土木デザイン賞最優秀賞に輝いた「高田松原津波復興祈念公園 国営追悼・祈念施設」(写真:吉田誠氏)

今年の「土木学会デザイン賞」が発表! 最近の土木デザインのトレンドは?

【土木学会】土木デザインは官民連携でより進化する

土木学会は、2021年度土木学会デザイン賞を発表。最優秀賞2件、優秀賞5件、奨励賞4件の計11件が決まった(授賞式は、2022年1月22日にオンラインで開催)。

最優秀賞には「高田松原津波復興祈念公園 国営追悼・祈念施設」(岩手県陸前高田市)と「長門湯本温泉街~長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト」(山口県長門市)が選ばれた。

記者会見では、デザイン賞選考小委員会委員長の中井祐・東京大学大学院工学系研究科教授と、幹事主査である永村 景子日本大学生産理工学部環境安全工学科専任講師が出席。中井委員長は、「今年の応募作品には、選外になった作品も含めて、民間事業者や地域住民が重要な役割を担う、いわゆる官民連携やエリアマネジメントに類する事例が少なくなかった。官民の関係のパターンはさまざまだが、歓迎すべき傾向と言える」と語った。

土木学会デザイン賞は、公募対象を公共的な空間や構造物に広く求めるとともに、新たに創出された空間・構造物はもとより、計画・制度の活用や組織等の活動等に創意工夫がなされたことで景観の創造や保全が実現した作品に付与される。

これからの土木デザインはどのような方向性に進化していくのか。記者会見の中で、中井委員長が語った。

異なるタイプの最優秀賞。なにが評価されたか

記者会見を行った土木学会デザイン賞選考小委員会委員長の中井祐・東京大学大学院工学系研究科教授

――最優秀賞に対する講評については。

中井祐委員長(以下、中井委員長) 最優秀賞に「高田松原津波復興祈念公園 国営追悼・祈念施設」と「長門湯本温泉街~長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト」が選ばれたことに関して、とても幸せに感じています。理由は、(いずれも)タイプが異なるからです。

「高田松原津波復興祈念公園 国営追悼・祈念施設」は、復興の過程で沿岸一帯に建設した防潮堤については世間一般だけではなく、土木の世界でも賛否両論がありました。その防潮堤を祈りの場に変えたことは、並々ならぬデザイン力と言え、優れた仕事です。これは公共という事業主体でなければ実現できなかったと思います。

土木デザイン賞最優秀賞に輝いた「高田松原津波復興祈念公園 国営追悼・祈念施設」(写真:吉田誠氏)

一方、「長門湯本温泉街~長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト」では、星野リゾートが大きな役割を果たしています。つまり、民間企業が介在することにより、まちづくりの機運が高まり、その手法も民間企業のコンセプトをうまく生かし、それに対して地元が応答し、個々の街路整備、河川整備やライトアップによる演出につなげていきました。ここはいろいろな主体が関わり合って温泉街を再生した事例です。

両作品とも、これからの土木デザインの在り方について参考になる事例です。

最優秀賞を受賞した「長門湯本温泉街~長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト」

――受賞作品全体の講評については。

中井委員長 「高田松原津波復興祈念公園 国営追悼・祈念施設」は津波と向き合う象徴的な作品であり、自然と人間の関係を扱った作品という意味では大変重要ですが、一方、(今年は)川に関するデザインが少なかったように感じます。

全体としては、今年はまちや暮らしが大きなテーマになりました。昨年は、防災の観点から川づくりの作品が多かった傾向にありました。


治水と街のテーマがオーバーラップする土木デザイン

――土木デザインの傾向には、何がありますか?

