建設業は安全管理が命!
建設業は、死亡事故や後遺症の残る重大な事故に遭遇する確率が、他の業種よりも高く、監督責任を追求されることも多い。万が一、担当現場で死亡事故などが発生した場合は、ニュースにもなってしまうし、全社での対応を迫られます。めぐりめぐって建設業のイメージ悪化にもつながってしまいます。
幸いにも私自身の現場では、死亡事故や重篤な事故を起こしたことはありませんが、私の会社の他の現場では、大なり小なり事故が発生しています。
休業は3日以内(4日未満)に抑えたいよね
現場で事故が発生してしまった場合、どの現場、どの会社でも、まず最初に心配するのは「命に別状はないか?」「怪我の程度は?」でしょう。
そして、たいした怪我ではない場合、現場監督として、まっさきに確認したいのが「休業は3日以内に収まるか否か」です。不謹慎かもしれませんが、現場としては、休業をなるべく3日以内(4日未満)に抑えたいという心情があるからです。
もし怪我の程度が軽く、次の日から仕事に出ることができる「不休災害」であれば、報告を行うときも「大したことありません」と言えるのでひと安心です。
「労働者死傷病報告」をめぐる葛藤
現場で怪我を追った人の休業が3日以内(4日未満)かどうかで、労働基準監督署への報告方法が変わってきます。
休業が3日以内(4日未満)であれば「労働者死傷病報告」を3ヶ月に1度、労働基準監督署に報告すれば済みますが、休業が4日以上になる場合は「労働者死傷病報告」を事故発生から「遅滞なく」提出しなければなりません。報告に行くときは当然、謝罪もセットになりますから、気持ちの良いものではありません。
労働安全衛生規則第97条(労働者死傷病報告)
1.事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第 23号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
2.前項の場合において、休業の日数が4日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、1月から3月まで、4月から6月まで、7月から9月まで及び10月から12月までの期間における当該事実について、様式第24号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
さらに、この「遅滞なく」というのが曲者で、明らかに4日以上の休業となる場合は迷いなく提出できるのですが、休業期間が微妙な場合は出すべきか迷ってしまうのです。そういう場合は結局、「労災隠し」と疑われないように、労働基準監督署へ事故の報告だけをしに赴くこともあります。
しかし、いちいち事故が起こる度に、労働基準監督署へ報告と謝罪をしていると、「この現場は安全管理に問題があるんじゃないか?」と疑われて臨検の回数も増えるかも知れないので怖いです。
重大事故のとき、冷静でいられるか不安
もし重大な事故が発生した場合は、「労働者死傷病報告」だけでは済みません。
ある日、会社から突然「近くの現場で事故が起こったから応援に行ってくれ」という電話が来ました。その現場とは車で10分位の距離。現場に到着すると、すでに救急車が到着し、救急隊員が怪我人を搬送しようとしているところでした。
怪我人の顔を見て、私は立ちすくみました。倒れているのは私もよく知っている真面目な職人さんで、つい2日前にも私の現場で仕事をしていた方だったからです。他人の現場だったから、まだ冷静でいられましたが、もし自分の現場だったら、目の前が真っ白になって現場監督として冷静に対応できるか不安になったことがあります。
死亡事故を経験した現場所長
重大な事故が起こったときは、大抵の場合、現場を全てストップさせなければなりません。そして、救急車の手配、社内外の関係機関、労働基準監督署、警察、事故を起こした会社やその家族などに連絡します。
現場の再開は警察と労働基準監督署のOKが必要です。それぞれの機関が行う現場検証に立ち会わないといけませんし、病院などにも状況を確認するための人員が必要です。各種報告書の作成、再発防止策の策定および周知会の開催など様々なイベントが待ったなしで一気にやってきます。
万が一、死亡事故を起こしてしまった場合は、通夜やお葬式の手伝いなどの対応もあります。死亡事故を経験した現場所長の話では、「通夜に行った時に、遺族の方から責められたのが一番辛かった」と言います。その後も示談金の交渉など気の重い業務が続きます。
業務上過失致死などに問われ、警察や労働基準監督署の事情聴取も受けなくてはなりません。社内的な人事考課でも、死亡事故や重篤な事故を起こした現場として評価が下がり、出世の道も閉ざされてしまいます。
自分の現場で死亡事故は起こしたくない!
無事故、無労災は建設現場に携わる全ての人の願いです。今までの苦労をすべて水泡に帰すような事故なんて誰も起こしたくありません。しかし、現場が忙しくなってくると、ついつい軽視されやすいのが「安全」であるのもまた事実です。
このような重責とプレッシャーを背負いつつ、「あの時、ああしておけば良かった」と後悔の念が頭の中をぐるぐると渦巻くことのないように、改めて安全第一を意識していきたいと思います。
ご安全に!