日本建築仕上学会女性ネットワークの会(熊野康子主査)はこのほど、神奈川県・厚木市のアミューあつぎで、「活動パネル展 9年間の活動記録、そしてこれからの女性活躍推進のために」を開催した。
トークイベントでは、15日に宮川里香さん(関西ペイント人事部、元CD研究所所長)による「関西ペイント株式会社における女性の活躍支援」、16日は多和彩織さん(マルコメ株式会社マーケティング部広報宣伝課)による「知って得する!女性にうれしい糀甘酒」、テレビ朝日系リフォーム番組「大改造!!劇的ビフォーアフター」に、「匠・和とモダンの融合者」として出演された川口とし子さん(アーキスタジオ川口一級建築士事務所主宰、日本建築仕上学会元副会長)による「古いマンションをリフォームでよみがえらせましょう!」など、様々なテーマでの講演があった。
最近では、女性活躍推進法が2022年4月に改正し、建設業界でも女性活躍は大きなテーマだ。これからは女性の入職者数を増やすための現場での環境整備が求められていく。こうした中、女性ネットワークの会は講演会の開催、アンケートによる実態調査などを実施し建設業界の中でも女性活躍にフォーカスした会であり、その存在感は年々と高まっている。
今回は、トークイベントの一つである関西ペイントにおける女性活躍の取組みについてまとめる。
関西ペイントに学ぶ”女性活躍”
トークイベントで講演した宮川理香さん(関西ペイント)
宮川理香さん(関西ペイント人事部、元CD研究所所長)による「関西ペイント株式会社における女性の活躍支援」をテーマにしたトークイベントでは、そもそもなぜ、いま女性活躍の時代なのか。その背景を語った。
これからの日本は、女性や元気な高齢者が働き続けなければ、労働人口が減少する時代に突入する。人口の半分である女性の活躍は必然である。とくに建築系・化学系の理系女子は少なく、産業間での取合いが本格的に始まっている。そんな中、今の女性のライフプランは、結婚後や出産後での専業主婦への選択が難しくなっている。
その理由には、一時期話題となった「老後2000万円問題」が将来設計に影を落とし、女性は人生の大きなライフイベントが発生しても今後の将来を考えると、退職せず働き続けなければならないことが影響している。
しかし、現実には女性活躍を示す「2022ジェンダー・ギャップ指数」で世界146か国中116位であり、先進各国と比較し大きく水をあけられている現状が続いている。これを変えようとする流れがようやく日本でも動き出している。
ESG経営によるダイバーシティ推進(経営戦略)も追い風になっている。ESG経営とは、目先の評価や利益だけでなく、環境(Environment)・社会(Society)・ガバナンス(Governance)の3つの要素(ESG)を重視することだ。ESGに目を向けることで資家や評価団体はこれまでの財務に加え、これらESGに関わる非財務を注視するようになっている。企業は環境課題やダイバーシティに取り組まなければならない。
これにより、お金を流す側の投資家の行動も変わり、お金を受け取る側の企業の行動も持続可能な方向へと促進することが期待されている。
つまり企業は投資家に今後とも投資を行ってもらうためには、しっかりとESG経営を行っていかなければならない時代が来ているのである。
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企業の業績に影響がある女性活躍
こうした背景のもと、関西ペイントでは、経営の基本は「利益追求と同時に経済社会の発展に貢献するものである」という創業者の言葉にもとづき、「サスティナビリティ委員会」を設置し、地球と世の中に貢献すべく会社を大きく変革し、宮川さんも委員をつとめている。
女性活躍が企業の業績にどうかかわってくるのか疑問に思う人もいるかもしれないが、女性だけでなく全従業員全体の働き方を変えることが重要になってくる。意欲がわき働きやすい環境づくりの中で女性も男性同様に活躍できるようになる。過剰な残業の抑制、多様な働き方の選択肢が増えるなど働く環境が改善されることで業績に変化が生まれる。今や関西ペイントは、残業時間が減少し、男性女性問わず働きやすい環境が整っている。さらに人材の確保やダイバーシティによる提言が進んでいる。また、そのような職場では「イノベーション」が発生しやすい。これについては後に理系女子が主体となって商品開発した事例も紹介される。
関西ペイントグループは、「脱炭素の実現」「資源と経済循環両立の高度化」「QOL(生命、生活の質)の向上」「多様な人材が活躍する」と4つのマテリアリティ(長期目標)を掲げている。この「多様な人材が活躍する」の項目では、公平な人材育成と登用により、グループ全体の従業員に占める女性比率20%以上、管理職に占める女性比率15%以上(2030年)、役員の女性比率25%達成(2030年)を目指し、女性活躍の推進を図っている。
これは日系企業としてはかなりレベルが高く野心的な目標数値である。現在、日本、欧米、アジアの各地に拠点を設置しているが、日本を含め文化の違いで女性の社会進出の遅れが見える国や業務内容(重量物作業、化学品取り扱いなど)による男性比率の方よりもある。これらも職場環境を改善することで、何とか対応しようと進めている。
社会貢献と社会責任の観点から、関西ペイントグループとしてグローバルで掲げる4つのマテリアリティ(長期目標)
