「もっと早く全面適用にならないかな」とすら思うくらい、BIM/CIMは良い技術

「もっと早く全面適用にならないかな」とすら思うくらい、BIM/CIMは良い技術

ICT施工を司る技術屋にお話を伺ってきた

前回、金杉建設株式会社の吉川祐介社長の記事を出した。大変示唆に富んだお話を伺えたわけだが、せっかく金杉建設を訪れたのなら、同社のICT施工を司る技術屋さんにも取材したくなるのが、ライターの性というものだ。

ということで、同社i-Construction推進室長である小俣陽平さんにいろいろお話を伺ってきた。

最初は軽い気持ちで「私やります」と手を挙げた

小俣 陽平さん(金杉建設株式会社 工事管理本部部長 i-Construction推進室室長)

――金杉建設が初めてICT施工にチャレンジしたのは、いつごろですか?

小俣さん 6年ぐらい前です。最初にレンタル建機でICT施工をしたときは、私はあまり関わっていなかったです。当時は管理部という積算とか購買などを担当する部署にいました。

レンタル建機でICT施工をやった後、社内的に「ICT施工を内製化しよう」という機運が高まりました。レンタルだと、メーカーの言いなりで、技術やノウハウが会社に残らないし、コストもかかるからです。

そこで、まずは地上型3Dレーザースキャナーを買って、自分たちで測量をできるようにしようということになりました。1000万円ちょいぐらいしました。それまでは光波式のものを使っていましたが、レーザースキャナーとは使い方が違うので、社内的に「どうしようか」という話になりました。

そこで、私が「やりますよ」と手を挙げたんです。他にやる人がいなかったのと、積算をやっていたので、積算条件の確認や数量の打合せで「現場に行きたい」という思いがあったからです。それが私にとってのICT施工のスタートでした。そのときは、ICT施工が増えるとは思っていなかったので、「年に何本か起工測量と出来形測量すれば良いだろ」ぐらいの、軽い気持ちで引き受けました(笑)。

初めは、レーザースキャナーを使った測量だけやっていたのですが、その後ICT施工をやっていくうちに、私がやる仕事が派生的にドンドン増えていきました。最近は、ICT施工に関する仕事に限らず、BIM/CIMに関する仕事もやっています。

リスペクトする上司が持っていないスキルを手に入れてやろう

――もともとICT施工に興味関心があったのですか?

小俣さん それはなかったです。私がICT施工に手を挙げたのは、もっと個人的な理由がありました。私の上司に、スゴいスキルを持った方がいらっしゃるんです。私はその方を非常にリスペクトしているのですが、私では、どうやってもその方と同じレベルにはなれないので、悔しい気持ちがありました。正直に言えば、「その方が持っていないスキルを手に入れてやろう」という思いが非常にありました。自分の中でネガティブな要素があったので、「ICT施工をやることで、それをポジティブに変えよう」ということです。

――ICT施工に関する知識やスキルなどは、仕事しながら身につけていった感じでしたか?

小俣さん そうですね。代理店さんやメーカーさんなどから教えてもらいながら、徐々に身につけていった感じでしたね。とくに、代理店さんには非常にお世話になりました。代理店さんの存在がなければ、金杉建設の今はなかったと言っても過言ではありません。

ただ、重機については、あえて関わらないようにしてきました。設計や測量で手いっぱいだったからです。なので、重機に入れる設計データまではやりますけど、重機のスペックや操作などについてはほとんど知りません(笑)。今でも、私の部下のほうが全然詳しいので、「ボクに聞かないでね」という感じでやっています(笑)。

3Dデータなら、発注者にもすぐ見せられる

3Dで作成した図面(金杉建設提供)

――それにしても、最初に買ったのは、ドローンではなく、レーザースキャナーだったのですね。

小俣さん ええ。最初にレーザースキャナーを買ったのは、今でも正解だったと思っています。

当時、世の中的にはレーザースキャナーよりもドローンの写真測量が流行っていたので、レーザースキャナーを買った後、ドローンの写真測量も試してみましたが、写真解析に時間がかかるのがネックで、正直イマイチでした。次に、アメリカ製のレーザースキャナー搭載ドローンも試してみました。こっちはリアルタイムで点群データが確認できるので、非常に良かったです。とくに、発注者にデータをすぐ見せられるのが、良かったですね。

――ソフトウェアはどのように選びましたか?

