治水と街のテーマがオーバーラップする土木デザイン
――土木デザインの傾向には、何がありますか?
中井委員長 大きな流れとしては、国が主導して基幹インフラをつくっていく時代から、少しずつ基礎自治体のスケールで自分のまちの日常的なインフラをどのようにしてクオリティを高めていくか、もしくは地域の課題を解決していくかというトレンドになっていると思います。
もう一つは、川や自然等、環境問題に対する意識の高まりも強くなっています。洪水等の災害がこの10年で大きく変わっています。治水も流域全体で考えていく方向に転換しています。これから水と都市計画のあり方もつなげ合わせて考えていかなければならない時代に入り、治水と街のテーマがオーバーラップしていることが傾向と言えます。
さらに、特徴は土木以外の建築、ランドスケープ、照明デザイナーの専門家が土木デザインとして土木学会で評価されるのではないかと受け止める方が増えているように思います。デザイン賞選考小委員会委員は、都市計画、建築等いろんな専門家に入っていただいており、ユニークな賞として評価されていますが、インフラのデザインというものを常に考え、色々な方に議論していく雰囲気が土木以外の世界にも伝わっているのではないかと思います。
「南町田グランベリーパーク」から見る官民連携の土木デザイン
――官民連携のデザインについて、もう少し深堀りしてうかがいたい。
中井委員長 優秀賞を受賞した「南町田グランベリーパーク」は、駅とショッピングモールがダイレクトにつながっており、楽しいショッピング空間が広がっています。商業的な空間を土木デザインとして評価すべきなのかという議論もありますが、全体のデザインを見ると、ここには川が流れており、既存の公園もあり、ショッピングモールと駅を一体開発することで全体の回遊性をプロジェクトの中でつくりあげています。
商業空間を介在することにより、川、公園と駅とのつながりが生まれ、評価されました。「南町田グランベリーパーク」は、商業事業者や鉄道事業者がかなり中心的な役割を担い、全体の空間のあり方を導いています。

官民連携で好事例だった「南町田グランベリーパーク」(提供:町田市・東急
一方、「長門湯本温泉街~長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト」は、やや元気を失っていた地元温泉街ですが、何とか立て直そうと自治体と地域住民が一体となってエリアマネジメントを形成し、外部から民間企業が入っていくのをキッカケに街づくりを盛り上げた事例です。
両作品とも官民連携のケースですが、在り方としては異なります。これから色々な官民連携が登場するのではないでしょうか。
デザインを生み出す重要な要因が施工力だった「天龍峡大橋」
――デザインとともに施工力が問われた事例はありますか?
中井委員長 優秀賞の「天龍峡大橋」、奨励賞の「松原市民松原図書館」ではないかと思います。
「天龍峡大橋」は、国の重要文化財に指定された「名勝天龍峡」のエリアの中を走り、地山を傷つけない等、施工面では非常に配慮した橋梁です。ライズの低いアーチとし、かつ下には鉄道が走っておりますので、鉄道に影響がないように丁寧な施工を行っております。賞としては、施工そのものを評価対象としておりませんが、このデザインを生み出した重要な要因として施工があります。

優秀賞の「天龍峡大橋」は、丁寧な施工によりデザインが実現した好事例
――これからの土木デザインにとって、重要なキーマンは地方自治体であると考えますが。
中井委員長 これまでも国や県が道路や河川整備をする際は、地元の理解を得るために、地方自治体とコミュニケーションを取っています。
そのコミュニケーションをブラッシュアップしていけば、より良い結果となります。たとえば、「天龍峡大橋」は鋼上路式アーチ橋の自動車専用道路ですが、「名勝天龍峡」の回遊導線の一つとして桁下歩道を一定の時間内に一般の方々に開放しています。これは地元の飯田市が要望された件です。土木学会土木デザイン賞は、こうした好事例について評価する場としてありたいですし、地方自治体からの応募がもっと増えてほしいですね。
受賞作品は次の通り。
【最優秀賞】
- 高田松原津波復興祈念公園 国営追悼・祈念施設(岩手県陸前高田市)
- 長門湯本温泉街~長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト(山口県長門市)
【優秀賞】
- 藤沢駅北口ペデストリアンデッキのリニューアル(神奈川県藤沢市)
- 天龍峡大橋(長野県飯田市)
- 九段坂公園(東京都千代田区)
- 南町田グランベリーパーク(東京都町田市)
- 長崎市まちなか夜間景観整備(長崎市)
【奨励賞】
- さくらみらい橋(横浜市)
- 水木しげるロードリニューアル事業(鳥取県境港市)
- 線路敷ボードウォーク広場(大分市)
- 松原市民松原図書館(大阪府松原市)
人材採用・企業PR・販促等を強力サポート!
「施工の神様」に取材してほしい企業・個人の方は、
こちらからお気軽にお問い合わせください。