冷却人工芝「COOOL TURF」の上で笑顔のイニエスタ選手と濱口社長

冷却人工芝「COOOL TURF」の上で笑顔のイニエスタ選手と濱口社長

イニエスタも絶賛の人工芝を開発した元・現場監督。建築のノウハウで、日本のスポーツ環境を変える

スーパーゼネコンを退職し、冷却人工芝の開発へ

スーパーゼネコンの現場監督を経て、2019年に日本初の冷却人工芝システム「COOOL TURF」を販売する株式会社COOOLを立ち上げた濱口 光一郎代表取締役。

スペイン出身でプロサッカー界のスーパースター・アンドレス・イニエスタ・ルハン選手(ヴィッセル神戸所属)が自分の子供たちへのクリスマスプレゼントとして、自宅のバルコニーを「COOOL TURF」に張り替えたことで、にわかに注目を集めている。

従来のゴムチップが充填された人工芝は、真夏の炎天下では表面温度が70℃にものぼり、スパイクを履いた状態でも足の裏を火傷する事例も多い。そのほかにも、クッション性や衛生面にも課題があり、プレーする選手や子どもたちにとって大きな負担となっているのが現状だ。

これらの課題を解決すべく、濱口社長は日本の建築物にもなじみの深い寒水石を利用した充填材を新たに開発。スーパーゼネコンで培った知見を活かし、人工芝問題にアプローチしている。

安定したスーパーゼネコンを退社し、冷却人工芝の普及・促進という新たなビジネスに乗り出した濱口社長に、開発の経緯を聞いた。


人工芝では、スパイクを履いていても火傷する

――濱口社長は、もともとスーパーゼネコンに勤務していたんですよね?

濱口さん ええ。地元・九州の有明高専建築科を卒業したのち、某スーパーゼネコンに総合職として入社しました。入社後は、東京ドームホテルや慶應義塾大学などの著名な建築物の現場管理にも携わりましたね。その後は、全国各地を転々として、最終的に退職して地元に戻って起業しました。

――安定したスーパーゼネコンを辞めて、人工芝の開発を始められたのはなぜですか?

濱口さん ラグビーをしていた息子の”あるケガ”がきっかけです。息子が試合後に「足の裏が痛い」と言うので見てみると、真っ赤になっていたんです。理由は、高温となった人工芝による”火傷”でした。スパイクを履いていたにもかかわらずです。建設現場で鉄骨に使用する表面温度計で人工芝の温度を測ってみると、なんと70℃以上もあることが分かりました。

それだけでなく、人工芝は天然芝と比較して蓄熱性が高いため、(公財)日本サッカー協会が策定している『熱中症対策ガイドライン』では、「暑さ指数28℃以上となる時刻には、屋根のない人工芝グラウンドを使用してはならない」と呼び掛けています。

要するに、危険な環境だと知っていながら仕方なく人工芝でプレーをさせている状況でした。選手たちが困っているにもかかわらず、まったく対応できていなかったのです。しかも、それは日本だけではなく世界的な問題でもあった。「こんな環境の中で、私たち大人は子どもたちに練習させているのか」と、ものづくりのプロとして、大人として、恥ずかしく思ったことを覚えています。

冷却人工芝のメカニズムは古代建築にあった

――そこから人工芝の研究を開始した、と。

濱口さん はい。調べていくと、人工芝には今お話した高温問題だけでなく、水はけが悪いため悪臭やカビが発生しやすく衛生的な問題があること、身体への衝撃を吸収しにくく怪我をしやすいこと、人工芝の充填用ゴムチップの原料として使用されている古タイヤに含有される化学物質に発がん性リスクが疑われていることなどの課題があることが分かりました。ちなみに、この発がん性リスクを危惧したEUでは、従来の人工芝のゴムチップ充填材のグラウンドを廃止する動きも出てきています。

そこで、天然芝に近い人工芝を目指して、ココナツの樹皮や寒水石などを使用した天然素材100%の充填材「寒土(かんど)」を、母校の有明高専と共同開発しました。材料である寒水石は、漆喰の原料でもあります。寒水石が持つ雨水や夜露の揮発効果を利用し、人工芝を保湿させることで、従来の人工芝と比較して約マイナス20℃ほど表面温度を冷却することが可能になります。この「寒土」を充填した人工芝が「COOOL TURF」です。

