大手ゼネコン社員の半数が年360時間超の残業。再来年には「働き方改革関連法違反」が蔓延か

大手ゼネコン社員の半数が年360時間超の残業。再来年には「働き方改革関連法違反」が蔓延か

大手ゼネコン社員の半数が年360時間超の残業。再来年には「働き方改革関連法違反」が蔓延か

このままでは建設業界は「働き方改革関連法違反」が蔓延するのではないか。そう思われる調査結果が日本建設業連合会(日建連)より発表された。

日建連は、建設業に適用される時間外労働の罰則付き上限規制を超えた会員企業の就業者の割合を調査。2021年度「会員企業労働時間調査報告書」に取りまとめ、会員企業各社へ労働委員長名で通知を行った。調査は会員141社に依頼し、107社(75.9%)が回答。管理監督者と非管理職を合わせた調査対象の社員数は13万6,647人で、その内訳は非管理職8万6,048人、管理監督者5万599人。

このうち、日建連会員企業の非管理職の半数が年360時間を超える時間外労働を行っており、また約3割が時間外労働720時間超といった改正法の上限特例基準を超過していたことが明らかになった。

【衝撃】民間工事で「4週8休以上」は”たった8.6%”。建設業界の週休2日はいつ実現する?

土木よりも建築の方が未達成率が高い

そもそも法定労働時間は、原則として1日8時間以内、1週40時間以内だが、時間外・休日労働に関する協定を指す36協定を企業と労働者間で結ぶことで、原則として月45時間、年360時間が上限に時間外労働が可能になる。しかし、納期が迫っているような場合などにはこの時間外労働時間を遵守することが困難な状況が生じうるため、特別条項付き36協定を結ぶことにより、この上限を超えた時間外労働が可能になる。そして、改正前はこの特別条項による時間外労働時間には上限がなく、罰則規定もなかったため、実質的に何時間でも時間外労働をさせることが可能だった。実際、建設現場では、従業員に対する「働かせ放題」は一時期、常態化していたのも実情でもあった。

だが、改正後は特別条項付き36協定を結んだ場合でも休日出勤を含め月100時間未満、年間720時間以内が時間外労働の上限時間となり、違反した場合には、罰則(6か⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦)が科されるおそれがある。

建設業界は長時間労働が常態化しており、有効な手段を打てていない状態の中で、この改正法が建設業にも適用される「建設業の2024年問題」が目前に迫っている。そこで同アンケート調査が発表され、建設業界に大きな衝撃が走ったのである。実際、各地で「大手でも難しいのに、ウチのような中小で可能なのか」と懸念する声が聞こえてくる。

今回の調査では、日建連会員企業の非管理職のほぼ3割に相当する1万7,427人(28.6%)が、年720時間以内などの特別条項付き36協定の特例基準を超過していたことが明らかとなった。日建連は大手ゼネコンが加盟する団体であり、中小ゼネコンの働き方改革はさらに困難を極めることを想定すると、時間外労働の上限規制を守ることは厳しい情勢におかれているといえよう。

ちなみに、特例基準以上の時間外労働をしていた職種を区分別でみると、土木が5,815人(21.4%)、建築が8,614人(23.7%)、建築設計が1,327人(17.0%)、事務が1,284人(5.6%)、その他が387人(6.6%)だった。

上限規制(特例)達成状況 / 日建連

区分別 上限規制(特例)達成状況

さらに、月45時間以内・年360時間以内という上限規制の原則については、非管理職の3万9,944人(60.7%)が超過していた。区分別にみると、土木が1万2,839人(43.8%)、建築が1万7,200人(45.4%)、建築設計が3,130人(38.4%)、事務が4,904人(20.0%)、その他が1,871人(26.7%)だった。

上限規制(原則)達成状況

区分別 上限規制(原則)達成状況

今回の調査では想像通り、土木よりも建築のほうが未達成率は高い。土木でもトンネルや鉄道工事などでは制約も多く、今後の上限規制に対応できるか未知数だが、こうした公共工事よりもさらに余裕のない民間工事はさらに厳しい情勢で、日建連では今後、デベロッパーなど民間発注者に対して理解を求める動きを進めていく方針だ。

土日休み・年間休日120日以上の施工管理求人[PR]

管理監督者の労働時間が増加中

とはいえ、総実労働時間の経年推移では、非管理職は2017年の2,211時間から2021年には2,185時間とわずかながら減少はしている。しかし、その一方で管理監督者の労働時間は2017年では2,153時間だったが、2021年では2,185時間と逆に増加していた。年間平均時間外労働についても、非管理職は同期間には2017年の416時間から2021年の364時間へと減少しているが、管理監督者は2017年に319時間で2021年には320時間と横ばいで、管理監督者の負担も強まっているようだ。最近では、若手を中心に管理職昇格を避ける傾向もあるが、管理職に対する負担も要因の一つと言えそうだ。

総労働時間の経年推移 / 日建連

年間平均時間外労働の推移

日建連は2022年3月に上限規制の達成を目指し、会員の取り組み事例などを整理したガイドラインを策定している。ガイドラインでは時間外労働の削減対策として、工期が調整しやすい設計・施工一括案件の比率向上やICT活用による生産性向上策などを紹介し、会員に導入を促進している。

建設業では、人材確保が叫ばれて久しい。太田昭宏国土交通大臣(当時)が新3K(給与・休暇・希望)を提唱してから、一部処遇改善などで前進したとはいえ、他産業と比較して長い時間外労働は若者から入職を敬遠される理由にもなる。実際、大学で土木や建築を専攻しても、他産業に人材が流出している現状もある。

処遇の改善は一つひとつ丁寧に取り組んでいく必要があるが、その中でも時間外労働の削減は重要なテーマである。もはや昭和における根性論は、若者には通用しないし、心に響くことはない。法違反が蔓延している業界にお子さんを就職させたい親御さんがどれだけいるかと考えれば難しいと言わざるを得ない。これはゼネコンの社員だけではなく技能労働者にもあてはまる。あらゆる手段を用いて新3Kを実現しなければ、この人材獲得競争時代において建設業界は敗北する可能性が極めて大きいだろう。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
“最悪のタイミング”で始まった土木の働き方改革。「このままでは技術者のレベルが落ち、良い職人もいなくなる」
残業100時間超の現場監督。サービス残業の元凶は、労働基準監督署?
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
  • 施工の神様
  • エトセトラ
  • 大手ゼネコン社員の半数が年360時間超の残業。再来年には「働き方改革関連法違反」が蔓延か
モバイルバージョンを終了