施工現場の状況を遠隔管理できる「スマートコントロールセンター」

施工現場の状況を遠隔管理できる「スマートコントロールセンター」

【大和ハウス工業 × NEC】遠隔操作で施工管理。現場の大幅効率化へ

施工現場のDXを推進する大和ハウス工業とNEC

大和ハウス工業株式会社と日本電気株式会社(以下、NEC)は昨年10月1日から、施工現場のデジタル化に向けた遠隔管理の実証実験を開始した。

実証実験では、大和ハウス工業の施工管理手法とNECのAIを活用した映像分析技術・システム構築力を組み合わせ、施工現場の遠隔管理を実現していくという。

ポイントは、施工現場の状況を遠隔管理できる「スマートコントロールセンター」の設置、AIとデジタルデータを連携させた作業効率化や危険検知を行うことにある。

今後、大和ハウス工業は現場でのDXを進展させ、NECは2021年度中を目標に施工現場の遠隔管理機能を標準化、建設業界への水平展開を目指す。

今回は、担当者の大和ハウス工業 技術統括本部 建設デジタル推進部 DC推進1グループの林健人グループ長、NEC 第二製造業ソリューション事業部の笠井友裕エキスパートと山崎詩織さんにそれぞれ話を聞いた。

施工管理は個人からチームへと脱皮へ

――「スマートコントロールセンター」の概要についてお願いします。

林さん(大和ハウス工業) 施工現場に設置されたカメラやセンサーなどからデータを収集し、複数の施工現場映像や作業員のデータを一元管理し、モニターを通じて遠隔管理するシステムです。当社では、戸建住宅、賃貸住宅、店舗や物流施設などの大型施設等で常時約2,000棟の施工物件が稼働しておりますが、「スマートコントロールセンター」ではこれらの建築物を視覚的に把握していくことになります。

大和ハウス工業 技術統括本部建設デジタル推進部DC推進1グループの林健人グループ長

――どのように運用していくのでしょう?

林さん(大和ハウス工業) これまで戸建住宅の施工管理は現場監督が複数物件を1人で管理していましたが、「スマートコントロールセンター」の導入により、チーム全体で行うものになります。例えば、現場の様子は実際に現場に行かないと分からないことも多かったのですが、現場遠隔カメラの映像を通して、安全面に問題がないか、工程に遅れがないかなどを確認できたり、プッシュ通知のサポートを受けたりすることができるようになります。これにより、現場監督が速やかに、タイムリーに工事施工者に指示を出せるわけです。

大和ハウス工業の戸建住宅では、一般的に約30棟の施工物件を1名の戸建住宅施工部門の責任者と5名の現場監督で受け持っていますが、現場遠隔カメラのGPS機能により、地図にマッピングすることが可能になるため、現場管理にも役立ちます。現場遠隔カメラ映像とGPS機能をもとに、現場で問題があれば早期に発見・問題解決ができるようになります。

また、現場遠隔カメラ映像をNECのAI技術で分析することで、工程の自動検知にも取り組んでいます。例えば、基礎工事では型枠設置、コンクリート打設、養生、脱枠の一連の流れの作業開始から完了を自動的に検知し、作業進捗の情報を関係者に共有することで、現場監督に問い合わせすることなく現場の状況を知り、連絡不足によるミスを防ぐことができるようになります

戸建住宅の現場監督の中には、並行して10棟近くを担当している方がいるのも実情です。現場遠隔カメラや画像認識、デジタル機器、AIを活用することで、今まで紙による手書きで残していた内容を手間なくデジタルエビデンスとして残すことも可能です。加えて、今、経験の浅い若手の現場監督への技術の伝承も課題となっていますが、そのツールとしても期待できます。

グリーンサイトとの連携で、作業員の安全管理・健康管理にも

――安全管理についても寄与している?