小俣さん 土木系のソフトウェア会社、システム会社としては、2つの会社が有名ですが、金杉建設はもともと、工事などを管理するソフトとして、K社のソフトを使っていました。ICT施工するに際しては、F社のソフトを使うことにしました。選択の余地はほぼなかったですね。F社のソフトのほうが、機能面で明らかに上だったからです。

その結果、金杉建設では現在、K社とF社のソフトが混在して動いている状態です。社員によって、使うソフトが違っている感じです。私は、工事をやらないので、F社のソフトを使っています。会社ごと、ソフトごとに優れている点が違うので、どっちのソフトが良いとは一概には言えません。2社両方のソフトが使えるのは、私は良いと思っています。

――ソフトは統一したほうが効率は良さげですけど。

小俣さん それはそうかもしれません。ただ、拡張子を変えれば、ソフト間のデータ移行もできるので、とくに不都合を感じていません。

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パソコンに関しては、正直詳しくない(笑)

――パソコンはどういうスペックのものを使っているのですか?

小俣さん 私はi-Construction推進室の室長という立場ですが、パソコンのスペックとかは、正直あまり詳しくないんです(笑)。なので、販売店さんと相談して、ススメられたものを買っているだけです。

――コスト的にはどんな感じですか?

小俣さん ノートパソコンだと50万円ぐらいのものを使っています。デスクトップだと、パソコン本体で75万円ぐらいですかね。扱うデータによっては、重すぎて途中で落ちちゃうこともあるので、これがベストなのかどうかはわかりません。毎年新しいものが出ているので、定期的に買い替えていったほうが良いのかなとは思っています。

個人的には、作業の生産性を上げるには、モニターを増やすのが良いと思っています。いちいち画面を切り替えるより、複数のモニターに同時表示するほうが、時短になるからです。

ICT施工のおかげで、会社のネームバリューが上がった

――内製化によって、どのような効果が出ましたか?

小俣さん たとえば、2億円ぐらいの工事があったとして、ICT活用工事で施工した場合と非ICT施工(標準施工)で施工した場合を比べると、ICT活用工事のほうが、設計変更でざっくり1000万円ぐらい増額します。週休2日の4週8休を達成すると、さらに1000万円増額し、トータル2000万円ほど請負金額が増額します。請負金額が1割増額するならやらない選択肢はなかったです。ICT施工なら、丁張りが不要なので、その分の費用、人員もいらなくなります。以前は受注した工事間で人員の移動がありましたが、丁張レスになったことにより、その人員移動がなくなり、余った人員でもう一本工事を受注することができます。

あと、他社に先駆けてICT施工を始めたおかげで、自分で言うのもなんですが、会社の名前がかなり売れました。広告宣伝費をかけずに、会社宣伝ができ、ネームバリューが上がったのは、スゴい効果だと考えています。

――ICT施工に関するノウハウを他社に伝授しているそうですね。

小俣さん そうですね。WEBセミナーなどを通じて、いろいろ情報発信しています。出せる情報はすべて出しています。主催者さんの話では、視聴者さんからの評判もけっこう良いそうです。

現場経験のない若手社員をICT担当にしても、うまくいかない

――ICT施工の内製化に取り組む会社も増えてそうですか?

小俣さん そこは微妙なところだと思っています。他社さんの取り組みを見ていると、ICT施工の専門部署をつくったとしても、20代の若手社員を担当者に置いているケースが多いんです。セミナーなどでお会いするICT担当者も、ほぼほぼ若手なんです。これだと、うまくいかないんじゃないかなという気がしています。

と言うのも、たとえば、私の場合、ICT施工をやる前に工事をやっていたし、積算などもやっていました。そういう経験があったからこそ、ICT施工をどんどん進めることができたと自負しています。

現場でバリバリやっているベテランの人がICT施工を担当するなら、うまくいく可能性が高いですが、経験の浅い若手社員だと、難しいんじゃないかなと感じるからです。経験がないと、どうやって仕事を受けるかといったことが、なかなかわからないからです。実際、直接話をすると、「どうすれば良いかわからない」という人もいます。ICTだけ詳しくなっても、ICT施工はできないんです。

他社と交流することで、初心に帰れる

――ICTにチカラをいれている会社さん同士のつながりはあるのですか?

