ホウ酸施工士による「ボロンdeガード®」の施工

ホウ酸施工士による「ボロンdeガード®」の施工

「ペリー来航レベルの衝撃」 “ホウ酸”によるシロアリ駆除は日本でも普及するか?

木造住宅の大敵「シロアリ」をホウ酸で退治

木造住宅の大敵は、シロアリと木の腐朽によることが多い。この課題に対して、従来は合成殺虫剤による防腐防蟻工事を行ってきた。しかし、これは居住している人の健康面と効果が長続きしない点で課題があった。

そこで日本ボレイトは、ホウ酸処理による木材耐久工法を「ボロンdeガード®」として開発、日本ホウ酸処理協会がその工法を施工できるプロの「ホウ酸施工士」を養成し、本格的に普及促進活動に邁進している。

ホウ酸処理を普及させ、木造住宅の耐久性を大幅に向上させることを目指す浅葉健介氏は、日本ボレイト株式会社代表取締役と一般社団法人日本ホウ酸処理協会理事を兼ねている。

「合成殺虫剤からホウ酸処理への転換は住まい手にとっても大切であり、ペリーの黒船来航のような時代の転換期を迎えている」と語る浅葉氏に話を聞いた。

4人に1人がシロアリの被害も、工務店は防除業者に丸投げ

浅葉健介氏(日本ボレイト株式会社代表取締役、(一社)日本ホウ酸処理協会理事)

――まず全国的なシロアリ被害の状況を教えてください。

浅葉健介氏(以下、浅葉) 木造住宅の大敵は言うまでもなく、「シロアリ」と「腐れ」です。この両者は、木造建築物を早いスピードで破壊していく害虫の一種です。とくに、シロアリは世界中の昆虫の中で最も数が多い種類とも言われています。

不動産情報サービスのアットホーム株式会社のアンケートによると、4人に1人がシロアリ被害に遭っているという結果が出ています。さらに、シロアリ防除業者が5,300件あまりの家を一斉調査したところ、シロアリ、腐れとカビの3つの被害があった家は3件に1件もの割合で、我々の生活のすぐ近くにリスクがあるということが分かります。

こうした被害は早期に発見すれば薬剤で対応できますが、被害状況によっては建て替えを余儀なくされます。人生最大の買い物は家と言われますが、長持ちさせるためには一日でも早く対策していかないといけません。

――現行でのシロアリ対策はどのように行われている?

浅葉 一般的に、合成殺虫剤が使用されています。これは、農薬として登録されている成分を木材に染み込ませるイメージです。しかし、合成殺虫剤では殺虫成分が揮発するため、臭いもあり、人の健康にも害を及ぼします。また、長くても3~5年で効果がなくなると言われており、定期的に再処理しなければならないという課題もあります。

海外では、虫のいない木材に合成殺虫剤で予防処理をしている国は珍しいのですが、日本では工務店側がシロアリ防除業者にほぼ丸投げで、どのような薬剤を使っているのか知らない方が大半なんです。


世界ではホウ酸処理が一般的

――日本ボレイトが行っている「ホウ酸処理」とは?

浅葉 主にホウ酸を含む原料を高濃度水溶液にして、噴霧や塗布して木部に含ませる処理方法です。

ホウ酸は海水や淡水、土壌などに含まれる天然物で、私たちにとって身近な自然素材です。腎臓の働きで排出できる哺乳動物には安全なものですが、シロアリなどの腎臓を持たない生物が摂取すると代謝が止まり、死に至らせるという特徴があります。

また、合成殺虫剤と異なり無機物のため、揮発することも無くなることもなく、効果が持続する点が大きな特徴になります。

世界に目を向けると、シロアリ対策ではホウ酸処理が一般的です。ホウ酸処理による防腐防蟻はオセアニアでは90年の歴史があります。日本では10年前の2011年に認定されて使用できるようになり、当社では「ボロンdeガード®」として展開しています。

精製ホウ酸塩

――施工はどのように行っている?

浅葉 有資格者がホウ酸を水溶液にして、現場の木材に処理をします。高濃度のホウ酸をいかに木部に含ませるかがポイントで、水溶液での処理のほか、手の届かないところなどに確実に処理するために、粉状のものを散粉して隅々まで処理する方法、屋外の風雨にさらされる木部には固形状のものをあらかじめ木部内に施し、雨や湿気の水分量に応じ滲みださせる工法等など様々なメニューを揃えています。

施工者は、日本ボレイトと契約を結ぶ施工代理店にお願いしています。トレーニングを施し、資格を取得していただいた技術がきちんと確立した会社にのみ、ホウ酸を卸しています。

「ホウ酸濃度×処理量×雨対策」という方程式

――ホウ酸処理剤を商社に卸したほうが楽だと思いますが、あえて教育も含めて行っている理由は?