国際特許出願中の「寒土」

また、世界最古の建築物と言われるピラミッドをはじめ、古くから残存し、世界遺産となっている建築物の多くに漆喰や石灰石が使用されているように、抗菌性も高い。樹皮を使用することで、タンニンによる殺菌・抗菌・消臭効果が高まるだけでなく、クッション性が増し、身体への衝撃も吸収することが可能です。ですので、お子さんやペットが利用する環境にも安心して使用できる人工芝となります。

つまり、人工芝の中に「寒土」を充填することで、天然芝の断面層とほぼ同様の構造を形成することが可能になるんです。違いは、芝生が人工か天然かのみとなります。

さらに、SDGsの観点でも「寒土」は再利用が可能なため、約10年ごとの芝生の張替え時期に取り換える必要がありません。「寒土」によって自然と共存した快適な空間づくりの実現にも寄与できればと考えています。


イニエスタ選手のバルコニーに使用され注目

――有名なサッカー選手の自宅にも採用されたとか。

濱口さん 2020年12月に、スペイン出身で世界的に有名なプロサッカー選手であるアンドレス・イニエスタ選手のご自宅のバルコニーにも「COOOL TURF」を導入していただきました。

――どういった経緯で?

濱口さん 私自身も過去にサッカーをしていたのですが、その当時の先輩がたまたまイニエスタ選手のご自宅の家具等の設計を担当していたんです。その先輩から「イニエスタ選手が自宅に人工芝を施工する予定なんだけど、やらないか?」と、声を掛けていただいたことがきっかけですね。

イニエスタ選手からは当初、「ロールマットの人工芝を施工してほしい」というお話でした。ですが、ご自宅が高層階にあるため、マットが風にあおられて飛び散ってしまうかもしれないとお伝えしたところ、「COOOL TURF」を施工いただくことになったんです。イニエスタ選手には、天然芝と遜色のない質感を気に入っていただいています。

「COOOL TURF」の上でくつろぐイニエスタ選手

――学校での導入も進んでいますね。

濱口さん 私の地元である長崎県の諫早市にある創成館高等学校のグラウンドと中庭に「COOOL TURF」を施工しました。「COOOL TURF」は田植えのような施工方法で、大きな機材を使う必要がないため、当社のプロの施工者と同高校サッカー部が共同で手掛けました。

――生徒たちの反響はいかがでしたか?

濱口さん 皆さん、目を輝かせていたことが印象深いですね。さらに、生徒たちよりもその親御さんたちが喜んでいたことも嬉しかったです。修学旅行や大会などが中止になり、高校時代の思い出づくりが難しくなっている中、いい思い出ができたのではと話しておりました。

「創成館高等学校」サッカー部による「COOOL TURF」の調整のようす

――今後、「COOOL TURF」はどのように普及されていくお考えですか?

濱口さん 今後はグラウンドだけではなく、個人宅や企業内での導入をはじめ、ホテル・保育園・老人ホーム・公園などにも展開していきます。さらには、災害時避難所の公園などへの導入も検討しています。

そのためには、エクステリアを手掛けている建設企業とも提携していくことができればと考えています。

現場管理の経験は、経営にも必ず生きてくる

――スーパーゼネコンの現場管理職から独立されましたが、当時の経験は今も役立っていますか?

濱口さん ええ。現場管理のやりがいは、経営のすべてを学べる点にあります。現場管理は、現場の中で計画を立ち上げ、作業員に内容を周知徹底させ、全員で実行をするものです。

当社が短期間で大きく成長し、人材も動かせていることは、計画から実行までの流れを現場管理時代に学べたからだと思っています。

――ゼネコンとの連携も進めていくのでしょうか?

濱口さん 競技場建設の第一人者である株式会社竹中工務店との取り組みを進めています。これから、街のコンパクトシティー化によって、全国各地で緑のオアシスやミニ競技場が必要になることが想定されるため、連携を深められればと考えています。そして、ゼネコン時代に培った知恵と行動力が三位一体となって、日本全体に拡げていきたいです。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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