女性活躍制度を進化させる関西ペイント
こうした中、日本企業も大きく変わっている。男女ともに「脱長時間労働」を目指し、社員も労働時間で評価するのではなく成果主義に変容し、育児休業が長く取得できるようにする一方、モチベーションも保てるようにカムバックできるような環境を整備する事例が相次いでいる。
関西ペイントでは、女性活躍推進はダイバーシティ推進のスタートと位置づけ、女性がライフイベントによって自分のキャリアを断絶することのないよう、意欲のある女性のキャリア形成と子育ての両立を支援することを目標にした制度整備を進めるとともに、男性の育児休暇取得についても取りやすい環境づくりを始めている。
これまでも一定の制度は創設してきたが、最近さらにバージョンアップし、スタートした制度では、産休中では「マネーセミナー」「産休前面談」、育休中では「復帰時面談」「キャリア研修」、育休復帰時では「カムバック制度」「時短・フレックス併用制度」「子育て支援サービス」「在宅勤務」「企業主導型保育園との契約」「育児休業早期復帰奨励金」などを設けた。これまで子育てサポート認定企業「くるみん」は幾度となく取得しているが、こうした環境整備を実施することで近い将来、女性活躍推進企業認定「えるぼし」の取得を目指しているという。
えるぼし認定のための女性管理職はつくらない
このように、関西ペイントでは、女性採用比率が21%、継続就業年数が18.5年、平均残業時間一月あたり5.5時間など、派遣から正社員まで問題なく取組みが進められているが、女性管理職比率については2.7%と低い点に課題がある。
ただし、社内ではえるぼし認定取得のために、「女性活躍のための管理職をつくることはしない」との方針があり、女性社員向けの研修会などを増やし、「自分も管理職にチャレンジしたい」と思ってもらうような取り組みを展開している。こうした施策により、営業や研究職にも女性が活躍するケースが増えたことは大きな成果と言える。
関西ペイントでの女性活躍支援制度は年々進化している
サビ止め塗料開発者は理系女子
具体例な女性活躍の事例としては、関西ペイントでは鋼橋やプラント鋼構造物をサビから長期に渡って護るサビ止め塗料「ルビゴール」を開発・販売しているが、このほど国土交通省NETIS(新技術情報提供システム)に登録されるなどの実績を深めた。「サビを残したまま塗装ができたら」という要望に応え、開発した「ルビゴール」は、独自のサビの抑制メカニズムによる効果が認められている。
従来は、さびだらけの構造物はいったんさびを落として、キレイにしてから塗装する手法が一般的であった。このさびをキレイに研磨するためには時間がかかり、この作業を短縮できると全般的な工期やコスト短縮に効果がある。この開発者の代表者が理系女子の太田 伶美さんであった。
先行的に多くの企業がサビを残したまま塗装しても防錆力を保つ補修剤や塗料を開発してきたが、期待したサビの抑制メカニズム通りの効果は得られなかった。こうした先行研究が背景にあるため、社内から太田さんに対しても「そんな研究は無理だからやめたほうがいいのでは」と一部反対意見もあったというが、それでも太田さんは「ぜひやらせてください」と意思を貫き、「ルビゴール」が誕生した経緯がある。
その後、公益社団法人腐食防食学会より、腐食防食の分野における優れた技術であるとして「2022年度 技術賞」を、一般社団法人大阪工研協会から工業化に大きく寄与する研究発明を行った研究者や、現場技術の進歩改善に功績のあった技術者に授与される「第70回工業技術賞」をそれぞれ受賞した。産休から戻った後、太田さんは「ルビゴール」の現場での評判を確認し、製品のバージョンアップにつとめている。
サビ止め塗料「ルビゴール」を開発者は理系女子
現場に女性が増えれば、メーカーにも女性が増える
関西ペイントでは、研究職だけでなく女性営業マンなど女性の職域を拡大することを目指している。これまで建設現場は圧倒的に男性が多く、女性営業マンを派遣しても話を聞いてもらえないという課題もあった。しかし、最近では「けんせつ小町」をはじめ、女性技術者や施工管理者も増え、建設現場の女性進出は建設業界を挙げて展開している。この動きは関西ペイントにとっても追い風であり、女性現場監督が増えれば女性営業マンを派遣しやすくなり、話を聞いてもらえる環境が整備され始めたというわけだ。
こうして建設業界への女性進出の環境は次第に整っている中、女性は今後、建設業界でどのような人生の羅針盤を描くべきであろうか。
結婚・出産と多様なライフイベントを迎えることになるが、人事部としては「ライフプラン」、「マネープラン」や「キャリアプラン」を同時に考えることを女性社員に助言しているという。このように、他業種においても「キャリアアップ」を目指す女性に対して、背中を押す取組みは進んでいる。これからは建設業界に限らず、女性がさまざまな場面で活躍できる時代が到来するようになるだろう。
来年に10周年を迎える女性ネットワークの会
最後になるが、女性ネットワークの会は2023年に10周年を迎える。
2023年1月6、7日に北海道・札幌駅前地下歩行空間にて「建設産業ふれあい展」という展示会を開催するほか現場見学会や講習会など各種イベントを実施する予定だ。
詳細は日本建築仕上学会女性ネットワークの会 ホームページにて今後紹介する。