを保ち、家中すみずみまで換気しながら、清潔な空気と快適な温度で満たす全館空調システム『エアロテック』により、ゼロエネルギーハウスとして環境分野でもかなり優位に立っていると自負しています。

――『スペーストラス』はどのあたりに提案されますか。

島村さん 首都圏でも、とくに敷地条件の厳しい東京の城南・城西地区を、また坂が多く、断面の搬入条件が極めて厳しい場所の多い神奈川県をメインに、『スペーストラス』での大空間を提案したいと考えています。


RC造並みの大空間が木造建築でもつくれる

――大空間により非住宅工事へも幅が広がりますね。

島村さん 『スペーストラス』は、戸建て住宅を中心に大空間を実現したい方向けの商品である一方、住宅以外の店舗や事務所、医療建築、運動空間などの施設建築にも導入できます。

従来の木造建築では、どこかに壁や区切りを挿入しなければ強度を保てないなどの課題がありましたが、『スペーストラス』を縦横に利用すれば、8P×8P=約53m2というRC造並みの大空間が木造建築でも可能です。

環境の変化が激しい今の状況下で、商業建築やオフィスではテナントの入れ代わりも多いと思います。従来の木造建築では店舗が変わっても中間に設置した耐力壁は壊すことができず、空間に制限ができてしまいます。『スペーストラス』を使い最初から大空間の設計を行うことで、環境が変わっても対応することができるので、可変性が求められる商業建築やオフィスビルにも向いているんです。

三菱地所ホームでは、住宅建築だけではなく、店舗やオフィス建築を設計・施工しているので、当社全体として導入していく予定です。

――ウィズコロナ時代では、住宅兼オフィスという要望もあるかと思いますが。

島村さん 多いですね。計画しているお客様からテレワークスペースを設置したいというご要望など、住宅をめぐる環境が一気に変わったことを実感しています。「おうち時間」と呼ばれるような、自宅で自分の時間を楽しみたい方も増えているので、住宅建築も対応していかなければなりません。

『スペーストラス』は大空間を構成できるので様々なライフスタイルに合わせて空間を切り替えることができます。新しい生活様式に沿って、間仕切りの自由度を高めれば、距離を取って2~3人で仕事出来るスペースを作ったり、環境に応じて必要な空間を広げたりすることもできます。

つまり、大きな箱をつくって、自由に組み替えられるスケルトン・インフィルのような自由度の高い住宅空間も実現できるわけです。『スペーストラス』は、大空間を構成すること自体が目的ではなく、さらにその先にある豊かな暮らし方を提案することにあります。

――最後に。『スペーストラス』の今後の展開について教えてください。

島村さん 『スペーストラス』は当社オリジナルの商品ではありますが、建売住宅や工期が短い住宅建築にも活用できると思います。株式会社三菱地所住宅加工センターは当社だけでなく、他社にも材料を販売しているので、同社と連携しつつ、外販を視野に入れていきたいと考えています。

当社は500人単位の会社であり、ほかのハウスメーカーと比較すれば中小企業です。中小企業ならではの技術発信やポテンシャルの高さ、フットワークの軽さなどを武器に、お客様によりよい豊かな空間を提供できる会社でありたいです。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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