林さん(大和ハウス工業) ええ。今回の実証実験では、作業員の安全性向上や健康管理に関するデジタル化にも取り組んでいます。作業員や建機、部材などの位置情報をデータベース化することで、建機による巻き込み事故や部材の落下事故などの危険を事前検知することができます

NEC 第二製造業ソリューション事業部の山崎詩織さん

山崎さん(NEC) NECの顔認証技術を活用した「NEC建設現場顔認証 for グリーンサイト(※)」で、作業員の現場入退場時にタブレットやスマートフォンなどの端末を使って、顔認証による本人確認を行うとともに、GPS位置情報を取得することで「誰が」「いつ」「どこで」という入退場の実績を正確に把握できるようになります。また、作業員の体温や血圧などのバイタルデータと組み合わせ、作業員の健康管理をすることも検討しています。

※「グリーンサイト」は、株式会社MCデータプラスの登録商標で、労務安全衛生に関する管理書類をインターネット上で作成、提出、確認できるサービス。

「スマートコントロールセンター」による工事管理の将来イメージ

――ユーザーにとっても、安全・安心が高まる。

林さん(大和ハウス工業) デジタル機器を使い、デジタルエビデンスを残すことによって、お客さまが知りたい情報を正確にタイムリーに伝えることが可能になります。写真、映像、360°カメラ画像などのデジタルデータをもとに、図面データはもちろんのこと、施工履歴のデジタル化など再建築時に活用できるよう建物データの保管についても進めています。

加えて、スマートコントロールセンターは、災害対策本部の役割も担っていきます。例えば、災害による風の影響が予想される場合、現場監督は飛散防止の事前対策に追われますが、現場遠隔カメラで養生ネットが煽られているか等の確認ができるため、大きな災害が発生した場合は東京と大阪の両本社に災害対策室を設置し、お客さまの建物の被災や復旧状況のやりとりが可能になります。台風の進路予測や施工現場の情報などのお客さまの情報を紐づけることで最善の取り組みができるようになっています。全国12拠点に設置しており、被災していない拠点による災害対策対応が可能です。

施工管理のチーム化、デジタルエビデンスとして残すこと、災害時でも持続可能な体制を整えること、建物データの保管をデジタル化でよりお客さまとの信頼度を高めるという4点の価値が、今回のDXで進展することになります。

建設業のDXで目指す未来

――システム全体として、どのような成果が期待されるでしょうか。

林さん(大和ハウス工業) 施工現場の監督者の移動の時間や管理の部分も含めて、まず3割を効率化することを目指します。とはいえ、建設業界ではまだDXを拡げられる部分がありますので、さらなる効果も期待できるでしょう。

笠井さん(NEC) NECとしましては、施工現場のデジタル化に加えて、顔認証や映像分析等の活用による作業員のデータ蓄積・活用を進めていきたいと考えています。作業員一人ひとりの経験や特性などをデジタルに捉えておくことで、別の現場での施工管理にも活用することが可能になります。これによって、大和ハウス工業様が構想されている「施工者の賃金の構造や安全へのマネジメント変容」にも貢献したいと考えています。

――建設現場のDXを阻害している原因は?

林さん(大和ハウス工業) 一棟ごとの施工物件の費用の範囲内でできることは限られますし、企業全体としても設備導入の限界があるのでしょう。ですが、このコロナ禍でDXの加速度は高まった印象です。

――異業種のNECから見た課題は?

笠井さん(NEC) 建設業界は、1つとして同じ現場がありません。さらに、現場は短期流動型で、数カ月から大型現場でも数年で完成します。それをどのようにICTで標準化していくか、あるいはマネジメントしていくかが、製造業であったり、工場や店舗と比較して難しい点になります。

――NECとして、建設業のDXにどのように関与していく?

笠井さん(NEC) 大和ハウス工業様から、「一緒に建設業界を変えよう」と激励の言葉をいただいています。今回の協業で構築したサ―ビスは建設業界全体に展開していくつもりです。どういった点が各社の共通課題であるかを抽出し、今後いっそう役立つ技術やサービスを提供していきます。

――今回の協業によって、現場の働き方改革は進展していくのでしょうか。

林さん(大和ハウス工業) 国土交通省では、就労環境改善のために作業員の4週8休を推進しています。雇用確保の観点からも労働時間の削減と、それに伴う若手の担い手確保・育成は喫緊の課題です。大和ハウス工業が現場のDXに取り組むことで、建設業界全体が活気付けば嬉しいですね。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
「鉄筋の結束は、もう職人がやる仕事じゃない」 香川発の建設ロボが、鉄筋職人の汗一粒の価値を高める
「ポカリ50円の自販機」と「空調服」 大和ハウス工業の熱中症対策
建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
Exit mobile version