中井委員長 大きな流れとしては、国が主導して基幹インフラをつくっていく時代から、少しずつ基礎自治体のスケールで自分のまちの日常的なインフラをどのようにしてクオリティを高めていくか、もしくは地域の課題を解決していくかというトレンドになっていると思います。

もう一つは、川や自然等、環境問題に対する意識の高まりも強くなっています。洪水等の災害がこの10年で大きく変わっています。治水も流域全体で考えていく方向に転換しています。これから水と都市計画のあり方もつなげ合わせて考えていかなければならない時代に入り、治水と街のテーマがオーバーラップしていることが傾向と言えます。

さらに、特徴は土木以外の建築、ランドスケープ、照明デザイナーの専門家が土木デザインとして土木学会で評価されるのではないかと受け止める方が増えているように思います。デザイン賞選考小委員会委員は、都市計画、建築等いろんな専門家に入っていただいており、ユニークな賞として評価されていますが、インフラのデザインというものを常に考え、色々な方に議論していく雰囲気が土木以外の世界にも伝わっているのではないかと思います。

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「南町田グランベリーパーク」から見る官民連携の土木デザイン

――官民連携のデザインについて、もう少し深堀りしてうかがいたい。

中井委員長 優秀賞を受賞した「南町田グランベリーパーク」は、駅とショッピングモールがダイレクトにつながっており、楽しいショッピング空間が広がっています。商業的な空間を土木デザインとして評価すべきなのかという議論もありますが、全体のデザインを見ると、ここには川が流れており、既存の公園もあり、ショッピングモールと駅を一体開発することで全体の回遊性をプロジェクトの中でつくりあげています。

商業空間を介在することにより、川、公園と駅とのつながりが生まれ、評価されました。「南町田グランベリーパーク」は、商業事業者や鉄道事業者がかなり中心的な役割を担い、全体の空間のあり方を導いています。

官民連携で好事例だった「南町田グランベリーパーク」(提供:町田市・東急

一方、「長門湯本温泉街~長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト」は、やや元気を失っていた地元温泉街ですが、何とか立て直そうと自治体と地域住民が一体となってエリアマネジメントを形成し、外部から民間企業が入っていくのをキッカケに街づくりを盛り上げた事例です。

両作品とも官民連携のケースですが、在り方としては異なります。これから色々な官民連携が登場するのではないでしょうか。

デザインを生み出す重要な要因が施工力だった「天龍峡大橋」

――デザインとともに施工力が問われた事例はありますか?

中井委員長 優秀賞の「天龍峡大橋」、奨励賞の「松原市民松原図書館」ではないかと思います。

「天龍峡大橋」は、国の重要文化財に指定された「名勝天龍峡」のエリアの中を走り、地山を傷つけない等、施工面では非常に配慮した橋梁ですライズの低いアーチとし、かつ下には鉄道が走っておりますので、鉄道に影響がないように丁寧な施工を行っております。賞としては、施工そのものを評価対象としておりませんが、このデザインを生み出した重要な要因として施工があります。

優秀賞の「天龍峡大橋」は、丁寧な施工によりデザインが実現した好事例

――これからの土木デザインにとって、重要なキーマンは地方自治体であると考えますが。

中井委員長 これまでも国や県が道路や河川整備をする際は、地元の理解を得るために、地方自治体とコミュニケーションを取っています。

そのコミュニケーションをブラッシュアップしていけば、より良い結果となります。たとえば、「天龍峡大橋」は鋼上路式アーチ橋の自動車専用道路ですが、「名勝天龍峡」の回遊導線の一つとして桁下歩道を一定の時間内に一般の方々に開放しています。これは地元の飯田市が要望された件です。土木学会土木デザイン賞は、こうした好事例について評価する場としてありたいですし、地方自治体からの応募がもっと増えてほしいですね。


受賞作品は次の通り。

【最優秀賞】

  • 高田松原津波復興祈念公園 国営追悼・祈念施設(岩手県陸前高田市)
  • 長門湯本温泉街~長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト(山口県長門市)

【優秀賞】

  • 藤沢駅北口ペデストリアンデッキのリニューアル(神奈川県藤沢市)
  • 天龍峡大橋(長野県飯田市)
  • 九段坂公園(東京都千代田区)
  • 南町田グランベリーパーク(東京都町田市)
  • 長崎市まちなか夜間景観整備(長崎市)

【奨励賞】

  • さくらみらい橋(横浜市)
  • 水木しげるロードリニューアル事業(鳥取県境港市)
  • 線路敷ボードウォーク広場(大分市)
  • 松原市民松原図書館(大阪府松原市)
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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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