水害時の「生活の継続可能性」を高めた賃貸住宅
大東建託株式会社は、3月11日から水害対策に特化した防災配慮型賃貸住宅として、ぼ・く・ラボ賃貸「niimo(ニーモ)」の販売を開始した。
構造は、仮に1階が浸水した場合でも早期復旧が比較的容易な打ち放しコンクリート仕上げのRC造とし、屋根付き駐車場やアネックス(離れ)を配置。浸水の可能性が低い2階・3階を木造ツーバイフォー工法とした。大東建託がハイブリッド建築の商品を提案するのは今回が初めてのケースとなる。
居住空間を集約することで被災直後や復旧作業時でも入居者が避難や退去をせず、自宅での生活を継続できる設計とすることで賃貸事業の継続性も向上する。
今回は、大東建託グループの防災と暮らし研究室「ぼ ・く ・ラボ」の取組みとして、日常時の暮らしが非常時の備えにもなるという考え方の「フェーズフリー」な賃貸住宅をコンセプトに開発。初年度は50棟の販売を目標としている。
開発にあたっては、大東建託、建築事務所Eurekaの稲垣淳哉氏、防災のスペシャリストであるNPO法人プラス・アーツの永田宏和氏の三者がタッグを組んだ。今回、大東建託が記者会見を開き、同社商品開発部の峠坂(とうげざか)滋彦部長が説明し、「今後の商品ラインナップについて防災面を強化していく」と語った。
なぜ大東建託が防災配慮型賃貸住宅を開発したか

記者会見で説明した大東建託商品開発部の峠坂(とうげざか)滋彦部長
大東建託は2018年に防災と暮らし研究室「ぼ・く・ラボ」を設立し、人と人、地域をつなぐネットワークを構築するために、支援物資や救援設備などを兼ね備えた「ぼ・く・ラボステーション」を全国に配置。地域のコミュニケーションを活性化する防災イベントを開催してきた。2019年には、公益財団法人日本デザイン振興会(JDP)が主催する「グッドデザイン賞」を受賞するなどの実績を持つ。
災害大国と言われる日本での暮らしは、地震、台風による水害、さらに雪害など、さまざまなリスクがある。賃貸経営も災害リスクに対応できるような備えが重要と言える。その備えとは、まず建物の性能に日本特有の災害に耐えられる強さが求められることにある。そして次に必要となるのは、「レジリエンス」。強靱化や回復力に相当する単語だが、つまり自然災害の被害を受けたあと、インフラなどのライフラインが停止した際、復旧がスムーズにできるような備えが住宅にも要求される時代が到来している。
気候変動で高まる水害リスク
株式会社mitorizが発表した「防災への備えに関する意識調査」(2019年2月18日公開)によると、現在不安に思っている災害は、「地震・津波」が68.2%で最多となり、次いで「豪雨・洪水などの水害」が32.4%という結果となっている。ちなみに、大東建託ではこれまで耐震性能には注力してきたが、水害対策については主に開発を実施してこなかった経緯がある。
こうした中、日本の多くの住宅地は平地で、地盤沈下などで海や河川よりも低い土地に形成されている。とくに甚大な被害をもたらす時間降水量50mm以上の「非常に激しい雨」は、ここ30年で約1.4倍に増加しているほか、毎年のように発生する線状降水帯により、気候変動がより身近なものとなっている。
大東建託の物件でも例外ではなく、2019年の台風19号、20号で浸水被害を受けた管理建物のうち、地面から50cm~1mまでの床上浸水の被害が61.6%に及ぶ。ちなみに、2019年の全国浸水棟数では床上浸水が8,776棟、床下浸水が2万9,885棟であり、過去には退去が必要になったレベルの復旧工事もあった。

増加する水害被害の実態
1階はRC造、2~3階は木造2×4でフェーズフリー住宅を実現
「ニーモ」はこのような背景のもと、日常時の暮らしが非常時の備えになる「フェーズフリー」な賃貸住宅を実現している。ちなみに「ニーモ」は、一般社団法人フェーズフリー協会によるフェーズフリー認証を取得している。
「ニーモ」の構造は1階がRC造で、2~3階が木造ツーバイフォー工法というハイブリッド建築。日常時では3層の階段室が風の通り道となり、ルーフバルコニーを設けることにより、家の中にいても外部の環境を感じることができる開放的な住まいとなる。被災時には、1階が浸水してもRC造で強固な構造となっており、住まいの機能として持続可能性を高めている。また、エアコンなどの室外機を2階に設置することで、水没による破損などの影響を受けにくい設計とした。
1階の駐車場奥には、趣味・テレワークスペースなど多目的に使用できるアネックス(離れ)として設計。通常、木造賃貸住宅の場合、浸水すると入居者様に退去を要請、壁のボード、床の板を剥がすような復旧工事が必要になる。しかし、アネックスは被災時に破損しにくいRC造で、コンクリート打ち放し仕上げのため、復旧も早く、退去の必要性が低い構造としている点も大きな特長となっている。

「ニーモ」の1階は、コンクリート打ち放し仕上げでスタジオ風のアネックス(離れ)であり、テレワークスペースなど多目的の活用が想定できる。
2階LDKは、多くの開口で明るく、月明かりも差し込み、ブラックアウトの対策にもなる。開放的なワイドリビングで浸水しない想定の2階には備蓄倉庫も備えることで、在宅避難の実現性を高めている。
3階にはアウトドアリビングとしても使用できるルーフバルコニーを備え、2階も含め多くの開口部を設けており、湿気を防ぎ健康的な暮らしを実現させる。災害時は、ルーフバルコニーなどが救助のスペースになることもあり、停電した場合でも月明かりが差し込み、避難経路の確認が可能だ。

「ニーモ」2階リビングの内観パース。日差しも差し込み開放感がある。
そして、「ニーモ」の技術でとくに特長的な点は、水害に加えて地震との複合災害を想定していることだ。最高等級の耐震等級3相当とし、建物全体を従来と比較し、より粘り強い耐震性が高い構造としている。熱容量の大きいRCの躯体を外側からすっぽりと包み込むことを目的として、断熱工法を開発、外部の激しい寒暖差に対して室内の温度変化が緩やかになるメリットもあり、被災時に破損した場合でも、外部からの復旧が可能だ。
さらに、災害時には近隣、中域の地域と共助するしくみを構築。NPO法人プラス・アーツの永田宏和氏が、アドバイザーとして監修した、15種類の防災グッズをそろえている『おせっかい防災BOX』を設置した。
こうした一連の「ニーモ」の開発や商品の説明の後、質疑応答に入った。