地中梁・鉄筋および型枠用の足場に関する画期的アイディア
大手アパレルオンラインショップZ社の国内物流拠点となる「巨大倉庫」の建設工事で、コストを25%削減することに成功した事例を紹介します。
地中梁・鉄筋、型枠用の足場に関する、画期的なアイディアだと思います。
ぜひご参考ください。
施工した巨大倉庫の概要は次の通りです。
◎施工した建物の概要
・用途:各階にコンテナトレーラーが乗り入れできる螺旋状ランプ(自走式昇降路)を設置した巨大物流倉庫
・敷地面:積約46,000m²
・延床面積:約110,000m²
・構造:地上5階建、RC造+S造、免震構造
・施工期間:約15ヶ月
大手ゼネコンM主任からの相談
工事が始まって間もない頃、施工者である大手ゼネコンのM主任から相談を受け、現場を訪問しました。
すでに工事は地盤のすきとりと、梁下になる部分の捨コンが、敷地の半分ぐらい進んでおり、捨コン以外の場所には細かい採石が敷き詰められています。
土工事を担当するのはO社とM社の2社。施工範囲は中央を境に半分に分かれており、外側に向けて工事が進められています。
最初に捨コンが打たれた場所には、W=1mぐらいの梁底の型枠が、3スパンほど施工されています。全体に碁盤の目のようにG梁があり、その中心にPCのB梁が入ります(全体で264マス)。
所長と副所長の異なる意見
【図1】捨コンから梁底まで1m、梁底から梁天端まで1.8m
捨コンから梁底までH=1m、施工された梁底から梁天端まではH=1.8mあります(図1)。この時点で、梁配筋はもとより、側型枠の施工も手が届きません。現場所長は、単管で足場を組む方法を提唱し、一方、副所長は鉄骨の梁受け台を利用して足場を作ることを提案しました。
しかし、どちらもコスト面や、仮設材のリース料、掛かる人工数が膨大になり、現実的ではありません。そこでM主任から、私の意見を聞きたいという打診があったわけです。
私が現場を見た時は、すでに所長案(単管で足場を組む方法)と、副所長案(鉄骨梁受け台を利用した足場)のモックアップ(サンプル)がありました。が、両アイディアとも昇降設備、高さ、利便性を考えると、はっきり言って使えません。そこで私が提案したのが次の方法です。
2段ユニットを1度に吊り込む
まず建物外部ヤードにて、下部の図のようなユニットを作ります(図2)。それをフォークリフトで2段重ねてストックしておき、2段のまま設置場所に吊り込みます。
【図2】建物外部ヤードで作ったユニット
このユニットは、全体の3分の1の数(120基)ほど作って、梁底の型枠施工後に吊り込みました。
2段のまま吊り込んだユニットですが、上の1ユニットは、吊り直して隣りへ移動します(図3)。
【図3】2段で吊り込んで上のユニットを隣へ移動する
そして、2つのユニット間を移動可能にするために、両サイドに渡りを設けました(図4)。
【図4】ユニット間に渡りを設ける
これによりマスの中を自由に移動できる形状になります。足場がフラットで手摺りもないため、鉄筋のフープや型枠の資材を仮置きできるようになり、作業効率が大幅にアップしました。
※中央部分には、後にPC梁が乗るW=600、L=1200×2スパンの枠組みの支保工が入るため後施。
必要人工を在来工法の4分の1に削減
G梁の配筋が始まると、鉄筋のフープをはじめ、小物を置くスペースがたくさん確保でき、配筋作業が安全かつスムーズになりました。型枠工事も、同様に安全かつスムーズに進みました。
一般的な工法は、(1)足場資材の取り込み、(2)足場の組立て、(3)余った資材の回収といったように、かなりの時間と手間がかかります。解体時も同様です。
それに比べ、この建物の外部で足場のユニットを組み、短時間で吊り込む方法は、建物内の作業を邪魔することなく、とても効率的です。
次のユニットが吊り込まれる間に、渡り部分を施工することもでき、残材もゼロ。結果、足場の吊り込みから完成まで、鳶3人で作業でき、半日強で12スパン、24基を設置できました。この2段ユニットを1度に吊り込み、上のユニットを隣へ降ろす画期的方法によって、かかった人工は、在来工法と比較すると4分の1になりました。
ユニット化した足場を繰り返し利用
型枠を施工した後は、PC梁のセット、デッキプレートの敷き込みとなりますが(図5)、PC梁のセットが終わった時点で中の足場は、吊り込みの逆の手順で、隣の工区に移動し設置します。
【図5】型枠施工後、PC梁のセット、デッキプレートの敷き込みを行う
この手順により、ユニット化した足場を繰り返し利用することが可能になり、短時間での足場の設置が可能となりました。
以上、資材の出し入れの時間や、クレーンの使用時間など、在来工法では考えられない、想像以上の施工効率化を実現したアイディア事例でした。一つとして同じ現場はありませんが、新たな発想につながれば幸いです。