人工芝では、スパイクを履いていても火傷する
――濱口社長は、もともとスーパーゼネコンに勤務していたんですよね?
濱口さん ええ。地元・九州の有明高専建築科を卒業したのち、某スーパーゼネコンに総合職として入社しました。入社後は、東京ドームホテルや慶應義塾大学などの著名な建築物の現場管理にも携わりましたね。その後は、全国各地を転々として、最終的に退職して地元に戻って起業しました。
――安定したスーパーゼネコンを辞めて、人工芝の開発を始められたのはなぜですか?
濱口さん ラグビーをしていた息子の”あるケガ”がきっかけです。息子が試合後に「足の裏が痛い」と言うので見てみると、真っ赤になっていたんです。理由は、高温となった人工芝による”火傷”でした。スパイクを履いていたにもかかわらずです。建設現場で鉄骨に使用する表面温度計で人工芝の温度を測ってみると、なんと70℃以上もあることが分かりました。
それだけでなく、人工芝は天然芝と比較して蓄熱性が高いため、(公財)日本サッカー協会が策定している『熱中症対策ガイドライン』では、「暑さ指数28℃以上となる時刻には、屋根のない人工芝グラウンドを使用してはならない」と呼び掛けています。
要するに、危険な環境だと知っていながら仕方なく人工芝でプレーをさせている状況でした。選手たちが困っているにもかかわらず、まったく対応できていなかったのです。しかも、それは日本だけではなく世界的な問題でもあった。「こんな環境の中で、私たち大人は子どもたちに練習させているのか」と、ものづくりのプロとして、大人として、恥ずかしく思ったことを覚えています。
冷却人工芝のメカニズムは古代建築にあった
――そこから人工芝の研究を開始した、と。
濱口さん はい。調べていくと、人工芝には今お話した高温問題だけでなく、水はけが悪いため悪臭やカビが発生しやすく衛生的な問題があること、身体への衝撃を吸収しにくく怪我をしやすいこと、人工芝の充填用ゴムチップの原料として使用されている古タイヤに含有される化学物質に発がん性リスクが疑われていることなどの課題があることが分かりました。ちなみに、この発がん性リスクを危惧したEUでは、従来の人工芝のゴムチップ充填材のグラウンドを廃止する動きも出てきています。
そこで、天然芝に近い人工芝を目指して、ココナツの樹皮や寒水石などを使用した天然素材100%の充填材「寒土(かんど)」を、母校の有明高専と共同開発しました。材料である寒水石は、漆喰の原料でもあります。寒水石が持つ雨水や夜露の揮発効果を利用し、人工芝を保湿させることで、従来の人工芝と比較して約マイナス20℃ほど表面温度を冷却することが可能になります。この「寒土」を充填した人工芝が「COOOL TURF」です。
また、世界最古の建築物と言われるピラミッドをはじめ、古くから残存し、世界遺産となっている建築物の多くに漆喰や石灰石が使用されているように、抗菌性も高い。樹皮を使用することで、タンニンによる殺菌・抗菌・消臭効果が高まるだけでなく、クッション性が増し、身体への衝撃も吸収することが可能です。ですので、お子さんやペットが利用する環境にも安心して使用できる人工芝となります。
つまり、人工芝の中に「寒土」を充填することで、天然芝の断面層とほぼ同様の構造を形成することが可能になるんです。違いは、芝生が人工か天然かのみとなります。
さらに、SDGsの観点でも「寒土」は再利用が可能なため、約10年ごとの芝生の張替え時期に取り換える必要がありません。「寒土」によって自然と共存した快適な空間づくりの実現にも寄与できればと考えています。
建設→サッカー関係の仕事かぁ。夢がありますね