浅葉 まず1つは、ホウ酸を活用する「ボロンdeガード®」では保証をつけてサービスを提供しています。しかし、保証するには施工者が見えなければ不安が残ります。やはり、顔が見える施工代理店できちんとホウ酸処理について知識や技能が確立されている必要があります。

ホウ酸処理の効果には、「ホウ酸濃度×処理量×雨対策」という方程式があります。このうち一つでも不足していたら効果は発揮できません。ここまで行うにはトレーニングされた方が、きちんと施工することが絶対条件です。効果が発現できなければ保証ができませんから、手間ではありますが、トレーニングを経て販売させていただいているんです。

――施工代理店はおおよそ何社?

浅葉 113社です。また、資格名は「ホウ酸施工士」と言いまして、資格取得者は約300名です。

女性ホウ酸施工士による「ボロンdeガード®」の施工

――施工代理店はどのような会社が多い?

浅葉 プレカット工場、断熱材の施工店、外壁工事会社に「ボロンdeガード®」について学んでいただき、施工代理店になっていただいております。やはり、第3者の視点が重要ですから。

工務店を施工代理店とすると、防蟻防腐工事は自社施工になりますが、工程を優先する可能性があります。たとえば、雨が降っていても工期を優先して「ボロンdeガード®」を施工すると効果が薄れる可能性があるため、上述のような専門工事業者に販売しています。


ホウ酸処理は「ペリー来航」

――一般社団法人日本ホウ酸処理協会の役割は。

浅葉 日本ボレイトはあくまでもホウ酸の材料を卸している会社ですが、日本ホウ酸処理協会では教育、育成、トレーニングを行っています。埼玉県・草加市に研修施設を建設し、4日間、座学・実地研修を行っています。また、新規で契約された施工店や、資格も2年で切れますので、更新研修も実施しています。今は新型コロナウイルスの影響で多くの人を集めることができないため、オンラインでの学習が中心です。代表理事は、日本にホウ酸処理を認めさせた立役者である荒川民雄氏です。

日本ホウ酸処理協会による実地研修

――日本ホウ酸処理協会のホウ酸施工士の価値については。

浅葉 まず現実的な問題として、ホウ酸施工士による施工でなければ、我々の保証が使えませんので、「ボロンdeガード®」での施工では必ず取得していただくことが条件です。また、資格取得者も名刺に資格を明記し、積極的に活用されています。

私はセミナーで、ホウ酸処理を幕末のペリー提督の黒船来航にたとえています。日本も2011年9月からホウ酸処理の技術が本格導入され、この10年間はホウ酸が広まった時代とも言えます。これから防腐防蟻工事の主役は合成殺虫剤からホウ酸処理にガラリと変わっていきますが、その歴史を変える担い手がまさにホウ酸施工士であると思います。この点は誇りに思いながら仕事にあたっています。

また、施工の神様で取り上げられていた「大型パネル」にもホウ酸処理を組み込んでいただいております。

建材の重量化、担い手不足の観点からもこれから大型パネルが普及していくと考えています。ホウ酸は雨に弱いですが、パネルを制作する際にホウ酸処理を施し、断熱材を入れて現場に納めることで、雨が当たらないようホウ酸処理ができるため、大型パネルとの相性が良いんです。

ホウ酸の普及率は3%も、いずれ100%に

――普及という観点では、まだまだ合成殺虫剤のほうが一般的です。

浅葉 ええ。100人にきちんと説明できれば、100人全員がホウ酸処理を選ぶと思っていますが、防腐防蟻業界全体での普及率は3%に留まっています。

いずれ100%にシフトしていくと確信していますが、現状でなかなか浸透しない理由には、一部の工務店やシロアリ防除業者の存在があります。この両者からすれば、現行の合成殺虫剤のほうが使い勝手がいいんですよ。工務店やハウスメーカーにとってはイニシャルコストを安くしたいという意向と、シロアリ防除業者にはイニシャルで儲けられなくても5年ごとに粗利90%の数十万円を確保したい考えがあります。これは日本でずっと行われてきた業界での慣習です。

こうした状況を打開するために、施工代理店が中心に「シロアリポリス」というシロアリ駆除業者検索サイトを立ち上げました。このサイトの特徴は、当社の独特のシステムにより反社会的勢力を排除しており、その上でホウ酸処理業者を選択できます。

シロアリ駆除検索サイトの「シロアリポリス」

また、当社の公式LINEでは「この虫、しろあり?」というサービスも行っています。家に出てきた虫をスマホで撮って送っていただければ、毒があるのかシロアリなのかなどをアドバイスしています。こちらも便利ですので、2,000人ほどの登録があります。

LINEで「この虫、しろあり?」のサービスも提供

ほかにも、YouTubeチャンネルも解説していますが、こうした普及活動を通して、いつの日かホウ酸処理が当たり前の時代になるよう邁進していきます。

比較すると見えてきた!「合成殺虫剤」と「ホウ酸」のメリット・デメリット ーシロアリ対策で大後悔をしないためにー / YouTube(日本ボレイト)

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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