続々と進化する建設現場用協働型ロボット「トモロボシリーズ」

続々と進化する建設現場用協働型ロボット「トモロボシリーズ」

「鉄筋の結束は、もう職人がやる仕事じゃない」 香川発の建設ロボが、鉄筋職人の汗一粒の価値を高める

ロボットで職人の汗一粒の価値を高める

地方から果敢に建設DXにチャレンジしている男がいる。建ロボテック株式会社の眞部達也社長だ。

眞部社長が開発したのは、鉄筋の協働型鉄筋結束ロボット「トモロボ」。自らが鉄筋職人出身でもあることから、高度な機能を省き、使いやすさに特化したことが奏功し、すでに全国の建築現場で展開。さらに土木・インフラ系向けでも、株式会社富士ピー・エス社の協力を得て開発を進め、2021年1月から試行する。

また、「トモロボ」を改良した鉄筋上での荷物の運搬技術も開発。国土交通省 関東地方整備局は、昨年10月に同技術を現場3密対策に向けた省人化技術として選定した。

「職人を単純作業から解放し、汗ひと粒の価値を高めたい。そして、この技術を世界に広めたい」と大きな理想を追い求める眞部社長に話を聞いた。

西洋料理人から鉄筋職人に

建ロボテック株式会社、有限会社都島興業の両社の代表をつとめる眞部達也さん

――建設業界に入職した経緯は?

眞部達也さん(以下、眞部さん)  実は、もともと料理人だったんです。神戸にある高価格帯の西洋料理店で働いていました。その後、バブルの崩壊で閉店したのですが、地元の香川県に戻って父が経営する有限会社 都島興業で、鉄筋職人として働いたのちに2代目社長として引き継ぎました。

――鉄筋職人としての経歴は長かった?

眞部さん 22歳から34歳まで、現場で働いていました。一日に2tの鉄筋をかついで歩いたり、結束という同じ仕事を毎日やってましたね。真夏は倒れそうになるし、冬は手がかじかんで、手袋もほぼ役に立たないような状況で。「これは、本当に人間がやるべき仕事なんだろうか」と疑問に感じていました。これが当たり前の環境なら、そりゃ若者も入職しないだろうな、と。

――ロボットの開発を始めたのはなぜ?

眞部さん 料理というのは、タンパク質は何℃で固まるのか、何℃加熱すれば細菌が死ぬのかなど、根拠に基づいた科学です。

しかし、建設業界では、現場の生産性を向上するための手段として、”休憩なしで頑張る”という根拠なき根性論がまかり通っていたわけです。新しい施工方法や機械が誕生するわけでもなく、すべてがマンパワーに頼っていた世界でした。

しかも、現状、建設業界では高度な技術を必要とする作業だけでなく、単純作業も同じ職人が並行してこなしており、鉄筋工事では 1kg×〇円、型枠工事では1m2×〇円と、すべての作業が均一化され、ゼネコンから”単なる量”として評価されることにも疑問を持っていました。これでは、高度な知識と技術を必要とする仕事なのに、金銭的・社会的に評価が低くなってしまいます。

そこで、発明が好きだったこともあって、鉄筋業の省力化に寄与できる技術や商品の開発を始めたんです。


“すごいロボット”ではなく、”使えるロボット”を

――開発した協働型鉄筋結束ロボット「トモロボ」は革新的に生産性を向上し、省力化におおいに貢献すると期待されています。

眞部さん 「トモロボ」で目指したコンセプトは、”すごいね!”と言われるものではなく、しっかりと”使える”ロボットです。高性能で高価格帯のロボットでは使ってもらえないんです。なので、私たちは「近隣の工事会社に使ってもらうため」に、導入しやすい価格帯を目指しました。

結果的に、鉄筋を結束するロボットではなく、「市販されている結束電動工具を取り付けるだけで自動化できるロボット」が誕生したわけです。

建築工事向けに全国の現場で稼働する「トモロボ」

――どんなロボット?

眞部さん 鉄筋をレール代わりに移動しながら、鉄筋の交点を感知しながら結束作業を進めていくロボットです。ピッチの変化にも自動で対応でき、全結束やチドリ結束、2つ飛び結束にもスイッチひとつで選択・対応可能です。作業員が仮止め及び柱周りの結束以外を一切行わない土間配筋工事も実現しており、トモロボにより30%の生産性向上を図れます。

tomorobo image / YouTube(トモロボ)

また、「トモロボ」は、当初は建築工事向け(φ10~16mm)でしたが、土木・インフラ工事向けの太径鉄筋太径(φ19~29mm)に対応するための機種を、富士ピー・エス社の全面的な協力のもとに開発しました。

現在、建築向けの「トモロボ」は全国の建設現場で30台が活躍しており、土木向けは2021 年1月21日に富士ピー・エスが提供する現場での実証実験によって実用性と有効性を確認しました。今回の実験を踏まえた改良を行い、同社施工の工事で運用を開始し、同年4月の一般販売を目標としています。これまで自動化が出来なかった土木・インフラ工事(D16/D19 以上)の鉄筋工事で利用可能となり、今後、「トモロボ」は日本に留まらず、世界にも輸出したいと考えています。

協働型鉄筋結束ロボット「トモロボ」の土木・インフラ対応機共同開発完了

――関東地方整備局は、建設現場の3密対策につながる省人化技術を公募した結果、「運搬トモロボ」も選ばれた。

眞部さん 「運搬トモロボ」は、鉄筋をレール代わりに荷物を運搬する構想で、最高積載500kgを目指しています。鉄筋上という運搬が困難な領域での専用運搬ロボットの開発を結束作業ロボットの走行技術を用いた方法で行います。

試作品は完成しているので、安全性の向上などの詰めを行った上で来年の夏頃までには量産型の設計を完了し、今年10月には製品版をリリースしたいと考えています。

関東地方整備局の公募で「運搬トモロボ」が選定

――ロボットの導入で、離職防止にもつながる。

眞部さん 第一に、”職人力”を発揮できる環境を整え、その仕事が正当な評価を得ることが出来るようにすることが肝要です。そのためには、建設職人をツラい単純作業の反復から解放させなければなりません。

「トモロボ」を現場作業ごとにシリーズ化し、少数の熟練工が単純作業を担うロボットを使いこなすことで大幅な生産性向上を実現できます。それによって、市場は安定的で安価な高品質の供給を受け、供給者は生産コストの減少と生産量の増加を達成し、職人の価値を高めることで、報酬・拘束時間・労働環境の改善という、三方良しの産業革命が実現します。

建設DXを推進するために本当に必要なものは…

――実際に「トモロボ」を導入した現場の職人の反応はいかがでしたか?

眞部さん 受け入れられる方とそうでない方に分かれましたね。一部の鉄筋工さんからは「オレたちの仕事を奪う気か!」とも言われました。鉄筋工の職人は、「仕事をやった分だけおカネがもらえる」と教育されてきているので、ロボットに仕事をさせることで取り分が少なくなることを恐れているんです。

ですが、今の建設現場は、100の仕事をするために100人が必要なのにもかかわらず、現実には80人しかいないんです。しかも、その80人のうち30人は10年以内に高齢で引退しますし、残りの足りない20人は外国人に依存しようとしているわけです。まずは、この現実を理解してもらいたいたいと思っています。

私は、職人の汗ひと粒の価値を高めたいんです。職人の価値を下げるために、ロボット開発に情熱を燃やしているのではありません。

今、建設DXが叫ばれていますが、そのために最も大切なことは人の心のDXです。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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