小俣さん あります。ICT施工をやっている他社さんと交流したいという思いは、昔からありましたが、長年出会うことができないでいました。それは残念に思っていました。関東にはそういう会社がなかったので、正直ちょっと天狗になっていました(笑)。他にICT施工を内製化している建設会社がなかったからです。

なので、ウチが有名になって、北海道や中部など、他の地域でICT施工にチカラを入れている会社の方々と会うことができるようになったことは、非常にありがたいことだと思っています。そういう会社さんの話を聞くと、素直に「スゲー」と思います。新しい情報が得られるようになったし、私も初心に帰ることもできました(笑)。

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「ICTをやりたい」という学生には、意地悪な質問をしがち(笑)

――ICTはリクルーティングにも効果があったんですよね。

小俣さん そうですね。ただ、私は本音としては、ICT施工をやりたいなら、メーカーとかシステム会社といったICT施工しかやらない会社に入ったほうが良いと思っています。と言うのも、ウチはICT施工じゃない現場もやっているからです。

入社面接で「ICTがやりたい」と言っている方がいたら、「ICTじゃない現場もあるけど、担当になったらどうするの?」と聞くことにしています。むしろ、「土木工事をやりたい」とか「職場の雰囲気が良いと感じた」と言う方が良いです。「ICTをやりたい」と言われると、イジワルな質問をしてしまいがちです(笑)。キラキラしたイメージだけじゃなくて、厳しい現実をある程度知った上で、入社して欲しいからです。

ただ、「たくさんの方に来てもらいたい」という思いはあるので、ICT施工でいろいろなメーカーのホームページだったり、YouTube動画だったりには、積極的に露出することにしています。世界的なメーカーのホームページにウチの会社が出ていると、「信頼できる会社なのかな」と思われるじゃないですか(笑)。あと、個人的にもInstagramをやっています。

すでにBIM/CIM活用工事を3本ほどやっている

――来年度からBIM/CIMが原則適用になりますが、どうお考えですか?

小俣さん 金杉建設ではすでに、BIM/CIM活用工事を3本ほどやっています。なので、基本的には、従来通りでなにも変わらないです。BIM/CIM原則適用は、個人的には大変嬉しく思っています。なぜかと言うと、私は以前から、施工するところだけ3Dデータをつくるのではなくて、全部ひっくるめて3Dモデリングしてきたからです。

ICT施工は、最低限レベルで言えば、現況を測量して、3Dの設計データをつくって、重機に入れて、出来形を測量して、納品するということになります。私はこれに加えて、現場の点群データをとったら、ついでに仮囲いのモデリングや、ICT施工以外の部分のモデリングをしています。つまり、ウチ独自で、以前からBIM/CIM的なことをすでにやっていたわけです。ICT施工をやるなら、3Dモデリングするのはスゴく自然な流れなので、特別なことをやるわけではありません。

発注者の中には、3Dモデリングに非常に興味がある人もいるので、そういう人には3Dモデルはとても響くので、話がスゴく盛り上がるんです。ただ、中にはあまり興味のない人もいて、「へー」で終わってしまう場合もありました(笑)。

BIM/CIMが原則適用になれば、そういった取り組みをどんどん外に出していって、多くの職員さんとの話が盛り上がるかなと期待しています。これまで出すタイミングがなかった情報を書面で残せるのも、嬉しいですね。なんなら「もっと早く全面適用にならないかな」とすら思っています。とにかく楽しくなってきました(笑)。

BIM/CIMは、工事にいろいろな付加価値をつけることだと考えています。3Dプリンターで模型をつくるとか、ARをつくることなどによって、発注者や住民などにアピールすることができるようになります。最初はシリを叩かれながらやり始めるとしても、そのうち自分たちで勝手にどんどんやってくようになるんじゃないですか。BIM/CIMは良い技術なので。

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